Webメディア、オウンドメディア制作の現場で活躍する「Web編集者」の今と未来 ―― 大野恭希氏・長谷川賢人氏インタビュー | マイナビクリエイター

Webメディア、オウンドメディア制作の現場で活躍する「Web編集者」の今と未来 ―― 大野恭希氏・長谷川賢人氏インタビュー

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img-interview-with-oono-and-hasegawa_01.jpg 近年のWebコンテンツ制作の業界において、にわかに注目されはじめているWeb編集者と呼ばれるポジションがある。Webのクリエイティブにトータルに取り組むポジションとしては、ご存知のとおりWebディレクターが存在するが、Web編集者は、このWebディレクターと多分にクロスオーバーする部分を持ちながら、よりコンテンツの中身にこだわったクリエイティブをおこなえる新たなポジションといえる。企画そのものの立案から、ユーザーへの見せ方、記事の校正に至るまで。まさに出版業界における編集者にも近い、Webに掲載するコンテンツの選択と構成を任される重要なポジションなのである。

このWeb編集者の活躍が国内で顕著となりだしたのは、ジャーナリスティックともいえるコンテンツの記事性にこだわった「ギズモード・ジャパン」、「ライフハッカー[日本版]」などに代表されるWebメディアの出現が大きい。

今やWebメディアは百花繚乱。そのコンテンツが面白いかどうかは、制作にあたったWeb編集者の感性と力量によるともいわれている。今回は有名WebメディアでWeb編集者として活躍したキャリアを持ち、現在もプレイヤーとして活動しながら、さらに違ったポジションからもWeb編集者のキャリアについて語れる二人のキーパーソンをお招きした。

プロフィール紹介

img-0031_02.jpg 大野 恭希(おおの よしき)
株式会社アイレップ コンテンツマーケティング総合研究所 所長

2007年より日本最大のテック情報Webメディアサイト「ギズモード・ジャパン」(株式会社メディアジーン運営)に携わり、副編集長を経て、2012年から2年間、同編集長を務める。任期中は同メディアを月間3,700万PVから6,900万PV、325万UUから740万UUへ成長させた立役者。2014年の退職後はフリーランスとしてテレビ局・ITベンチャーなどでコンテンツに携わる仕事を経験。2015年ヘルスケア事業を営む株式会社HF.Mを設立し、代表取締役に就任。2015年7月より株式会社アイレップ コンテンツマーケティング総合研究所の所長に就任。

img-0031_03.jpg 長谷川 賢人(はせがわ けんと)
KAI-YOU inc. 社外取締役/フリーランス編集者・ライター

日本大学芸術学部文芸学科を卒業後、紙の専門商社勤務を経て、編集者/ライターへ異業種転職。「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」で執筆・編集を務めた後にフリーランスへ転向。インタビューや広告記事の制作を中心に活動。2017年2月からはポップポータルメディア「KAI-YOU.net」を運営する株式会社カイユウで社外取締役も務める。

ギズモード・ジャパン、ライフハッカー[日本版]との出会いではじまった二人のWeb編集者としてのキャリア

img-interview-with-oono-and-hasegawa_02.jpg ── お二人がWeb編集者として活動されるきっかけを教えてください。

大野氏:私がこの業界で仕事をするようになったのは、株式会社メディアジーンでギズモード・ジャパンの記事を書いたのがはじまりです。当時、私はまだ学生で、海外の面白いと思ったガジェットを個人ブログで発信していました。そんな時にギズモード・ジャパンと出会い、その面白さにハマっていきました。

募集はかかっていませんでしたが、このメディアの編集をおこなっている会社まで直接メールを送り、面接の機会をつくってもらいました。幸運なことに、面接担当者が私のブログを知っていてくれて、「それじゃ、まずはギズモードの記事を書いてみない」と、ライターとして制作に関わるチャンスをくれました。それ以後は学校を卒業して入社し、希望が叶ってギズモード・ジャパンの編集者になれました。

長谷川氏:私は大学新卒で出版社志望だったのですがこれが叶わず、少しでも本づくりに関わりたいという思いから印刷用紙などを扱う専門商社に就職しました。しかし、やりたいこととの違いを埋められず、何か人に読んでもらえるものをつくれる仕事への転職を目指しました。その時、見つけたのが大野さんと同じ、メディアジーンという会社でした。紙とWebで媒体は違いましたが、そもそもインターネットが大好きな私は、「Webメディアをつくれる」という仕事に惹かれて迷わず応募しました。

