コミックシーモア主催の「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞」が、今年も開催される。同賞は「次に来るヒット作品はこれだ!」と出版社が推薦したタイトルの中から、一般投票で大賞を選ぶマンガ賞だ。コミックシーモアでは2025年1月の結果発表に向け、11月30日まで投票を受け付けている。
しかし今年も100作品がエントリーされるとあり、どの作品に投票すればいいか迷う読者も少なくないだろう。そこでコミックナタリーでは、マンガ大好き芸人として知られる吉川きっちょむに、男性部門のエントリー作品全15タイトルをレビューしてもらった。各作品の魅力をぎゅっと詰めこんだ、マンガ好きならではの視点が光る、熱いコメントをお見逃しなく。最後には吉川が独断で選んだ男性部門賞も発表している。
取材・文 / 小林聖撮影 / ヨシダヤスシ
出版社53社が「2025年にヒットしそうな電子コミック」をそれぞれ推薦し、一般投票での得票数が最も多い作品を“みんなが選んだ2025年に最もヒットする電子コミック”として発表するマンガ賞。8回目となる今年は100作品がエントリーされ、昨年に引き続き「男性部門」「女性部門」「異世界部門」「ラノベ部門」「BL部門」「TL部門」の6部門が用意されている。
- 投票期間
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2024年9月24日(火)~11月30日(土)
- 部門
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男性部門、女性部門、異世界部門、ラノベ部門、BL部門、TL部門
- エントリー作品数
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100作品
- 投票方法
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特設ページにアクセスし、好きな作品の投票ボタンをクリック。1部門1回まで、計6部門分投票できる。投票は会員登録なしでも可能だ。
期間中はお得なキャンペーンがたくさん!
- 全エントリー作品につき、1巻以上無料または立ち読み増量
- エントリー作品の続刊購入にも使える「5冊30%OFFクーポン」キャンペーン
- 投票した部門数に応じてポイントをプレゼント。全部門に投票した人には、ポイントのほか、「1冊70%OFFクーポン」も
さらにコミックシーモアの公式X(@comic_cmoa)では、自身が投票した作品をポストした人の中から抽選で100人に、Amazonギフトカード5000円分をプレゼント。応募にはコミックシーモア公式Xのフォローが必要となる。
「いやはや熱海くん」
田沼朝
KADOKAWA
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美形な高校生・熱海くんは、毎日のように女子に告白されるほどのモテ男。しかし好きになるのはいつも男性だった。そんな彼の悩ましき恋愛事情を、先輩の足立さんやその同級生・国島くんらとともに描いていく。
©Asa Tanuma/KADOKAWA
めちゃくちゃ好きな作品です。日常のモヤモヤをマイペースに解決していくような話で。熱海くんと足立先輩の関係がいいんですよね。惚れっぽい熱海くんが足立先輩に告白するんだけど、足立さんは熱海くんの気持ちに応えられない。でも、足立先輩はちゃんと気持ちを受け止めてくれて、関係が続いていく。しかも、恋人ではないけど友人以上の関係で、ごく自然に家族ぐるみの付き合いになってて……。これって理想の関係性じゃないですか?
