「インターネットは記録性が力」という認識は間違っていたかもしれない - 空中の杜

空中の杜

旧名「空気を読まない中杜カズサ」。

「インターネットは記録性が力」という認識は間違っていたかもしれない

私は以前「インターネットの真の力は速報性や伝播性ではなく、記録性にある」と思っていました。すなわち、既存のメディアなどよりも情報を世界にすぐに伝え、それがまたたく間に広い範囲に伝わることが出来るのがインターネットの大きな利点と言われていましたが、真価はそうではなく、むしろその情報が残り続けることによる、記録(アーカイブ)性のほうが、本当の力だということ。
これは、その時から速さを求めての不正確な情報が広まることが多くあり、そのような早くて広まるけど、情報の質が低いものより、しっかり蓄積され、ネットに残り続けるような情報の方が、インターネット、ひいては社会にとって価値があるものとなるという気持ちがありましたし、実際にそうやって蓄積された情報が活用されるものもありました。

しかし、実際にここ数年のネットを見ると、速報性や伝播性においてそこまで重要視しないほうがよいという考えはそのままであるにせよ、どうもインターネットには記録性はそこまでないのでは、と思うようになっています。

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「ネットでは半永久的に情報が残り続ける」わけではない

「ネットでは半永久的に情報が残り続ける」というのは、迂闊な情報発信しないようにするためのリテラシー教育で使われる言葉です(最近だと裸自撮り防止とか)。たしかにネットでは一度流出した情報を完全に消すことは難しいと言われていますし、ものによってはそれは真であります。
しかし、何もが残り続けるかというと、ここ何年かのWebでの様子、とりわけ記録性が係るような古い情報に対しての動きを見るに、「そうでもない」と思うようになりました。

 

Webサービスに依存する個人発信

まず、インターネットでの発信ですが、個人の場合ほとんどが有償無償含めて何らかのレンタルサービスを利用しています。例えばブログなら、はてなブログやライブドアブログ、FC2といったレンタルブログ。さらにWordpressなど自分のサーバで立てる場合でも、自鯖で立てる人は少数で、多くの人はどこかのレンタルサーバやクラウドサービスを利用しているでしょう。

これはブログ以前からそうであり、たとえばブログ以前のホームページの時代にも、ジオシティーズをはじめとして、Tripod、iswebやtoktokなんてレンタルスペースを借りてやっていた人のほうが多かったでしょう。
もしくはプロバイダが、ホームページサービスをやっていた場合も多かったですね。むしろ90年代のホームページの多くはこのプロバイダホームページという感じでしたし。

しかし、後者の名前が出た時点で、すぐに分かった人もいるでしょうが、これら90年代から存在したホームページレンタルサービスの多くは、現在サービスを終了してしまっております。

 

消滅するネットでの発信

iswebやtripodなどを受け継いでいた楽天infoseekが、2010年にHPサービスを終了し、ここで昔から存在していたものの放置状態にあった、貴重な情報を載せたサイトがいくつも閉鎖することになり、話題となりました。詳細は以前書いたので以下に。

timesteps.net

さらに、ここ数年、プロバイダが運営していたホームページサービスも終了しています。そこでも大手であったOCNが2015年に、@niiftyのホームページサービスも2016年に終了となります。このあたりでは、それこそ前世紀からのホームページも閉鎖することになり、そのからのかたりのログも失われてしまったと思います。とりわけ個人ニュースサイトのログとかも。

d.hatena.ne.jp

maname.hatenablog.com

こういった閉鎖、終了のタイミングで、長いことやってたけど最近更新してなかった人とかがこの機会にということでやめてしまったケースも多いかもしれません。むしろ移転など消息がはっきりしているだけいいほうで、大半は管理人の消息自体不明でしょう。

 