いわゆる「クラウドソーシング」のライターとして記事制作に携わり、自分なりに記事を書いて面接に持ち込み、まるで以前からライティングの実績があるかのようにプレゼンしました(笑)。面接が終わって30分後には電話があって見事採用に。めちゃくちゃうれしかったですね。当時はまだWeb編集者という呼び方になじみはなかったですが、メディアをつくる人間として道が拓けたと感じていました。

── 大野さんはギズモード・ジャパンの編集長、長谷川さんはライフハッカー[日本版]の副編集長を経験されていますが、そのポジションに就いたいきさつを教えてください。

大野氏:入社後の私は正直に言うとダメでしたね。思いっきり寝坊して会社に大遅刻していましたし、記事が書けなくて投げ出したことも。やりたくて入ったギズモード編集部なのに、モチベーションが上げられない。

普通だったらクビになっちゃうところかも知れませんでしたが、入社から1年半経ったくらいの頃、ギズモード編集部のすべてを任せられることになりました。Webメディアは通常2-3人体制で回すのが多いパターンだと思いますが、担当Web編集者は私1人に。くすぶっていた私がいきなりエンジン全開で動かなければすべてが回らない状況になったのは転機でした。

数十名いるライターさんたちをディレクションしてコンテンツをつくり、会社に貢献しなければならない。特に「メディアづくりはビジネスである」と、ちゃんと自分の仕事を捉えられたことが大きかったですね。そこからはくすぶる暇も無く走り続けることになりました。今思うと、本当に私に何を与えれば走り出せるのかをよくわかっていてくれた会社だと思います。

長谷川氏:私が入社後に配属されたのはライフハッカー[日本版]の編集部でした。編集長がいて、先輩がいて、自分がいる。大野さんのいう通り3人体制でメディアをつくっていました。大学では文芸学科でものを書くことについて学び、採用でも自分の書いたものが評価されたと思い込んでいましたから、「自分はそこそこ書ける」と、そんな風に思って仕事をはじめました。ところが、いざ記事を書いてみると、先輩や編集長に見てもらった原稿は修正だらけ。校正の赤字で、まさに真っ赤になってかえってきたのです。「長谷川君の書く文章は女々しい」そういわれて、私の高くなりつつあった鼻は見事にへし折られてしまいました。

それならばライフハッカーの記事を読める限り読んで、編集する力と同時に書ける力も身に付けてやろう。そう思って私はとにかく目の前の記事に取り組みました。ライフハッカーに在籍した3年間で私が編集、校正をおこなったり、私自身が執筆した記事はおそらく3000以上になるのではないでしょうか。本当に編集部に入り浸って仕事をしていました。

Web編集者のタスク一覧

Web編集者 タスク一覧

パラメーターに反応できる双方向性、世界の動きに対応できる即時性がWebを編集する者の強み。

img-interview-with-oono-and-hasegawa_03.jpg ── Web編集者のつくるWebメディアというものの特異性とはなんでしょうか?

大野氏:編集という考え方は私自身紙媒体出身の編集者から学び、影響を受けて今の仕事をおこなっています。そんな中でWebが紙と決定的に違うと私が感じているのは、やはりリアルタイム性の部分であり、何よりも双方向のツールであることです。

Webメディアをつくるという意味で重要なのは、データとなって現れるユーザーの反応に対して、いかに的確な対応をしていけるかということ。Googleアナリティクスなどの活用はいうまでもなく、得られたデータから「今のメディアで次に何を仕掛けていけるか」を考えられることがWeb編集者としての強みでありミッションだと思います。

長谷川氏:Webの即応性という意味では、他の機能もありますね。例えば新聞であれ、本であれ、紙メディアであれば記事には校了があり、印刷して発行するための厳然とした締め切りがある。一方でWebメディアは、記事を制作し、掲載する権限をもつ人で、発信したいことがあれば、5分後にでも掲載が可能です。世界中で起こる出来事をウオッチして、たった今起こったことについて記事にする。というより、今こそ記事にすべきという事例に満ちあふれているともいえます。そんなことが可能なのがWebメディアであり、それをつくれるWeb編集者でもあると思います。

── どんな人がこのWeb編集者という仕事に向いているのでしょうか?