足立先輩の家族もいい距離感なんですよね! 熱海くんに対しても気を使ってないようで、ちゃんと気遣ってるし、見ていてくれる。「今日は元気ないな」とか気にしてくれてるんですよね。それでいて、軽々しくは深く踏み込まなかったり。人間関係の新しい価値観を提示してくれている作品だと思います。
「落ちこぼれ衛士見習いの少年。(実は)最強最悪の暗殺者。」
漫画:ミツコエユウ/原作:マサイ
一迅社
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主人公は怠け者の衛士見習い・イル。仕事ができないダメ人間扱いを受ける彼だったが、その正体は“呪い持ち”の暗殺集団「夜の住人」のS級暗殺者だった。暗躍するイルの姿を描いた、ダークファンタジーが展開される。
©マサイ・ミツコエ ユウ/一迅社
イルがいいキャラクターですね。頼りなさそうなんだけど、実は裏の顔は……という。やっぱりギャップって魅力です。
名前もくすぐられるじゃないですか。「イル(ill、英語で「病気の」「邪悪な」「不幸」などの意)」っていう。で、裏の名前は「最悪」と書いて「イルネス」と……グッとくる、いい中二病ですよ(笑)。
ファンタジーだけど「なんでもあり」って世界じゃないのもいいですね。死んだ人は生き返らないし、重要そうなキャラクターもあっさり死んじゃったりする。ショッキングだけど、この無慈悲な世界観が魅力だと思います。少し読み進めていくとミステリー要素も出てきて、じっくり読みたくなる、引き込まれる作品ですね。
「カヤちゃんはコワくない」
百合太郎
新潮社
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カヤちゃんは幼稚園でも有名な問題児。友達にブランコを貸さなかったり、絵本にセロテープを貼ったりして、みんなを困らせている。しかし彼女の目には、みんなには視えない何かが映っていて……。霊能者・カヤちゃんが無双するホラーアクションだ。
©百合太郎/新潮社
霊能・怪談ものだけど、コメディっぽさやほっこり感もあるところが面白いです。ホラー描写はしっかり怖いんだけど、カヤちゃんがとにかく最強だから安心して読めるし、ワンパンで敵を倒していく爽快感もたまらないですね。
幼稚園児にして最強霊能力持ちのカヤちゃんですが、やっぱりまだ子供だから周りには理解されず誤解されている。それを、保育士の先生がよき理解者となってくれているのもいいですね。カヤちゃんがまだまだ母親を必要としている、子供らしい部分が見えるのも魅力だと思います。ヒーローの弱点というか、キャラクターに深みが出ている感じです。
あと、1巻のラストがとにかく衝撃ですね(笑)。これはぜひ読んでほしいし、続きが気になります。
「彼は『これ』は復讐ではない、と言った」
高井唯人
シーモアコミックス
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いじめ加害者への復讐を描いたサスペンス。高校時代、プロ棋士の卵だった小嶋龍吉は、同級生6人から壮絶ないじめを受ける。社会人になってなお、のうのうと幸せに生きるいじめ加害者たち。そんな彼らの命を狙う1つの影が、今動き出す。
© 高井唯人/シーモアコミックス
過去のいじめに対する復讐ものですが、いじめの内容が壮絶で……。もう読んでいて「こんなことがあっていいのか……大人たちよ、しっかりしてくれ!!」という気持ちになりました。とにかく胸クソなので、その分復讐に気持ちが乗りますね。
しかも、過去に受けたいじめを踏まえた復讐をするじゃないですか。過酷ないじめを受けているほど過酷な復讐になるから、変な気持ちになります。気持ちがグチャグチャですよ!
読むならやっぱり朝イチとかより寝る前ですかね。スマホでさっと読んで、ある程度スッキリして寝たいです。でも、「もう1話だけ、もう1話だけ」って感じで読んじゃって気づくと真夜中、となりそうな作品でもあるから気をつけないと(笑)。
「ハネチンとブッキーのお子さま診療録」
佐原ミズ/医療監修:北岡寛己
コアミックス
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シングルファザーのサラリーマン・羽根田と、奇抜なメイクをした小児科医の青年・琴吹のハートフル医療ストーリー。妻を亡くし、突然育児をすることになった羽根田は、子供の理解不能な言動に日々振り回されている。ある日、電車で体調が悪くなった息子を助けたのは、“オバケ”のようなメイクをした琴吹だった。
