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「何でも聞いて」と「それぐらい調べろ」が口癖の経営者や上司は要注意。ダブルバインドの事例・対策を専門家が解説

2022.05.24

著者:弥報編集部

監修者:金井 利英子

「ダブルバインド」という言葉をご存じですか?複数の矛盾したメッセージに挟まれ、指示された側が身動きを取れなくなる状態を指します。よくあるのが「上司に『わからないことは遠慮せず聞いて』と言われたので質問すると『そんなことぐらい自分で調べろ』と言われた」。この状態を放置すると、生産性の低下やメンタル不調などにつながります。

無意識に行われることが多く、気付きにくいダブルバインド。今回はカウンセリングオフィス・グロウマインド代表の金井 利英子さんに、ダブルバインドとは何かや、典型的な例・対処法についてお伺いしました。もしかしたら、あなたもやってしまっているかもしれません。


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生産性低下などを招く「ダブルバインド」とは

ダブルバインドを日本語訳すると「二重拘束」。出された2つのメッセージが矛盾しているため、指示された側が混乱してしまう状態を指します。人類学者のグレゴリー・ベイトソンが1950年代に行った、家庭内のコミュニケーションにおける研究の中で提唱されました。ベイトソンは、ダブルバインドの定義として次の5つの条件を提示しました。

〈1〉2人以上の人がいる状況で、どちらかに権力や優位性がある
〈2〉最初にメッセージ(命令)が出される
〈3〉次にそれと矛盾するメッセージ(命令)が出される
〈4〉2と3が繰り返し行われる
〈5〉メッセージを出された人が、その矛盾から逃げ出せない状況として全体を見るようになる

会社で起きるダブルバインドの典型例が「上司に『わからないことは遠慮せず聞いて』と言われたので質問すると『そんなことぐらい自分で調べろ』と言われた」というものです。実はこのとき、上司は自分の発言の矛盾に気が付いていないことが多いのです。そして無意識であるがゆえに、ダブルバインドが繰り返されてしまいます。

矛盾したメッセージを受けた側は「固まった状態」に陥りがちです。上述の例でいえば、質問をすると「自分で調べろ」と突っぱねられる。そして自分でどうにかしようとしていると「なぜ質問しないのか」と怒られる。つまり、どちらのメッセージ(命令)に従っても怒られる状況に置かれることになり、身動きが取れなくなるのです。

その結果パフォーマンスや生産性の低下、職場での孤立化・ミスの増加などを招きます。それだけでなく、メンタル不調によって勤怠に影響が出る場合もあるのです。こういった状態は「サボっている」と誤解されることもあり、不適切な業務指導がなされるとパワハラの訴えにつながりかねません。結果的に人材が育ちにくい・自由に発言できない風土となるなど、組織にも影響を及ぼします。

あなたの会社でも?ダブルバインドのよくある事例

先ほど紹介したケースのほかに、会社でよく見られるダブルバインドの例を挙げます。まず、上司と部下、先輩と後輩の間で起きやすいものです。

  • 報告してくれと言われたので報告に行くと「いちいちそんなことで報告するな」と言われた
  • この仕事は任せたと言っていたのに、仔細な報告を求められる
  • 指示に従って処理したのに、上司が指示を忘れていたり、不都合となったりしたため「何でこんなことをしたんだ」と言われる
  • 主体性を求められたので業務に工夫を加えると「余計なことをしないで指示通りやれ」と言われた

次に、チームなど組織間で起きやすい例です。

  • 先輩に指示された通りに仕事をしていると、別の先輩に「それはおかしい」と指摘された
  • ある人からは「リーダーシップが足りない」と言われ、別の人からは「協調性が足りない」と言われる
  • チームメンバーが不仲で「〇〇の言うことは聞くな」と言われることがある

また、コロナ禍になって新しいタイプのダブルバインドも発生しています。テレワークの導入によりコミュニケーションが不足しているからと、雑談タイムを設ける会社が増えました。しかし、本来「雑談」は自然発生的なもので、だれが話しても話さなくてもいいし、結論もなくてかまいません。それにもかかわらず、雑談を強制されるような状況になれば、従業員は矛盾を感じてしまいます。これもダブルバインドです。

