「仕事のやりがいとは?」社会人であればきっと誰もが、特にまだ模索の時期である社会人数年目の頃はこのような悩みにぶつかることが多いかもしれません。
堀口英剛さんは、学生時代に自身のブログ「monograph」を立ち上げ、現在は株式会社ドリップの代表を務めています。大学生も含めた若手メンバーとのチームプレーで「本当にいいと思うものを作り、広める」仕事をする堀口さんに、仕事・ブログに共通するやりがいについてお聞きしました。
PROFILE
自分がいいと思ったものを人に勧めたい
――堀口さんは大学生の頃にブログを始めたんですよね。最初に「書きたい」と思ったきっかけは何だったのでしょうか。
片道2時間の通学時間を有効に活用したいなと考えていて、思いついたのがブログを書くことでした。当時mixiに映画の感想や考察をよく書いていたんです。それを「おもしろい」と言っていただく機会が多かったので、だんだんと「もっと人に読まれるものを書いてみたい」と思うようになり、自分のブログを立ち上げました。
――「仕事にしたい」という野望もあったのでしょうか?
それはまったく考えていなかったですね……。初めてすぐの頃はとにかく興味のあることを手当たり次第に書いていました。「パズドラ(パズル&ドラゴンズ)」が流行っていた時期には新しいコースの攻略法を書いていましたし、漫画『ONE PIECE』の考察を書いたりもしましたね。
書き続けていたら徐々にアクセスが増え始め、立ち上げから4カ月〜半年後くらいには広告収入が入るようになり、1年3カ月後には月間100万PVに到達しました。そこから徐々に、自分の好きな生活雑貨や電化製品などをメインに取り上げるメディアに方向転換していきました。
――大学卒業後は大手企業に就職したと伺いました。そのままブログを仕事にする道もあったのかなと思いますが……。
考えないこともなかったのですが、このまま同じことをしていても今の延長にしかならないなという気持ちもありました。一度就職して大きなメディアを見ることで、今の自分と大手メディアの間を埋める方法というか、どうすればブログをもっと大きなメディアにできるのかを知りたくて、ヤフー株式会社に就職を決めました。
――では、就職は「monograph」のための勉強という意味合いも強かったのでしょうか。
そうとも言えるかもしれません。僕は広告営業のチームに所属していて、億単位の大きな案件を扱う仕事が多く、全体的な予算の規模や仕組みを知れたのはいい経験になりました。ブログに入ってくるお金は企業が広告やPRに割く予算の末端であることが多いので、ブログをやっているだけではメディアビジネスにおける全体的なお金の流れは学べなかったと思います。
――あくまでも、堀口さんのやりたいことの軸はブログにあったんですね。会社の仕事のモチベーションが下がってしまうことはなかったのでしょうか。
良い仲間にも恵まれましたし、先ほど話したようにはっきりとした目的もあったので、会社の仕事にはやりがいを感じていました。あとはブログをやっていることを社内でも公言していたので、それゆえに本業の手を抜けないところはありましたね。本業をサボって副業をやっていたら社内での印象が悪いですよね。なので、会社の仕事とブログをそれぞれ単体でやるのに比べて、1.5倍ずつくらいの労力がかかっているような感覚がありました。どちらかに比重を置くとどちらもつぶれるので、両方150%で頑張らないと成り立たない。それは大変なところでしたね。
――両立のために何か工夫したことはありますか?
通学の時間がなくなった分、学生時代と同じように時間を作ることが難しくなったので、1日一度は必ずカフェに寄ることをルールにしました。仕事でどんなに疲れていても夜遅くなっても、開いているカフェに寄って帰る。それを習慣にすることで、強制的にブログを書いたり動画を編集したりする時間を作りました。そのおかげで1日1本くらいのペースで更新を続けられました。
――そこまで頑張れるのって、一体どうしてなのでしょうか……?
