舟沢虫雄 別室 スピーカー衰退奮闘記(2)

スピーカー衰退奮闘記(2) 

――前回の続きです。

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箱を開けてみたら、
ほぼ同じ形のスピーカーが出てきた。
色、形、大きさ、スイッチの位置、何から何まで、
先日音が出なくなった、¥25800のスピーカーそっくりである。

通販で購入する際には何となく、
「ああ、最近こんな感じのスピーカーが主流なのかな」ぐらいに思っていたが、
主流というより、音が出なくなった手持ちのスピーカーの、
劣化コピーというか、パチモンというか、
同じような仕様でただただコストを下げたものが、
¥4999で売っていた。それを買ってしまったらしい。

スイッチ類の位置はほぼ同じだが、
こちらは漆黒の筐体に僅かな凹凸のみの表示である。
明るい場所で凝視しないとスイッチの位置は判別できない。
これでは薄暗い、あるいは真っ暗な寝る前の環境では操作できまい。

一応電源を入れてみる。
前のスピーカーよりもさらなる爆音で、
「ラ♭ドミ♭ドーっ!」という音が三角波らしき音で轟き、
「ラーミーっ!」とBluetoothが繋がる。
音声ガイドはなさそうだが、
そんな操作音までまねしなくていいのに。
著作権避けのためか、フレーズは変えてある。

Bluetoothで音を出してみる。
「こぼー!」という音である。
価格が¥4999だったので、
音質は¥25800のスピーカーの5分の1ぐらいは覚悟の上だが、
ただ単に低音質なのではなく、強い癖のある音。
そして、音量調節が、前のものよりさらにやりづらい。
高い方よりも、明らかに音が大きいのだ。
Bluetooth使用時、最小音量にしても、
これでは音量が大きすぎて睡眠用に使えない。
スピーカーを壁面に向けて裏返してみる。
スピーカーの指向性が狭いようで、
さらにさらに「こぼー!」という音になる。
これほど癖のある音では「何となく音が鳴ってる」状態は実現不可能だ。

ライン入力に入れてみる。
おっ、歪まない。高域が大いに追加された。
それに、ライン入力なら、音量調整がかなりの小音量まで調節できる。
これなら、どうにかこうにか、
「寝る前になんとなく音楽が鳴ってる」が実現できるかもしれない。
それにしても、この「こぼー!」という音の特徴をどう表現したらいいかと思い、
一応、この文章を書いているノートパソコン内部で、
イヤホンでモニターしつつ、プラグインのEQで似たような音を作ってみた。
大ざっぱに言って、パラメトリックEQで、
・300Hzを19dB上げる
・1KHz近辺をベルカーブ2.5Octで-16dB下げる
以上がBluetooth時の音の感じで、ライン入力はこれに、
・7KHzを10dB上げる
が加わる感じとなる。
もちろん測定したわけでもないし、
「こんな感じの音」とEQでささっとやってみただけなので、
全く主観的な再現なわけだが、
音の知識が多少ある方なら、
「こぼー!」な感じがお分かりいただけるだろうか。

そして、驚くべきは「光」である。
充電中に赤いLEDが鋭く光るのは、まあありそうなことだが、
電源が入っているときに光る青いLEDが、
「キーホルダー型のLEDライト」並の明るさである。
そして、Bluetoothを使用中、その光がずっと、
点滅しているのである。
真っ暗な部屋でBluetoothを鳴らすと、
部屋全体がSF映画の緊急事態シーンのような明滅である。眠れない。

さて、ここまで出た問題を対処する。
・Bluetoothは使わない。ライン入力のみとする。
・全く見えない電源スイッチには目印に白いカバーアップテープを貼り付ける。
・充電LED、電源LED両方共カバーアップテープで目張りする。
こうして、「寝る前になんとなく音が鳴っててほしい」という用途に、
まあ使えないこともないが、何となく納得いかないスピーカー、
が出来上がった。
黒い筐体が白いカバーアップテープまみれで、
見苦しいことこの上ない。

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実はもう一つ、スピーカーを同時に購入した。
電源を使わないパッシブスピーカーで、
スマホのアウトに挿して、そのまま鳴らすもの。
電源を使うアクティブスピーカーだからこんな目に遭うのではないか、
という予測もあって調べたら、安価なものがネットにあったのだ。
500円玉ぐらいの口径のスピーカーが2個並んで、
一つの薄っぺらい筐体に入っており、
その筐体からケーブル無しで直接端子が出ている。
枕元のスマホの位置とスピーカーの位置を調節するため、
延長ケーブルも同時購入した。
スピーカーは¥953。延長ケーブルも似たような値段。
こういうものがちゃんと鳴れば、
アンプ回路がないのだから、末永く鳴らしていけるだろう、
と思ったのだが、だめだった。
どうだめな音なのか、描写する気にもなれない。
使用しているスマホのスピーカーが、
じつはあれでも相当に(もちろんイヤホン分岐後に)、
EQ等で調節されていることがわかる。
普段、「鳴ってるうちに入らん」と思ってるスマホのスピーカーだが、
実はあれはあの体積の中で極限までいい音であろうとした音なのだ、
ということがよくわかる。耐久性も含め、原価も相当なものなのだろう。
通販サイトで目にした「スマホのスピーカーのほうがまし」という評価は、
知ったかぶりの誤評価などではなかったのだ。

