【プロが解説】WBS(作業分解構造図)とは?ガントチャートとの違いや作り方
プロジェクト管理に用いる「WBS」。今回はそんなWBSについて理解を深めたい方に向けて、その定義や作り方のコツ、さらによく挙がる質問への回答も交えてご紹介いたします。
監修者
鎌田 麻三子氏
合同会社QUM 代表社員
一般社団法人日本ディレクション協会ファウンダー
2004年頃大手ECサイト構築ベンダーにWebデザイナーとして入社。Webデザインを経て、プロジェクトマネージャー、Webディレクターとして多数のECサイトや新規サービス構築に関わる。
現在は、発注企業・受託企業側双方の経験を生かし、プロジェクトマネージャー/Webディレクターとして、新規事業・新規サービスの立ち上げや、ECサイト、アプリ開発、ソーシャルメディアコミュニケーション全体設計立案など幅広く担当。
WBSとは
WBSとは「Work Breakdown Structure」の頭文字をとった略称です。作業分解構造図と呼ばれることもあり、仕事やプロジェクトにおける各タスクを分解・分類し、階層構造として表現した管理手法を表します。
WBSはプロジェクト全体の作業内容を"見える化"するものであり、これによりチームメンバーは「自分は次になにをするべきか」を把握しやすくなります。チーム内の役割や作業プロセス、成果物が明確になれば、余分な手戻りを減らすことができ、最終的なリリースまでの道のりも明確になるでしょう。WBSはチームの力を底上げし、プロジェクトの精度を高めるために、重要なものだと言えます。
ガントチャートとの違い
作業項目をまとめたものがWBSであるのに対し、各作業の工数見積やスケジュールを併記したものがガントチャートです。「工程表」「進捗表」とも呼ばれ、作業工程や進捗を管理するために用います。
WBSはプロジェクト全体の作業項目を見える化するもの、ガントチャートはプロジェクト全体の進行度を見える化するもの、という違いがあります。
かんばん形式との違い
かんばん形式は、タスクごとにボード/カードを並べたデザインにより、タスクのステータス(未対応、処理中、完了など)を表現するタスク管理の手法です。「ボード形式」「カード形式」とも呼ばれ、チームメンバーが抱えるタスクの進行状況を把握しやすいという特徴があります。
WBSで洗い出した作業項目について、それぞれの作業の進捗を管理するものが、かんばん形式です。
WBSの種類
WBSで作業を構造化するにあたり、大きく分けて「プロセス型」と「成果物型」の2つのアプローチが存在します。それぞれの特性や使い分けについて説明します。
プロセス型
プロジェクトの階層・作業に着目してタスクを構造化する手法です。計画を基準にタスクを考えるもので、特定の成果物がゴールに設定されていないような中長期のプロジェクトに適しています。
成果物型
最終成果物の完成から逆算してタスクを洗い出すものです。成果物を基準にしているため、短期のプロジェクトにも中長期のプロジェクトにも幅広く用いることができます。
どちらの型を使うかは、「受託開発会社タイプ」と「事業会社タイプ」で変わる傾向があります。
受託の場合、納めるべき成果物はだいたい決まっているので、後ろから考える「成果物型」が適しています。
事業会社で、厳密なスケジュールを引かずに企画を立てるような場合は、前から考える「プロセス型」が適していると言えるでしょう。
どちらの型を使うかは、「受託開発会社タイプ」と「事業会社タイプ」で変わる傾向があります。
受託の場合、納めるべき成果物はだいたい決まっているので、後ろから考える「成果物型」が適しています。
事業会社で、厳密なスケジュールを引かずに企画を立てるような場合は、前から考える「プロセス型」が適していると言えるでしょう。
WBSの作り方
ではいよいよ、WBSをどのようなステップで作成していくか述べていきます。後述するようなテンプレート化がされていればさらに作業を楽に進められます。
1タスク洗い出し
プロジェクトを完了させるまでに必要なタスクをすべて洗い出します。「要件定義」「設計」といった開発フェーズから作業を分割し、最終的に個人に作業を割り当てできるレベルにまで落とし込みましょう。
