ネタバレしています!
<あらすじ>
2009年。事故で半身不随となり絶望していたソル(キム・へユン)は、ラジオ番組を通じてデビューしたばかりのバンドグループのメンバー、ソンジェ(ピョン・ウソク)から生きる希望をもらう。
15年後の大晦日、熱狂的ソンジェファンとなっていたソルは、突然ソンジェの訃報を聞き、あまりの衝撃で受け入れることができない。いてもたってもいられなくなったソルは車椅子で家を飛び出すのだが…気づくと2008年にタイムスリップしていたのだった!
とてもおもしろかった!!!!
最近めっきりラブコメとかは見なくなってしまっていたのですが、U-NEXTに家族が最近一時的に入ったのと、今作がすごい話題になってるのはうっすら伝え聞いていたので見たら…これはすごいよ。泣けて笑えて、忘れていた大切なものを思い出させてくれる(としか言いようがない)、素晴らしい作品でした。夢をありがとう…。
ネタバレしないで見たほうが絶対面白いと思いますが、以下はネタバレ記事とさせていただきます(この想いを昇華させたい)。
YouTubeで2話までは無料で見られるそうなので、未見の方はぜひ!2話まででもかなり楽しめると思います。1話の完成度がひときわ高いのですが、2話もかなりすごいので、もし見られる場合は必ず2話の最後まで見てください!絶対2話は最後まで見なきゃだめだよ!
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<目次>
1話からソルはソンジェを切実に愛す
この作品は全16話のなかでも特に1話の完成度が高いと思うのですが、この1話で強く描かれるのが、いかにソルがソンジェを切実に好きか、ということ。
あらすじにも書いた病室の場面が最初の10分弱で描かれるのですが、まずこれがもう本当に素晴らしくて…。ソルがいかに絶望していて、ソンジェのどんな言葉で生きる力を取り戻すのかが鮮烈に描かれていて、キム・へユンさんの説得力のある演技にいきなり泣かされました。ほんとにこのシーンだけでも見る価値あると言ってもいいと思います!(そして別の意味合いを知ってから見るとまた泣く)。
「推し活」というと、世の中ではいいイメージばかりではなく、両手放しの応援が周囲には滑稽に見えてしまうこともあるし、応援が度を越して単なるエゴとして捉えられてしまうことも、ファンの行動によってはあると思います。
けれども、ソルにとってソンジェはソルの実存そのものであるということを最初に痛烈に描いているから、15年後に強めのオタクになってソンジェソンジェと騒いでいても、「あぁこの人はあんなに絶望していたけれど、ソンジェのおかげで今は人生を前向きに生きているんだな」と思えて、見ててまた心打たれてしまうんです。
また、ソンジェの死は自死であるという速報があることで、かつて絶望の淵にいたソルはソンジェに希望をもらっていただけに、本当にキツい展開になっているですよね。序盤は「いつか推しが自死してしまうのを阻止する」っていうかなり難しい命題が物語にあって、コメディタッチではあるけれど、かなり重い話だな、と思いました。
一方で、すごい明るくて前向きな話でもあるので、バランスが非常に難しいところなんですが、これがさり気なく巧みにコントールされていて手のひらの上で踊らされるように最後まで見てしまいました笑。
なにより、「大スターと一般人の恋」は嫉妬をいつ受けてもおかしくない設定なので、どのような展開であっても視聴者をソルの味方にすることが、初手で絶対的に必要な中で、それを見事に果たしていることがこのドラマの成功の大きな要因のひとつになっていると思います。
2話の最後で話が早くもひっくり返る
このドラマは1話がすごくよくできているけれど、それ以上にすごいと思ったのは2話の最後で、実はソンジェはデビュー前にソルに出会っていて片思いしていた(まさかのご近所同士)、と明かす点です。
今までもこういうドラマの展開はあったと思うけど、これを2話でやられて大変度肝を抜かれました(最近の韓国ラブコメはこうなんですか?)。しかも視聴者(私)はすでに1話でソル沼に落ちているので、可愛いけれど絶世の美女というわけでもないソルをソンジェが好きであっても全くおかしくないなと思ってしまうんですよ。これはソンジェも惚れてまうやろ!っていう感じで。雨の出会いのシーンを見たら全人類がソルに惚れます。
