石田民三「花ちりぬ」花井蘭子
京橋にて。「映画の教室2009」特集。38年、東宝。
幕末、尊皇派と佐幕派が激突する京都、その一お茶屋が舞台。若い舞妓たち、一本の芸者たち、訪ねて来たもと芸者、下働き、「お母さん」(女将)と、その娘(「昔のうた」の花井蘭子)。大勢の、さまざまな女性たち。男は、出てこない。必要最小限の声のみ。茶屋の酔客は障子の陰に隠して、声だけ。浪士と新撰組の乱闘は、門扉の陰に隠して、声のみで乱闘を表現。徹底して、女だけで、時代の相を表現する。
戦前ガールズ・ムーヴィーの巨匠・石田民三の面目躍如。舞台はほとんどこのお茶屋に限定されているから、さながら一幕ものの芝居のよう。どの場面でも、女たちの会話を、いろいろな角度から撮影したショットを組み合わせて、映画らしさを保っている。70年前に作られたとは思えないほど、生き生きとした<現代性>がある。
キャーキャー大騒ぎ、集団で右往左往して、まるで女学生のような、舞妓たち。線香花火をしたり、舞妓同士でS関係になったり、お客を放り出して、遊びふけるのは、とても芸者の卵とは思えない。この中のひとりに顔に覚えがあるのだが、高峰秀子主演の石田映画(題名失念…後記思い出した。「花つみ日記」。花は摘まれて、散るのね)にでも、女学生役で出ていたのだろうか。
「あんたも、そろそろお座敷に顔を出したら」というお母さんに、どうせあたしは皆さんと違ってブスだから、とふてくされる<お燗番さん>の彼女もいい味出してる。花井蘭子も「あんた、自分で卑下しているほどの面相じゃないわよ」と、慰めているんだか、あおってるんだか。この彼女の田舎者さをコメディ・リリーフ(兼・世相・事情解説役)に映画は快調に進む。芸者同士のキャット・ファイト。新撰組に出頭させられるお母さん。
あらら、なんだか成瀬「流れる」とか思い出されるねえ。より現実的な成瀬は、男はいっさい描かない、という<夢>のような映画はさすがに作らない。わずかに男たちを出して、しかしやはり影は薄い。男同士の争いは極力画面から排する、成瀬と石田民三は、その日本的映画趣味だけでなく、この面でも近しいのかもしれない。たしか成瀬脚本の石田作品もあったはず。
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by mukashinoeiga | 2009-09-20 09:39 | 石田民三:戦前ガールズ映画の輝き | Comments(0)