鈴木則文「大坂ど根性物語 どえらい奴」 : 昔の映画を見ています
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鈴木則文「大坂ど根性物語 どえらい奴」

 池袋にて。「日本映画のヒロインvol.13 映画デビュー50周年 富司純子」特集。65年、東映。
 本作は、鈴木則文デヴュー作。今回の特集では、藤純子東映デヴュー作マキノ雅弘「八州遊侠伝 男の盃」との2本立て。このカップリング・センスは、ちょっとうれしい。
 冒頭は、明治最末期の女学校。教師の谷啓が、明治天皇崩御の新聞記事を読み上げる。全員お上品にハンカチを目元に当てて、泣くお嬢様女学生たち。この全員一様の泣き方の紋切り型。
 ところが、ただ一人泣いていない女学生を谷啓は発見し、「この不敬モノーっ」と、駆け寄ると、
藤純子「だって、あたし、お葬式には、慣れてますもん」
 ソラそうだわなー、と思わず納得しつつ、でも、んんんん?と、メンタマひっくり返す谷啓。実は、藤純子は、葬祭屋・曽我部家明蝶の一人娘と知れる。
 この高飛車なお嬢様・藤純子が、父親子飼いの従業員・藤田まことの妻となる。高慢にも子飼いの藤田をしかりつけるお嬢様から、「もう、とうさん(関西語で、お嬢さんの意味のほう)なんて、呼ばないで。今日から、あなたの、奥さんよ」という、<とりあえずの主従逆転劇>が、ちと弱いのは、演出家の若さゆえか。これが、同じ藤純子で、マキノだったら、と思うと、いささか残念。
 藤田まことは、まあ、誰かモデルがいるんだろうが、日本で始めて、ということは、おそらく世界で始めて、葬儀に自動車、いわゆる霊柩車を導入した男。当初は、まったく、売れず閑古鳥の藤田葬儀社。
 というのも、当時の葬儀は、いわゆる大名行列を模した、大勢の日雇いを雇う、葬列繰り出しが主流だったようだ。毛槍を纏い踊る、遺体は豪華な大名かご風、大勢の行列衆が、ゆるゆると、行列を作って、練り歩く。見た目は大名行列そのまんま。
 こんな金のかかる行列、金持ちにしか、組めない。関西特有のものか。初めて、見たが、あんまり普及していたものとは、思われないが。
 主人公は、しかし、霊柩車を使って、葬祭を簡略化。のちに大ヒットにつながる。共同経営者に、長門裕之。

 のちの70年代にバカ・コメディの快作を連発した鈴木則文とは思われない、ぬるい人情コメディーっぷり。
 もともと二の線の藤田が、コメディーをやるのが、おかしかったわけで、彼の場合、「コメディアンがシリアスな役をやると、意外に、はまる」には、当てはまらない気がする。
 せっかく出した浪花千栄子さえ、さしたる見せ場もないし。
◎追記◎とても、大事なことを、書き忘れた。
 いかにも、新人監督らしい、繊細な光と影の彩々の、初々しい美しさ。
 長門裕之が「そや、新婚旅行や」と、「霊柩車」に、新婚の藤田まことと藤純子を乗せて、大坂市内を走り回る、しかし大正設定なのに、低予算のプログラム・ピクチャアとしては、撮影時の「現在」の町々でロケせざるを得ない。それをカヴァーするのに、夜の設定、雨の設定、その雨もいかにもせこいチープな。思わず笑ってしまうが、その最小の雨で最大の効果をあげる。その工夫の数々、ホントに素晴らしい。
 鈴木則文、スーパーではないが、その輝き。 

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by mukashinoeiga | 2013-04-21 21:28 | 不良スズキ伝則文みみず芸者 | Comments(0)

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