この時点でソルのソンジェ愛が破格なのはもうわかってるので、主人公二人のどっちからしたってこんな夢みたいな展開が2話であっていいのか…!!!????ってなって、このドラマに完全にはまってしまいました笑。
でまた15年前のソンジェがちょっと不器用な普通の男子高校生で(普通は言い過ぎかもしれないが…笑。でも最初のカリスマの印象からすると、素朴さが残る男の子なんだよ)、あの絶望の中亡くなったであろう青年もこんなふうに恋をしたりしてたんだな、と思うと泣けるし、ソルと接近すればするほど、どんどんいけ!人生を楽しんでくれ!ってこっちは(泣きながら)応援したくなるんだよ。
そんなわけで、3話以降は「ソルがソンジェを救う」というストーリーラインに加えて 「純情ソンジェがソルに恋する」というラインが並行していくので、すごいお話に充実感があるんですよね。途中から「ソンジェがソルを救う」というラインも現れるし。脇役たちのサブストーリーもたくさんあるし。
ソルの愛が不変だとすると、ソンジェの愛はどんどん強くなる愛。ソルは中身が大人であるがゆえに揺るがないところもあると思うんだけど、ソンジェは本当に高校生の時は高校生でしかないので、最初は不器用なんですよね。だけど、だんだん大人になるにつれて、ソンジェも愛情を表現することがどんどんうまくなる。表現が強すぎて最終的に面白い男になってるのもよい笑。
この辺の幅を表現するのがピョン・ウソクさんは、大変だったと思うんですけど、すごくよかったですね。キム・へユンさんは最初っから北島マヤみたいに演技がうまいんですけど(本当にすごいよこの人は)、ウソクさんはまたアプローチが違うというか、実録感がありました(どういう順で撮っているかわからないけど、演技もうまくなっていくように見える)。
ソルもソンジェも、「相手を好き」という気持ちだけで行動を起こしていて、自分が嫌われようが死のうがいいっていう、やりすぎたら怖くなるのをうまく純愛で収めていて、まっすぐな愛にただただ心が洗われました笑。こういう純愛を描くのは2008年らへんまでが精いっぱいなんでしょうかね…(そうじゃないといいな…)。スマホもないし、いい意味で突っ走れた最後の時代なのかな。
2000年代から2010年代前半の良質な韓国ラブコメを踏襲しつつも、2020年代の感覚でラブコメを再構築していて、「こういうのが見たかった!」って見ててすごく胸が熱くなりました。たぶんみんなそう思ったからヒットしたんだのでしょう!タイムリープの観点でいうと台湾ドラマの『時をかける愛』のような感じではあるんだけれど、表現や構成が突出しています。
あの犯人は一体なんだったのか…
物語が進むにつれ、実はソンジェは自死ではなく男に襲われて死んでしまった、しかもその男はソルを車で轢いた人物であり、そもそもソルを誘拐して殺そうとしていた、ということが明かされます。
この犯人男が誰なのか最後まで全くわからないし、最後までしつこいんだ。
で、ちょっと思うのは、単に「人を殺したい」と思っているのなら、こんなにしつこく同じ人物を狙う必要はないんですよね。無差別殺人ではなくストーカー。男はソルにもソンジェにも全く関係ないのに、すごく執着してるんです。彼は無感情ではないってことなんですよね。
ソルとソンジェが利他的にお互いを守ろうとしているなかで、自分のためだけに相手に執着して命まで奪おうとする犯人は彼らとはまさに正反対の存在です。物語の構造上で敵対するのもわかるし、特に最終的に男がソンジェを殺そうとするのも、ソル以上にソンジェが自己犠牲を厭わずにソルを救おうとするからかな、と思ったりします(犯人逮捕に協力したことを逆恨みして、と作中では説明されますが)。
でもソンジェのソル愛がどんなに強まっても、因縁をほどくことができないってのはつらいよ。こっちの事情は犯人男には何も通じないんです。
ストーカーという存在は芸能人などの人気商売には付きまとう問題です。と同時に、全く人前に出るようなことをしていなくても、ストーカーに狙われてしまうような事件も多発しています。
