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「4つのステップ」の面談で社員をスタートダッシュさせる

2021.02.16

著者:弥報編集部

著者:田中 和彦

全社員が一体感を持って会社の目標に向かっている――そんな状態を作るには、最初が肝心です。小さな会社においても、とりわけ期初の1か月での経営者と社員のコミュニケーションが、1年の成果を決定すると言っても過言ではありません。今回は最初の1か月間に社員と話すべきポイントについて、順を追って解説していきます。

ポイントを踏まえた面談で、社員が自ら動く、強い組織を作ろう

前回の記事「社員との面談で必ず確認したい『キャリアデザインの3つの輪』」で、「1年間の成果は、期初の1か月間の経営者と社員とのコミュニケーションの質と量が決め手になる」ことをお伝えしました。今回はそれをさらに進めて、その1か月で社員とどんなステップで話をすれば、社員がスタートダッシュするのかについて説明していきます。

経営者に「社員のマネジメントでまずやるべきことは何ですか?」と聞くと、多くの方から「個別面談」という回答が上位に挙がってきます。皆さん、面談の重要性は認識しているわけです。しかし、その面談で具体的に社員と何を話すのかについて突っ込むと、意外と深く考えていない人が多いものです。

これまでの繰り返しになりますが、面談には明確な目的が必要です。そのゴールに向かって着実に話を進めていかなくてはなりません。

例えば、新しい期がスタートして1か月後に到達すべきゴールは「すべての社員が全社目標を正しく理解したうえで自分の役割と個人目標を認識し、その目標に向かってやる気をもって取り組もうとしている状態」です。「期初は忙しくて」という経営者もいますが、この状態を目指すことこそが経営者の本来の仕事であり、これよりも優先順位の高いものはありません。

デキる経営者は、必ず1か月以内に社員と中身の濃いコミュニケーションを取り、ゴールを形成します。全社員と面談できない場合はキーマンである役職者に面談させるなどして、社員一人ひとりに時間を割きます。

なぜなら、この段階で経営者と社員の大枠での合意が形成されれば、全社の目標達成に向けての土台作りが成し遂げられるからです。会社の成果の9割はここで決まると断言してもいいでしょう。この時期の面談はマネジメントの基礎中の基礎、基本中の基本なのです。

では、この1か月にデキる経営者が行っている面談の中身を、4つのステップで説明していきましょう。

まずは「社員の理解」から始まります。社員とは既に十分な信頼関係が築けているという方は飛ばしてもいいステップもありますので、必要な部分だけ参考にしていただければと思います。

【ステップ1】 社員の理解(信頼関係構築)    ⇒ 1回目の面談で実施
   ↓
【ステップ2】 現状の把握(課題の発見)     ⇒ 1回目の面談で実施
   ↓
【ステップ3】 全体目標の確認と個人目標の明確化 ⇒ 2回目の面談で実施
   ↓
【ステップ4】 目標達成に向けての行動の明確化  ⇒ 3回目の面談で実施

ステップ1からステップ4まで終えた後も、日常のフォローと軌道修正は、1年間の残りの11か月で行います。いわゆるPDCAサイクル(PLAN:計画→DO:実行→CHECK:評価→ACTION:改善)の「評価&改善」のパートになります。

この4つのステップを全3回程度の面談で進めていきます。ステップ1「社員の理解(信頼関係構築)」とステップ2「現状の把握(課題の発見)」は、可能であれば初回の面談時に。ステップ3「全体目標の確認と個人目標の明確化」を2回目にするのは、初回の面談に基づいて部署内で役割分担を決めたり、個人目標の振り分けなどの設定を考えたりするためです。そしてステップ4「目標達成に向けての行動の明確化」もさらに時間を置くのは、いかに社員がやる気を出すかをそれぞれの動機や適性に基づき、考える時間が必要になるからです。

