ラブグラフ・駒下代表が語る、出張撮影とカメラマン育成の新ビジネスモデルとは - ミーツキャリアbyマイナビ転職

日常の幸せを切り取り、やさしい世界を作る。出張撮影のゲームチェンジャー・駒下純兵

ラブグラフ駒下純兵さん


フォトウェディングや子供のお宮参り、七五三の記念写真。そうした節目の写真だけでなく、飾らないファミリー・カップルの姿や日常を美しく切り取るサービスがあります。

“撮りたい人”と“撮られたい人”をつなぐ出張撮影プラットフォーム「ラブグラフ(Lovegraph)」。出張撮影の先駆けとして2015年にローンチし、現在では全国で1000名以上のカメラマンが登録するまでに成長しています。

創業者である駒下純兵さんは、「世界に幸せを広げたい」という思いを胸に、ラブグラフを学生起業。一時期は事業が伸び悩み、精神的に追い詰められながらも「やめる選択肢は微塵もなかった」と言います。

さまざまな壁を乗り越え、それまでの「記念写真」の概念を大きく変えたラブグラフ。どん底からいかに這い上がり、ゲームチェンジを果たしたのか。駒下さんに、起業から現在までの歩みを伺いました。

「リアルな日常の瞬間」を切り取りたい

──ラブグラフでは「幸せな瞬間を、もっと世界に。」というビジョンと、「世界中の愛をカタチに」というミッションを掲げています。写真を撮ることが、どうして“幸せ”や“愛”につながるのでしょうか?


株式会社ラブグラフ 公式サイトのトップページ

駒下純兵さん(以下、駒下):僕も含め多くの人は、今いる環境に慣れてしまうと、日常にあるはずの幸せを認識しにくくなると思うんです。例えば、家族と毎日なにごともなく過ごせていること、一緒にご飯を食べられていること。そういう当たり前の幸せに目を向けることが少なくなり、「もっと贅沢な暮らしがしたい」とか「あの人に比べて自分は……」などと考え続けてしまう。

でも、そうやって「ない」ものに捉われてしまう人生って、あまり幸せではないと思うんです。まずは、目の前に「ある」幸せに気づいてもらうことに、僕らのサービスを役立ててほしいと考えました。つまり、一人ひとりの「幸せな瞬間」を写真で切り取り、何度も見返してもらうことで今の幸せを実感してもらいたい。それを世界に広げていきたいという思いをビジョンとミッションに込めています。

──ラブグラフで写真を撮った人は、どんな「幸せな瞬間」に気づくのでしょうか?

駒下:例えば、小さな子供と一緒に写真を撮ったお母さんが「私って子供を見る時、こんなに幸せそうな顔してるんだ」とおっしゃったり、カップルが「私が恋人に向ける顔ってこんな感じなんだ」とうれしそうに笑ったり。自撮りじゃ分からない自分の一面に気づくという声を数多くいただきます。

──昔ながらの写真館や撮影スタジオで撮る記念写真とは、また別の良さがあると。

駒下:そうですね。写真館で撮影するものと違いがあるとすれば、ラブグラフの写真は、日常のリアルを切り取るところだと思います。例えば、僕が撮影したお客様で印象的だったのは、お子さんが生まれたばかりの、とあるご家族です。思い出の家族写真を残すとなれば、髪も化粧もバッチリキメた状態で撮りたい人が多いと思います。ところが、僕は撮影時には気づかなかったのですが、お母さんがいわゆる「プリン髪」で撮影に来られていたようなのです。

ラブグラフ駒下純兵さん

でも、その方はあとで当時の写真を見返した時に「あの時は自分の身なりを気にかけていられないほど子育てが大変だった。そう考えると、このプリン髪すら愛おしく思えてきます」とおっしゃってくれました。リアルな日常の瞬間を残すことは、リアルな記憶を呼び起こすきっかけにもなるんだなと思いましたね。

小学校の卒業式で「歴史に名を残す」と宣言

──現在の「ラブグラフ」には約1000名の「ラブグラファー(※ラブグラフが撮影を委託しているカメラマン)」が登録されているそうですが、サービス開始当初は駒下さん自らが出張カメラマンとして撮影していたそうですね。そもそも、どんな経緯で写真を始め、出張撮影というサービスに行き着いたのでしょうか?