この段階ではタスクを実行する順序などは意識せず、まずは抜け漏れがないよう洗い出すことに集中します。
2タスクの順序を決定
次に洗い出したタスクを元に実行する順序を決めていきます。最終的な成果に向かうために、まずどこから手を付けるか、そして次は......と、プロジェクトの流れに沿ってタスクを並べていきます。
また「ここが終わらないと次に進めない」「この作業とこの作業は同時並行できる」など、タスク同士の関係にも注意しましょう。
3タスクのカテゴライズ・構造化
ここまでの作業である程度タスクが構造化されていると思います。全体を見渡し、同レベルのタスクが同じ階層に並んでいるかをチェックしましょう。
たとえば「要件定義」や「設計」は、同じ「開発フェーズ」という階層に並ぶはずです。ほかに比べて階層が浅い部分は、タスクの洗い出しが足りていない可能性があります。
4担当を決定
各タスクについて実際に作業を行う担当者を割り当てます。1タスク1担当者を意識し、割り当ての際は担当者の合意を取りましょう。
また、遅れてはならない重要なタスクを繋いだ導線(クリティカルパス)も担当者の決定と同時に設定します。そうすることで担当者は割り当てられたタスクの重要性を把握することができ、優先度を意識しながらプロジェクトに臨むことができるからです。
なお、担当と期日の紐づけは、一般的にガントチャート上で設定されることが多いようです。
私がWBSを作成するときは予算も意識するようにしています。あとになって「予算に対してタスクが多すぎる」といった不整合が見つかることもあるからです。
WBSは概算見積や詳細見積を導く資料にもなりますので、特にプロジェクトマネージャー(以下、PM)は予算を頭の片隅に置きながらWBSを作るとよいと思います。
私がWBSを作成するときは予算も意識するようにしています。あとになって「予算に対してタスクが多すぎる」といった不整合が見つかることもあるからです。
WBSは概算見積や詳細見積を導く資料にもなりますので、特にプロジェクトマネージャー(以下、PM)は予算を頭の片隅に置きながらWBSを作るとよいと思います。
WBS作成のコツ
WBSの精度はプロジェクト自体の精度に直結します。ここではWBSの網羅性や正確性を向上させるコツについて紹介します。
タスクの内容とその序列を明確にする
WBSの作成では、最初にプロジェクト完了までのタスクをすべて洗い出します。このとき、タスクの内容が抽象的で曖昧なものでは、プロジェクトの進行に支障をきたすだけでなく、工数の見積にも影響が出てしまいます。タスクを洗い出す際は、なるべく具体的な内容にするよう心がけましょう。
また、タスクの中には「Aが終わらなければタスクBに着手できない」といった依存関係を持つものもあります。先に着手すべきものを階層の先頭に配置するなどして、タスク同士の序列が明確になるようにしましょう。
予算や工期にバッファを持たせる
前項によってタスクの内容を具体的に書くことで、予算や工期の見積の精度を向上させることができます。とはいえ、不測の事態が起こることも考えられるので多少の余裕(バッファ)を持たせるとよいでしょう。
テンプレートを 活用する
WBSには、作成のためのテンプレートやツールが多数存在します。そういった既存のテンプレートはもちろん、各組織やチーム内で作成・最適化されたテンプレートが存在することも一般的です。WBS作成の工数削減や、作業の抜け漏れ防止のため、テンプレートを活用しましょう。
コツとして挙げられた3点のうち、特に重要なのは「タスクとその順序を明確にする」でしょう。
各カテゴリでタスクを具体的にすることは、抜け漏れをなくすことにもつながります。最も時間がかかるところではありますが、ここに力を入れることでWBSのクオリティは大きく変わると思います。
コツとして挙げられた3点のうち、特に重要なのは「タスクとその順序を明確にする」でしょう。
各カテゴリでタスクを具体的にすることは、抜け漏れをなくすことにもつながります。最も時間がかかるところではありますが、ここに力を入れることでWBSのクオリティは大きく変わると思います。
WBSのメリット
ここまでWBSの定義や作成のコツについて述べてきました。ここで改めて、WBSを作るメリットについて整理してみましょう。
