2012年 11月 04日
ナタン・ミルシテインの弾くクロイツェル・ソナタ
僕は実はベートーベンのバイオリン・ソナタの熱心な聴き手ではなかった。
自分にとって決定的な名演に出会っていなかったことが、その一番大きな理由。
庄司紗矢香のクロイツェルは、冒頭のソロ部分がまるでバッハの無伴奏曲のように聴こえ、思わずおっと身を乗り出す。
演奏自体も端正で美しい演奏で、良い演奏だと感じたけれど、トルストイがその小説『クロイツェル・ソナタ』で描いた(でろう)ような、人を破滅に向かわせるような悪魔的な魅惑を持った曲には思えない。
これは演奏の印象なのか、はたまた僕のトルストイの小説の記憶が不確かなのか、などと思って少しもやもやしていた。
しかし、会社のクラシック音楽好きの方から、ナタン・ミルシテインがその最後のコンサートで弾いたクロイツェル・ソナタをお借りして自宅で聴いた所、確かにこの曲には、どこかデモーニッシュで人の心を乱す魅惑があると確信した。
ミルシテインの演奏は決して熱演というタイプではないけれど、端正でありながら内に熱を秘め、聴いていると体の内側から熱くなってくるような素晴らしい演奏。
すっかりこの曲にはまってしまい、これから少しクロイツェル・ソナタの聴き比べをするつもりです。