駒下:カメラを手にしたのは大学在学中です。友人を撮って喜んでもらったり、SNSで自分の写真に反応してもらえたりするのがうれしくて、どんどんハマっていきましたね。

当時はTwitterのフォロワーを増やすことが一つのモチベーションになっていて、大学2年生の時点で5000人に達しました。でも、フォロワーが増えてもあまりうれしくなくて、逆にちょっとモヤモヤしてきたんです。「自分は何のために写真を撮っているんだろう」と。

立ち戻って考えた結果、僕は「人に喜んでもらうため」に写真を撮るのが好きなんだと気づきました。フォロワーを増やすため、自分のためではなく、誰かのために写真を撮っていこうと、改めて思ったんです。

──それで、「ラブグラフ」を立ち上げた。

ラブグラフ駒下純兵さん

駒下:いえ、最初は「戦場カメラマン」になろうと思ったんですよ。

──え! どうしてですか?

駒下:写真を始める前から、なんとなく「世の中を良くすることに貢献したい」という気持ちを持っていました。小学校の卒業式でも、みんなの前で「俺は歴史に名前を残す」と宣言するくらい(笑)。

また、大学ではジャーナリズムを学んでいたこともありましたし、そこに自分の武器である写真と「世の中を良くしたい」という思いが合わさって、「よし、戦場カメラマンになろう」と。戦争の悲惨さを世界に伝えることで、少しでも平和な世の中に向かってほしいという思いでした。

ただ、偉大な戦場カメラマンが撮影した写真や足跡を調べるうちに、確かに先人たちの功績は素晴らしいものがあるけど、今も戦争はなくなっていない。世界を平和にしたり、多くの人を幸せにするために、自分にできることはほかにあるんじゃないかと考えるようになりました。

ラブグラフ駒下純兵さん

そこで思い浮かんだのが、「ラブグラフ」の構想です。悲惨な写真を目にした人は「こんなことを起こしてはいけない」と思うかもしれませんが、幸せな日常の写真を見て「この日々を守りたい」と思うことも、世界平和につながっていくのではないかと。写真を通じて「自分の人生、けっこう幸せだな」と思える人が増えれば増えるほど、優しい世の中を作ることができると思っています。

──それで、出張撮影サービスを請け負うWebサイトを立ち上げたわけですね。

駒下:そうですね。最初は自分の個人ブログやTwitterに写真を載せて、そこで撮影してほしい人を募集すればいいかなと思っていたのですが、知人から「Webサイトを作ったほうがちゃんとしたサービスに見えると思う」と言われて。

それがのちに共同創業者になる村田あつみ(現:ラブグラフCCO)なんですけど、彼女は学生ながらスタートアップでデザイナーとして働いていたこともあって、すでにビジネス的な観点やクリエイティブを重視する感性を持っていたんです。

それから村田が作ってくれたWebサイトに僕が撮影したカップルの写真をアップしたら、いきなり大きな反響がありました。撮影依頼もどんどん入るようになって、急に忙しくなりましたね。

──当時は駒下さん一人で、さまざまな場所へ出張撮影に出向いていたと。

駒下:当時住んでいた大阪から、山梨や福井、福岡などいろんなところに行きました。時には片道5〜6時間かけて、一組の高校生カップルを撮りに行ったこともあります。

ただ、僕一人だと時間的にもコスト的にも厳しくなってきて、離れた場所の撮影は現地近くのカメラマンにお願いするようになりました。幸い、写真好きの間ではわりとラブグラフのことは知られていて、Twitterで呼びかけると多くの人が「ラブグラフのカメラマンをやりたい」と名乗り出てくれたんです。

退職者が続出。何もかもうまくいかない日々

──その後、大学3年生の時に起業し、「仕事」として本格的にサービスを開始しています。

ラブグラフ駒下純兵さん

駒下:じつは、当初は起業するかどうか迷っていたんです。大学卒業後はどこかに就職して、ラブグラフは副業として続ける選択肢もあるかなと考えていました。

大きなターニングポイントになったのは2つの出会いです。1人目は、中高生向けにプログラミング教育サービスを実施しているライフイズテック株式会社の水野雄介さん。水野さんに会社にするかどうか迷っていると相談したら、「何を迷ってるんだ、やるしかないだろ!」と言われて、その日のうちに行政書士を紹介してくれたんです。そのおかげで、あれよあれよという間に会社ができてしまいました。

2人目は、投資家の千葉功太郎さんです。当時コロプラの副社長だった千葉さんと学生向けのイベントで知り合い、お話する機会をいただいたんです。そこでラブグラフのことを話したら、とても興味を持ってくださって、力強い言葉で背中を押してくれたんです。

──どんな言葉をかけられたのでしょうか?