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と、2種類のスピーカーを試行錯誤し、一段落した後に、
鳴らなくなった方のスピーカーメーカーから、
バッテリー交換依頼メールの返信が来た。
長文のテスト手順である。
・無充電で48時間放置
・再起動(◯ボタンと●ボタンを同時に長押ししながら
 電源ケーブルを抜くなど、両手を使っても難しい手順が含まれる)
・初期化の方法(×ボタンを10秒長押しなど)
・ファームウェアのアップデート(専用アプリをPCにインストール)
これらを全部やってダメだったらもう一度メールをくれ、との事。
有償でもいいと言っているのだが、バッテリーは交換させたくないらしい。

音すら出ないものを、
ネットオークションで“ジャンク”として売るのは、
ジャンクと明記したって気が引けるし、手間もかかる。
仕方なしに、上から順に作業をしていいく。

再起動後だったか、初期化後だったか、忘れてしまった。
音が鳴り出した。
何とライン入力の歪みも相当に改善している。
ファームウェアアップデートまで行かずに、
ライン入力の歪みまでが改善されてしまった。
(でもまだ低音がだいぶ歪んでいるけれど)
これはどういう仕組みなのか?
バッテリーの寿命ではなかったのか?
試しに、フル充電してから、AC給電をしない状態で、
2日間寝る前に鳴らしてみたが、
バッテリーはまだ100%である。
(初期化によって復活した音声ガイドが「バッテリーは100%です」と叫んでいる。この言葉は本当なのか。)

要するに、どういうわけだか、あらかた治ってしまった。
新しいスピーカー2種類の購入と格闘は、
無駄になってしまったらしい。

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パッシブスピーカーは一聴して駄目だったので、
枕元から早々に引き上げてしまったが、
今、宿泊先の私の狭い枕元には、
・一応治ったがいつまた壊れるかわからない高価なスピーカー
・そのACケーブル。(今後は普段は繋がないこととする)
「こぼー!」という音で、白いテープが沢山貼り付けてある新品スピーカー
・そのACケーブル。(こちらも普段は繋がないこととする)
・ラインケーブル。(新しいスピーカーはライン入力でのみ使うこととする)
という品々が散乱している。
実に見苦しいし、煩雑である。
「寝る前に、小音量でなんとなく音楽が鳴っててほしい」
という軽い希望には見合わない時間と労力である。

当分この散乱状態で、高い方のスピーカーを使い続け、
バッテリーが再びおかしくなったら、
すぐにその場で「こぼー!」のライン入力に乗り換える、
という計画でいる。

高い方のバッテリーが再びおかしくなり、
新しい方の「こぼー!」に耐えられなくなったら、どうするか。
先週ぐらいまではなんとなく、
「秋葉原にスピーカーユニットを買いに行って、
百円ショップのタッパーにでも取り付ければ、
用途には充分な音が出るのではないか」、などと思っていたのだが、
パッシブスピーカーではスマホはうまく鳴らないらしい、
という経験をしたので、この計画の実現性は低い。
まあ、今のもの、その次のものが駄目になってからという、
3手先の話なので、まだまじめに考える時期でもなかろう。
第一、スマホの機種変をする頃には、
スマホにイヤフォンアウトがなくなってる可能性だって、
無いとは言えない気配になってきた。

(有線のイヤフォンが使えないスマホなど荒唐無稽に思っていたが、
現にあるので先のことはわからないものだ。
無線転送だとヘッドフォン・イヤフォンの駆動に電源が必要となる。
このことは改善されまい。
ということは、スマホからイヤフォンがなくなっていく代わりに、
イヤフォンアウトがついてそれなりのDAコンバーターを搭載した
携帯音楽プレーヤーが再興し、スマホと同期可能となる、
などという可能性も想像してしまう。
Bluetoothだって、必ず音質劣化する仕様なのだから、
そのうち44.1KHz/16bit、2Trackぐらいのデータ量なら
非圧縮での近距離無線規格だって、できないとも限らない。
なんとなく鳴らしておくだけでも、音質を気にしなくても、
BluetoothとCDの非圧縮では、はっきりと体調まで違ってくる。
要するに、この混迷はまだまだ続くはずだ。)

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いずれにせよ、私たちはついつい、
テクノロジーの進化をどう生きるかを話しがちだが、
テクノロジーの退化をどう生き抜くかが切実だ。
必要なものごとははっきりしている。
そのはっきりしたもの、当たり前にできていたことが、
マジョリティーの消費行動によって、できないことになっていく。

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