大野氏:端的にいってしまえば、情報に付加価値を付けられる人だと私は考えます。無数に存在する情報の中で、自らが発信するものを他者といかに差別化できるか。それがWeb編集者というポジションを置く最大の理由です。情報に対するアンテナはもちろん必要です。さらに「この記事は読まれないのじゃないか、面白くないのじゃないか」という懐疑的な視点を持ち、常に世の中に受け入れられるものを探求していく意識が大事だと思います。

長谷川氏:私が思いつくのは、飲み会スキルの高い人ですかね(笑)。例えば、3〜4人でのお酒の席で、誰も飽きさせずに場を盛り上げることができる人のことです。コミュニケーション能力、といってしまえばありがちですが、それも当然踏まえた上で、Web編集者にもう一つ欲しいのは大野さんもいったように自分の志向だけに没入しない複数の目線です。自分の世界だけを相手に押しつけるのではなく、できれば3人、4人の見方、考え方を想定して何かできる。そんなセンスがいると思います。

先ほど、即応性という意味でWeb編集者のメリットに他にはないスピード感で仕事ができることを挙げました。しかしその一方で発信するまでに校正など他の人のチェックを受ける機会や機能が少ないケースもあります。それだけに発信者のモラルやリテラシーは何よりも大事です。

自分の書いたもの、つくったものによって多くの人を喜ばせるのは当然として、悲しむ人もいるかも知れない。そんな考えをいつも持って、自分のつくるものに責任を持っていかなければならないと思います。

大野氏:そんなWeb編集者にとってのモラルやリテラシーは何も個人の持つ素養や責任感だけで身に付くわけではありません。多くの場数を踏んでいくことで身に付いていくものです。しかしもう一つ方法があるとしたら、それは良い先輩を見つけて学ぶということだと思います。

私はこの業界に入って間もないころは長谷川君と同じで、ギズモード編集部で怒られてばかりいました。そこには先輩がいて、コンテンツを作り出す手法について、本当にたくさんのことを教えてもらいました。どんな目線で校正するのか、どうやって良いコンテンツをつくるのか。新しさだけにこだわるのではなく、古いものからも学びを得ていけばいいのです。自分だけで何十年もかかって得られた結果よりも、同じ仕事をする先輩や仲間、ひいてはユーザーの皆さん全体の力を借りて良いものをつくっていくこと。それもWeb編集者の実力のうちなのではないでしょうか。

大野氏、長谷川氏のWeb編集者一問一答

1.紙媒体からWeb編集者への転職で必要なことは?

大野氏…スキルは合致するところも多く仕事に入りやすいはず。Webの特性(データを見る力など)を補強すればOK
長谷川氏…近似のスキルだけに「紙ではこうだった」という思い込みを無くすこととスピード感の違い注意!それからインターネットが大好きなこと!

2.Web編集者にとって年齢はどんな意味を持ちますか?

大野氏…若手はもちろん紙やWebデイレクターなどで深い経験を持っている方は活躍の場が多い。若いうちがおすすめ。
長谷川氏…年代の違いは共通体験の違い。他の年代にも共感でき、それをコンテンツづくりに反映させられればどの世代でも十分可能。

3.Web編集者として注目しているWebサイトの分析データは?

大野氏…UUやDAU(ユニークユーザー数)。PVは一時的に上昇させてごまかすことができるので。
長谷川氏…UU、滞在時間、回遊率なんかを注目しています。

4.新たなWeb編集者を採用するとして、注目するポイントは?

大野氏…編集のタスク全部ができるかより、際だった何かを持っているか。
長谷川氏…やっぱりバイブス!(※以下記事参照)あるメディアでは落第でも、別のメディアではスターになるかもしれない。そんなことも起きる世界です。

Web激変で二極化する業界。Web編集者の勝ち方、生き残り方。

img-interview-with-oono-and-hasegawa_04.jpg ── Web業界全体やWebメディアは今後どのような発展を見せるでしょうか?

長谷川氏:Web業界が今後激変期を迎えるということは、この業界にいる方ならすでに感じていることと思います。キュレーションメディア問題もあって情報の取り扱い方に関しても意識がガラリと変わりました。これからは、二極化が進むと感じています。大企業が大資本を持ち潤沢な人材を用いておこなうメディアビジネスと、小規模な企業であっても、大企業がテーマに選ばない、あるいは正面からに向き合えないテーマを打ちだしてビジネスを成功させていくという二極化です。

一見すると大企業、大資本が有利に見えるかもしれませんが、少数精鋭で小回りのきく経営スタイルでニッチなテーマに挑める小規模メディアにも十分勝算があると思います。例えば地方で自治体や地元企業と手を組んで新しいWebの取り組みをおこなう。またメディアとしての強みを活かして、セミナーやイベントなどの企画や有益な情報発信をおこなえばこそできる有料課金システムの利用など、小規模な組織にもビジネスのチャンスはいくらでもあるはずです。そもそも大手、中小を問わずに同じフィールドで戦えるのがWebですから。

