賢者のささやき
賢者のささやき
あぶな~い、誰にも言えない! σ(◎◎;)
タイ人の恋人と、2年ぶりに再会した。
だが、実家での歓迎会にはじまり、彼の恩師や旧友を訪ねる日々の中で、
花嫁としての自分に疑問を感じはじめていた。
タイではエリートの彼だけに、花嫁志願者も引く手数多だと感じ、
恋愛感情だけに依存している自分が空恐ろしくなったのだ。
言葉を修得したとしても、タイ社会の身分制度や、
しきたりに順応して暮らせるだろうか。
微妙な言葉の行き違いに苦しむことなく、
互いが良き理解者になれるものだろうか。
一般常識はもとより、教養や知性、技術やコネクションなどの全てに対して、
ここでは赤子のように、無知で無力な自分を感じるばかりだった。
「ねぇ、……タノンにとって、わたしは絶対的に必要な相手?」
実家でくつろいでいたとき、奇妙な質問をしてみた。
「どういう意味? 愛してること、イコール、必要の一部じゃないの」
しばらくわたしを見つめ、ゆっくりと瞬きしながら彼が言った。
大きな瞳が長い睫の中で輝きを失ったように見えた。
「もちろん。だからこそ聞きたいんだけど……。
なにがなんでも、わたしでないとだめ? って聞かれたら、
タノンはどう答える?」
謎かけ問答など、理解できないと知りながら聞いた。
彼の情熱の強さを確かめなければ、勇気が萎えてしまいそうだった。
「風子でないとダメかって聞かれたら、答えは違うかもしれないね。
僕の場合、結婚相手に困ることはないと思う。
けど、風子を愛してるから、結婚したいと思うのは自然な気持ち。
ただ、僕たちの結婚には少し問題あるね。言葉や生活習慣……。
う~む、意地悪な質問ね」
タノンは、笑いながらギブアップポーズをとった。
わたしは自らの軽率さに腹が立ち、泣きたい気分になっていた。
誠実な彼の性格を愛していながら、花嫁として自信がなくなると、
相手の情熱に賭けようとしたからだ。
話題を変えるように、タノンが本棚のアルバムを開いて
わたしを呼び寄せた。
セピア色に変色した彼の子供時代の写真はともかく、
叔父や、叔母、従兄、友人たちには正直、親近感はなかった。
見ず知らずの異邦人たちを眺めているようで、気が入らないのだ。
そのとき、奇妙なことが起きた。
「あなたは判断するために来た。全てを見て、味わって……」
何者かが、わたしに囁きかけたのだ。
聞き終らないうちに、わたしは、声の主そのものになっていた。
しかも、アルバムを捲る一組の男女を見つめていたのだ。
意識は第三者のもので、数メートルの距離感さえあった。
この、わたしは誰なのか……?
そう思ったとたん、意識はアルバムを見る娘の中に戻っていた。
心臓が高鳴り、頭がくらくらした。
すると、機内での不可思議な出来事が頭をよぎった。
あのとき、同じように精神が肉体を離れた。
高度のせいだと思っていたのに。
あれは錯覚じゃなかったんだ。
もう、平常心ではいられなかった。
こんなことって、精神科にかかったら分裂病だと診断されるに違いない。
だが、わたしにとっては実感を伴った事実だ。
ショックのあまり心臓は高鳴り、冷や汗が滴り落ちたではないか。
そう…身体反応が物語るからには体験なんだ。
口が裂けても、決して誰にも話してはいけない。
人が……、いや! わたしという人間が、
肉体的な存在だけではないことを解明するまでは……。
漠然と、そんなことを思っていた。
「よその家のアルバム、退屈?」
タノンが、わたしの顔を覗き込んだ。
「えっ?……ううん。ちょっと、ぼうっとして……」
そう応えることで、わたしは我に返っていた。
日本に戻る機内で、私は物思いにふけった。
不可思議な感覚や体験は久しぶりだった。
しかも国際結婚の下見旅行で、
どうして離脱したのだろう。
慈愛に満ちた眼差しで小娘を傍観していた、
あの、もう一人の自分は何者なんだろう。
賢者の意識体?
ハイヤーセルフ(高次の自分)?
