2021年 11月 22日
吉田健一の「リモート飲み会に就いて」より
昨日の記事で、
「吉田健一は、東海道新幹線が開業した1964年の時点で、今日のコロナ禍に伴うオンラインの普及を正しく予言していた」(のかも知れない)
という原武史さんの言葉を紹介したけれど、人並外れて酒を飲むことを愉しんでいた吉田健一の事だから、もしかすると60年近く前にリモート飲み会も予言していたかも知れないなどと想像して、こんな文章を思いついた。
「機械が発達すると物故した文士たちとのリモート飲み会といふものが出来て、先日、今は無くなった銀座の「はせがわ」を舞台に、白洲正子が主催者となったZoom飲み会に招待されたので、画面に入るとそこには小林秀雄と青山二郎がすでにかなりの泥酔状態で映っているのには驚いたけれど、私の姿を見ると小林秀雄が「健坊じゃないか。相変わらず掴みどころのない男だな。まあ、そこに座れ」と絡んできた。しかしリモートだから一向に怖くないのは滑稽のような寂しいような心持ちがして、画面を眺めながらシェリー酒を傾けていたら青山二郎が「しゃらくさい洋酒なんぞ飲みやがって。だから健坊はダメなんだよ」とこちらもやはり絡んできたのは昔と変わらなかった。しかし、画面を相手に飲んでいても愉しいのは最初だけで、やはり酒といふものは飲む相手と同じ時間と場所を共有しているから愉しいという当たり前の事に気づいた時には窓の外は明るくなっていた。」
(吉田健一「リモート飲み会に就いて」より)
※画面上(左)小林秀雄、(右)青山二郎。
画面下 吉田健一。