やるべきタスクが可視化される
WBSは「作業分解構造図」であり、プロジェクト全体の作業を階層構造でまとめたものです。階層構造にすることで、全体像を把握できるだけでなく、次にやるべきタスクや、タスク同士の関係性が明確になります。
役割が明確になる
プロジェクト内のタスクが明確になれば、誰にどのタスクを割り当てるかも考えられるようになります。そうすればその後の役割分担もスムーズに決めることができます。
工数を予測しやすくなる
タスクを細分化して洗い出すことで、プロジェクト完遂までの予測が立てやすくなります。
たとえば「画面を設計する」というタスクは、「レイアウトを決める」「画面部品を決める」「入力情報や出力情報を決める」といったタスクにさらに細分化されます。細分化することで、タスク一つひとつの作業量をそろえれば、1タスクにかかる作業時間を掛け合わせることで、工数見積もしやすくなるでしょう。
進捗が管理しやすくなる
プロジェクト内のすべてのタスクを明らかにすれば、「どこまで進んでいるか」が明確になり、進捗管理がしやすくなります。
タスク同士の関連性がわかる
WBSでは、プロジェクト内のすべてのタスクをツリー構造や階層構造によってまとめます。それにより「このタスクが終わらないと次のタスクができない」「この順番でタスクをこなす必要がある」など、タスク同士の関連性が理解しやすくなります。
WBSによって役割分担が明確になれば、「これは○○さんに聞こう」など、チーム内でコミュニケーションが取りやすくなります。WBSを整えることでチームが自発的に動けるようになる環境を作るのも、PMやディレクターの仕事と言えるでしょう。
WBSによって役割分担が明確になれば、「これは○○さんに聞こう」など、チーム内でコミュニケーションが取りやすくなります。WBSを整えることでチームが自発的に動けるようになる環境を作るのも、PMやディレクターの仕事と言えるでしょう。
WBSの注意点
WBSはプロジェクト進行に役立つ手法ですが、その使い方には注意も必要です。
タスク分解が難しい
WBSの作成ではタスクの細分化が求められますが、あまりに細かくしすぎると管理に負荷がかかるだけでなく、重要なタスクが埋もれてしまう危険性もあります。
たとえば「電話をかける」といった細かいタスクまで記載する必要があるのかどうかは、プロジェクトごとに見極めが必要です。
WBSを作成する際は、事前に「どの程度の粒度までタスクを洗い出すか」を決めておくとよいでしょう。
主観的になりやすい
タスクの洗い出しにおいて、最初からすべてのタスクを網羅することは難しいでしょう。PM個人の主観に頼ってしまうと、抜け漏れも生まれてしまいます。
関係者からレビューもらうなど、ほかの視点も取り入れながらブラッシュアップすることで、WBSの精度をより高めることができます。
プロジェクト実行時のズレ
WBSはプロジェクト開始前に作成されるものです。プロジェクトが始まれば、予期せぬトラブルや予測できなかったタスクが当然生じます。
最初に作ったWBSのままでは実態とのズレが生じる可能性があるため、随時見直すことが必要です。
タスク分解を上達させるコツは、まずは書いてみることです。頭の中にあるものをすべて出すつもりでアウトプットし、そこから大中小にカテゴリを分けるようにすると、タスクを客観的に見ることができます。
また、誰かにレビューをしてもらうことも大切です。いきなり上司に相談するのが難しければ、ほかのプロジェクトの担当者でも構いません。どのプロジェクトでも大きな流れは変わらないので、WBSをもとにプロジェクトの目的など説明すれば「このタスクは細かすぎるのでは?」という指摘はできるはず。逆に、説明が伝わらないWBSは問題があると思ったほうがよいでしょう。
タスク分解を上達させるコツは、まずは書いてみることです。頭の中にあるものをすべて出すつもりでアウトプットし、そこから大中小にカテゴリを分けるようにすると、タスクを客観的に見ることができます。
