トロイ(2004年)【7点/10点満点中_中間管理職の悲劇が裏テーマの現代風史劇】 | 公認会計士の理屈っぽい映画レビュー

トロイ(2004年)【7点/10点満点中_中間管理職の悲劇が裏テーマの現代風史劇】

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古代
古代

[2004年アメリカ]

7点/10点満点中

■神話なのか史劇なのか

『タイタニック』以来とも言われる巨額の製作費と豪華なキャストが売りのザ・ハリウッド!な大作であり、公開時には劇場にまで足を運びましたが、その時の感想はイマイチなものでした。神話をモチーフにした作品なのに史劇っぽく作られているという中途半端さで、この映画をどう見れば良いのかが最後まで定まらなかったことがその大きな要因でした。

ただし、その後DVDやBlu-rayで二度三度と見ているうちにこの映画がやりたいことも見えてきて、そこからは結構お気に入りの映画になりました。この映画がやりたかったこととは、ズバリ「中間管理職の悲劇」なのです。本作の二人の主人公・アキレスとヘクトルに共通するのは現場責任者ではあるものの組織全体の意思決定権限は持っていないということで、現場の状況をわきまえない意思決定が下ったとしても、それに従うしかない立場にありました。そして二人は組織によるミスジャッジに翻弄される中で命を失います。

■大組織のエース・アキレス

トロイに攻め込むのは全ギリシャ大連合という超巨大組織であり、その盟主アガメムノンは王の中の王と呼ばれる人物です。そしてアキレスは、そんな組織の花形戦士です。

彼は上司のアガメムノンとは徹底的に折り合いが悪く、一応は味方同士でありながら双方が相手への批判を隠そうともしない仲なのですが、そうはいっても大軍の総司令官であるアガメムノンに一部隊の隊長に過ぎないアキレスが全面的に背くというわけにもいかず、目の前の仕事に対して自分なりのやりがいを見出すか、現場をボイコットするのかのどちらかの選択肢しかありません。世渡りのうまい親友・オデュッセウスに「まぁまぁ」なんてなだめられたりもしていますが、ふてくされながら仕事をする様には「会社にもこういう奴いるよなぁ」と思ったりもしました。

■老舗組織の出来の良い二世・ヘクトル

難攻不落の城壁に物言わせて孤高の地位を維持してきたトロイは、頑固な老舗組織といった風情です。そしてヘクトルは、伝統を踏まえつつもそれにとらわれすぎない考え方のできる出来の良い二世です。

ただし父王は価値観の近い昔なじみの幹部からの進言にばかり耳を貸し、ヘクトルの現実的な戦略に対しては「若いもんは理屈ばっかですなぁ」みたいな対応をとり続けます。この辺りも、とっくに世代交代の時期が来ているのに二世社長をいつまでも子供扱いしてその主張に取り合わず、年老いた創業メンバーの意見が尊重され続ける同族経営企業のようで興味深く感じました。また、誤った意思決定であっても現場指揮官のヘクトルが優秀で何とかしてしまうことから、老人たちは自分たちがミスジャッジをしているという認識を持たず、最終的には木馬を城内に入れるという最悪の意思決定を下してしまうのですが、この点についても、現場が調整してくれているおかげでうまくいってきただけなのに、成功は自分たちの手柄だと思い込んで軌道修正を怠ってきた会社幹部を見ているようで楽しめました。

■【おまけ】かわいそうなメネラオス

本作はアキレスとヘクトルという両英雄の悲劇という切り口で描かれているものの、一番可哀そうだったのはメネラオスではないでしょうか。好戦派の兄アガメムノンを抑え込んでトロイと和平交渉をしていたものの、よりにもよって和平の成立を祝う宴席でトロイの王子・パリスに奥さんを寝取られるという侮辱を受けるし、その後はパリスの方から決闘を申し込まれたのでこれに応じるも、負けそうになったパリスは豪傑として知られる兄ヘクトルに泣きつき、本来この決闘とは無関係なヘクトルの刃を受けて絶命します。

この通り、メネラオスは常に筋を通す男だったものの卑怯なパリスに裏切られ続けたし、しかも物語上は大悪党・アガメムノンの一味という描かれ方で、なぜか悪者っぽい見てくれになっています。これではメネラオスが浮かばれませんね。

■ディレクターズ・カット版の価値

なお、本作のBlu-rayはディレクターズ・カット版のみのリリースとなっており、『スター・ウォーズ』や『アビス』のように劇場公開版が廃れて監督が後からいじくったバージョンのみが後世に残されそうなので、ディレクターズ・カット版についても軽くレビューしておきます。

30分の追加場面の大半は残酷描写・性的描写の増強であり、戦場ではそこら中で血しぶきが舞い、トロイ陥落場面では市民の死体が吊るされ、女性が強姦され、赤ん坊が炎に投げ込まれる。さらには、ダイアン・クルーガーのおっぱいもバッチリ見える。物語の大筋こそほとんど変わっていないものの、初見時にあった「神話なのか歴史ものなのか判然としない」という問題は、これら刺激的な描写で吹っ飛びました。本作は人間の業を描いた作品であることが明確になっているのです。この点で、劇場公開版よりもディレクターズ・カット版の方が優れていると言えます。

ただし、一部で音楽が差し替えられていた点だけは気になりましたが。アキレスとヘクトルが戦う場面で『猿の惑星』や『スターシップ・トゥルーパーズ』の音楽が流れ出した時の違和感は相当なものでしたが、なぜあんなことになったのでしょうか?

Troy
監督:ウォルフガング・ペーターゼン
脚本:デヴィッド・ベニオフ
製作:ウォルフガング・ペーターゼン,ゲイル・カッツ,ダイアナ・ラスバン,コリン・ウィルソン
製作総指揮:ブルース・バーマン
出演者:ブラッド・ピット,エリック・バナ,オーランド・ブルーム,ダイアン・クルーガー,ブライアン・コックス,ショーン・ビーン,ブレンダン・グリーソン
,ピーター・オトゥール
音楽:ジェームズ・ホーナー
撮影:ロジャー・プラット
編集:ピーター・ホーネス
製作会社:プランBエンターテインメント,ラディアント・プロダクションズ
配給:ワーナー・ブラザース
公開:2004年5月14日(アメリカ)2004年5月22日(日本)
上映時間:163分
製作国:アメリカ合衆国

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