杉江敏男「大当り三色娘」
阿佐ヶ谷にて。「春爛漫 歌と踊りの銀幕祭典 Dancing,Singing!」特集。57年、東宝。
ひばり、チエミ、いづみの、お手伝い三人娘が、歌に恋に踊りに大活躍のアイドル映画。
まあ、とりあえずは、のほほんと、楽しい。
大当り三色娘 1957年(S32)/東宝/カラー/94分 <ラピュタ阿佐ヶ谷HPより>
■監督:杉江敏男/原作:中野実/脚本:井手俊郎/撮影:完倉泰一/美術:村木忍/音楽:神津善行
■出演:美空ひばり、江利チエミ、雪村いづみ、宝田明、山田真二、江原達怡、草笛光子、三好栄子、若山セツ子、伊豆肇
美空ひばり、江利チエミ、雪村いづみの三人娘がお手伝いさんに扮して、恋人探しに大騒ぎのミュージカル・コメディ。「三人娘」シリーズ過去二作の大当りを受けハード面もスケールアップ、東宝スコープ第一回作品である。
きわめて「異色」な構成だ。
三家族の、若き三人娘を描く。高校時代の親友と、新たに仲間に加わったものと。
なぜ、その家の娘たちではなく、お手伝いさん三人娘なのか。
東宝としては、リッチでアメリカナイズされた、豊かなモダニズム生活を享楽する娘たちを、エンターティンメントとして、描きたい。アメリカナイズされたソング&ダンスのミュージカル・コメディでは、特に。
TV(当然白黒だが)を楽しみ、アメリカサイズの瓶の牛乳を、水のようにごくごく飲み、優雅に手習いをたしなむ。
そして、この三家庭の「邸宅」は、外見を、東宝特殊技術部が、今で言えばCGを使って描きこんだ絵として登場するほどの、当時の理想的「豪邸」だったりする。
しかし、まだまだ貧しい日本の、アイドル娘には、豊かな生活を享楽するキャラを映画で演じてほしいが、そればっかりでは、庶民はむかつくだろう。何らかの「落としどころ」が必要だ。
それは嫉妬か。リアリズムか。いや、「庶民感覚」というリアリズムだろうね。
かくて、その豪邸の「一人娘」としてではなく、人からは「一見お嬢さん」に見間違われるけれど、実は、お手伝いさんなんだ、という、ねじれた苦肉の設定。
しかし、たとえば、いづみの一家の主は、女性歌手・草笛光子。タレント業が忙しく、家は留守勝ち。いづみは、のびのびとソファに座って、牛乳ごくごくTV鑑賞。TVでは、生放送で草笛が歌っている。
チエミも、まるでお手伝いさんではなく、娘であるかのように、ひばり、いづみ宅を頻繁に訪れる。たまに台所に顔を出すと、女主人から、台所はいいから、これこれの用事でと、外出を促される。
ヴェテランお手伝いの出雲八重子(戦前松竹以来の、女中役ひとすじ女優)が家事は奮闘し、実はチエミの必要は、あまりない(笑)。
ということで、「本当はお手伝いさん」なんだけど、ほとんど「自由気ままな若い娘」として、レジャーに恋愛にと、自由に時間を使うことができ、のほほんかつおおらかに、まるで歌手のように(そうなんだけど)歌を歌ったりできるという、設定は、さらにねじれていくのだった(笑)。
かくてひばりには宝田明、チエミには山田真二、という当時東宝の二枚目スタアが、ボーイフレンドとなる。さすがに東宝も、輝く二枚目若手を、三人目は、ちと用意できなかったらしく(笑)いづみには、江原達怡、という若手脇役で、やや挌落ち感は、否めない。
◎追記◎戦後ニッポンは、まるまるアメリカのお手伝いさん、でも、けっこー自由を謳歌しているぜー、という戦後日本事情を揶揄しているのだとしたら、意外とこの映画は、奥深いなー(笑)。
美空ひばり 江利チエミ 雪村いづみ
さて、昔っから、ずーっと、疑問だったのは。
ひばりは、数限りなくヒット曲があるのに、チエミ、いづみは、ヒット曲という意味では、ほとんど一発屋という非対称。なのに、なぜのトリオ感なのか、というところ。
東宝三人娘、というくくりで、一体感のある三人だが、ヒット歌手としては、ひばりが、ひとり突出している。映画も、当然、ひばりの主演感があったりする。だからボーイフレンドも東宝いちばん若手の宝田をゲット。
チエミ、いづみは、それこそ女優タレントとしての演技力、アイドル性が重宝されたので、歌手としては、当時のアメリカ風の歌を日本人が歌う「時代の要請」(アメリカ風歌唱が、国産歌唱のお手本)の、まあ、言っては悪いが、二流歌手だろう(妄言多謝)。
まあ、言ってみれば、当時アメ車専門の中古ディーラーが、独立系ベンチャービジネスとして「時代の寵児」化していたことと同様の、時代特有の仇花だろうか。
そうはいっても、ちゃきちゃきの若い娘なりの、アイドル性、アイドルなりの演技力には事欠かないし、歌って踊れて演技できる貴重さが、まあひばりには及ばないが、ひばりの同級生挌の天才少女歌手、というくくりに見事当てはまったという次第か。
