新型コロナウイルスの感染拡大で休業を余儀なくされたことにより、全国の映画館は苦境に立たされた。その状況にもどかしさを感じている映画ファンは多いはず。映画ナタリーでは、著名人にミニシアターでの思い出や、そこで出会った作品についてつづってもらう連載コラムを展開。ぜひお気に入りの映画館を思い浮かべながら読んでほしい。
第7回では俳優の
文
もはや“映画を観る”だけが目的じゃない
僕は兵庫県の神戸市で育った。
初めてミニシアターに行ったのは物心ついて間もない頃、山口県のおばあちゃんの家に行ったときだったんじゃないかなぁと思う。親に連れられていった「
それから大きくなって、映画館に行きたいと言うと、親に「目が悪くなるから家でビデオで観なさい」と言われた。
それを言われてからは映画は明るいところで観るもんだと思い、テレビのやつを観たりDVDとかVHSでばっかり観ていた。
高校生になり、自分でバイトしたお金で好きなものが買えるようになった頃、学校帰りによく三宮に行ったりした。でも節約したいので、「湊川」という駅で降りてそこから40分くらい歩いて三宮まで行っていた。
そんな中、今日は海の方に行こうと思って湊川から「新開地」という駅まで歩いていると、映画のポスターが貼られている施設があるのに気がついた。「神戸アートビレッジセンター」というところである。
そこでやっていたのは
吸い込まれるようにして観たのは「
体中に電撃が走るほど感動した。真っ暗闇の中、スクリーンに映し出されたモノクロの世界には、今まで映画はこういうもんだと思い込んでいた自分の価値観がひっくり返されるくらいの情報量が詰まっていた。古い映画にはなんとなく抵抗感があって、家で観ているとなんとなく「しんどい」ものだった。
でも映画館という場所で観たとき、古い映画なのに「いま生まれたもの」かのように観れたのだ。ここが最先端な場所だ、とすら思った。言い方は悪いがほぼパイプ椅子みたいな椅子でお尻は痛くなったが、もっとここに居たいと思った。小さい頃に制されていたものが、ここで爆発した。
東京へ来て、映画好きの先輩に色んな場所を教えてもらった。渋谷のユーロスペースやオーディトリウムに通っていると、一階のcafe theoでバッタリ色んな人と会えたのが楽しかった。初めて早稲田松竹へ行って1100円で2本観れた衝撃も忘れられない。新文芸坐で大学の友達とオールナイトで映画を観て、朝に缶コーヒーを飲んでそのまま大学に行った日も懐かしい。アテネ・フランセで初期の映画を観たり、ぴあフィルムフェスティバルへ行ってフィルムセンター(現・国立映画アーカイブ)の存在を知ったのも嬉しかった。
中でも感慨深いのは、いまは無くなってしまった新橋文化劇場である。
スクリーンの隣にトイレがあって、映画を観てる最中にトイレに行く人たちまで見えちゃう。映画の最中にトイレは行かないようにしてるが、あそこでトイレ側から感じる映画の音も聴いてみたかったもんだ。
そこで初めて観た「デス・プルーフ」と「プラネット・テラー」のグラインドハウス2本立ては忘れられない。その後「デス・プルーフ」は何度も観ているが、あの時の感動には到底敵わない。会場が揺れるような一体感に包まれていた。
それから、いつの間にか映画館にいることが当たり前になった。もう、観る映画が良かったかどうかはあんまり関係なくなった。観て、考えてる時間が幸せで、大切になった。凄い映画に会うとめちゃくちゃ興奮するけど、腹立つようなクソ映画もたまにはいい。
ミニシアターにはひとりでいても誰かといるかのような「たまり場」感がある。ミニシアターという場所はもはや「映画を観る」場所ではなく、「ミニシアターへ行く」という目的のための場所だ。だから、家でDVDで置き換え、というわけにはいかないのである。
いまは一刻も早くコロナに収束してもらいたい想いです。そしてひとりひとりがより自分がいる場所、好きだと思える場所との関係性を深く感じられるようになったらいいと思っています。
待っています。またミニシアターに行ける日を。
心から応援しています。
※映画ナタリーでは、業界支援の取り組みをまとめた記事「今、映画のためにできること」を掲載中
渡辺大知
1990年8月8日生まれ、兵庫県出身。ロックバンド・黒猫チェルシー(現在活動休止中)のボーカルとして活動を開始する。2009年、みうらじゅん原作・田口トモロヲ監督による「色即ぜねれいしょん」の主役に2000人を超えるオーディションで抜擢され、第33回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。近年の主な出演作は「勝手にふるえてろ」「寝ても覚めても」「ギャングース」「わたしは光をにぎっている」、テレビドラマ「恋のツキ」「べしゃり暮らし」など。2020年以降の公開待機作に主演映画「僕の好きな女の子」などがある。
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