そしてこれは、後々のブログにも襲いかかりかねない問題です。ブログサービスが開始されてから10年経ち、様々な情報が蓄積されています。
しかしブログはすでに更新停止になっているものも多いです(自分でも更新停止にしたの数多くあるし)。企業はそれを維持するサーバ的にそれの負担も大きいでしょうし、それらの整理も兼ねて、新サービスに移転しつつ終了する、なんてこともあり得ると思います。それは中小のみではなく、はてなブログという後続があるはてなダイアリー、LINEブログがあるライブドアブログといった大手も。とりわけ独自ドメインを含むSSL対応は難しいようですし、過去のものは切り捨てになってもおかしくないと予想しています。

 

SNS隆盛による情報残存の低下

しかし、そのようなブログやホームページ以前に、アーカイブの消失としてより深刻なものがあります。それは近年、発信の手段として主流になっている、TwitterやFacebookといったSNS。
Twitterでは最近、すぐにアカウントがBANされるというのが有名になっています。しかし、情報の消えやすさに関してはそれ以前の問題として、「自分で消してしまう」というのがかなり大きいと思います。実際、使ってないアカウントがいきなり消える例というのは、かなり多く見てきましたし。これは個人情報が載る場合、セキュリティの面においては間違っていないと言えますが、同時に貴重な書き込みが消えるという可能性もあるわけです。
実際、2000年代前後にけっこう重要な書き込みもあったであろうmixiも、自らアカウントを消したり閲覧不可能な状態にしている例もかなりあってもおかしくありません。
もちろん長期的に見れば、これらSNSがいつ終了してしまうかという問題もあります。

膨大な量なので調べれられませんが、過去に自分が行ったリツイート(非公式時代含む)でも、アカウント毎消えているものもけっこうあるでしょう。

 

そもそも運営している個人がいなくなったらおしまい

そしてホームページにせよブログにせよSNSにせよ、それを運営している人間がいなくなったらそこでおしまいです。そこにあったものは引き継がれない限りは更新されないで、削除を待つことになるでしょう。
ちなみに有料の場合は、払い込み手段がないのですぐ消えます。私はWordpressでブログを運営していますが、サーバ代が月ごとの引き落としなので、急死したら最短一ヶ月で消えることになります。もしくはドメイン切れの1年か。
むしろこのはてなブログなど、無料のブログやSNSのほうが残り続け、しばらく閲覧出来る状態になっていたりします。

まあこれは、「むしろ死んだ後は消してほしい、むしろ誰か消して」と思う人が相当いるかもしれませんが。

 

ニュースでさえすぐ消えかねない

今までは個人運営のものでありましたが、では企業や団体などは保全されるのか、というと、そうとも限りません。もちろんその組織がなくなれば消えるのは当然ですが、そうでなくても情報を順次更新し、残さないというところは結構多いです。それはやはり「保全には手間がかかる」というのが大きいでしょう。すなわち間違った発信をしないために、常にその情報を新しくしてあることを求められてしまう。それなら古い情報は消してしまうほうが楽、というのも自然な流れとなるでしょう。サーバスペースの圧迫という問題もありますし。

これで代表的なのは、各種ニュース。連日報道機関から流される一次ニュースですが、掲載したサイトによっては、かなり早くに消えます。テレビ局は顕著で、一週間後にはもう消えているものもかなりあります(NHKも早い)。これは利益面や前述の保全の手間など色々な理由もあるでしょう。時間が経っているのに最新のように受け止められると誤解を招く恐れもありますし。

■関連

nakamorikzs.net

でも、ちょっと過去のニュースを調べたい時には、ブックマークしておいたものでも消えていることも多く、けっこう困ります。定期的に見直して保全しない限り、おそらく誰もが過去のブログやTwitterでのニュースリンクはリンク切れを起こしているでしょう(これに対しての対策もありますが、それはまた後日)。ちなみに、各企業から出されるニュースリリースも、その内容が都合よいもの、不都合なものにかかわらず、結構消えているものが多いです。そして言わずもがな、企業がなくなれば事業が引き継がれない限り消滅してしまいます。

 

