(2022年 日本)
前作よりも格段に面白くなっており、ちゃんと見られる映画にはなっている。ただし少数が多数を圧倒するという漫画的展開には依然として違和感があり、戦記ものとヒーローものとの間でのバランス感覚は、依然として大きな課題として残っている。
感想
前作『キングダム』(2019年)があまりに合わなさすぎて「このシリーズはもう見ないかも」と書いたのも束の間、最新作『大将軍の帰還』が100億円の大台も狙える大ヒットという報道を見て、やっぱりチェックしておくかと気が変わった。
そしたらビックリ、前作よりも格段に面白くなっているではないか!
このクォリティならば最新作まで完走できるような気がしてきた。・・・と言っても今のところ4本しか製作されていないので、ここが折り返し地点ではあるのだが。
隣国・魏の侵攻を受けた秦国の防衛戦が本作の主題であり、オープニングとエンディングを除くと、ず~~っと戦が続く。このソリッドな構成が良かった。
前作の何が苦手だったかって、すべての感情をいちいち大声で説明してくれる山崎賢人のウザすぎる演技がダメだったんだけど、本作はひたすら戦ってるだけで感情表現をしている余裕がない。だからスッキリと見られた。
また山崎賢人扮する信の一本気なところが、当初イヤな野郎だった百人隊長を熱血キャラに変え、そして静観を決め込むことの多かった総大将 豊川悦司にまで伝播し、やがて戦況を引っ繰り返すに至るという構成も良かった。
信といういかにもな少年漫画キャラを実写で生かす方法がようやく見つかったようだ。
平原で大軍同士が相まみえるスペクタクルシーンは見ごたえ十分だったし、モブを使った合戦や戦車戦も大迫力で、テクノロジーの扱いに長けた佐藤信介監督の手腕が遺憾なく発揮されていた。
そういえばwikiを見て気づいたんだけど、佐藤伸介監督は僕の高校の大先輩だったようだ。大して偉くなる人間が出てこないどうしようもない我が母校で、こんな立派な映画監督が生まれていたとは意外だったなぁ。
ただし両手を挙げての絶賛という訳にもいかない。原作に起因する問題点は依然として多く残っているのだ。
前作レビューでも指摘した通り、戦力描写がとにかくアンバランス。
大軍同士がまみえる大戦争映画であり、丘を取っただ取られただという戦術的な話も出てくるのに、最終的には根性を見せた方が勝つという構成には、2作目になっても相変わらず馴染めない。
このシリーズ、少数で多数を討つという展開が定番となっているのだが、根性のある方が勝てるなら、もう軍師とか要らないじゃん。
「戦いは数だよ兄貴!」というドズル・ザビの言葉を送りたくなった。
盾で防護壁を作った敵軍に向けて一直線に走っていく山崎賢人。大ジャンプで軽々と防護壁を飛び越えて敵陣の真っ只中に入ると、鎧で完全武装の敵兵をものすごい勢いでぶった斬る。
後半では、山崎賢人が実質的なリーダーとなった部隊が敵の本陣に斬り込むんだけど、寄せ集めの農民兵が、将軍の周囲を固める精鋭部隊に少数で突っ込んでいって勝利する、しかもほとんどの奴が死なずに生き残るという展開には、さすがに違和感しかない。
清野菜名は代々続く暗殺部族の出身らしく、その部族は1人で一国を亡ぼすほどの戦力を秘めているそうだが、だったら大規模な合戦などせず、こいつらを囲い込んで敵国に送り込めばいいのではないか。
また敵の大将のクビを討ち取った瞬間に、圧倒的優位にいたはずの敵軍が一斉に動きを止めてくれるという展開もいかがなものかと思ったりで。
戦記物としてのルックスが整っている分、漫画的な展開が強烈な違和感となっているのだ。
『プライベート・ライアン』(1998年)のオマハビーチに、突如として『コマンドー』(1985年)のジョン・マトリックス大佐が乱入してきて、ナチス相手にバリバリ無双をはじめるような感じだろうか。とにかく本作の合戦場面はどう見ていいのかさっぱり分からない。
あと「遥かなる大地へ」というサブタイトルが一体何を指したものなのかは、最後まで見てもよく分からなかった。
トム・クルーズとニコール・キッドマンが共演した1992年のロン・ハワード監督作が好きな人でもいたんだろうか。
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