ルックバック_感動作…なのか?【5点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説) | 公認会計士の理屈っぽい映画レビュー

ルックバック_感動作…なのか?【5点/10点満点中】(ネタバレあり・感想・解説)

スポンサーリンク
スポンサーリンク
その他コミック
その他コミック

(2024年 日本)
60分に満たない上映時間、1700円フィックスの入場料と、異例づくめの作品ながらも大ヒットを記録しているアニメ映画。話題性に誘われて見に行ったけど、個人的にはイマイチだった。

創作活動を描いた良質な青春ドラマ

『チェンソーマン』の藤本タツキ原作マンガのアニメ映画。

私自身は原作未読、アニメの『チェンソーマン』が大好き(アニメ版は不評らしいが・・・)という程度の接点しか持っていないけど、あまりにも話題になっているので見てきた。

私が見たのは7月28日で、上映開始の6月28日から1か月も経過済だが、それでも劇場は満員に近かった。さすがは話題作である。

こうした熱気、一体感の中での鑑賞体験って大事だと思うので、ブーム真っ只中のタイミングに見に来られたのは幸運だった。

絵が得意で漫画好きな小学4年生 藤野(河合優実)と、絵が超絶うまい不登校児童 京本(吉田美月喜)が出会い、大好きな漫画執筆に明け暮れるという青春ドラマ。

こうして書き出してみると、おおよそヒットの匂いのしない地味なドラマで、実際、主要登場人物は2名だけ、舞台は田舎という恐ろしくミニマルな内容なのだが、溢れんばかりの郷愁感と、狂おしいほどの創作活動への愛情で、愛すべき作品となっている。

ネットを見ると原作マンガの内容にはほとんど変更を加えていないらしく、原作由来の上質なストーリーと、それを生かし切ったアニメ演出の併せ技でこそ実現した味わいなのだろう。

東北地方の田舎で生まれ育った主人公 藤野は、絵がうまいと周囲から褒められて有頂天になっていた。彼女の創作活動の場は学級新聞で、そこに載せた4コマ漫画がクラスメイトに大ウケすることで満足するしていたが、ある時「枠を貸した」つもりでいた不登校児の超絶うまい絵に完全に喰われてしまう。

私も、小学生時代に学級新聞に「連載」を持っていたことがあるのだが、ふとした瞬間に自分の絵があまりうまくないということに気付き、私はそこで描くのをやめた。

一方、藤野は謎の不登校児に追いつこうと必死に足掻く。絵の練習を1年以上も継続したのだから相当な努力家だと思うが、結局は不登校児の超絶描写力に及ぶことはなく、最終的には筆を折ってしまう。

美術、スポーツ、音楽etc…生まれ持ってのセンスや体格でほとんどが決まってしまう世界で、どうやっても勝てない相手に遭遇した時の挫折感や絶望感って、誰しもが味わったことがあるのではないだろうか。

そうしたことが端的に描かれているので、本作は大衆の心に響く作品となっている。

ただし私が面白いと感じたのはここまで。

ここから先は迷走したなぁというのが私の感想である。

ちょいちょい粗くないか?

卒業式の日、藤野は謎の不登校児に卒業証書を届けるという大役を任され、そこで京本と出会うこととなるのだが、児童に卒業証書を持って行かせるだろうかという点がまず引っかかった。

京本家を訪れた藤野は、チャイムを押しても反応がないので家の中に入り、廊下に山ほど詰まれたスケッチブックを目撃する。京本は天才肌であるだけではなく、努力し尽くしたと思っていた藤野など足元にも及ばないほどの練習量を積んでいたのだ。

圧倒的な才能と努力。これを目の当たりにした藤野が、再度創作活動への闘志を燃やすという重要な場面なのだが、鍵があいているからといって他人の家に上がり込むものだろうかと、これまた細かい点に引っかかってしまった。

媒体の違いなのだろう。漫画ならば割とダイナミックに処理しても目立たなかったアラでも、アニメにすることで目立つということがある。この点には説得力ある脚色をしたほしかったかな。

映画の内容に戻る。

思えば京本の4コマは背景だけで、キャラもストーリーもなかった。

そんな京本と、構成力には抜群のセンスを持つ藤野が組むことで、二人は最強のチームになっていく。構成上は天才肌の京本vs凡人レベルの藤野という形になっているが、実際には藤野だって天才なのだ。

藤野の部屋を拠点として昼夜を問わず執筆活動に精を出す二人!

