マイケル・ケイン見たさに予備知識なしに劇場へ。
原題が"The Great Escaper"と知りニヤリ。名作「大脱走」('63)の原題は"The Great Escape"。シャレの効いたタイトルだ。
開巻、どこかの海辺を歩く老夫婦の後ろにD-DAY70周年の横断幕が。ノルマンディ上陸作戦から70年というと2014年という設定か。
マイケル・ケイン演じるバーニーは90歳、実年齢と同い年。その妻レネ(グレンダ・ジャクソン、本作が遺作)と共に施設で暮らす。IMDbで検索すると英国のキャンバー・サンズという町。
https://maps.app.goo.gl/GaVHqCkJC8zxgBBg6
なるほど、フランス、カレーの対岸に位置する町である。
カレーは先の大戦で連合軍上陸作戦の候補地であり、ナチスドイツ側はそちらに兵力を集中させていた。結果、連合軍はカレーより南西のノルマンディー地方、オマハビーチを目指す。
バーニーはそのノルマンディー上陸作戦の生き残り。
施設を抜け出し、70周年記念式典に出席するべく英国海峡を亘る。
「史上最大の作戦」('62)「プライベート・ライアン」('98)で描かれる、英雄的兵士達ではなく、生き延びて尚戦場PTSDに苦しむ元兵士達の哀れ。
今までになかった着眼点に敬服する。
バーニーが戦友の墓参の前に立ち寄るバーで出会う、かつての敵国ドイツの元兵士達。それぞれの配属先を語るだけで、無言で見つめ合い、やがて嗚咽するドイツ人、その手を優しく掌で押さえるバーニー、珠玉の名シーンと言えよう、涙を禁じ得ない。
この手の映画で過去のシーンになると途端に陳腐になるケースがあるが、パーカー監督は戦場の過酷さを大音響でしっかり描き、バーニーとレネの絆の深さを裏付ける。
70周年記念式典は勝者にとって「勇ましく凛々しい殉国精神」の金字塔だが、一人一人の名もなき兵士にはそんな晴れやかさだけではない深い傷痕がある、という当然の事にあらためて気付かされる。況や敗者に於いてをや。
それを知りもしない世代が殉国を美化するのは洋の東西を問わないようだ。バーニーは戦友の墓前で慟哭しながら「無駄死にだ」と叫ぶ。
老夫婦の労わりあうような散歩(妻は車椅子)のロングショットは限りなく美しい。
はた迷惑な若者へのバーニーのイタズラは英国らしいギャグ。
字幕翻訳は戸田奈津子、久しぶりにその名前を見る。登場人物と同世代ということか。
劇場、客は入っていないが見逃すと損。佳作、お勧め。