駒下:千葉さんは「君はもっと自分のサービスに自信を持ったほうがいい。だって、ラブグラフが大きくなればなるほど、必ず人を幸せにできるんだから。世の中を便利にするサービスはたくさんあるけど、幸せに直結するサービスは少ない。だからこそ、君にはラブグラフを大きくする義務がある。僕も応援するよ」とおっしゃってくれました。言葉だけでなく、実際に投資もしていただいて。その時に、この道一本でやっていく覚悟が決まりましたね。

──うまくいく自信はありましたか?

駒下:ビジネスとして成功するかどうかは分かりませんでしたが、僕以上にこのサービスを良いものにできる人間はいないだろうと思っていました。そういう意味での自信はありましたね。

ただ、実際に始めてみると、やっぱりいろんな苦労はありました。特に起業3年目の2017年あたりがどん底で、組織が崩壊する一歩手前くらいまでいってしまったんです……。

──どんな状況だったんですか?

ラブグラフ駒下純兵さん

駒下:まず、社員が立て続けに辞めてしまったことなど、いくつかの理由が重なって会社の雰囲気が最悪でした。社長としてチームを鼓舞したいと思っても、何を言ったところでお手上げという感じの雰囲気でしたね。

また、人手が足りないから事業の売上もなかなか伸びず、それでもお金だけはどんどん出ていく。僕自身も心の余裕が失われて、ますます社員からの求心力も落ちていく。そんな負のループに陥っていました。

──それでも、会社を閉じようとは思わなかったのですか?

ラブグラフ駒下純兵さん

駒下:自ら投げ出すという選択肢は、微塵もありませんでした。こんな最悪の状況でも残ってくれているメンバーはいるし、協力してくれるカメラマンも多い。また、このタイミングで会社に投資をしてくれる人もいました。そうやってラブグラフに期待してくれている人たちの思いに報いたい、なんとか筋を通したいという気持ちがありましたね。

どん底から立ち直れた理由は複数あるのですが、大きかったのは、当時LINEに在籍していた吉村創一朗(元:ラブグラフCXO)が入社してくれたこと。当時から同世代のなかでは飛び抜けて活躍していた吉村が、ラブグラフの窮状を知ってなお再建に力を貸してくれることになったんです。

吉村は入社するやいなや、社員全員の前で「俺が来たから、もう大丈夫」と言ってくれて、僕自身もその言葉に救われました。

カメラマンと写真家の中間の存在「ラブグラファー」

──どん底を抜け出してから、どのような変革を進めたのでしょうか。

駒下:サービスの戦略を大きく見直しました。それまではカップルやウェディングの撮影をしてきましたが、メインターゲットをカップル層からファミリー層へ転換しました。それに伴って、UI/UXの変更や新しい商材の設計、プラン改定に注力したり、あとは七五三の撮影なども始めました。

試行錯誤しながらいろんなことをやって、大きな需要があるところがようやく見えてきたという感じでしたね。その結果、新規受注が大幅に伸び、これまでに見たことのない額の売上が立つようになっていったんです。

ラブグラファーが撮影した家族写真
ラブグラファーが撮影した家族写真

──サービスが成長、拡大するにつれパートナーであるラブグラファーも増えていったと思いますが、人が増えると写真のクオリティを保つのが難しくなったり、ラブグラフとして守りたい世界観を担保するのが難しくなりませんか?

駒下:確かに難しいです。僕らもこれまでいろんなことをやってきましたが、最終的には「採用」と「教育」という結論に至りました。ラブグラフに限らずすべての組織の基本だと思いますが、結局のところ「どういう人を採用するか」が8割で、残りの2割は「その人をどう教育するか」。この2つが、組織のカルチャーを守っていくのに最も大事なことではないでしょうか。

ラブグラフ駒下純兵さん

例えば採用だったら、そもそもラブグラフのことが好きな人やラブグラファーと属性が近い人を採用すれば、大きく方向性がズレることはありません。また、撮影の技術に関しても2020年に「ラブグラフアカデミープラス」(現:「ラブグラフアカデミー」)という月額制の写真教室事業をスタートし、スキルがゼロの状態からカメラマンを育てる仕組みができたことで、ラブグラフとしての撮影クオリティを担保できるようになりました。

──ラブグラフアカデミーで学んだ生徒を、ラブグラファーとして採用する流れもあるのでしょうか?

