☆17話以降の展開を含めたネタバレしています☆
☆まずはネタバレなしで見たほうが、圧倒的に面白いです☆
つづきです。
えーと、第17話は3回で(このエントリで)締めると私は宣言していたんですが、無理でした(笑)。17話でこんなに手こずるとは…。ワンソが皇帝になって皆がいったん仕切り直すので、押さえるポイントは多いんですけども、それにしたって、どうかしているね。迷走。背伸びしながら、好きでやってますから、しょうがないです。18、19、20話は1記事ずつにしようと思ってたけど、こりゃわからんな!
あと、今更だけど、前エントリでヘスとウクについて色々書いたのは野暮だったのかもしれない笑(アップしてからも、いつも以上に書き直した)。まぁそんなこと言ったら、このブログにおける野暮にはキリがないので、野暮についてはなるべく考えないようにしてるんですが(苦笑)。
ヘスとウクは心を追うのがとても難しく、二人一緒になるとより一層難しくなるので、ついつい書いてしまったよ。ワンソはもちろん超大事として、この二人がその時々で何を考えてるのかっていうのが物語の肝なのよね…。
ただ、重箱の隅をつつくようなことばかり書いている私が言うのはかなりの矛盾だけど、このドラマは視聴者に謎解きとか深読みはそれほど求めてないと思うのです。
答えはきっとあるでしょう。細部まで途方もないほどに作りこまれてもいる。ですが、「それを全部分かれ」とか「分かる奴だけついてこい」みたいな押しつけはない。
少しフライングになりますが、「伝わるべきものは、時間がかかったとしてもきっと伝わる」というのが、この物語の最終的な希望のひとつになっていくんですよね。なぜタイムスリップものなのか、ということも含めて。だから、いま全てをわからなくていいのです。というよりも、全てを分かるなんて無理。人って後から色々気づくし、その気づきにも終わりはないのさ。
私がこうして感想やらなにやら書いているのも、最初にこのドラマを見た時とは違うものを感じているから、というのが大きいですしね。
またも前置きが長くなりましたが。
後半、というか17話が始まって15分後には、ワンソが皇帝即位後の世界が始まります(インター版だともう少し皇帝になるまで時間がかかります)。
文体が急に真面目なのは、字数を減らすための苦肉の策です…。
ウヒ
「高麗の皇帝は私の両親を殺した。わが国の王はあなたの家族を殺した。それでも私たちは一緒にいていいのか?」
「幸せの為に他人を傷つけたら、自分に返ってくるわよね?許されないわよね…」
登場人物たちが自分に正直に生きる決心・選択をしていく17話。その中で、正直になれずひとり葛藤を強める人物がウヒだ。
後百済唯一生き残りの皇女である彼女の優先順位は、祖国であり、その民。ワン・ゴンを暗殺しようとしていたのは、家族の恨みを晴らすため。恋人であるペクアを裏切ってまで、自らワンヨのスパイとなり、情報を忠実に提供していたのも、苦しい境遇にある民のため。彼女の罪にはいつも大義があった。
しかし、ついにウヒは自分のために罪を犯す。ワンソが皇帝になったことで命まで追われる同胞の左丞に、「正体をばらす。そうなればペクアも危ないだろう」と脅され、とっさに彼を殺してしまうのだ。
けれど、ウヒにはわかっている。左丞を殺したところで、後百済の皇女だという事実は変らないし、犯した罪は重くのしかかる一方だということを。
その上、スムーズに婚姻するため高麗豪族の養女になってほしい、とぺクアから申し訳なさそうに頼まれてしまう。後百済の王が、新羅の一族をペクア母の目の前で殺しており、後百済出身の者を家族として迎え入れることは難しいからだ(ペクアのお母さんとウヒは境遇がちょっと似てるところがありますね)。互いの家はあまりに不幸な因縁で結ばれている。後百済の王はウヒの祖父なのだ。ペクアには自分の素生を明かすことができそうもない。