作中では少女のストーカーファンを投入することで誰が本当のストーカーなのかぼやかされてはいますが、このドラマの裏テーマを担っているのは利他の愛の反対側にある、利己の愛/執着(ストーキング)なのかな。ファンとの恋愛物語の敵が別のファン、っていうのは物語上ちょっと難しいなので、ストーカーとは呼ばないストーカーを登場させているのは考えたな、という感じです。
で、これが大事なんですが、犯罪者を捕まえるのはやっぱり警察なんですよ。
いくら一般市民のソルとソンジェが頑張っても、凶悪犯に立ち向かえば無理が生じるのは当たり前。なんなら警察だって過去には悲しい結果をもたらしている(物語でもそうですが、不幸なことに実際警察に相談してもストーカー被害で亡くなってる方もたくさんいるんですよね…)。
でも、悲しい過去を積み重ねてきた今なら警察はストーカーを完全に捕まえられる時代なはずだ、というのが作り手の願いであると思うし、その願いを背負っているのがテソンというキャラクターなんだと思います。
テソンのお父さんは警察官で、ソルに親身ではあったけれども(2回目に戻った時に事故は防いでくれてるし、一度は逮捕までしている)最悪の事態を防ぐことはできなかった。その思いや経験を息子であるテソンが物語上で引き継いでいる、というわけなんですね。
(追記) とはいえ、犯人は最後は因果応報で車に轢かれて死んでしまい、展開的にはちょっとだけ不完全燃焼ではあります…笑。
ドラマ・映画制作、レンタルビデオ屋さんの意味
この作品ではドラマや映画製作がモチーフとして使われていて、ソルの実家はビデオレンタル店。お兄ちゃんは売れない役者という設定です。これもいろんな意味があるんだろうなと思います。
タイムリープを繰り返すソルは、パラレルな世界をいくつも渡り歩いていきます。実際に人生に起きることはひとつだけれど、ソルは不思議な時計の力で「もしも…」の人生をいくつも体験していく。パラレルで起きる様々な出来事はソルにとってたくさんの意味をもたらします。力を与えてくれたり、逆に怖がらせてきたり、人生に大きな影響を与えるのです。
そういう意味では、「ドラマや映画を見る」ということも同じです。現実には起きていない別の世界の出来事が、見るものに大きな影響を与えるんです。小説も近いんだけれども、特に映像作品は時間とともにある表現形態なんですよね。
人生は時間そのもので、そしてその時間は有限です。ソルのようにタイムリープできない私たちに「パラレルの力」をくれるのは、ドラマや映画ですよね。自分の人生では体験しきれないことを、少しでも体感させてくれるもの。
たくさんのレンタルビデオやDVDに囲まれるソルとソンジェのシーンは、二人が様々な世界に見守られ、背中を押されているようにも見えます。
タイムリープ系の物語には、「運命か意志か」というテーマがどうしても全面に出てしまうんですが(そこが面白い)、この作品はそのテーマと合わせて、「パラレルの力」「フィクションの力」をテーマにしているのがとてもユニークで、素晴らしい脚本だなと思います。
心は全部覚えてる
ただ、現実の出来事であれ、非現実で起きた出来事であれ、その詳細をいつまでも覚えているわけではないですよね。
ソルは酒で記憶を失ってるし、そもそもソンジェとの出会いも覚えていなかった。ソルのおばあちゃんは孫のことさえ忘れてしまっている。
でも、心は覚えている、とこの作品は視聴者に訴えかける。
ソンジェが経験してないはずのパラレル世界の記憶を取り戻す、というのは、まさにこのメッセージに沿った展開です。
ソンジェが経験してないはずの記憶を取り戻すのは、都合がいいと言えばいいんだけど笑、「パラレルの力」を念頭に置いてみると、まぁアリなのかなとか思ってしまいます(甘いかな笑)。
だって私たちだって身に起きてもいないことを、自分の力に変えているわけですから。起きたかもしれないこと、別の世界では起きたことを、思い出すこともできるのかもしれない(人によっては超危険なことになっちゃうかもだけど…笑)。ソルは途中から未来のことさえも思い出しているし。パラレルの力はとても自由なのでしょう。ソルのおばあちゃんは、ソルやソンジェ以上に自由に時間も世界線も超えて旅をしているようです。
そう考えると、ソルはラジオ番組で励まされたことでソンジェのファンになったと思っているけれど、実は事故の時にソンジェに助けられたことを心は覚えていたのかもしれない。ソンジェは自分の言葉でソルを励ましたと思っているけれど、別の世界線でソルから励まされた言葉を心が思い出したのかもしれない。そんな風にも考えられるかもしれませんね。
