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「大盛りにしといたよ!」はありがた迷惑?現代はサービスの定義が難しい

2022.06.28

著者:弥報編集部

監修者:小保下 グミ

お店を経営していると、オマケやサービスをしてお客さまにより喜んでいただきたいと思う場面が出てくるものです。しかし昨今は、消費者の食への向き合い方や物の所有に対する価値観の変化などにより、無料のサービスが必ずしも喜ばれるとは限らなくなっています。

そこで本記事では、「ありがた迷惑」だと取られやすい具体的な事例をご紹介するとともに、サービスをしたい店側とそれを受けるお客さまとの間に生じかねない、すれ違いをどう防ぐべきかについてお伝えします。


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「大盛りにしといたよ」は時代遅れ!現代のトレンドは少食

ホットペッパーグルメは、2021年のグルメキーワードの一つに「0.7食」を挙げました。新型コロナウイルス感染症の影響で肥満や運動不足を気にする人が増えたことも相まって、近年は少食の人が増えているといわれています。

私と夫が経営している飲食店でも、5〜6年ほど前から食べ盛りだとされる20~30代の男性から「ご飯少なめで」と注文されることや、女性向けに提供している少量セットのオーダーが入るようになりました。当店は、夕方以降は居酒屋のようなスタイルで営業をしていますが、お酒を飲んだあとの”締め”を注文されない方も増えています。丼メニューの”ご飯抜き”をオーダーされたときはさすがに驚きました。

飲食店を経営している人の中には、若い男性にはご飯を大盛りにしたり、常連さんにコソッとおかずをサービスする方が多くいます。「たくさん食べて、お腹を満たしてほしい」「お客さまに喜んでいただきたい」と思って、サービスをしているつもりなのです。しかし、体調管理のためにあえて少食を選んでいる人にとっては、こうした店主の厚意はありがた迷惑になりかねません。日本人にははっきりNOと言える人が少ないので「せっかく頂いたのだから、食べなくちゃ」と、無理をして食べている人もいるということです。

「若いから」「たくさん食べそうだから」という理由だけでサービスをするのは、もはや時代遅れなのかもしれません。

「ナチュラル志向」など人々の嗜好は多様化している

ナチュラル志向・健康志向の高まりを受けて、添加物や砂糖がたっぷり入った食品を子どもに与えたくないと考える親御さんが増えています。しかし、先ほどの大盛りと同様に、家族づれが来店した際に、お子さまが喜ぶだろうからと菓子やジュースをサービスするお店があります。これは「お菓子がもらえるからあのお店に行きたい!」と子どもから親に言わせる集客テクニックの一つです。

当店でも以前、知り合いがお子さん連れで来店したのでジュースをサービスしようとしたところ、「親からジュースを禁止されているので、お水がいい」と断られたことがありました。外出先で余計なものを貰わないようにしっかり教育がなされているのだと、とても印象に残っています。大人の場合も「無料で何杯も飲めるお冷より、有料でもいいから体に優しいものを飲みたい」と、ホットドリンクを注文する人が増加傾向にあります。

実は、私も甘いものや体に良くないとされる添加物などはできるだけ控えたいと考えている1人です。美容室でいただくお菓子にも、正直いつも戸惑います。ですから、サービスを望まないお客さまの気持ちもよくわかるのです。

人によって「口にしたいもの」「したくないもの」はさまざまですから、そのあたりも配慮が必要と考えましょう。

無料の物をいくらサービスしても喜ばれない時代

ありがた迷惑と思われかねないサービスは飲食店に限らず、小売業界にも存在します。例えば、買い物をした際にエコバッグをおまけにもらった経験がある人も多いと思います。喜ばれそうなサービスに聞こえますが「大好きなブランドの物なら嬉しいけれど、そうではない場合はゴミになるだけなので持ち帰りたくない」と感じる消費者が、近年は増えているのです。特に、今の若い世代に多い傾向があります。30代半ばの私自身も、不要だと感じるノベルティなどはなるべく遠慮するようにしています。欲しいものがあれば、自分で買えばいいのです。

消費者にこのような考えが広まった背景には、ミニマル志向の広まりが関係しています。ミニマル志向とは、質の良い物を必要最低限の数だけ持つライフスタイルのこと。物質的に豊かな環境で生まれ育った現代人は、自分の気に入ったものだけで生活するシンプルな暮らしを求める傾向にあるのです。

また最近の消費者は、その事業者が倫理的に真っ当なことをしているか、社会的責任を果たしているかを見て、商品やサービスの購入を決める傾向もあります。フェアトレードのコーヒー豆、環境に配慮した原料のみを使ったシャンプーなどが良い例です。商品の質の良し悪しだけではなく、販売元である企業がどのような思想信条を持っているかが、商品やサービスを購入する一つの判断材料になっているのです。

“すれ違い”を防ぐ解決方法とは?「与えるサービス」から「手間をかけさせないサービス」へ

お客さまに無料のサービスで喜んでもらいたいと考えるお店側と、不要なものはもらいたくない、かえって迷惑だと感じている消費者。両者のすれ違いを防ぐには、どうすればいいのでしょうか。

その解決方法は、とてもシンプルです。「サービスを行なう前に相手に必要か、不要かを確かめればいい」のです。

小売店であれば、おまけは初めから商品と同封しておくのではなく、必要かどうかをレジで直接お客さまに尋ねてからお渡しする。飲食店であれば、大盛りサービスや小鉢などを出す前に「こんなものをお出ししたいのですが、お腹に余裕はありますか?」とたずねる。必要でなければその場で断ってもらえるので、無理に持ち帰らせたり、無駄に気を遣わせるリスクが軽減できます。

また、サービスを検討する際に注意したいのは「女性は甘いものが好き」「男子学生はよく食べるはず」と、お客さまの性別や年齢で勝手に嗜好を決めつけないことです。前述のように男性だって少食の人はいますし、女性でも甘いものが苦手で、お酒が好きという人もいます。特にルールを作らず、子どもに食べ物を与える親御さんもいれば、フルーツでさえ虫歯になるから与えたくないとおっしゃる方もいるのです。

もしそれでも、どうしてもサプライズなサービスがしたいと思うなら、1つだけ心に留めておいてほしいことがあります。それはこちらが期待していた反応が返ってこなくても、落胆しないことです。「せっかくサービスしたのにお礼も言わないなんて!」と思わないこと。あくまで自分がしたい、と思ってサービスしているのだと認識しておきましょう。

おもてなし幻想(マシュー・ディクソン他、実業之日本社)』によると、感動的なサービスは、決してお客さまのブランドに対する信頼や愛着を引き上げる要因にはならないそうです。それよりも重要なのは、お客さまに手間をかけさせないことなのだと説いています。来店から退店までのプロセスの中で、お客さまが面倒に感じてしまう恐れのある余分な手間はないでしょうか。今一度、与える”サービス”より、無駄な労力をかけさせない”おもてなし”を考える方向にシフトしてみると良いかもしれません。

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この記事の著者

弥報編集部

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小保下 グミ(老舗和食店の女将)

老舗和食店の女将。夫が後を継いだ家業で経営全般に関わる。現在は休業中。
noteにて定期購読マガジン「小さなお店のちいさな女将」を運営。飲食店経営や自営業の生き方・働き方について発信中。

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