しかしこのニュース消失、過去のニュースを調べるときに結構困るのですよね。そしてニュース名を思い出して検索しても、出てくるのが報道機関などの一次ソースではなく、まとめサイトの転載ニュースやバイラルサイトでそれに触れたもので、中には相当記事の信憑性が低かったり、レス編集によって意図がねじ曲げられているものがあるという状況。これは各方面にとってかなりまずい気がしています。

 

検索順位も下がるし、そもそも技術的に見られなくなる

 しかし、これらのサイトが長年存在していたとしても、多くは目に入らなくなっているのです。
理由としては、古いまま保全されなかったサイトは、検索順位が大幅に落ちてしまう傾向があることが大きいです。もちろん有用な物は古くとも上位に残りますが、困ったことにそれよりも情報量が低くてもSEO対策の施された新しいサイトが上になることはよくあります。更に酷い場合だと、それら更新停止中のサイトからコピペしてきたようなものが、更新が後ということでオリジナルよりも上に来ることも。

さらに、現在のスマートフォン時代だと、古いWebの仕様が適合せず、検索順位が下がる、もしくは見られないという事態も出てきてしまいます。特にiPhoneのSafariだとエンコードがないので、S-JISでエンコードされた昔の日本のホームページは文字化けして見られないなんてこともけっこうありますし。
ここ数年だと、終了が決定したFlashを使用したサイトがどうなるかというのが懸念としてあります。

まあこれも、Flashに見るまでもなく、リンク先がフィッシングサイトに乗っ取られているなど、古いまま放置されたサイトはセキュリティ的に問題が生じることが多いので仕方ないとも言えます。

nakamorikzs.net

しかしそれでも過去の情報とはいえ貴重なものが見られないのは残念です。

 

保全は大きな負担がかかる

 このように、改めて現在のインターネットを見直すとインターネット上の古い情報というのは残り続けるわけではなく、どんどんと経営的、技術的都合で新しい情報に押しやられてしってしまうのです。
ゼロ年代まではまた黎明期からのサイトも多く残っていたこともあり、インターネットの記録性はかなり強いと思っていました。それこそ、書籍よりも。しかし、こうやって見返すと、もはやインターネットに記録性があるとはとても言いづらい状況になっているように思えるのです。

ただ、例外があります。それは上でも例外として書いてきたように「保全されているもの」。つまり、古い情報であっても、それを記録するために今でも手が加えられているもの。そして、それらを記録するためのアーカイブシステムも今では色々と生まれています。しかしそれらがない、素のままの情報は、やはり消えていってしまうのではないでしょう。

さらにその保全も永遠に続くとは限りません。
もしこれらが何らかの都合(主に資金難)で頓挫してしまい、その引受先が出なかったとしたら、そのまま消滅の可能性があります。そのためには継続的に人的、金銭的な投入が必要なのですが、それは希望が大きくなる度に困難を極めるようになるでしょう。これはアーカイブシステムどころか、電子書籍や音楽配信などネット全体の問題でもあるでしょう。

そしてリアルでも同じく。今、図書館の民営化が各地で話題になっておりますが、保全の観点からそれが為されるか というところにも、問題があるでしょう。アーカイブの保全は最新の物に比べて金になりにくいので、経営だけ考えたら捨てたほうが楽ですし。

 

ネットの情報は永遠にそこにあると限らないという認識を持つべき

インターネットは記録が保たれ続けるというのは今でも言われますが、おそらくそれは保全が為されない限りは幻だと思ったほうがよいでしょう。そしてその保全も完璧ではない状態。

しかし、消えてもあまり影響のないもの、むしろ消えたほうがいいもの(例えば流出した個人情報やリベンジポルノとか)はともかく、本当に重要なものは残すようにしていかないと、インターネットという歴史の記録自体がなくなるのではないでしょうか。それはネットがなかった時代と同じように。

少し前に、他のブログでゲームでも同じことを書きました。

gmdisc.com

しかしそれはインターネット、いや電子物全体に言えることかもしれません。ことによっては紙媒体も含め、データや記録全てに。
故に、インターネットでもそれらにも注目をして、どうするかを考える時期に来ているのではないでしょうか。失われてから必要性に気づいても、手遅れなことが多いので。