また、この「心は覚えている」というメッセージを受け止めるための補助線になるのが、やはり映画やドラマのモチーフなのだと思います。
作中には映像作品を作るなかでスタッフや出演者の苦労がさりげなくいくつも挿入されています。ソルのお兄ちゃんはいつも現場でひどい目にあっているし笑。
たとえ、どんなに細かくこだわっても、苦労しても、大ヒットしても、悲しいかな、作品はいつかは大方を忘れさられてしまう。端役のお兄ちゃんも、このままいけば確実に忘れ去られるでしょう。どんなに最終回まで盛り上がっても、その話題がいつまでも続くということは、今の流れの早い時代ではありえません。
でも、心はその作品を見た時の感情を覚えてますよね、きっと。形には残らないけれど、その時の感じたことは今の自分に反映されているはずです。記憶から消えても心は覚えてるドラマはいくらでもある。それがフィクションの力であり、パラレルの力なのでしょう。
なんだか作品制作に携わる人に対しても視聴者に対しても「みんな全てを忘れているようでも心は覚えているから大丈夫だよ」って言ってくれているようで、あたたかい説法を聞いたような気持ちになります。
と同時に思うのは、リアルな出来事のインパクト。
ソンジェがバンドメンバーと揉めている描写があるのは、ソルとのいい思い出がない最初の人生だけ。2週目以降の世界ではソルとの交流があるので、タイムリープを重ねれば重ねるほどソンジェはバンドメンバーと友好な関係を維持しています。リアルな体験がいかに人に影響を与えているかってことですよね。
ソルがあれほどソンジェを愛するのも、やっぱり一番キツいときに直に励まされたからですしね。
絶対に忘れない記憶って良くも悪くも強いね。
物語の最後、結婚式シーンまで見せるのは過剰な視聴者へのサービスなようにも見えるけど笑、過去を抱きしめて未来を恐れたソルとソンジェが、同じ幸せな未来を予感して笑うことで、前に進んだことを高らかに宣言したんだと思います。自由になったのです。未来をも今の力に変えた二人を描いた大団円です。
自分の人生は自分で選ぶことができる。とするのなら、その時に私たちの背中を押してくれるかもしれないのが記憶であり、フィクションの力なのだと、視聴者も作り手をも励ますような優しさをひしひしと感じる素晴らしい作品でした。ソルとソンジェを見つめた16話分の感動も、きっと私たちの力になってくれることでしょう。
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あ~!久しぶりにどっぷりハマったドラマでした!
ギャグシーンも多く視聴者を楽しませつつ(特にソンジェが終盤めちゃくちゃおもろい男になるのほんといいよね笑)、途方もなく考えたうえで、さりげない表現を重ねているであろうことを感じ、この記事を書きながら改めて驚愕しています。ポップな題材でここまで描き込めるのは本当にすごいです。
正直、中盤以降は「早く幸せになってくれよ~頼むから~!」ってなってたけど笑、それがラブコメだからね…笑。モヤモヤやイライラもラブコメの醍醐味ですから!
キム・へユンさんはスカイキャッスルで見てすごい役者さんだとは知ってたんですが、ピョン・ウソクさんって誰?って調べたら、今まで見たことある作品にちょい役でたくさん出ていた方で。正直全然顔とか覚えてなくてびっくりなんだけど(心で覚えてるかさえも自信ない焦。麗でIUの浮気彼氏役だったの?ディアマイフレンズ、ミッドナイトランナーでどこにいた??)、そういう時代を経て、今一気に花開いているっていうのはすごく感動的なことだなと思います。この作品は彼のショーケースみたいな感じで(役に幅があるうえに歌まで歌ってる笑)、今ある全てを詰め込んだような気迫を感じました。未来が見えないまま積み重ねていくのって大変だけれども、その積み重ねが遠いところまで連れて行ってくれるのが時間のいいところ。そういった意味も含めて、忘れていた大切なものを思い出させてくれた作品だった気がします。
ウソクさんがこんなに売れたんだから、クムお兄ちゃんだってがんばればいつかはちょっとは売れるかもだよね!!
うちらもがんばろうね!!!