また、誰かにレビューをしてもらうことも大切です。いきなり上司に相談するのが難しければ、ほかのプロジェクトの担当者でも構いません。どのプロジェクトでも大きな流れは変わらないので、WBSをもとにプロジェクトの目的など説明すれば「このタスクは細かすぎるのでは?」という指摘はできるはず。逆に、説明が伝わらないWBSは問題があると思ったほうがよいでしょう。
WBSをプロジェクト管理に活かすためのツール
WBSの作成について、「特定のツールで作らなければならない」といった制約はありません。多くのプロジェクト管理ツールには、WBSやガントチャートの作成機能が備えられており、それらを活用することで効率よくWBSを作成することが可能です。
ただし、本格的な利用は有料となることがほとんどです。ツールごとに仕様や機能は異なるため、利用する際は比較検討をお勧めします。
Excelなどの表計算ソフト
Excelは使い慣れている人が多く、WBSをExcel上で作成するケースも少なくありません。ただ、プロジェクト管理向けに作られているアプリケーションではないため、Excelでは表現が難しいことや、管理が煩雑になる可能性もあります。
Backlog
Backlogは、株式会社ヌーラボが提供するプロジェクト管理ツールです。直感的なUIによってWBSを作成でき、ガントチャートによる進捗管理もスムーズに行えます。
Notion
Notionは、米スタートアップNotion Labsが提供する多機能ツールです。ドキュメント作成やタスク管理、データベースなどさまざまな機能を備えており、WBSの作成や共有も可能です。
Trello/Jootoなどのかんばん形式ツール
かんばん形式のツールでは、Trello/Jootoといったものがあります。WBSで洗い出したタスクを「カード」にすることで、視覚的にタスクを管理しやすいという特徴があります。
プロジェクト管理ツールは、プロジェクトの規模によって使い分けています。Backlogは大規模から小規模まで汎用的に使えるほか、Trelloは比較的小規模のプロジェクトで使うことが多いですね。最近では、小中規模の案件にWrikeというプロジェクト管理ツールも使っています。
プロジェクト管理ツールは、プロジェクトの規模によって使い分けています。Backlogは大規模から小規模まで汎用的に使えるほか、Trelloは比較的小規模のプロジェクトで使うことが多いですね。最近では、小中規模の案件にWrikeというプロジェクト管理ツールも使っています。
WBSについてよく挙がる疑問
WBSについて、SNSなどでよく挙がる質問を監修者の鎌田氏に答えてもらいました。
Q.1人数が少ないプロジェクトでもWBSを作る必要はあるのでしょうか?
あるかなしかで言えば、あったほうがいいと思います。なぜなら、WBSはゴールに向かう方針を決めるものだからです。プロジェクトの全体像を把握できなければ、ゴールまでの地図は作れません。簡易的なものでも作ることをおすすめします。
Q.2「WBSの作成にExcelは向かない」という声もあります。使わないほうがよいのでしょうか?
確かに、ExcelはWBSの作成を目的としたツールではありません。以前はプロジェクト管理ツールが今ほど浸透していなかったので、身近にあるExcelをなんとか器用に使ってきた「歴史」があるのでしょう。
WBSは複数人でメンテナンスをしながら使うものなので、多人数で編集ができるツールを使えるとよいですね。私の周辺では、直感的に使えて学習コストが低いMiroを使う人が少しずつ増えているように感じます。
まとめ
WBSによってプロジェクト全体の「やるべきこと」を明確にすることは、メンバー間の役割分担にも、進捗管理などのマネジメントにも有効です。どこまでタスクを細分化するか、「プロセス型」にするか「成果物型」にするかなど、チームやプロジェクトによって最適なWBSは異なりますが、「WBSはプロジェクトのゴールを指し示すもの」という意識を持てば、柔軟に対応することができるでしょう。
WBSを活用して、システム開発やWebサイト制作をよりスムーズに進めてみてはいかがでしょうか。
この記事を書いた人
マイナビクリエイター編集部は、運営元であるマイナビクリエイターのキャリアアドバイザーやアナリスト、プロモーションチームメンバーで構成されています。「人材」という視点から、Web職・ゲーム業界の未来に向けて日々奮闘中です。