価値あるサービスに欠かせない、正しく課題を抽出する力 ―― 小山田翔子氏「Web業界進化論#20」開催直前インタビュー
来たる8/25(木)、マイナビクリエイターではオンラインセミナーWeb業界進化論 実践講座#20「WebデザイナーからUIデザイナーへ ユーザー満足を追求するためのキャリアシフトとは」を開催する。
「Web業界進化論 実践講座」の第20弾は、今後のキャリア形成について考えている若手〜中堅Webデザイナーに向けたもの。GMOペパボ株式会社でシニアデザイナーを務める小山田翔子氏をゲストに迎え、リサーチを通じたユーザーとの向き合い方や、事業会社のデザイナーとしてのキャリアシフトについて語られる予定だ。
今回はイベント直前インタビューとして、同氏のこれまでの経歴や現職での取り組みなどについて話を伺った。
プロフィール紹介
小山田 翔子氏
GMOペパボ株式会社 EC事業部デザインチーム/シニアデザイナー
大学卒業後、WebデザイナーとしてWeb制作会社にて、小規模〜大規模Webサイト構築・運用に携わる。2009年、paperboy&co.(現:GMOペパボ)レンタルサーバー「ヘテムル byGMOペパボ」のデザイナーとして入社。以降、社内の各サービスのデザインに関わる。現在はネットショップ作成サービス「カラーミーショップ byGMOペパボ」にて、リサーチを用いて管理画面のデザインを行い、ユーザー体験の向上を目指すとともに、GMOペパボのデザイン組織作り(特にリサーチ面)に取り組んでいる。
多種多様なユーザーに向けて「使いやすい」サービスを提供する
―― まずはこれまでのキャリアについてお聞かせください。
小山田氏:大学卒業後、Web制作会社にデザイナーとして入社したのがキャリアのスタートです。そこから転職をしつつ、受託系の制作会社で大手クライアントの案件などを担当していました。2009年にpaperboy&co.(現:GMOペパボ)に入社し、各サービスのデザインに携わったあと、現在はEC事業部でシニアデザイナーを務めています。また、社内のデザイナーのスキルアップにも取り組んでいます。
―― シニアデザイナーとして、どのようなお仕事をされているのでしょうか。
小山田氏:ネットショップ作成サービスである「カラーミーショップ byGMOペパボ」で、管理画面の改善に携わっています。
この「カラーミーショップ byGMOペパボ」は2005年に開始したサービスで、レンタルサーバーでWebサイトを公開されていた方々の「ネットショップを簡単に作成したい」という需要に応えて生まれたものです。オーナーの属性は多岐にわたり、ネット通販を始めたい社長さまや、副業でネットショップを運営される方、「インターネットのことはよくわからない」というご高齢の方など、さまざまです。
ネットショップの管理画面は、どのような属性のオーナーでも使いやすいものでなければなりません。「カラーミーショップ byGMOペパボ」は、“日本の商いをなめらかにする”という事業ミッションを掲げており、管理画面の改善もその1つとして取り組んでいます。
具体的なものとしては、ユーザーのリサーチや、改善の仕様の決定、UIの実装などです。これをチームのメンバーと一緒に行っています。メンバーにはプロダクトマネージャーやエンジニアがおり、カスタマーサービスやQAエンジニアも入ることがありますね。
―― 多様なユーザーを対象にした改善は、考慮すべきことも多いかと思います。具体的にどのようなアクションを取りながら進められているのでしょうか。
小山田氏:まさにその通りで、オーナーごとに抱える課題は異なります。属性ごとの課題を抽出して、そのうえで設計・改善を行わねばなりません。
まずはリサーチによって、正しく課題を抽出することから始めます。具体的には、「オーナーはこの画面のここで困っているのではないか」といった仮説を立て、その仮説を調べるためのリサーチ手法を選定するというものです。その結果、たとえばユーザーインタビューが必要となれば、どのようなユーザーに何を聞くのかを計画したうえで実行します。
このような「デザインリサーチ」で得られた結果はチーム内で適宜分析し、プロダクトオーナーやエンジニアと協働して改善の内容を決定します。あとは実際に手を動かしてリリースをし、さらなる改善へとサイクルを回す感じですね。
世間でイメージされるような、いわゆる「Webデザイナーのお仕事」は全体の中のほんの一部でしかありません。それ以外のことに時間を割くのが、事業会社におけるデザイナーの特徴なのかなと思っています。
個人の能力に左右されず、組織としてサービスを作り続けるために
―― ご経歴の中で「社内のデザイナーのスキルアップにも取り組んでいる」と仰っていました。詳しくお聞かせいただけますか?