僕は自分がいいと思ったものを人に勧めたい欲求がかなり強くて、例えばおもしろそうなイベントは必ず友達を誘いますし、自分が使ってよかったものをなかば無理やり買わせることもあります(笑)。単純に「これ良いから試してみてよ」を多くの人に向けてやっているだけなので、苦に感じることがほとんどないんですよ。
一緒に喜べる相手がいることがチームプレーの楽しさ
――2017年にヤフー株式会社を退職して、ご自身の会社を立ち上げたんですよね。
ヤフー株式会社で大きな額の広告予算を扱う中で、「僕のブログに同じ金額を投じてもらえたらもっと大きな効果を出せるのに」と思うことも多々あって。マスメディアや大手のインターネット広告ではなく、個人のメディアの力をもっと活用したいという気持ちが強くなり、その思いを実現するためにdripを立ち上げました。
――商品の企画や制作を事業のメインにしたのはどうしてですか?
いわゆる「インフルエンサーマーケティング」と呼ばれている、お金を払ってブログなどで商品をPRするという仕組みがそれまでは主流でしたが、商品の売り方の新しい形にチャレンジしてみたくなりまして。クリエイターと一緒に商品を作るやり方なら、インフルエンサー自身が心からおすすめしたいものを作れますし、広告収益ではない物販という方法で収益を得ることができます。同じ「個人の力を活用する」でも、こちらのほうが自分にとっての違和感が少ないと感じたんです。
――「心からいいと思うものを個人の力を活用して伝えたい」という軸は「monograph」と同じなんですね。個人ブログと会社の仕事は異なる部分も多いと思いますが、どんなところにチームプレーでのやりがいを感じますか?
いま従業員は僕含め3人、大学生のインターンが4人という構成なんですが、例えば商品が売れた時など、何かいいことがあった時に一緒に喜べる相手がいるのはいいなと思います。また、それぞれに得手不得手があるので、仕事を分担して得意な人に割り振れるのも、チームプレーならではの良さですね。
それから、普通に生活していると大学生と話す機会なんてないですよね。年が離れている人と話したり意見を聞ける場は貴重ですし、新しい感覚を知れて勉強になることも多いです。
――現在は「drip」は自身の事業として、「monograph」はその会社の事業としてではなく今も学生時代と同じように個人で取り組んでいるんですよね。「drip」も「monograph」も根底のやりがいは共通していると思いますが、会社の仕事と個人プロジェクトで分けている理由はなんですか?
僕は「monograph」を趣味のような位置付けでやることが非常に大事だなと思っています。というのも、「仕事だから頑張れること」と「仕事じゃないから頑張れること」があるからなんです。
例えば僕は仕事が終わったあとで2〜3時間かけて「monograph」用の動画撮影や編集をやることがありますが、それは「会社の仕事」になったとたん「残業」になりますし、「朝から晩までずっと働いている」状況になってしまう。それだとつらさを感じる時もあるなと思っていて。なので、「monograph」はあえて事業化しない道を選びました。もしも今宝くじで10億円が当たったとしても、「monograph」の更新は続けていくと思います。
――最後に、「自分の仕事のやりがいってなんだろう?」とモヤモヤしたり、その状況を打破したいと感じている人になにかアドバイスはありますか?
偉そうなことは何も言えないのですが……。必ずしも本業が「好きなこと」でなくてもいいと思いますが、もし好きなことがあるなら本業にも最大限活用できるといいなとは感じています。
例えば、僕は「いいと思ったものを人に勧める」のが好きで、特に家電やガジェットには詳しかったので、会社員時代は営業の仕事で会う取引先の方に「今ならこれを買った方がいいですよ」「いいお店知ってるので一緒に選びましょう」とアドバイスをしたりしていました。相手に興味を持ってもらえるとうれしいですし、そこから仕事の話につながることもあったので、自分の得意技や趣味があれば隠すより出していくといいのかなと。趣味や副業を武器にすることで、本業にも広がりが生まれやりがいを感じやすいのかもしれません。
(MEETS CAREER編集部)