ペクアと共にいることは、正しいことなのか。ペクアを危険にさらすのではないか。罪深い自分が幸せになっていいものなのか。ウヒの葛藤と罪悪感は増していく。
ヘスはウヒに「私たちはわがままになってもいいんじゃないか。腕や足の傷を忘れればいいのだから」と言う。だが、腕の傷を忘れることは、自分の責を忘れるということ。ウヒにとってそれは裏切りであり逃亡だ。
ウヒは、自分の幸せのために生きようとするヘスやヨンファといった女性達の対比であると同時に、皇帝となったワンソとの対比でもある。国を背負うとはどういうことか。ウヒはぺクアを心から愛しているが、皇女としての責を持ち続けているせいで、皇位と心のどちらにも正直になれずに苦悩する。
ぺクア
「生まれる前の話ゆえ、関係ないのに」
「私の過ちでもなく、そなたの過ちでもない」
「自分たちのことだけ考えよう」
「お前が私を嫌いにならない限りは、どんな理由があっても離れぬ」
ペクアもまた、生まれついた家柄のせいで苦労した人物だ。母方一族は後百済により皆殺しにあい、その後高麗に降伏した新羅王家。そのため皇宮内では肩身のせまい思いをしてきた。もともとはウクの妻であったヘ夫人に長く想いを寄せていたが、皇子としての格を気にして、求婚どころか想いを伝えることすらできなかった。ペクアは自由を求めていた。
「人生は短いのよ。いつも身分がどうの、皇子が何とかって、あきれるわ!ワン・ペクアさん、いい?元気でいても、ある日突然死ぬのが人生で、天から落ちてきてこうして暮らすこともある。だから、気の向くままに生きなさい。勝手気ままに、自由に生きるの!オーケー?」
(ヘス/6話)
ヘ夫人が亡くなったあと、ペクアはヘスから励ましを受けた。そして、次に訪れた恋を、彼は何よりも大切にする。家柄も身分も気にせずに。
恋人であるウヒと自分には、血の因縁があることはわかっている。しかし同時に、それは自分たちのせいではないし、二人の関係を縛るものでもない、とも思っている。互いの背負ったものから、自由になろうとする。自分たちのことだけ考えてもいいじゃないか。ささやかな幸せを求めているだけなのだから。気苦労が絶えなかったからこそ、彼の言葉にはわがままさよりも、優しさと切実さが感じられる。しかし、ウヒはまさに「自分たちのことだけ考えていいのか」と葛藤しているのだ。
ペクアは、ウヒがただ後百済出身というだけでなく、後百済の皇女であるということをまだ知らない。彼女は自由から最も遠い女性だ。
「恐れ入れいります、陛下」
ペクアは皇帝となったソの側近に。今まで無縁だった政治の世界に入っていく。ワンソにしてみれば大満足な人事であろうが、ペクアにとって皇帝・ワンソ(光宗)はもはや気安く「兄上」と呼べる存在ではない。一方で、弟の変化を寂しく思うワンソ。
大将軍 パク・スギョン
「実のところ、もうこの皇室がうんざりなのです」
「行き来するたびに私の娘の姿が見え、声が聞こえます。いくら違うふりをしても、刀を振り回す陛下の姿が浮かび苦しみました」
「陛下、国と民のために、聖君におなりください。必ずおなり下さい。陛下が聖君になれば、神聖皇帝陛下にも私は大口を叩けます」
大将軍が、悲劇が起きた皇宮に残りワンソ即位に手を貸したのは、娘・スンドクが殺されてしまうような酷い世を変えるためであり、ワンソを託し亡くなった初代皇帝ワン・ゴンとの約束を守るため。亡くなってしまった大切な者たちは、実在感をもって彼の心の中で生き続けている。
思えばワンヨは生前、自分が殺めた兄弟たちの亡霊だけでなく、父ワン・ゴンの亡霊にも追い詰められていた。この世界は、生きているものだけでなく、死んでいるものと共にある。死者の存在感と影響力が立ち上がるのが、17話のひとつの特徴だ。
