2021年 11月 03日
「いえ、クラウディオ・アラウです。アラウの弾く《24の前奏曲》が一番好きです」
今回のショパンコンクールの3次予選で小林愛実さんの弾くショパンの《24の前奏曲》を聴いてすっかりこの曲の魅力にはまってしまい、色々なピアニストによる演奏を聴き続けている。
アルゲリッチ、ポリーニらの定番はそれぞれやはり素晴らしいものだし、ソコロフやポゴレリッチの個性的な演奏も聴きごたえがある。最近増えてきたフォルテピアノによる演奏は素朴な味わいが好ましくて新しい発見がある。
しかし、もし「どの演奏が一番好きですか?」と聞かれたらなら(「ローマの休日」のアン王女のように)いったん「いずれの演奏もそれぞれ…」と答えた後、決然と「いえ、クラウディオ・アラウです。アラウの弾く《24の前奏曲》が一番好きです」と答えるだろう。
この演奏は1973年、アラウが70歳の時に録音されたもの。
当時アラウは決して「ショパン弾き」としてではなく、ベートーヴェンやシューベルト等独墺の作曲家の演奏を得意とする重厚なピアニストと思われていたと思う。
しかし、このアラウの《24の前奏曲》は、落ち着いたテンポで一音一音を噛みしめ慈しむように、低音をたっぷり響かせるように弾かれていて、ゆったりとした音の間合いに独特の風格と詩情が漂う。
この演奏には、ショパンの音楽からイメージされるキラキラした輝きはないけれど、ショパンの音楽の持つ(24曲の前奏曲全体を一つの構築物として設計した)構成力や深みを感じると共に、聴き進むにつれてこの音楽の奥に潜む慟哭や哀切な感情が胸に迫ってくるのだ。
今の僕にはアラウのこの演奏がショパンの《24の前奏曲》のスタンダードになっています。
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