大熊邦也「葉隠の露」緒形拳、岸惠子【テレビドラマ】
野心作だがビミョーな出来。
阿佐ヶ谷にて「娯楽映画職人の矜恃 脚本家・野上龍雄 遅すぎた再発見」特集。
主要登場人物ふたりきり。セット1つきり。
なんでこんな地味なドラマをテレビ局が。と思ったら、芸術祭参加作品か。
まだこの頃は「良心的」なドラマを作って、芸術祭に出品しようという、立て付けがあって、かろうじて成立していた世界。
ただ題材が題材なので「良心的」がへんじて、いささか変態的になったのはやむを得ない。だから、テレビという制約、時代という制約もあって、いささか中途半端。
むしろ現代において自由にリメイクしたら、映える作品になるのではないか。むしろ現代的なのだ。
大熊邦也「葉隠の露」 (ラピュタ阿佐ヶ谷HPより)
1979年(S54)11月9日/ABCテレビ/カラー/49分
■監督:大熊邦也/原作:船山馨/脚本:野上龍雄/撮影:佐野吉保、小川宏充/音楽:池辺晋一郎
■出演:緒形拳、岸惠子、阿木五郎、竹内照夫、今野鶏三
坂本龍馬オタクの男が、龍馬の妻おりょうと知らずに結婚して十年、龍馬二十三回忌に、あの英雄の奥様だったと知ってしまう。ワンセットで緒形拳と岸惠子。何で月とスッポンの俺なんかと、でも今は俺のモノ、龍馬が何だ、龍馬はこうしたのかとのしかかる。野上ワールドだ。(荒井)
龍馬二十三回忌に、十年前から夫婦の嫁が、自分の尊敬している龍馬の、元妻であることに気づいてしまう夫。地獄の苦しみ。
と同時にかなりお間抜けな話。しかしマヂメなこのドラマは、そこはカットしてしまう。たとえば、つかこうへい的展開なら、面白くなったろう。
と、同時に女の不幸。おりょうも、昔の龍馬の友だちは、ほとんどみんな明治政府の高官になっている。適当に立ち回ってれば、みんなに金を出し合ってもらって、京都に旅館の一軒も持って、裕福に女将として暮らしていけただろう。
それが京都から関東に流れ流れて、今では零細官吏の妻。女という身分の不運不幸。零細官吏の夫という藁にすがる日々の暮らし。
亡夫たちの推し進めた、尊王攘夷の負のスパイラルに組み込まれ、細民ぐらし。
この皮肉が生きていないのはないものねだりか。
例によって、名優と誤解されている緒形拳は、凡庸な演技。岸恵子の表情は多彩だが、知がまさったのが、癇に障る。二人芝居で見るのは、いささかきつい。演出、美術はそれなりに頑張っているが、味わいは浅い。
現代的なリメイクが待ち望まれる一作だ。
by mukashinoeiga | 2023-07-23 12:23 | 旧作日本映画感想文 | Comments(0)