皇帝となったワンソが強く引き留めても、大将軍の決心は変わらない。ワンソの残忍な一面を知り、その暴走を止めることができ得る人物は、こうして皇宮から去っていく。ここにいる限り、悲しみからは逃れられないからだ。
皇后ユ氏
「嘘だ!私ほどヨを知っている者はおらぬ。ヨは絶対ソに皇位をやらぬ!」
皇后ユ氏は、死に際のワンヨに拒絶されたが、それでもワンヨを理解していたという自信は揺らがない。ワンヨの死と皇帝交代のショックで床に伏して尚、彼女は怒りと疑念を爆発させる。自分の知るワンヨが、ワンソに皇位を譲るわけがないのだ。
インター版ではジョンに「ヨが死ぬときに何かあったはずだ。…そうだ、ヘス!天徳殿にあの娘を入れたそうだが、二人で仕組んだのだ」言っており、本当にお見通しな感もある。
しかし、ワンヨは次の後継者を選ばなかったものの、事実上(仕方なくではあるが)ワンソに皇位をほとんど譲っている(あの状況で、ヘスに遺書を託せばどうなるかわかったはず)。母は「完璧で無欠」の息子が、最期に弱音を吐いたことなど想像もつかないだろう。
皇后がワンヨの心を知り尽くしていたかというと、言うまでもなくそれは違うのだ。どんなに近しくても、他者の心を完全に知ることなどできない。
「お前は息子の皇位を奪った泥棒だ」
皇后ユ氏はワンソを徹底的に拒絶する。皇帝としても息子として決して認めない。かつて皇帝となったワンヨから「皇太后」と初めて呼ばれた時は、少女のように喜んでいたのに。
皇后は自分の一族に高麗から独立するよう指示する。身内のサポートがない皇帝は、他の豪族からも支持されない。そして、豪族からの支援がないまま、皇帝の座にい続けることは不可能だ。母はワンソを皇位から引きずり下ろしたいのだ。
なぜそこまでワンソを拒絶するのか。
何を愛し、何を拒絶するかは、その人の心をうつす鏡だ。
ワン・ジョン
「怖いのなら我々が守る故、正直に言ってくれ。先皇は本当にソ兄上に禅位を?」
「このままでは君主として認められません。忠誠は信頼の上に成り立つものです」
ワンソの同腹の弟であるジョンも、今回の譲位に納得していない。しかし、その理由は母ともウクとも違う。ジョンは譲位の不確かさが気に入らないのだ。皇帝になりたいわけじゃない。
息子もいたワンヨが、なぜ弟であるワンソに譲位を?しかも、ワンソとワンヨは特に不仲であったのに。
なにより、ソの譲位には、証拠が何もない。ワンヨの部屋にはワンソが破いた遺書の切れ端が残っており(ソよ、なぜちゃんと処理しなかった?)、皇后は「ワンソ以外の名前があったのでは?」とヘスに迫るが、ジョンもワンソが皇位を奪ったと確信している。彼もまた、兄であるワンヨを知っていると信じているのだ。しかも、それには根拠がある。
将軍としてまっすぐ生きるジョンは、「ならぬものはならぬ」人。あいまいな譲位は許さない。信頼できぬ君主では、戦場で命を懸けることもできないだろう。だからこそ、「先帝の遺言を明らかにせよ」と、皇帝であろうと強く迫る。(君主としてワンソに接するペクアと、ジョンの態度は対照的ですね。同腹ですしね)
「全ての不幸は、ソ兄上が松岳に来た瞬間始まったと思う。皇位争いは常だったが、ソ兄上のせいで複雑で残忍になった。皇位を奪ったのも事実だ」
ワンヨは死の間際に「こうなったのがお前のせいだ」とヘスを責めたが、ジョンは不幸の始まりはワンソだ、と言う。彼は10話でも「ソ兄上のせいで母上とヨ兄上が変わった」と言っていた。
たしかにヘスとワンソは、皇子たちに大きな影響を与えている。だが少なくともユ氏兄弟の争いは母親が元凶であり、母親が元凶となるまでにも経緯があるのだろう。さらに、ひとつの出来事には、様々な要因が積み重なっている。不可抗力もある。つまり、不幸や理不尽の始まりを特定することは不可能なのだ。これは「罪とは何か」という問題とは別に、考えねばならないことだが。