かくて、このふたりは、ひばりの何十週年記念番組には、モト同級生として、必ず呼ばれる仕儀となる。
美空ひばり - 20周年(1967) 江利チエミ 中村メイコ
なお、本作終映直後、ラピュタの全観客が話題にし、突っ込んだのは、ラストの水上スキーのシーン。
宝田、山田、江原の三台のボートが、併走し、その後ろの水上スキーに、ひばり、チエミ、いづみが、つながっている。
アップで歌っていたり、運転しつつ後ろを振り返り、手を振っているのは、紛れもなくスタアカップル三組なのだが、ロングショットでは、明らかに吹き替えスタンドイン。
豆粒のような小ささだが、顔は明らかに別人であり、何より三人娘より、明らかに手足が長いすらりとした、プロポーション(笑)。
ボート三台を完璧にシンクロ併走させ、なおかつボート尻から伸びたロープの水上スキーを、こんがらかせないためには、かなりの修練が必要だし、三人娘もこんな超高速の水上スキーに乗ったら、たちまち湖の藻屑(笑)状態で危険すぎる。
そういう大人の事情丸わかりの、かくてクライマックスシーンなのに、スタア全員スタンドイン、という大爆笑。
なら、ごくごく凡庸に、全員総出で、歌って踊って、で、よかったんじゃないの、という。
★Movie Walker★に、タイトル検索で詳細な作品情報あり。簡単な作品解説、あらすじ紹介(企画書レヴェルの初期情報の孫引きゆえ、しばしば実際とは違うが)。
◎追記◎下記コメント欄に、taisukez1962さん、お邪魔ビンラディンさんからオススメがありましたので、貼り付けておきます。これから自分が聞くために(笑)。
園まり 逢いたくて逢いたくて
園 まり 逢いたくて逢いたくて 編集=動画x3 静止画x24
ザ・ヒットパレード
橋幸夫「雨の中の二人」
Chiemi Eri with Count Basie orch.(2)-CARIOCA
昭和の歌姫・江利チエミ
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by mukashinoeiga | 2015-04-01 10:18 | 旧作日本映画感想文 | Comments(4)
最近動画で毎日のように「逢いたくて逢いたくて」を聴いて居りますが、今度ラピュタにいらっしゃるらしいですね。
まぁ行かない方がいいかな。前回の白川和子も見たかったっすね行けなかったけど。
橋幸夫の「雨の中の二人」も同名の映画が田村正和と中村晃子主演で制作されていますが、ムカエイさん鑑賞されてますか?もし見ていたら印象など語ってください。
この曲も動画で聴くと映画のシーンが画面に流れるのですが非常に気になります。
>中尾ミエ、伊東ゆかり、園まりが記憶の隅に残っています。
こちらの新?三人娘は、ぼく的には、おねーさん系というかセクシー系かな(笑)そんな印象です(笑)。
>最近動画で毎日のように「逢いたくて逢いたくて」を聴いて居りますが、今度ラピュタにいらっしゃるらしいですね。
まぁ行かない方がいいかな。前回の白川和子も見たかったっすね行けなかったけど。
うーん、白川和子さんは、すっかりおばあちゃんですよねたぶん(笑)。失礼妄言多謝。「逢いたくて逢いたくて」これから、聞いてみましょう(笑)。
>「雨の中の二人」
たぶん、見ていないと思います。ごめんなさい。 昔の映画
それから、チエミの歌うジャズのレヴェルは相当なもので、後年、カウント・ベイシーとも共演しています。ひばりのジャズもスゴくいいけれども、ジャズに関してだけはチエミの方が一枚上手だと思います。このスキャットなんざ、まさしくエラ・フィッツジェラルドの日本版ですね。
https://www.youtube.com/watch?v=dhv15k3-3lE
中尾ミエ、伊東ゆかりは、印象に強いのですが、園まりは盲点でした。イマイチ、関心外でしたが、歴代?三人娘のなかでは、珍しくセクシー系歌唱ですね。
ヒットパレード動画では、衣装、歌唱の目立ち方とも、メイン格みたいで、よいです。こういう歌手は、珍しいですよね、なかなか他にはいないキャラで、改めてカツモクいたしました。
チエミ、なかなかがんばってますね。でも、日本人だと、なんか本場モノとは違うんだよなあ(笑)。そこを承知した上での、ご評価なのでしょうが、うーむ。
人それぞれで、個人的には、日本ローカルジャズを体現する?泥クサ歌唱のひばりを押しますね(笑)。
ま、あくまで、好みなので、妄言多謝。 昔の映画