駒下:よくあります。そもそも写真教室をやろうと思ったのは、より多くのカメラマンを採用したかったというのも理由の一つです。

というのも、それまでは多い月で200人くらいカメラマンの応募があったのですが、実際にラブグラファーとして採用できるのはそのうち10%くらいでした。ラブグラフの思いにすごく共感してくれていたり、とても人柄の良い人もたくさんいたのですが、写真のスキルがないから採用できないことも多かったんです。それって、すごくもったいないなと。

──カメラマンは技術職ですし、「写真のスキル」で選別するのは間違っていないようにも思いますが。

駒下:たしかに、写真のスキルはあるに越したことはありませんが、ラブグラファーは撮影を通じて、被写体であるカップルやファミリーの「幸せな瞬間」や「日常のリアル」を切り取るのが仕事です。どんなに写真のスキルが高くても、被写体の心に寄り添えない、ラブグラフの世界観に共感できない人は務まらないんです。

そこでアカデミーを始め、すでにラブグラファーとして活躍している人たちに講師をお願いしました。「ラブグラファーとして活躍したいけど写真のスキルに自信がない」という人はそこで技術を磨き、希望者はそのままラブグラフで活躍できる。そんな、良い循環が作れるんじゃないかと思ったんです。

──写真のスキルを身に付けられ、ラブグラファーとして仕事も得られる。ある意味、プロのカメラマンになるための新しい仕組みと言えるかもしれません。

駒下:明確に仕事を用意できる環境があるというのは、ほかの写真教室にはないアドバンテージの一つかもしれません。カメラマンのファーストキャリアを生み出すプラットフォームにはなれているのかなと思いますね。

また、ラブグラファーというのは「カメラマン」と「写真家」の中間のような存在だと思っています。そういう存在を作れたというのも、一つ大きなことだったのかなと。

──「中間の存在」とは、どういうものでしょうか?

ラブグラフ駒下純兵さん

駒下:カメラマンはクライアントの意向を100%の力で体現する仕事。写真家は、クライアントの要望に沿うだけでなく、その人自身が表現する世界観にファンがつく。これまでは、その2種類くらいしかなかったように思います。

一方、ラブグラファーはクライアントであるファミリーやカップルに喜んでもらうための写真を撮る「カメラマン」の側面もありつつ、その人ならではの表現方法でファンを獲得する「写真家」としての側面もあります。お客さんがラブグラフのWebサイトに載っているポートフォリオを見て「この人に頼みたい」と依頼をする仕組みもあるからです。

ラブグラフではサービス開始当初から、撮影をお願いするパートナーの位置付けをどうするかを考えに考え抜いて設計してきました。その結果、カメラマンと写真家の中間にあたるラブグラファーという、独自の立ち位置を確立できたのではないかと思います。

まとめると、出張撮影の需要を広げられたこと、カメラマンの育成システムでその需要に応えられる人材を安定して確保できたことが、事業として良い循環を生み、出張撮影プラットフォームとしての価値につながったのだと感じています。

不満ではなく「やりたい」を燃料にする

──駒下さんは現在29歳。30代に成し遂げたい事業計画を教えてください。

駒下:僕は10年単位でざっくりとした人生のロードマップを決めていて、30代は「グローバルで通用する経営者になる」ことを目標に掲げています。そのためにも、まずはラブグラフのサービスを世界に広げていきたい。

すでに英語のWebサイトを作り、英語対応可能なラブグラファーをアサインできる仕組みなどは整えているのですが、今後は国内だけでなく世界中のいろんなところで撮影できるようにしたいですね。

例えば日本からフランス旅行に行った時に、現地のラブグラファーに撮影してもらうなど、ラブグラフを世界規模で展開できたら面白いかなと思います。

──駒下さんのように人生の目標を定め、挑戦し続ける姿に憧れを抱く人も多いと思います。駒下さんは、どのようなマインドでビジネスに向き合われてきましたか?

ラブグラフ駒下純兵さん

駒下:居心地の良い環境から脱することを意識していました。コンフォートゾーンはとても楽ですが、そこで立ち止まってしまうと動けなくなりますよね。やはり、何かに挑戦しようとなれば、刺激も必要だと思います。その時は腹にぐっと力を入れて「よし! やるぞ!」って動き出します。

環境を変える時は“不満”を動機にしないことも大事だと感じます。今の上司が嫌いだからとか、給料が安いから……という不満よりも「これをやりたい」という前向きな理由で挑戦するほうが大成するんじゃないでしょうか。

そういうチャレンジをできる人が増えるといいなと思いますし、自分自身も年齢に関係なく、そうでありたいなと思います。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
撮影:関口佳代

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