©佐原ミズ/コアミックス
佐原先生らしい、優しい眼差しに満ちてる作品だなと思います。中心となるキャラクターの1人が妻を亡くしたシングルファザーの羽根田さんですが、彼は妻が生きている間は子育てなんて全然関わってこなかったし、大変さや孤独にも気づいていなかった。今とても批判が集まるキャラクターなんですけど、この作品は彼を責めすぎないんですよね。タイミングやポジションによっては誰にだってわからないこと、気づかないことはあるし、過去でなくこれからどうするかだよね、という方向で描かれてる。そこがとても心地いいです。
いろんな人の視点が入っているのもいい。例えば第2話でハッとしたのが「子供の幸せ望むなら親も幸せじゃなきゃ成立なんてしないのに」「なんでこんな簡単なこと気付かないんすかね?」ってセリフ。親に幸せでいてほしいっていう子供の視点も描かれてるんですよ。誰かの視点にだけ体重が乗りすぎてないバランス感覚が好きですね。子供のいる男性はもちろん、僕みたいに子供のいない人も気づかされたり考えさせられたりすることの多い作品です。
「ヒグマグマ」
奥谷通教
日本文芸社
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とある動物写真家が、体長4m以上と推測される巨大ヒグマに襲われた。TVディレクターの雨咲健人は巨大ヒグマの存在を追うドキュメンタリー番組を企画するが、上からの圧力により番組はバラエティ方面に路線変更。出演者のアイドルたちを交えてヒグマが現れた山へ向かった雨咲たちは、そこで巨大ヒグマが食い荒らしたとされる死体を目にして……。
©奥谷通教/日本文芸社
こういうモンスターパニックホラーってたまに無性に読みたくなるんですよね。襲ってくる怪物が超巨大ヒグマっていうのがいいですね。いい具合にフィクションならではのハッタリが効いてて、それでいてただのホラ話みたいにならないリアリティもある。最近は現実でも熊被害がよく報じられるようになっていて、僕らも熊についての理解度が増してるじゃないですか。一度自分のものにした獲物にはものすごく執着するとか、熊の習性について知っていることも増えてる。だから、より怖さを感じるんですよね。
それと、メインは熊の恐ろしさですけど、その手前に人間ドラマがあるんですよね。人命がかかってるのにバラエティ番組にしようとするテレビクルーとか、なんとか売れたいタレントとか、登場人物がみんなそれぞれの思惑があって、醜悪な人間関係も出てくる。ここがたまんないですねえ。もっとこじれてほしい(笑)。あと、ちょっとセクシーな要素も今後期待したいですね。グロとエロはセットですから!
「ファントムバスターズ」
ネオショコ
集英社
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幽霊が多い土地とされる鎌倉の高校に入学した是岸遊人は、幽霊の存在を信じない霊感ゼロの優等生。しかし、幽霊を喰らって除霊するという破天荒な同級生・宍喰野虎落との出会いをきっかけに、彼の高校生活は思いも寄らない方向へ動き出し……。個性豊かな4人の男子高校生による“ファントムバスターズ”の活動が描かれる。
©ネオショコ/集英社
これ、めっちゃ楽しいですよね。作画もストーリーもキャラクターづくりもみんなクオリティが高い! こんなのすぐアニメ化されるでしょって思っちゃいます。
古都・鎌倉で幽霊退治の部活を始める高校生たちの話ですが、わちゃわちゃとしたコメディ感が少年誌らしくて読んでて明るくなります。で、テンポがいいからサクサク読めちゃう。
なんといっても登場人物たちの関係、友情がいいんですよね。それぞれが特殊な能力を持ってるんだけど、みんな足りない部分があって、協力し合わないと力を発揮できない。個人じゃなくてチームでやっている感があります。能力だけじゃなく、みんな過去やトラウマも抱えてて、そこも同志に出会って報われたり補われたりしていく。
ところどころにあるパロディネタも笑っちゃいました(笑)。
「復讐の同窓会」
作画:さいがりゅう/原作:大城密
CLLENN