ワンヨが「ワンソのせいだ」と責めなかったのは、「自分もワンソのような扱いを母から受けるかもしれない」というある種の共感があったからだろう。ヘスに対しては、皇子の中で唯一興味を持っておらず、身分の違う者を見下す性格のため、全く共感はない(ヘスの歌を兄弟で聞くシーン<7話>にも、ワンヨだけいない)。
一方ジョンは、かつてワンソについて「愛されるにも努力が必要です」とヘスに語っており(10話)、愛情をもらったことのない人の苦しさを知らない。ワンソの気持ちが全く理解できていないのだ。ヘスに対しては好意を持っているため、共感があることは言うまでもない。
人は、立場が弱かったり、共感できない身近な人物に、不幸の原因を押し付けることがある。それは時代も国も関係なく、常に起こりうる悪しき心の現象だ。
(ワンソは皇帝となり権力のトップにいますが、母からの愛情を受けたかという観点ではジョンのほうが依然強者です)
「お前が不幸にならぬか心配だ。自分が皇后になれると思うのか?」
「皇后は、実家の名と豪族の力で皇帝の支援軍にならねば。父上が婚姻を繰り返した理由もそうだ。このままでは数多い皇帝の女の一人になる。そんな生き方でいいのか?」
ジョンは大勢いる皇子達の末っ子で、かつては、やんちゃばかり、母に甘えてばかりの子供だった。しかし今や、彼は皇宮の政治を語るまでに成長した。大人の男になったのだ。
ヘスには自由な心がある。「いつか旅に出たい。ラクダに乗り、砂漠を通り、遠い海に出たい」と願うことができるような女性だからこそ、ジョンはヘスが好きなのだ。今ヘスがいる場所は、自由からはほど遠い。ジョンにはそれが、ヘス以上にわかっている。
かつて「誰の見方もしない。審判になる」と言ったヘスが(14話)ワンソの譲位を何らかの手助けをしたことは明白であり、そのことがジョンの気持ちを傷つけたが、それでも彼はヘスを想い続けている。
「ここが嫌いになったら言え。どうしても出たければ方法はある」
もう一度言うが、ジョンはもう大人だ。
そして、大人は秘密を守る。
チェリョンとワン・ウォン
チェリョン:
「あの…お嬢様にお願いがあります」
「この機会に行けませんか?皇子様のところに行けませんか?」
ワン・ウォン:
「チェリョン、まだここで私を助けなければ」
「時が来れば、必ず連れて出る」
ついにこの回で、チェリョンとウォンの関係がはっきりと明かされる。4話でチェリョンがむち打ちにあった際は何かあり気な目配せがあり、14話でもワンムを水銀中毒にするために何かしらの結託があったことが描かれていた。
それにしたって、チェリョンは完全に利用されている(泣)。かつてウクも官女だったヘスに「必ず連れて出る」という約束をしており、それは本心だったと思うが、このウォンはそんな気さらさらない。
ユン・ソヌさんの、見ててかゆくなるような嘘くさい芝居は素晴らしい笑。チェリョンよ、何故こんな男に…と必ず思わせてくれる。そして、それが大事なのだ。なぜこんな男に。
またカメラの位置やブレから、何者の視線がある、と思わせる点も重要だ。誰かが二人の密会を目撃しているのだ。
ワンソは7話で「高麗で皇帝の目から逃れられると思うのか?」とヘスに言った。皇子たちはみな、皇帝の絶大な権力におののき、翻弄されてきたわけだが、ワンソが皇帝になってもそれは変わらない。この二人のシーンのすぐあとに、ワンソのアップのカットが入る。つまり、この「誰かの視線」は、「皇帝ワンソの視線」でもあるのだ。
おびただしい数の視線がワンソの手中にある。皇帝の目からは、誰も逃れることはできない。
つづきます…。
あとからの気づきも大事だが、最初の感想が一番まともな気もする17話エントリ。