それにしても、もう一人の自分の中にいるとき、
小娘の意識や、感情を感じないのはなぜだろう。
意識って、移動する粒子のようなものだろうか。
それも瞬間移動できる粒子。
それが意識の本質だとしたら、
SF映画のテレポ―ションも、あり得る世界観なわけだ。
ああ、危ない。
こんなこと、誰にも言えない。
結局のところ、その奇妙な体験をするための
旅行だったりして。 o(;△;)o
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タイ人の恋人と、2年ぶりに再会した。
だが、実家での歓迎会にはじまり、彼の恩師や旧友を訪ねる日々の中で、
花嫁としての自分に疑問を感じはじめていた。
タイではエリートの彼だけに、花嫁志願者も引く手数多だと感じ、
恋愛感情だけに依存している自分が空恐ろしくなったのだ。
言葉を修得したとしても、タイ社会の身分制度や、
しきたりに順応して暮らせるだろうか。
微妙な言葉の行き違いに苦しむことなく、
互いが良き理解者になれるものだろうか。
一般常識はもとより、教養や知性、技術やコネクションなどの全てに対して、
ここでは赤子のように、無知で無力な自分を感じるばかりだった。
「ねぇ、……タノンにとって、わたしは絶対的に必要な相手?」
実家でくつろいでいたとき、奇妙な質問をしてみた。
「どういう意味? 愛してること、イコール、必要の一部じゃないの」
しばらくわたしを見つめ、ゆっくりと瞬きしながら彼が言った。
大きな瞳が長い睫の中で輝きを失ったように見えた。
「もちろん。だからこそ聞きたいんだけど……。
なにがなんでも、わたしでないとだめ? って聞かれたら、
タノンはどう答える?」
謎かけ問答など、理解できないと知りながら聞いた。
彼の情熱の強さを確かめなければ、勇気が萎えてしまいそうだった。
「風子でないとダメかって聞かれたら、答えは違うかもしれないね。
僕の場合、結婚相手に困ることはないと思う。
けど、風子を愛してるから、結婚したいと思うのは自然な気持ち。
ただ、僕たちの結婚には少し問題あるね。言葉や生活習慣……。
う~む、意地悪な質問ね」
タノンは、笑いながらギブアップポーズをとった。
わたしは自らの軽率さに腹が立ち、泣きたい気分になっていた。
誠実な彼の性格を愛していながら、花嫁として自信がなくなると、
相手の情熱に賭けようとしたからだ。
話題を変えるように、タノンが本棚のアルバムを開いて
わたしを呼び寄せた。
セピア色に変色した彼の子供時代の写真はともかく、
叔父や、叔母、従兄、友人たちには正直、親近感はなかった。
見ず知らずの異邦人たちを眺めているようで、気が入らないのだ。
そのとき、奇妙なことが起きた。
「あなたは判断するために来た。全てを見て、味わって……」
何者かが、わたしに囁きかけたのだ。
聞き終らないうちに、わたしは、声の主そのものになっていた。
しかも、アルバムを捲る一組の男女を見つめていたのだ。
意識は第三者のもので、数メートルの距離感さえあった。
この、わたしは誰なのか……?
そう思ったとたん、意識はアルバムを見る娘の中に戻っていた。
心臓が高鳴り、頭がくらくらした。
すると、機内での不可思議な出来事が頭をよぎった。
あのとき、同じように精神が肉体を離れた。
高度のせいだと思っていたのに。
あれは錯覚じゃなかったんだ。
もう、平常心ではいられなかった。
こんなことって、精神科にかかったら分裂病だと診断されるに違いない。
だが、わたしにとっては実感を伴った事実だ。
ショックのあまり心臓は高鳴り、冷や汗が滴り落ちたではないか。
そう…身体反応が物語るからには体験なんだ。
口が裂けても、決して誰にも話してはいけない。
人が……、いや! わたしという人間が、
肉体的な存在だけではないことを解明するまでは……。
漠然と、そんなことを思っていた。
「よその家のアルバム、退屈?」
タノンが、わたしの顔を覗き込んだ。
「えっ?……ううん。ちょっと、ぼうっとして……」
そう応えることで、わたしは我に返っていた。
日本に戻る機内で、私は物思いにふけった。
不可思議な感覚や体験は久しぶりだった。
しかも国際結婚の下見旅行で、
どうして離脱したのだろう。
慈愛に満ちた眼差しで小娘を傍観していた、
あの、もう一人の自分は何者なんだろう。
賢者の意識体?
ハイヤーセルフ(高次の自分)?
それにしても、もう一人の自分の中にいるとき、
小娘の意識や、感情を感じないのはなぜだろう。
意識って、移動する粒子のようなものだろうか。
それも瞬間移動できる粒子。
それが意識の本質だとしたら、
SF映画のテレポ―ションも、あり得る世界観なわけだ。
ああ、危ない。
こんなこと、誰にも言えない。
結局のところ、その奇妙な体験をするための
旅行だったりして。 o(;△;)o
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