ホラーを語るリレー連載「今宵も悪夢を」 第12夜 [バックナンバー]
選者 / 南波志帆「ショーン・オブ・ザ・デッド」
すべてがいい意味で馬鹿らしく思えてくるゾンビ映画
2022年3月12日 21:00 6
ホラーやゾンビをこよなく愛する著名人らにお薦め作品を紹介してもらうリレー連載「今宵も悪夢を」。集まった案内人たちは身の毛もよだつ恐怖、忍び寄るスリル、しびれるほどの刺激がちりばめられたホラー世界へ読者を誘っていく。
第12回は、
文
ゾンビの出現にもかかわらず、持ち前の鈍感力でギリギリ気づかない主人公
みなさん、こんばんは。「今宵も悪夢を」案内人のすいか生肉ゾンビが大好きな南波志帆です。
今回ご紹介するのは、私が愛してやまないゾンビ映画「ショーン・オブ・ザ・デッド」です。
映画は、いつも主人公のショーンが入り浸っている“ウィンチェスター”というパブの場面からスタート。ショーンが「“友達の少ない癖つよ下品でだめだめ”な親友のエドを大事にしすぎるせいで、恋人としての2人の時間がない」と、彼女とその友達から淡々と責められているという展開です。
会話のテンポ感が面白くて、クスッとなるし、さすがのエドガー・ライト監督節。懐かしくてポップだけど、どこか不気味な音楽が効果的に使われて、不穏で、一気に物語に没入してしまいます。音楽の他にも、カット割り、カメラアングル、物語の展開とテンポ感、色彩やトーンなどのシニカルかつクールなセンスが良くて、いちいちグッときます。
主人公のショーンが淡々かつ嫌々と日常をこなしてる間に、いつの間にかのゾンビの出現により世界がほんのり狂い始めている、だけど持ち前の鈍感力でなぜかギリギリそれに気づかない、という部分が最高です。
案の定彼女に愛想つかされて、振られて、強い雨が降りしきる中、またいつものウィンチェスターに親友のエドと入り浸る訳です。お酒に酔い、すべてを忘れてぐちゃぐちゃに楽しくなり、外に出ると世界が本格的に狂っていた──。
という感じで、今までにない切り口で、飄々と、この作品ははじまっていきます。THEシュール。なぜだか憎めないチャーミングな登場人物たちがそうさせるのか、このムードを保ったまま、ユーモアを忘れずに、物語が進行していきます。こんなに世界が様変わりして、大ピンチなのに…! なにそれ素敵…! 個人的には後半、Queenの「Don't Stop Me Now」が流れるシーンがあるのですが、かなり絶妙な使われ方で、シリアスなのにシュールすぎて、いつも声を出して笑ってしまいます。クスクス笑えるゾンビ映画が大好物な私にとって、まさに出逢いたかった作品でした。観ると心が軽くなるというか、ある種(やけくそで)なんでもできるような、無敵な気持ちになれる作品です。なにもかもが憂鬱な時にぜひ観てもらいたいです。すべてがいい意味で馬鹿らしく思えてきますよ。
余談ですが、昨年の12月に公開されたエドガー・ライト監督の「ラストナイト・イン・ソーホー」も、めくるめく艶やかさで、怪しくて綺麗な、不気味な世界観、それに背筋が寒くなるようなドキっとする結末で面白かったです。色味も街並みもファッションもいちいちお洒落でときめきました。やっぱりエドガー・ライト監督はセンスの神です。
南波志帆(ナンバシホ)
1993年6月14日生まれ、福岡県出身のシンガー。2008年11月にミニアルバム「はじめまして、私。」でデビューを果たし、デビュー10周年を迎えた2018年には初のベストアルバム「無色透明」をリリースした。2014年からNHK-FM「ミュージックライン」のDJを務めている。
「ショーン・オブ・ザ・デッド」(2004年製作)
親友とパブに入り浸り、ついに恋人に愛想を尽かされてしまったダメ男ショーン。これまでの生活を改め、彼女とよりを戻そうとするも、知らぬ間に街にはゾンビがあふれかえっていた。ショーンは親友とともに、彼女と母親を助けようと奮闘するのだが……。
監督を務めたのは、のちに「ベイビー・ドライバー」を手がけるエドガー・ライト。
「ショーン・オブ・ザ・デッド」Blu-ray / DVD販売中
税込価格:Blu-ray 1650円 / DVD 1100円
発売元・販売元:KADOKAWA
※「ショーン・オブ・ザ・デッド」はR15+指定作品
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