「今の時代に響くアルバムを丁寧に作ろうと思っていました」。ゆずの北川悠仁はアルバム『図鑑』についてApple Musicに語る。前作『SEES』から2年ぶりとなる本作は、アコースティックギターとピアノ、ストリングスの音色が美しく重なり合う「Overture -harmonics-」で静かに幕が上がる。その響きが心に満ちると、続く「図鑑」で未知の世界への扉が開く。壮大な映画のオープニングを思わせるこの流れについて、北川は言う。「僕らもキャリアが長くなってきて、安住の地を見いだした気持ちになることもある。それでもやはり、まだ見たことのない景色や、やったことのない音をファンの皆さんに届けたいという思いが自分の中にあふれてきて、新たなゆずの可能性を改めて見つけたいと思った。そして新しい図鑑をめくるように曲を作っていきました」 未知への旅の出発点となったのが、2023年9月に開催されたKアリーナ横浜のこけら落とし公演のために作った「ビューティフル」だった。この曲は迷いの中にいた2人の意識を大きく変えたと北川は明かす。「僕はKアリーナでいいパフォーマンスができなければ、活動の仕方を考えた方がいいかなと思っていた。それほどの覚悟で突き進んでいた時にこの曲ができて、深海に光が差したような感覚がありました」。「ビューティフル」のビジュアライザーでコラボレーションし、今作のアートワークも手掛けたフラワーアーティスト、東信との出会いも大きかった。「スタートを切るに当たって、ビジュアルはとても大事でした。ここ10年ほどはずっと、音楽とアートワーク、ツアービジュアルなどすべての世界観がつながっている表現を続けてきたので」と岩沢厚治は語る。東の作品を基にしたアートワークは、美しいだけではなく、生命の力強さや神秘性も感じさせるもので、2人がこのアルバムで伝えたかったテーマと合致した。 ゆずとしての活動は29年目に入った。「2人で変わらずに一歩一歩やり続けているだけなんですけど。お互い得意/不得意な部分があっても、ゆずの中ではそれぞれの良いところをうまいこと生かし合える。活動が長くなればなるほど、僕らの出会いは奇跡的なんだなと感じることが多い」と北川は言い、その隣で岩沢も大きくうなずく。「本当にその通り。ゆずって、よくできてるなと思います。何がと言われるとよく分からないんだけど(笑)」。新たなページをめくって次の旅へ乗り出した2人に、ここからはいくつかの楽曲を解説してもらおう。 伏線回収 北川:「伏線回収」という言葉がすごく好きで、この言葉をラブソングで使えないかなと自分でお題を設けて作りました。曲調も歌詞もブライトに楽しく聴ける曲にしたいと思ってデモテープを作っていたら、ドラマ主題歌のお話をいただいた。もともとの歌詞はもう少し大人の感じだったんですけど、ドラマの世界観に合うようにブラッシュアップしていきました。僕らは「夏色」という曲でデビューしているので、夏のはっちゃけた曲をリリースさせてもらうことが多くて、今回もうまく時期が重なり、はちゃめちゃな夏の曲ができたなと思います。 Chururi 北川:「レトリバーは今日も『ゆりあん』で」の歌詞は、もともと仮歌に入れたもの。その後シングルに決まったので歌詞を改めて書き直したところ、各所から「あの歌詞はどこに行った?」と言われ、戻しました(笑)。そんなふうにプリプロ(レコーディングに向けての事前準備)でなんとなくやったことが本番で採用されることって、意外とあるんです。シングルをリリースした時にゆりやんレトリィバァさんからSNSでポストしていただいて、僕がそれをリポストして、その流れで最終的には「伏線回収」のミュージックビデオに出ていただくことになりました。いろんな縁がバババンと連なっていく感じが今の時代っぽくて、面白かったです。 花言霊 北川:アルバムの軸になるような曲にしたいと思って作りました。今回のアルバムは全体的に死と再生、そして生きようとする力みたいなものが脈々と流れていて、そのコンセプトをギュッと凝縮した曲になっています。歌詞にある「秘色(ひそく)色」は昔から好きな色で、とても素敵な色なのでぜひ調べてみてください。 Frontier 北川:いつも作業している自分のスタジオは、ある種ラボみたいな感じです。例えばこの曲のケルト的なサウンドに対して、ハイパーなリズムやラップを加えたらどうなるかなとか、さまざまな世界観を調合して一曲に仕立てるトライをしています。そんな実験をしていたら『NBA Japan Games 2022』の公式ソングを作るというお話をいただいて、そこから歌詞を手掛けました。 つぎはぎ 岩沢:アルバム全体を見た時に、何かスパイスになるものがあるといいなと思って作りました。落ち着くのはまだ早い、もう少し悪童でいたいという思いを込めて(笑)、いたずら心も入れて、たくさん遊ばせていただきました。ここで歌った怒りのような感情も、音楽の中に溶け込むとポップスに変わるのかなと思います。 Overture -harmonics- Interlude -harmonies- 北川:この2曲はアルバムならではだと思います。今はいろいろな方法で音楽を聴けるので、アルバムを出すことは果たして必要なんだろうか、という根源的な問いが初めにありました。でも時代は変われど、今だからこそできるアルバムがあるんじゃないかという原点に立ち戻って、強い決意をもって作ったのがこの『図鑑』です。「ゆずってどんなグループなんだろう」と言われたら、やはりアコースティックギターと2人の声が基本になると思うので、「Overture -harmonics-」は一番大事な楽器であるアコースティックギターから始めたいという思いがありました。「Interlude -harmonies-」はもともと違う曲を入れていたのですが、何度も繰り返し聴きたくなって“沼る”作品にしたくて、この曲に変えました。
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