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主人公は過酷ないじめを受ける男子高校生・カケル。同じくいじめられている女子・エマと恋仲になったが、たび重なるいじめを苦に彼女が自殺してしまう。絶望するカケルのもとに、エマが遺した「いじめ被害日記」が届いて……。すべてを知ったカケルは、人生を捧げていじめ加害者たちに復讐することを決意する。
©大城密・さいがりゅう/CLLENN
復讐系はやっぱり続きを読みたくなるパワーがありますね。この作品は、最初のいじめのシーンがじっくり描かれているのが印象的。しかも、自分以上に付き合っている彼女へのいじめというのが本当にしんどい。だけど、しんどいくらい胸クソだからこそ、主人公のカケルが復讐のために人生を捧げるのにも説得力が生まれる。自分のためだけだったらここまでできなかったんじゃないかって思うんですが、彼女の復讐ですからね。
カケルは18年経って見た目も変わって、結婚して一見幸せそうな家族もできてるけど、それも全部復讐のためと、まさに復讐に人生を捧げている。復讐方法も凝ってるじゃないですか。釘バットをそんなふうに使うの!?みたいな。18年かけて練りに練ったんだな、と思わせます。
それとこの作品で面白いのが、いじめっ子が町の権力者でもあるところ。単純な1対1の復讐でなく、町ぐるみでいじめをもみ消したりしてきた相手、権力とどう戦うのかというのも見どころだと思います。
「ブレス」
園山ゆきの
講談社
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元モデルの男子高校生・宇田川アイアには、メイクアップアーティストになる夢がある。しかし、ことあるごとに求められるのはモデルとしての自分だけ。夢を半ば諦めかけていた折、いつも背中を丸めているそばかすの女の子・炭崎純と学園祭コンテストに出演することになり……。炭崎との交流を深めていったアイアは、彼女の知られざる魅力をメイクで表現しようと奮闘する。
©園山ゆきの/講談社
この作品は連載スタートのときから衝撃でした。マガジンエッジで始まった作品なんですけど、新連載のときに表紙を飾っていて、その絵がすごくよかったんです。で、どんな作品なんだろうってワクワクして読みはじめたら、最初のカラーページもやっぱり素敵で。モデルやメイクの世界の話なんですけど、その華やかさを最初にすごく印象づけられました。
ストーリーも熱いんですよね。主人公のアイアは元モデルなんだけど、本当にやりたいのはメイク。自分のやりたいことと周囲の期待のギャップで悩んでいるところに、同級生の炭崎が一歩踏み出すきっかけをくれるんです。この一歩目を踏み出すっていうのが、たぶんどの業界でもすごく難しいと思うんです。そこを後押しされて踏み出すシーンがすごく熱い。しかも、踏み出すきっかけをもらうのがアイアだけじゃないんですよね。炭崎もアイアにモデルへの第一歩のきっかけをもらってる。お互いに影響し合ういいコンビに胸が熱くなる作品です。
「ペンと手錠と事実婚」
作画:ガス山タンク/原作:椹木伸一
白泉社
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40歳の中年刑事・切鮫は、とある事件の現場にてスケッチブックで筆談する女子高生・鶫と出会う。ド下手な絵で事件の真相を明らかにしていく鶫に驚く切鮫。さらにはひょんなことをきっかけに彼女から求婚されて……。巧妙な事件を2人で解決していく、ミステリーラブコメディが展開される。
©ガス山タンク・椹木伸一/白泉社
これ、設定がすごく面白かったです! しゃべれない?しゃべらない?女子高校生の梔子鶫が事件の謎解きをして、答えを絵で教えてくれるんですけど、絵が下手でよくわからない。そこが笑えるんですが、それだけじゃなくて推理のヒントになってる。推理ものって難しすぎるともう推理するのを諦めちゃうんですけど、下手な絵がいいヒントになってギリ推理できそうって気持ちになるんですよね。「わかりそう!」「わかった!」ってなるのが気持ちいい。しゃべらないという設定がミステリーにすごく活きてると思います。
それと、ラブコメ要素も面白いんですよね。鶫とコンビになる刑事の切鮫が、ラブコメでは急にポンコツになるのが笑えます。これ、実写で見たくなりますね。ハードボイルドな感じの役者さんにポンコツな切鮫を演じてほしいです(笑)。
「変な絵」
漫画:相羽紀行/原作:雨穴
双葉社
