2019年8月、那須平成の森では「那須平成の森運営方針」が策定されました。この方針は、『那須平成の森の運営に関する総点検を行い、「保全整備構想」の趣旨を最大限発揮していくため、2020年度以降の運営の中期的な方針についてとりまとめた』ものです。その中に記されている基本的な考え方には、『那須平成の森として必須なものは、元御用邸用地であった歴史を持つ森としての「品格」(元御用邸用地としての歴史、手つかずの自然、高品質のインタープリテーション)を引き継いでいくことであり、「品格」を支える観点として、地域と連携しながら持続的に上質なサービスを提供するため、「経営」と「地域」の観点での強化が今後必要である』とあります。文中に登場する「品格」がキーワードとなりますが、今回はこの言葉について考えてみたいと思います。
まず那須平成の森の品格を考える前に、一般論としての品格の意味について調べてみました。それによると、品格とは『よしあしの程度、感じられるおごそかさ、気高さ、上品さ、雰囲気のようなもので「具体的な表現ではなく」、その人や物の「周辺の状況を表す言葉」』と集約できました。具体的ではなく抽象的なことを表現する言葉であるということです。
品格の意味を仮にそう定義づけるならば、「那須平成の森の品格」についてその品格とは何かといった具体像を議論することはあまり意味をなさないと考えられます。ある関係者(と言っても那須平成の森のことはほとんどご存知無い方)に「那須平成の森の品格とはなんだと思いますか?」と尋ねたとところ、「皇室にゆかりのある森と言われても、森を見ても品格は感じない」とそっけない返事でした。確かにその通りだな、と思ったものです。一方で、ガイドウォーク体験者からは「御用邸用地の自然が皇室によって守られてきたことが、結果として豊かな森を育んだことになるのですね」とか、那須平成の森フィールドセンターの展示をご覧になった方から「展示が素敵ですね」などと言われることがあるのは確かで、どこかに「品」や「品格」を感じさせる“何か”が那須平成の森にはあるのかもしれません。前述した「那須平成の森運営方針」中の品格という言葉については短く説明がなされていますが、さすがにそれだけでは説明しきれていないように思います。改めて「那須平成の森の品格」を整理しておく必要がありそうです。そこで「品格を有する」という仮説の基に、次のように文章としてまとめてみました。
那須平成の森の品格
『私たちは那須平成の森には品格があると考えます。そのように考える理由は、御用邸用地の一部であった現在の那須平成の森は、約90年の間皇室によって守られてきましたが、天皇陛下(現在の上皇陛下)の「豊かで多様な自然環境を維持しつつ、国民が自然に直接ふれあえる場として活用してはどうか」とのお考えを踏まえ、様々な人々の努力と熱意で計画準備され国立公園として開放された森であるからで、那須平成の森を包み込む周辺の様子に品格を感じます。だからこそ、那須平成の森を守ることはその品格を維持していくことに他ならないのです。』
那須平成の森の「周辺の状況」を表してみようとまとめてみましたが、少しはその品格を表現するのにふさわしいものになったでしょうか。
今回は那須平成の森の品格などと自分の職場のことを持ち上げるような話で進んでしまいましたが、全くそういうつもりはありません。冒頭に記した「那須平成の森運営方針」の中で品格という言葉が取り上げられたことを契機に、改めて品格について考えてみようと思ったのが真意です。結果的には“そこで働く者の心構え”といった意味合いにまとまり、同時に那須平成の森の“目指す方向性の整理”にもなったと感じています。
天皇家の皆様には開園以来幾度となくご来園いただき、上皇后陛下から「整ってこられましたね」と短いながら大変嬉しいお言葉をいただきました。上皇陛下のお言葉を端緒として生まれた那須平成の森がそのお気持ちに寄り添う形で整備されつつあることに対する、陛下のお褒めの言葉ではないかと肝に銘じています。いわば、これも那須平成の森の周辺の状況を表したもので品格のひとつと言えるかもしれません。
これからもこの品格を維持していくため、那須平成の森のあり方について、そこに関わる様々な人たちと共に考え実現していかなければならない、今そのように気持ちを新たにしているところです。