1 通常の刑事裁判
テレビやドラマでよく見る裁判は、被告人と呼ばれる人が、証言台に立たされ、いろいろ話しているシーンだと思います。被告人の後ろには弁護士が、反対側には検察官が座っていて、証人や被告人を尋問している。中央には裁判官がいて被告人の方をじっと見ている。証言台の前に立つ被告人の後ろには、傍聴席があり、そこに傍聴人がたくさん座っている。
裁判というとこのようなシーンが思い浮かぶのではないでしょうか。
これが「公判」という、公の法廷で行われる通常の裁判です。
2 例外的な裁判
これに対し、このような形で行われない裁判もあります。
- 略式裁判
- 即決裁判
という裁判です。
なお、交通反則金制度は、あくまでも反則金というお金を支払うものであって、罰金を支払っているわけではありませんから、刑事裁判ではありません。この反則金制度は反則金を収めることによって刑事裁判を避ける手続きになります。
3 略式裁判
(1)略式裁判とは
略式裁判とは、通常の裁判と異なり、法廷での裁判を開かずに書面の証拠のみで裁判官が判断する裁判です。
検察庁から書類一式が裁判所に送られ、裁判官がその書面に基づいて犯罪事実の認定や、刑を決めます。
(2)略式裁判の流れ
略式裁判をするためには、検察官が起訴をするときに略式にする旨の申立をしなければなりません。
検察官が略式裁判の申立をすると、裁判官が書類を受け取って裁判をし、刑を下します。
略式裁判の事件については、100万円以下の罰金刑しか科すことができません。裁判官が検察官から送られた書面を確認し、罰金刑が相当と考えると、裁判所から略式命令というものが下ります。この略式命令と罰金を持って検察庁に行き、罰金を納付すれば手続きは終了です。
(3)略式裁判ができる条件
略式裁判ができるのは、以下の条件を満たす場合です。
- 起訴される罪名に、罰金刑があること
窃盗罪の場合は、50万円以下の罰金という罰金刑があるので、略式裁判をすることができます。これに対し、横領罪の場合には罰金刑はなく、起訴されれば公判を行うことになります。 - 被疑者が罪を認めていること
略式裁判手続きとなるためには、被疑者が罪となる事実を認めていることが必要です。 - 略式裁判が相当の事件であること
裁判官が、略式ではなく、正式な裁判(公判)を行うべきであると考えた場合には、略式裁判を行うことはできません。
おおよそ、以上のような3つの要件を満たした場合には、略式裁判になります。
正式な裁判ではないので、傍聴人にプライベートな事実を知られることなく、秘密裏に事件を終わらせることができます。また、必ず罰金刑以下になるので、国家資格などの関係で執行猶予付き判決も困る場合には、積極的に略式裁判を狙う必要があります。具体的には早期に被疑事実をしっかりと認め、示談や再犯防止のための環境調整など有利な事情を早期に主張し、略式裁判が相当な事件であることをアピールしていく必要があります。
4 即決裁判
(1)即決裁判とは
即決裁判とは、一応形式上は通常の裁判と同じ裁判になります。
しかし、通常の裁判とは異なり、裁判を受けたその日に判決が言い渡されます。即決裁判手続きとなれば必ず執行猶予付き判決になります。
(2)即決裁判の流れ
即決裁判をする場合も、検察官が申し立てをすることにより開始します。そして即決裁判の申立がされると、公判期日などが速やかに決められます。
裁判の日の流れは、通常の裁判と同じです。ただし、通常の裁判と異なり、例えば午前中に裁判を受けると、午後に判決が言い渡されるというように、裁判期日から判決までに何日もかかることがなくなります。
(3)即決裁判ができる条件
即決裁判ができる事件とは、以下のような条件を満たす事件になります。
- 即決裁判が相当な事件であること
事案の重大性や、証拠調べの時間などが考慮要素となります。 - 死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件でないこと
殺人や放火、強盗等では、この要件を満たさないので即決裁判申立できません。 - 被告人が罪の事実を認めていること
- 被告人・弁護人が即決裁判をすることについて同意していること
- 弁護人が既についているか、ついていない場合には速やかに裁判所により選任されること
このような条件を満たす場合に、即決裁判手続きを行うことができます。
必ず執行猶予判決がつけられるので、この裁判が開始された段階で、実刑判決はほぼなくなるので、罰金では終われなさそうであるが、実刑を避けたいという場合には積極的に主張していく意味があります。
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