こういう流れがあって初めて、社員全員がやる気を持って目標に向かい、目標達成するためのエネルギーを発揮するようになります。この考え方は基本的なものですが、絶対的なものではなく会社の状況や事情に応じてアレンジが求められます。例えば、月間目標を追う営業職の社員の場合、さらに早い段階で4つのステップを確認し合わなければなりません。「つべこべ言わずに、売ってこい!」と命令するだけでは、社員のやる気も成果も上がりません。

社員が気持ちよくスタートダッシュするために、ぜひ4つのステップを踏んでほしいと思います。

初回面談で必ず聞きたい部下の「過去」「現在」「未来」

ステップ1「社員の理解(信頼関係構築)」について、「相互理解は十分で信頼関係を築いている」と胸を張る経営者がいます。しかし、往々にしてそうでもないものです。このステップは、相手の話を聞くことに集中しましょう。一方的に自分の思いを伝えようとするのではなく、相手のことを知ろうとすることが重要です。

ヒアリング時のポイントは、社員の「今までやってきたこと→現状について→今後やりたいこと」というように、「過去」「現在」「未来」という時間軸で話を聞くことです。

今までのキャリアについて(過去)

入社して(もしくは社会人になって)から現在に至るまでのキャリアについてヒアリングします。初対面であれば、「どんな仕事をしてきたのか?」を具体的に聞くわけですが、既によく知っている間柄でも、改めて「今まで獲得したスキルや知識や人脈はどんなものか?」「どんな気持ちで仕事をしてきたのか?」「得意なことは何か?苦手なものは何か?」「最も達成感のあったのはいつか?逆に一番苦労したのはどんなことか?」など、そこから派生することを聞いていきます。

このヒアリングから、社員の現時点での成長段階も十分にわかりますし、譲れない価値観や人柄、喜怒哀楽のツボまでが自ずと理解できます。過去という事実を基に、社員を個別に認識しておきます。これらの情報は、それぞれの社員の仕事の動機づけの際に必要になります。

現状についての思いや考え(現在)

今の仕事や環境についての思いや考えをヒアリングします。「今は良い状態なのか?それとも良くない状態なのか?」という現在のコンディション、そしてその程度を確認します。具体的には「何か困っていることはないか?」「具体的な悩みがあれば聞かせてほしい」「今の業務や組織について課題に感じていることはないか?」など、本音で話せる雰囲気を作り、相手からじっくり話を聞き出していくことです。

表向きは「絶好調です!」と元気いっぱいな人でも、よくよく話を聞いてみると悩みや問題を抱えていることが多々あります。悩みや課題、問題意識というものは、個人によってレベルがまちまちで人間関係に悩む人、オフィス環境に不満を持つ人、給与や残業時間などの待遇や労働条件に愚痴をこぼす人もいます。経営者が社員と本音で話せる関係性を築いておけば、この辺も聞き出せるはずです。現状の業務の課題の改善案を提案してくる人もいます。

「今の仕事について困っていることは?」という、今の状況をどう感じているかという質問は漠然としているだけに、その受け止め方によって、その人の問題意識の高さが表れます。翻って、経営者には「最近どう?」という切り出しから話を広げていくスキルも求められます。

今後やりたいことについて(未来)

将来の夢や希望、具体的な目標など、中長期の「やりたいこと」についてヒアリングします。改めて「どうしてこの会社に入社したのか?」と入社動機を確認してみるのもいいでしょう。

入社動機を知らずして、社員のマネジメントはできません。動機(=モチーフ)は、人のやる気(=モチベーション)を左右する源泉です。社員のやる気を引き出すときに、その核となる動機の把握は欠かせません。

そのうえで、今の仕事と将来の希望を本人がどう関連づけて考えているかを聞き出します。「今の担当業務は、今後あなたのやりたいことにどうつながっていると思う?」といった具合です。本人が関連性を感じていれば、やる気は自ずと湧いてきます。

そこがあやふやな社員に対しては、そこを関連づけてあげることです。「社員の根源的な動機」と「社員にやってほしい仕事」とを結び付けてすり合わせることが上手な経営者は、やる気に満ちた会社風土を作ることができます。

