夫の実家(三) 10/15/2017
『夫の実家』のつづきである。
夫の村は、段々畑の間に家がポツンポツンと建っている、山と畑しかない所だった。
雪の帽子をかぶったガウリサンカールという7千メートルを超える山がくっきりと見え、山好きにとっては素晴らしい場所なのかもしれないが、残念ながら当時の私、山に興味がなかった。
夫の説明を聞いても
「ふーん、あっ、そう。」
そっけない返事しかできない。
夫の家の前には大きな棒が立っており、棒の先には旗が垂れ下がっていた。
夫曰くこの旗は仏教徒の象徴。
そして村で一、二を争う金持ちの家はというと、何をもって金持ちというのか私にはわからないのだが、確かに隣、とはいっても50メートル位先なのであるが、隣の平屋の家に比べれば夫の家は3階建てで大きい。
が、そこはネパールの山奥である。
文章力がないのでこの家をどう表現していいのか思いつかないのだが、日本の立派な農家のお宅の横にある農機具等を置いている小屋のような感じとでも言おうか。
1階は居間。
靴と靴下を脱いで入るのだが、脱いだ先は床でもなければ畳でもなく、土である。
日本で言えば土間だ。
土の上を裸足で歩くので、足の裏は常に真っ黒、というより灰色である。
居間の真ん中には囲炉裏があり、囲炉裏のまわりにはわらで編んだむしろが敷かれている。
囲炉裏の傍には、多分お父さんが作ったのであろうが、木の棚があり、食器が並んでいた。
1階の居間にあるのはそれだけである。
おっと、もうひとつあった。
ニワトリがいた。
産卵したばかりのニワトリが囲炉裏のそばで卵を温めており、まさに『日本むかし話』を思わせる。
(若い人は知らないでしょうが、昔、『日本むかし話』というアニメがありました。)
2階は家族全員の寝室だった。
ベッド、といっても木の台の上に布団を敷いただけのものなのだが6台が置いてある。
3階は天井が低く屋根裏部屋のような感じであった。
私が行った時には何もなかったが、作物を蓄える場所だそうだ。
というわけで、この3階建ての家はシンプルすぎるくらいシンプルで、個室もなく、従ってプライベートもなく、そして電気、ガス、水道も通っていない。
次は家の外の説明になるが、家の前には小屋があり、小屋の中には自家製の酒があった。
あとでわかったのだが、この小屋は農家の諸々の作業をする場所でもある。
そして小屋の脇に、私にとって一番重要なトイレがあった。
ドアはなく、目隠しのように布切れがペランと垂れ下がっていた。
便器はなく、穴があるだけ。
日本で言えば、昔、肥溜めというものがあったが、といっても現在オバサンの私とて肥溜めなんて見たことがないのだが、多分肥溜めと似たようなものだと思われる。
水洗ではなのでトイレの中は悪臭が漂ってたが、それでもないよりはマシである。
先に書いたようにトイレの前には布が下がっているだけなので、私が入っている時に誰かが布をめくることもあれば、その逆、誰かが入っている時に私が布を開けてしまうこともあった。
そんな時は「あっ、ごめん。」という感じで、なんとなく一瞬気まずい雰囲気は流れた、と思ったのは多分私だけであろう。
そして私が気になったのはよそのお宅である。
よそのお宅にはトイレがないらしく、どうしているのかと夫に聞くと
「こーんなに広いんだ。トイレの心配なんていらない。どこでもトイレだよ。」
夫は笑うだけ。
家の前には畑が広がっており、黒と茶色の毛が混じった大きな犬、牛、水牛、ヤギ、そして放し飼いのニワトリが50羽位歩いている。
「どこまでがアナタの家の土地なの?」
と夫に聞くと
「あっちの方までぜーんぶワタシのうちの土地です。土地はここだけでないです。他の所にもワタシのうちの大きい畑があります。動物もここにいるのはちょっとだけ。他の所に動物の家があります。」
説明をする夫はなんだか鼻高々なのだが、そんなことよりも私は風呂に入りたい。
なにせ18時間も歩いたので全身汗だくで気持ち悪く、夫もそうだったようだ。
夫はどこからかバケツに入れた水を持って来て、家の前にある小屋の前でパンツ一枚になった。
そして頭の上から水をかぶり、
「あー、フレッシュ!」
と言う。
「水でいいから私もシャワーしたいのだけど。女の人はどこでシャワーするの?」
と聞くと
「わからない。」
と夫。