・・・って、子供部屋に同級生が入り浸っている状況を放置している藤野家と、不登校だった我が子が一転して家に居つかなくなった京本家は、この間一体何を考えていたのだろうかと、またしても不自然な構成に首を傾げた。

本作は藤野と京本の関係性にフォーカスしすぎていて、それ以外の要素が粗い、粗すぎる。この世界に二人以外の人間がいないかのようなのだ。

余計なものを描く必要はないのだが、違和感を持たずに済む程度の後景は作り上げて欲しいところだ。

かくして中高と執筆活動に明け暮れた二人は、アマチュア漫画家としての成功を収める。

高校卒業を目前に控え、プロへ進む道を半ば必然と捉えていた藤野に対し、京本は美大へ進学する意思を伝える。

当然コンビが続くものと思っていた藤野にとっては寝耳に水の話だが、一方、京本がどうして美大進学を志したのかはスッキリしない。

このままでは永遠にコンビの二番手であることへの反発なのか、藤野への依存を断ち切りたいという自立心ゆえなのか、漫画とは別の可能性を試したいという思いなのか。

この点が不明瞭である点も引っかかった。無理に二人を引き裂いた感があって。

悲劇が唐突すぎる ※ネタバレあり

京本と袂を分けた藤野は漫画家として成功して慌ただしい日々を送るのだが、そんなある日、京本の進学先で侵入者が学生を殺傷したという事件を報道で知る。

胸騒ぎのした藤野が確認をすると、案の定、犠牲者の1人は京本だった。

これは2019年に発生した「京都アニメーション放火殺人事件」をモチーフにした展開だということは明らかだが、この展開をいきなり挿入してくるの?という違和感が大きかった。

何の脈絡もなく人を殺す展開は安直だなぁと

で、事件を知った藤野は、小6の自分が不登校の京本に接触したのが悪かったんじゃないかと、超絶回りくどい後悔を始める。いや、それは原因じゃないと思うよ。

ここから映画は『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)のように、「あの事件がもしも回避されていたら」というイフの物語へと突入する。

分岐点は藤野が京本宅を訪れた日であり、あそこでコンビを組まなかった時間軸が始まるのだが、藤野と知り合わなくても、結局京本は美大に進学したし、侵入者とも鉢合わせした。

これではイフの物語として成立していないような気が・・・

あの日、藤野と出会わなかったことで京本は引きこもりのままとなり、結果、暴漢に出遭うという破局こそ回避されたが、そこに至るまでの輝く時間も送れなかった。だから二人の創作活動には意味があったという結論のが良かったような気もするけど、どうなんだろうか。

ともかく、私は後半の展開に全然乗れなかった。

ただし世間の反応を見ると私は恵まれなかった少数派の客なので、たいていの人は楽しめる作品なんだろうと思う。

隣のおじさんなんてずっと泣いてたし。泣き所を把握したうえで泣きに来たんじゃないかというほどの勢いで泣いていて、作品よりもおじさんの方に関心を持ってしまった。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
記事が役立ったらクリック
スポンサーリンク

コメント

  1. 匿名 より:

    僭越ながらレビューを希望します
    SF映画のアニアーラを推薦します
    人生のことや哲学っぽいものをこねくりまわして陰鬱になる気分になるのが好きな人にオススメです
    よければ是非