小山田氏:社内に在籍するデザイナーたちの課題抽出力を高めるために、先ほど述べたようなデザインリサーチを広める取り組みを行っています。
弊社には、パートナー(社員)が大切にする「3つの力」というものがあるんです。1つめは「先を見通す力」。課題を抽出する力であるとか、プロダクトの将来像を語れる力というのがこれにあたります。2つめは「作り上げる力」。デザイナーとしての専門性を発揮しながら、フロントエンドやUIなどを作り上げる力です。そして最後の3つめは「影響を広げる力」。外部へのアウトプットや、社内の勉強会などを通じて、周囲のスキルアップを図る力になります。
私がデザインリサーチを広めているのも、この「3つの力」を踏まえたものです。社内のデザイナーがリサーチをどのように実施しているのか、何を課題に感じているかを把握したうえで、「このリサーチ手法でよいのだろうか」「このインタビュー内容で大丈夫だろうか」という相談に答えています。合わせて、ナレッジの共有や勉強会の開催なども行っています。
―― 小山田さんは「組織としてデザインをする」ということを大切にされていると伺いました。デザインリサーチを広める取り組みも、ここに通じているように感じます。
小山田氏:そうですね。メンバー全員がすべてを完璧にできるかというと、そうではないと思うんです。組織として、なるべく属人的な部分を取り除いたうえで、ユーザーにより必要とされるサービスを作り続けなければなりません。
そして「必要とされるサービス」とは、「ユーザーの課題を解決できるサービス」だと考えています。正しい課題を抽出できない、もしくは抽出できた課題に対して効果的なアプローチが取れないサービスは長続きしません。何ヵ月もかけて構築したサービスが誰にも使われなかったり、順調だったサービスが競合に負けてクローズしたり……。こうした悲劇が起こってしまいがちです。
この悲劇を回避するためのものがリサーチです。リサーチによって根拠立てて作られたサービスは、ユーザーに与える価値が高くなりますし、なにより開発側にも安心感をもたらします。だからと言って、すべてのデザイナーがリサーチを完璧にこなせる必要はまったくなく、リサーチが得意な人材の力を適切に借りられるような体制を整えればいい。個人の能力に依存せず、カジュアルにデザインリサーチができる体制を整える。つまり、組織全体としてデザインをすることで、サービスをより価値のあるものにするという取り組みなのです。
会社が成長していく過程で、デザイナーに起こることとは?
―― 小山田さんは受託制作からキャリアをスタートさせています。そもそもなぜ、事業会社へフィールドを移したのでしょうか?
小山田氏:受託制作に携わっていた当時は、「このままずっとクライアントワークをやっていくのだろう」と思っていたんです。ただ、Webデザイナーとしてのキャリアしかないので、クライアントに提案するにもフロントエンドの知識しかない。これでは提案が偏ってしまうなと感じていました。
そこで、「エンジニアと一緒に働けばバックエンドの知識も身に付くだろう」と思い、当時のpaperboy&co.に転職しました。“頼れるWebデザイナー”として受託制作を続けるために事業会社に入ったわけですが……今は“事業会社のデザイナー”という仕事の面白さにすっかりハマってしまったので、このまま頑張って行きたいなと思っています。
―― 受託制作と事業会社という系統の異なる二社を経て得たものは、どのようなものでしたか?
小山田氏:スピード感や納期への責任感は、やはり受託制作で得たものが大きいですね。クライアントとやりとりする中で、多少はディレクション能力も鍛えられたのではと思います。
現職ではさまざまな職種の方とチームを組むことから、チーム開発のスキルを獲得できました。エンジニアと会話するときは同じ目線・同じ言葉が必要になるので、業務を通じてバックエンドの知識も身に付きました。組織作りについては、現職から取り組むようになり、こちらは現在進行形で経験を積んでいるところです。
―― それでは最後に、今回のセミナーのポイントについてお聞かせください。
小山田氏:デザインリサーチの話に加えて、「小さい会社が大きくなる過程でデザイナーに起こること」もお話できればと思っています。
同じ事業会社でも、会社の規模によってデザイナーに求められる能力は異なります。小さい会社ではオールラウンダーのような動きが求められますが、大きくなるにつれて専門に特化し、分業が進んでいきます。チームや組織をいかに作るかも課題となるでしょう。
弊社は、まさにこの20年程のあいだに規模を拡大してきた会社です。事業会社で仕事をしたいというWebデザイナーの方に、役割の変化や求められる能力を、実感を持ってお話できたらと思います。
インタビューを終えて
Webデザインにおいて、ユーザーに寄り添うことは欠かせない。寄り添うべきユーザーがどこにおり、何を考えているかを知らなければ、そのデザインは的外れなものになってしまうだろう。試行錯誤を重ねてきた小山田氏がリサーチという手段にたどり着き、後進の底上げを図る姿には、プロフェッショナルとしての静かな決意と、事業会社ならではの組織作りの面白さといった両面が感じられた。
8/25(木)に開催されるWeb業界進化論 実践講座#20「WebデザイナーからUIデザイナーへ ユーザー満足を追求するためのキャリアシフトとは」では、実際のデザインテクニックに限らない、事業会社のデザイナーという仕事の面白さが語られる予定だ。事業会社での働き方に興味があるWebデザイナーは、ぜひこの講座に参加してみてほしい。
この記事を書いた人
マイナビクリエイター編集部は、運営元であるマイナビクリエイターのキャリアアドバイザーやアナリスト、プロモーションチームメンバーで構成されています。「人材」という視点から、Web職・ゲーム業界の未来に向けて日々奮闘中です。