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オカルト好きな大学生・佐々木は、知人の栗原から勧められ、とあるブログにアクセスする。愛する人を亡くした男性が綴るそのブログには、祈りを捧げる女や胎児のような子供など、どこかが様子のおかしい9枚の絵が掲載されていて……。佐々木と栗原は絵に隠された数々の謎を解き明かしながら、1つの真実に近づいていく。雨穴による同名小説を相羽がコミカライズした作品だ。
©雨穴・相羽紀行/双葉社
原作の雨穴さん自らが「自分の最高傑作」と言っている作品だけあって、めちゃくちゃ引き込まれます。1ページ目は文字だけ、2ページ目は変な絵だけなんてマンガ、ほかになくないですか? でも、どんどん没頭してしまう。
マンガなんだけど、リアル脱出ゲームをやっているみたいな感覚になるんですよね。謎を解く道筋がきちんとできているから、頭は使うけど迷わないようになっている。まず物が提示されて、違和感が提示されて、ヒントが出されて、そこから答えを出していくというこの仕組み、気持ちよすぎるでしょ! 最初はわからなかった部分やスルーしていた部分も、あとから見返すと「こんな仕掛けもあったんだ!」と気づかされたりする。掘れば掘るほど、“化ける”んですよね。
で、カラーの部分が効いてますね。登場する「変な絵」が、いい意味で浮いてて気味の悪さが出てる。スキャンしたんじゃなくて、「絵を写真で撮った」って感じもいいんですよね。このへんは気軽にカラーを使える電子ならではの演出だなと思います。
「まどわせないで矢守くん」
いのぐちしな
秋田書店
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後ろの席の矢守とともに、夏休みにイメチェンすることを決意した森。無事に爽やかイケメンとなった森に対して、矢守は女子の制服を着て登校してきて……。かわいくなった矢守の思わせぶりな言動に、森は振り回されていく。
©いのぐちしな(秋田書店)
ひと言でくくれない作品ですね。ラブコメっぽくもあるし、青春劇っぽくもあるけど、そういうジャンルにはめてしまうと、この作品の面白さからズレていく気がします。
矢守くんも「男の娘」って言ってしまうと、矢守くんのアイデンティティをこっちが決めてしまうことになる。かわいいけど、矢守くん自身は自分をどう捉えてるのかわからないというか、「男の娘」になりたいと思ってたわけじゃなさそうじゃないですか。核心だなと思った森くんのセリフがあって。「矢守のこと女の子扱いした事ないよ」「可愛いから心配なだけだよ」って。森くんはレッテルを貼らないというか、矢守くんの性自認を強要しないんですよね。矢守くんという存在をそのまま肯定してる。こういうところがすごく丁寧な作品だと思います。
こういうのって矢守くんを中心にした話になりそうなんだけど、急にモテるようになった森くんや、ほかのキャラクターも面白くて、世界観の広がりを感じます。
「夢でフラれてはじまる百合」
ヒジキ
竹書房
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明るい女子校生・月詩とクールで美人の陽花は幼なじみで大親友。ある日、月詩は陽花に「つき合って」と告白し、フラれる夢を見る。それからというもの、陽花のことを意識するようになってしまい……。“夢現ガールズラブ”が繰り広げられる。
©ヒジキ/竹書房
百合マンガってそれほどたくさん読んでこなかったので、新鮮に楽しめました。両片思いっぽいふたりの初々しい感じとか、ラブコメのよさが詰まってますよね。神視点で見てる読者は2人の気持ちもわかってるから、じれったくてやきもきしちゃうし、甘酸っぱさにニヤニヤしちゃう。ニヤニヤが出ちゃうから電車とかでは読めないですね(笑)。
2人の関係ってすごく尊いですよね。陽花のほうはたぶん割と自覚的なんだけど、月詩のほうは自分の気持ちが恋愛なのか、友情なのかわからずにいる。だからこそ不安定な関係で、下手をしたら友情も壊れてしまうかもしれない。月詩みたいな気持ちって僕も思春期に経験した記憶があります。僕は結局今では「友情だった」って思ってるんですが、月詩も同じかもなって。何もなければ大人になったら「友情だった」で片付けてしまうかもしれない。だけど、思春期のこのときだから真剣に悩んでるし、向き合ってる。そこがいいんですよね。何かで壊れてしまうなら付き合ってほしい!!
