車載ネットワークは、現代の自動車において、さまざまな電子制御ユニット(ECU)を連携させるために非常に重要な役割を果たしています。自動車の高度化に伴い、車内のECUは数十から数百にまで増加しており、各ECU間の通信を効率的に行うためのネットワーク構成が求められます。ここでは、一般的な車載ネットワークの構成例について解説し、どのように異なるシステムが連携しているのかを見ていきます。
1. 車載ネットワークの基本構成
車載ネットワークは、多くの場合、複数のサブネットワークによって構成されており、それぞれのネットワークが異なる機能や役割を持つECUを接続しています。車両内の各システムは、機能や通信速度、リアルタイム性に応じて異なるネットワーク技術を使用しています。以下は、車載ネットワークにおける主要なネットワーク技術です。
- CAN(Controller Area Network):エンジン制御やブレーキシステムなど、リアルタイム性と信頼性が求められる領域で使用。
- LIN(Local Interconnect Network):ドアミラーやウィンドウ制御など、低速でコスト効率が求められるシステムに利用。
- FlexRay:ADAS(先進運転支援システム)やステアリング制御など、高速で信頼性が高い通信が必要な部分に適用。
- Ethernet(車載イーサネット):高帯域を必要とする自動運転や車内エンターテインメント、カメラシステムに使用。
- MOST(Media Oriented Systems Transport):車内のマルチメディアシステムやナビゲーションシステムに適用。
2. 典型的な車載ネットワーク構成例
自動車内の異なるネットワークをどのように統合するかは、自動車メーカーやモデルによって異なりますが、一般的には以下のような構成が取られています。
a. パワートレイン・ネットワーク
パワートレイン・ネットワークは、エンジン、トランスミッション、そして駆動系に関連するECUが接続されているネットワークです。ここでは、CANが主に使用され、高速かつリアルタイム性のあるデータ通信が行われます。以下のECUが典型的に接続されています。
b. ボディ・ネットワーク
ボディ・ネットワークは、車両の内部機能に関連するシステムを制御するネットワークです。ここでは、LINが多く使用され、低速かつコスト効率の良い通信が行われます。以下のECUが含まれます。
- ドア制御ユニット
- 照明システム
- 空調システム
c. 安全システム・ネットワーク
自動車の安全性に関わるシステム、例えばエアバッグやブレーキシステム、ステアリング制御などが接続されるのが安全システム・ネットワークです。これらは非常に高いリアルタイム性と信頼性が求められるため、FlexRayやCANが多く使用されます。含まれるECUは以下の通りです。
- ブレーキ制御ユニット
- エアバッグ制御ユニット
- ステアリング制御ユニット
d. インフォテインメント・ネットワーク
車内のエンターテインメントやナビゲーションシステム、インターネット接続などをサポートするのがインフォテインメント・ネットワークです。ここでは、MOSTやEthernetが使用され、大量のデータ通信を迅速に処理することが求められます。典型的な構成は以下の通りです。
- オーディオシステム
- ナビゲーションシステム
- ディスプレイユニット
- カメラシステム
3. ゲートウェイの役割
異なるネットワーク技術が混在する車載システムにおいて、各ネットワーク間のデータ通信を調整するのがゲートウェイの役割です。ゲートウェイは、異なる通信プロトコルやデータ形式を変換し、異なるサブネットワーク間でのデータのやり取りを可能にします。例えば、エンジン制御のCANネットワークとインフォテインメントのEthernetネットワークの間でデータを転送する際には、ゲートウェイが両者を接続してデータを中継します。
4. 将来の車載ネットワーク構成
現在、自動運転技術の進展や車両のインターネット接続(コネクテッドカー)により、車載ネットワークのさらなる高速化と統合が求められています。次世代の車載ネットワークでは、Ethernetのさらなる普及が期待されており、特に以下の領域で重要な役割を果たすでしょう。
- 自動運転:多数のセンサーやカメラ、LiDARなどから得られる膨大なデータをリアルタイムで処理するために、高速かつ安定した通信が必要。
- OTA(Over-The-Air)アップデート:車両ソフトウェアのリモートアップデートや機能追加を行うために、外部とのデータ通信もますます重要になる。
5. まとめ
車載ネットワークの構成は、自動車の高度化に伴って複雑化してきました。CANやLIN、FlexRay、Ethernetといった異なる通信技術が、それぞれの用途に応じて使い分けられ、車両内のECU同士の連携を支えています。将来的には、さらに高度なネットワーク統合が進み、自動運転やコネクテッドカーに向けた新しい技術の導入が期待されています。