ダブルバインドはどうして起こる?防ぐために、現場・会社ができること

ダブルバインドが起きやすいのは「組織全体が右往左往している」「新しいことをやろうとしている」「双方向の対話がしにくい」などの状況です。組織内の統一性が欠如している職場も、ダブルバインドに注意すべきです。例えば、経営者が「若手の活躍を推進しよう」と提言しているのに、現場に「若手は控えめであるべき」と考えている従業員がいたら、若い人たちは身動きが取れません。

矛盾するメッセージは、優秀な人ほど出してしまいがちな側面もあります。優秀であるがゆえに、相手の成長レベルに目線を下げたコミュニケーションが苦手なのです。また「こんなことは言わなくてもわかるだろう」と感じたり、報告内容のレベルが期待した水準に達していなかったりすると、失望からきつい表現につながりやすくなります。

対して、メッセージを受けて悩んでいる側には「自分に自信が持てない」「人の話を言葉通りに受け止めてしまう」傾向があります。そのため、矛盾したメッセージに苦しむ中で、ネガティブな言葉や態度に傷つき、問題の解決に向けて行動する気力を失っていきます。ダブルバインド状態に置かれた場合は一刻も早く、事態の深刻化を防ぐことが大切です。

では、ダブルバインドはどのように防げばよいでしょうか。ダブルバインドは無意識に行われることが多いため、まずはダブルバインドについて知り「自分のメッセージがダブルバインドかもしれない」と認識することが大切です。

次に、とっさの反応で出る発言は避けてください。だれかからコンタクトを取られた際に「この人とはこれまでどんなやり取りがあっただろう」などと、一瞬立ち止まって考えましょう。これだけでもネガティブな表現を抑えられます。

最近は「心理的安全性」という言葉を、よく聞くようになりました。これは、自分の意見や気持ちを伝えやすい状態のことです。仕事においては、困っているときや何かがわからないときに、気軽に相談できる環境が求められてきます。それによりダブルバインドを防げますし、矛盾するメッセージを受けてしまっても、周囲に助けを求めることが可能です。そして、相手の目線に立った育成も欠かせません。業務状況・スキルなどを確かめつつ、双方向のコミュニケーションを心がけましょう。

会社全体としてできる対策として「属人化の解消」があります。ある人しかできない仕事を別の人が教えてもらう場合、その時点で既に優位性が存在します。この状態を放置していては、ダブルバインドが起きやすい状況も防げません。業務マニュアルの作成やツールの活用で、情報や進捗の共有を進めましょう。

ダブルバインドは、無意識に行われがちだと繰り返しお伝えしてきました。現在も多くの会社でダブルバインドが起きていると考えられます。

ダブルバインド対策に限らず、コミュニケーションのコツは、漠然としたやりとりに終始させない点です。よかれと思って「大丈夫?」などと聞く人がいますが、聞かれた方はどう答えていいか困ってしまいます。相手が答えやすい、具体的な投げかけを心がけてください。例えば、今行っている業務やその進捗を聞くところから始めてみてはいかがでしょう。話を否定で終わらせず、肯定的な方向に持っていくのもポイントです。

会社内には、コミュニケーションのネタが溢れています。ぜひ相手の目線に立って、相手を理解した声がけや環境を作ってみてください。

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この記事の著者

弥報編集部

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この記事の監修者

金井 利英子(グロウマインド代表、NPO法人うつ・気分障害協会理事)

金融機関勤務の後、ジョージワシントン大学・教育学および人間発達学大学院・カウンセリング学科を卒業(2000年)。臨床心理士、公認心理師。帰国後は企業内相談室、NPO法人うつ・気分障害協会の立ち上げと運営に携わりつつ、精神科クリニック、大学の学生相談室などでも勤務。2017年にグロウマインドを開設。メンタルヘルス、キャリア、ハラスメント、人材育成など多岐にわたる領域で心理相談や研修に携わる。

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