ヒアリングは先入観に引きずられず、まっさらな気持ちで社員に向き合って行いましょう。周囲からのマイナス情報があっても、それを鵜呑みにせず自分の目で確かめてください。粗探しをするのではなく、好意的な姿勢で見ることです。信頼関係の構築は相手に好意を持つことから始まります。

強いチーム作りは、社員について丸ごと知ることから始まる

デキる経営者が、なぜ最初に社員全員と話をするかというと、社員のことを丸ごと知らなければ自分にとっての理想のチーム作りなどできないからです。

ここまで読んで「社員に仕事してもらうのに、なんて面倒なことをやらなきゃならないんだ。給料を払っているのだから、あれこれ言わずに働けばいい」という気持ちを少しでもお持ちの経営者がいたら、この機会に考え方を改めてください。

スイスの作家のマックス・フリッシュがこんな言葉を遺しています。

「我々は労働力を呼んだつもりだった。しかし、やってきたのは人間だった」

スイスは第2次世界大戦後、戦争で失った労働力を補うためにイタリアからの移民を積極的に受け入れ、労働力として活用しようとしました。しかし、当初の計算どおりには働いてもらえなかったのです。

人間は機械ではありません。感情を持った生き物です。理屈だけでは動きません。社員の感情面も含めて常に考える必要があります。そうしなければ、せっかく入社した社員も短期間で辞めてしまいます。そんな会社が高い業績を継続できるはずはありません。社員を丸ごと知るとは、そういう意味も含んでいるのです。

話を本筋に戻しましょう。時間をかけて面談する最大の目的は、ステップ2「現状の把握」にあります。現状が把握できなければ課題の発見もありませんし、戦略の立てようもありません。役割分担や適材適所といったチームのフォーメーションも組み立てられません。全社の目標に向かって結果を出すために、最も効率的な方法が何か?それを考えるのが、経営者である皆さんのミッションです。そのときに、共に力を合わせて前に進む社員のことを何も知らなくては、マネジメントなど不可能です。

「好意の互恵性」(返報性の法則)という考え方があります。人は自分に好意を持ってくれた人に対して好意を持つもの。これは対人関係の基本です。そのためには、相手に関心を持つことです。「愛すること」の反対語は「憎むこと」ではありません。「無関心」です。そもそも社員に関心がなくては、仕事を振り分けたり、目標を設定したりはできません。

ここで社員の立場からすると、社長に自分のことを知ってもらっているという事実は、大きな安心材料になります。また、これも返報性の法則で、自分をよく知ってもらっている人にこそ尽くしたいというのは、人間が持つごく自然な感情です。

人から気にかけてもらえているということは、人が生きていくうえでの最大の拠りどころになります。余談ですが、自殺を考えていた人が最後の最後に思いとどまるのは、多くの場合、自分のことを気にかけてくれている人の存在を思い出したときだそうです。社員にどんなスキルや経験があるのか、何が得意で何が苦手か、どんなときにここ一番の力が発揮できるのか……など、個々人の能力や適性を把握して初めて戦略に落とし込むことができ、厳しい戦いに臨めるのです。

さて現状が把握できたら社員の言い分をまずは持ち帰り、今度は経営者としての考えを付け加え、改めて本当にやるべき業務を社員とすり合わせていく「ステップ3」へと移行していきます。会社組織での役割分担や個人目標の設定などを組織作りに反映させていくのです。だからこそ、「ステップ2」と「ステップ3」の間には一定期間の熟考が必要なのです。

経営者は「聞くこと」よりも「言うこと」に頭が集中しがちです。言いたいことは我慢して、社員の話をじっくりと聞き、あるがままの現状を知ることだという認識を強く持ってください。次回は「ステップ3」以降について話を進めていきます。

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この記事の著者

弥報編集部

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田中 和彦(たなか かずひこ)

株式会社プラネットファイブ代表取締役。人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、リクルートに入社し、4つの情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。

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