「なんでわからなの?自分の家でしょ!」
と言うと
「ワタシは女の人ではありません。だからわからない。男は簡単。どこでもシャワーできます。」
と笑う夫ではあったが、とはいえ私にシャワーを浴びさせないわけにはいかないと思ったようだ。
水を入れたバケツを持ってて、次に大きな簾のような物を持って来た。
家の前に広がっている野っぱらに簾の両端を少し斜めにして立ててみたら、簾は危なげながらも立ち、なんとなく目隠しらしきものができた。
「この中でシャワーをすればいい。」
と夫。
ネパール人は服を着たまま水浴びをするようだが、日本人の私は全部脱がないと風呂に入った気がしないので、素っ裸になり、簾の中で柄杓のようなものでバケツの水を汲み、汗を流した。
すると突然ビュンと強風が吹いた。
と同時にめかくしの簾がバタンと倒れた。
素っ裸の私はというと、急いで持っていたファイスタオルで前だけ隠し、片手で簾を立てようと試みるも、簾が重くて片手ではどうにもならない。
「ちょっと~、来てよ~。倒れたよ~。」
夫を呼ぶも、夫はどこかへ行ってしまっており、来る気配がない。
仕方なく、簾を背中に乗せ、バケツの水を頭からサバっとかけ、水を拭うのもほどほどに、そそくさと服を着た。
私が村で水浴びをしたのはこの1回だけ。
この村の女性はどこで体を洗っているのか、未だに謎である。
水浴びを終え、家に戻ると妹が干した鹿肉と野菜を入れた雑炊を作ってくれた。
美味しかった。
ネパール語で「美味しい!」と言うと、
妹も父もどんどん食べてと言い、私もこれが夕食なのだと思い、満腹になるまで食べた。
日が暮れると農作業を終えた家族がぞろぞろと戻って来て、この家の住人が把握できた。
父母、妹、弟、姉の子供2人の合計6人。
そしてこの日は近くに住んでいる夫の兄が来、近隣の男が3人来た。
どうやら外国人の私を見に来たらしく、1階の土間のような居間は人でいっぱいになった。
村人達は私を見て、
「私達とそっくりだ。この村の服を着ればネパール人だ。」
と、私の容姿を見て驚いていた。
恐らく私はこの村に来た初めての外国人で、彼等が日本人を見るのは初めてだったに違いない。
夫が私も仏教徒だと話したらしく、昔も今も仏教のことなどろくに知らない私だが、初七日や四十九日の事を夫を介して話すと、
「我々と同じだ。」
とまたまた村人達が驚く。
男達が話ている間、女達は夕食を作り、ご飯、野菜のカレー、豆のスープが出来た。
「さあ、食べて、食べて。」
まず私にふるまわれたのだが、今さっき雑炊をたらふく食べたばかりだ。
腹は減っていない。
「さっきのが夕食じゃないかったの?」
と夫に言うと
「さっきの!あれはおやつだよ。」
その日は夜10時頃まで、夕食を食べながら自家製の酒を飲み、夫と夫の家族と村人達は盛り上がっていた。
ネパール語がわからない私はというと、ガブガブ酒を飲み、卵を温めているニワトリを触ったりしていたのであった。
今日は愛鳥ラニ君の2週に1度の通院日でした。
前回2週間分の漢方が出されたので、
「薬はどうでしたか?」
と先生が仰る。
「あのー、薬入りの水を飲んでいるところを1度も見たことがないんです。そもそもこの子が水入れの水を飲んでいるところが見たことがないもので・・・」
と答えると、
「まあ、飲んでいることは確かです。今日のこのヒトのフンは湿っていて、とてもいいです。次回のフンを見て、薬を飲むかどうか決めましょう。」
清算の時、
「髪に白い物がついていますよ。」
受付の人に言われる。
「あっ、それは多分この子のフンです。私、よく頭にフンをつけて歩いているようでして。」
受付の人に大笑いされ、髪を触ってみたら、やっぱりラニ君の乾いたフンであった。
それを見て
「かっわいいー」
フンまでも可愛いと思う私。
最近のラニ君は夫や私を後追いするほど人間にベッタリで、可愛くて可愛くてたまりません。
親馬鹿ですみません。
ピンボケですが、夫の村の家の写真が出てきたのでスキャンしました。
夫の村の家で飼っている犬。
夫の家の前は野っぱらで、家一軒すらありません。
今、ラニ君の好物のあわ穂をベランダで栽培しています。
頭の上に乗るのが好きなラニ君。
いつも前髪にぶら下がり、その時にフンをするのでしょうね。
会社でも「白いモノがついているよ。」
と指摘されたことが2度あります。(笑)