「龍とカメレオン」
石山諒
スクウェア・エニックス
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大人気マンガ家・花神臥龍は、不慮の事故によりとある人物と入れ替わってしまう。その相手とは、どんな作家の絵柄もコピーできる新人マンガ家・深山忍だった。臥龍の立場を利用しマンガ界の頂点に立とうとする深山と、自分の身体を取り戻すため、自身の最高傑作にイチから挑戦する臥龍の“マンガ家バトル”が熱く描かれる。
©Ryo Ishiyama/SQUARE ENIX
この作品は「マンガ家マンガ」なんですけど、少年マンガ的な熱さでできてる。大御所マンガ家と新人マンガ家が入れ替わってしまって、立場も作品も奪われた状態で勝負を挑むって、ワクワクしないわけないじゃないですか!
主人公の花神臥龍のキャラクターもいいですよね。めちゃくちゃポジティブで器がでかい。入れ替わってしまっても、「自分の最高傑作に自分で挑めるなんて!」って楽しんでる。まさに作家だけど本人自身が少年マンガの主人公という感じ。
一方で、入れ替わった深山忍も魅力的。オリジナルは描けないけど超絶模写技術があって、臥龍に成り代わろうとするという。最初は適当だったけど、臥龍の熱に当てられるように覚醒していくんですよね。偽物が本物になろうとする物語って熱いじゃないですか。深山が主人公でもいいくらいの魅力があります。
「路傍のフジイ」
鍋倉夫
小学館
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空気のような存在感で、見た目も冴えない独身中年男性・藤井。同僚のサラリーマン・田中は藤井のことを見下していたが、彼の内面を知るうちにどこか目が離せなくなっていって……。囚われがちな“幸せ”の基準を、フジイが爽快に打ち砕いていく。
©鍋倉夫 / 小学館
「フジイ」いいですよねえ。でもこれ、よさをすごく表現しづらい。読めばこのよさがわかるんだけど、読んでない人に伝えづらいんですよね。
フジイってパッと見たらダサいし、登場人物にも言われてるように何が楽しくて生きてるんだろうって思えるんだけど、フジイの目線に触れると、日常の1つひとつを大切に過ごすことの大事さが伝わってくる。
今ってSNS全盛期という感じで、誰かが勝手に決めた価値観に振り回されてしまう時代でしょう? でも、フジイは他人の価値観で生きてない。マイペースに我を貫いてて、ただ自分が楽しいと思うことを大事にしてる。ブレないんですよね。そういう部分に憧れるんですよね。フジイを見ているといろんなものに振り回されてる自分が恥ずかしくなる。
フジイ自身は何かメッセージを発してるわけじゃないけど、読んでいるこちらはいろんなことを感じるし、勝手に救われちゃう。特に大人が読むとすごくいろんなことを感じる作品じゃないかと思います。
どの作品も面白くて甲乙付けがたくて、どれを選ぶか4時間以上悩みましたが、この作品にしました。「路傍のフジイ」は、キャッチーな設定とか派手な部分があるわけじゃないんですよね。でも、読むと言語化しづらい、包み込むようなよさがある。だから、イチオシにしてまずいろんな人に読んでもらいたいという気持ちで選びました。
「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞」結果発表は2025年1月頃を予定。
果たして“みんなが選ぶ”男性部門賞はどの作品になるのか──。
11月上旬には中間発表が行われ、各部門の暫定上位5作品が明らかになるのでお楽しみに。
プロフィール
吉川きっちょむ(ヨシカワキッチョム)
1988年12月11日生まれ。吉本興業所属のピン芸人。マンガ好き芸人としてさまざまなテレビ番組やラジオ、YouTube番組に出演。吉本興業所属タレントからなるよしもと漫画研究部では部長を務めており、お笑いライブ「行け!よしもと漫画研究部!」を定期的に開催。マンガをテーマにしたポッドキャスト番組「週刊マンガ獣」の配信も行っている。
吉川きっちょむ┋マンガ大好き芸人 (@kittyomz) | X
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- 「みんなが選ぶ!!電子コミック大賞2025」マンガ大好き芸人・吉川きっちょむが、女性部門エントリー作品をレビュー
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