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銀行はどう判断する?中小企業の経営者向け「役員報酬」の決め方【教えて!吉田先生】

2024.10.16

著者:弥報編集部

著者:吉田 学

「中小企業の役員報酬はどれくらいにすればよいのだろう?」と、頭を悩ませる経営者も多いのではないでしょうか。

多くの場合、税金や社会保険、売上・利益などを考慮しながら決定していると予測されます。とはいえ実情はどうなのか、具体的にどのように決めているのか事例を知りたいと考えている方もいるでしょう。

今回は、企業に融資をしている銀行や信用金庫などの金融機関は、どういう視点で「役員報酬」を評価、判断しているのか?という視点で、財務・資金調達コンサルタントの吉田学先生に解説していただきました。

※本記事は2024年9月時点の情報を基に作成しております。法令などの最新情報については、政府・各省庁などから出ている文書をご確認ください。


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中小企業の役員報酬額はどれくらいが適正なのですか?

一般論ですが、国税庁の「民間給与実態統計調査結果」によりますと、資本金2,000万円未満の企業における役員報酬の平均は年647万円とのことです。この数値は一つの参考になると思われます。しかしながら、実際は企業の業績(売上・利益など)や税金や社会保険など、その他諸々の状況に応じて役員報酬を決定しているでしょう。

また、役員報酬額は「定期同額給与」(毎月同額の給与)であり、原則として決定したら1年間(期末まで)は固定となります。よって、企業の利益に大きく影響しますので、十分な検討が必要です。

役員報酬額を決定する基本ポイントをまとめますと「定額同額給与」「企業の利益(業績)」「税金および社会保険料」の3点に留意をして決定することになります。税制上のメリット・デメリットとの兼ね合いなどもありますので、必ず顧問税理士に相談して決定するようにしてください。

金融機関は役員報酬額をどのように見るのですか?

金融機関は小規模・中小企業に対して、一般的にはやはり「業績」との兼ね合いによって判断していると思われます。例えば以下の2つの企業を比較してみましょう

A社もB社も同じ利益額500万円であり利益率5%です。5%が業種の平均的な利益率だとすると、A社とB社のどちらを評価するでしょうか。表面上の額も率も同じですので、そういう意味においては同じ評価を得ることができるという見方もできます。

次に、役員報酬を比較してみましょう。A社の社長は1,000万円ですが、B社は500万円の役員報酬となっており、A社の社長の方が2倍の報酬額となっています。

複数年このような損益状況が継続されているとして、金融機関の視点としては、A社に対しては「社長はしっかりと報酬を確保しており、個人資産の貯蓄もしているかもしれない。よって業績悪化の際などは、役員借入金や増資で財務の安定化を図ることも可能であり、また役員報酬を引き下げて利益を捻出し、収益性を確保することも可能かもしれない」という見方もできないわけではありません。

それに対してB社に対しては、例えば「役員報酬500万円で家族4人の生活はできているのだろうか?貯蓄もなさそうだ。報酬の引き下げもできないだろうな」というような見方をしているかもしれません。

そしてC社ですが、複数年に渡って赤字であり、多額とも判断できる役員報酬額を取っている状況で、資金繰りが厳しいから融資をしてほしいと言われても金融機関としては、やはり厳しい回答にならざるを得ないでしょう。

次に、ケース1(A社、B社)の状況から翌期の決算がケース2のようになったらどうでしょうか。

これは極端な例かもしれませんが、共に利益額10万円、利益率0.1%です。両社ともギリギリの利益であり、事実上「赤字」と判断されても仕方がないといえます。

A社においては今期このような結果になったものの、これまでは安定して利益を出し役員報酬1,000万円を得ていたとしたら、来期に向けて改善計画などを立てて、状況によっては役員報酬を減額することもでき、再生の可能性が非常に高いと判断してくれることもあります。よって、(B社と比較すると)追加の融資支援などを受けられる可能性が高いといえるでしょう。

それに対してB社はどうでしょうか。実際問題として、これ以上役員報酬を下げることは難しいかもしれません。A社と比較すると金融機関の見方は厳しい結果になることが予測されます。

さらに、両社とも売上高1億円は維持していますが、もし減少していたらどうでしょうか。B社はA社よりさらに厳しい見方をされる可能性が高いです。融資交渉などは非常に困難になっていきます。

「金融機関の担当者や支店長より高い役員報酬だとマイナスイメージになる」という噂は本当ですか?

さまざまな考え方や見方があります。筆者の個人的な意見ですが、この件に関してはあまり深く考える必要はないと思います。

ちなみに、日経転職版の年収調査によると、業界別で「銀行(都市・信託・信金・信組)」の平均年収は783.5万円、全体(都市・信託・信金・信組)の平均年収702万円とのことです。

出典:銀行員の平均年収はいくら?年代別・男女別・地方銀行やメガバンクなど分類別にも解説|日経転職版

また、以下にメガバンク、地銀、信金の年収イメージをまとめてみました。

先ほどのA社、B社を例に考察してみましょう。A社の社長は、地方銀行の支店長とほぼ同等の年収になります。信用金庫の支店長より社長の年収の方が高くなります。信用金庫はマイナスイメージを抱くのでしょうか?

B社の社長は信用金庫の平均年収くらいになります。そうするとプラスイメージになるのでしょうか?A社よりB社の方がプラスイメージなので融資を受けやすくなるといえるのでしょうか?決してそんなことはありません。単に「自分より給与が高い」「うちの支店長より給与が高い」という理由だけで、ネガティブな判断をするとは思えません。

連続赤字や事業再生の際は、役員報酬を下げなくてはいけませんか?

極端な例ですが、リスケジュールの依頼する際に「社員の給与は30%カット、しかしながら役員報酬は現状維持」ですと、金融機関はどう思うでしょうか。

基本的には、業績悪化の責任は経営者にあります。金融機関は、役員報酬を下げないという姿勢をどう判断するでしょうか?役員報酬も生活を守りながらも削減する姿勢を示す必要があります。状況に応じて判断するようにしてください。

業績の良い時に役員報酬は取れるだけ取った方がよいのでしょうか?

役員報酬に関しては、基本的には税金や社会保険料の兼ね合いもありますので、顧問税理士や社会保険労務士に相談しながら検討してください。売上・利益が上昇、安定しているときは、役員報酬をアップさせてもよいと思います。1,000~2,000万円の報酬を得ても大きな問題はありません。

繰り返しますが、しっかりと個人資産を貯蓄して、いざというときには資金を投入することができると理想です。もちろん社長にも生活がありますので、すべて会社のために!というわけではありませんが、やはり中小企業の経営者にはそういう意識を持ってもらいたいと思います。


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この記事の著者

弥報編集部

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吉田 学(よしだ まなぶ)

財務・資金調達コンサルタント
株式会社MBSコンサルティング 代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)、「税理士だからできる会社設立サポートブック」(第一法規)などがある。
また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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