Web編集者として活躍したい人にとっては、自分の仕事のスタイルがどちらに合っているのか、どちらを自分の戦場とするべきなのかをしっかりと見極めていかなければならない時代になると感じています。

大野氏:二極化という意味では、大手、中小の別だけではなく、コンテンツづくりをおこなう側にも今以上の二極化が現れてくると思います。自分の市場価値を高めることができる人とそうでない人です。例えばWebライターのギャラというのは、ネットの情報を見れば解るとおり、同じボリュームで数万円・数十万円稼ぐ人もいれば、500円100円でライティングをする人もいます。私はこれから二極化傾向にさらに拍車がかかると考えています。

これから起こるのはスマホからの開放。今はパソコンやスマホのブラウザでのみ見ることができるWebコンテンツですが、これからはその縛りもなくなっていきます。例えば自動運転システムが作動する車のフロントガラスへのプロジェクションなど、ディスプレイのあるところならどこでもコンテンツが載る。そんな時代がすぐそこまで来ています。

そうなれば今後必要となるコンテンツの量はますます多くなっていきます。我々、コンテンツをつくる側の活躍の場は増えることが必定ですが、自らの市場価値を上げられるか下げてしまうかはその人次第。お金は責任と信用で決まります。自分自身をプロデュースしていくことも必要なのです。

── Web編集者の活躍の場はどんなところに広がって行くのでしょうか?

大野氏:Web編集者の働く場所は、何もWebメディアの運営会社ばかりではありません。企画力やアイディアにプラスしてWebコンテンツをつくるためのリテラシーやモラルを持ったWeb編集者は、すでにオウンドメディアなどを発信する一般の事業会社でも広く求められています。活躍の場はいくらでも広がって行くのではないでしょうか。

長谷川氏:私がフリーランスとして仕事をはじめたのは、去年の9月のことです。それは、このWeb業界の激変期にあって、企業に入社することで仕事を決めるのではなく、もっと自由に自分のやりたいことに向き合えるスタイルで仕事をしたいと考え、それが可能な時期が来たと思ったからです。この業界で働くようになって5年とまだ短い期間ですが、いつも自分に枠を掛けずに仕事をしてきたことが、ささやかな自信につながっています。転職を考えるにしても、まずは自分が何をしたいかを突き詰めることが大事なのではと思います。

── Web編集者としての転職を考える皆さんにメッセージをお願いします。

大野氏:紙からの転職やWebデイレクターからの横移動など、Web編集者への転職のかたちはさまざまあると思います。素地となるスキルに関しては、紙での経験もWebディレクターとしての知識も、Web編集者は大いに活かせる職種で、別の社会経験が生きてくる可能性も十分にあります。まずは「自分ならこうしたい」と思うことが大切なので、やりたいと思ったらとことんチャレンジしてほしいです。

メディアをやっていて大切なのは、人の言うことに耳を傾けつつ自分を通す強さも持っていなければならないということ。コンテンツづくりに責任を持つということは、読者・ユーザーさんから苦情をいわれたり、罵声を浴びたりすることもあります。その諦めないメンタリティと「今よりもっと良いものを」と思い続けることが、Webで情報を発信していくうえで、自分自身の軸となっていきます。

長谷川氏:笑われるのを覚悟でいいますが「バイブス」は大事です(笑)。これは私が社外取締役を務める、カイユウ代表の米村が言っていることです。「バイブス」を言語化するなら、そのメディアが欲しているものをつくれること、そのメディアが追っているものに自分自身が強い関心を持っていることでしょうか。これが重要なのだと私も感じています。同じバイブスの仲間が力を合わせてクリエイティブをおこっているからこそ、共感してくれるユーザーが集まる。それが志向性を持ったWeb編集者のあり方ではないでしょうか。

例えていうならWeb編集者になりたいのか、KAI-YOU.netの編集者になりたいのか。このふたつは全く意味が違ってくると思うのです。自分の苦手なことに立ち向かうより、自分の一番得意なことでとことん戦ってみましょう。わがままなようでそれがもっとも合理的な仕事選びなのではないかと私は考えます。

インタビューを終えて

Web編集者として活躍し、その実績をもとにすでに次のステップへと上っている大野氏と長谷川氏。大野氏が「静」なら長谷川氏は「動」。かつては同じ会社に所属しながら個性は180度違う。それでも、コンテンツ制作というビジネスに向かう視線は鋭利で、表現の差こそあれどちらも妥協がない。激変期を迎えるというWeb業界での今後の彼らの活躍に、引き続き注目していきたい。

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この記事を書いた人

マイナビクリエイター編集部

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