コペンハーゲンのデザインカンファレンスDesign Matters'24に行ってきた - that was then, this is now

コペンハーゲンのデザインカンファレンスDesign Matters'24に行ってきた

2024年10月23日〜25日にデンマークコペンハーゲンで行われたデザインカンファレンス、Design Matters'24に参加してきました。

オンラインではなく、現地参加の海外デザインカンファレンスは初めてでしたが、結論とっても良かったので書き記しておこうと思います。

Design Mattersとは

「デザイナーによる、デザイナーのためのグローバルデザインカンファレンス」として2014年にデンマークコペンハーゲンで始まりました。

1,000名ほどの参加者が集まるデジタル領域のデザインを主なテーマとした北欧最大級のカンファレンスです。

Design Matters is a Copenhagen-based conference on digital design – made for designers, by designers. It is a place to gather together, share ideas, and discuss experiences. Design Matters involves a knowledgeable community of creative and curious minds who share the same drive and passion for digital design, technology, art, society, and sustainability.

designmatters.io

コペンハーゲンの他にも、2020年からは東京でも開催しており、2024年のイベントでは、私もスタッフとして関わっていました。

今回コンペンハーゲンで行われた'24カンファレンスでは、30組のスピーカーが3日間にわたって講演やワークショップを実施。夜の時間でも軽めのトークが行われ、3日間朝から晩までデザイン漬けになりました。

メイン会場の様子 Photo by Design Matters

メイン会場の様子 Photo by Design Matters

デザイナーとしてエンパワーされるプログラムと世界中のデザイナーとの交流機会

Design Mattersは毎回のカンファレンスでテーマを定め、そのテーマに紐づくプログラムを構成しています。今回のテーマは「1. Give a scrap(ゴミを大切に *1)」「2. What Makes a Designer...Designer?(デザイナーとは何か)」「3. Expressing the Value of Design(デザインの価値を表現する)」「4. There is no Planet B(惑星Bは存在しない *2)」でした。※()内の日本語は私の意訳

業務と直結するような「明日から使えるノウハウ」や「生成AIとデザイン」などの技術的なトレンドに追いつけ追い越せ的な内容よりも、参加したデザイナー自身が社会的に果たすべき役割を再認識し、一人ひとりが自身のデザインという行為に対してどのような責任をもつべきなのかを考える機会を提供するプログラム構成になっています。

30組のスピーカーがおり、一部はワークショップと同時並行で行われるため、とても全てのプログラムをサマリーすることはできないのですが、個人的に印象に残ったことをかいつまんで紹介します。

サステナビリティとデザイン/未来的なデザインプロセス

経済的な利益を第一に追い求める資本主義思想、ユーザーの欲求を第一に追い求める極端な人間中心設計から、地球環境や設計対象の製品・サービスが影響を与えうるエコシステム全体を考慮する非人間中心設計的な思想へという話題は複数の講演で聞かれました。

例えば、アフリカ出身のデザイナーの講演では、アフリカのウブントゥ精神にある「人は人によって人になる」という人との繋がりや助け合いの精神を引用し、制作物が及ぼす影響範囲の広さを考慮してデザインする大切さについて語っていたり、食べ物のパッケージデザインでも原料が畑から取れて加工され出荷して消費者の手元に届くまでのシステム全体を考慮すること、そのひとつひとつでデザイナーとしてサステナブルな選択を行うことまたデザインによって消費者にサステナブルな選択を提供することの重要性について触れていました。

具体的な思考のフレームワークやデザインプロセスの紹介もありました。例えば、制作に取り組んでいるものについて深堀ることと鳥の目で引いて考えることを繰り返すためのメソッドとして、四季の移ろいに合わせて課題や解決策の妥当性を考えるフレームワーク、「火星にいる」と仮定した場合の未来の地球に起こり得る課題や解決策を考えるフレームワーク、過去と現在と未来を同時進行的に考えるブロック宇宙論のデザインプロセスへの適用などが語られました。

季節に合わせたテーマを設けた思考フレームワーク

多元的世界の重視

過去の植民地化やグローバリズム、資本主義がもたらした均質化を前時代のものとし、各々のアイデンティティを見つめ直すことの重要性を語っていました。

例えば、コカコーラのようなグローバルブランドでは世界中でブランドを統一するために厳しくガイドラインに沿うことが求められてきますが、アフリカ地域で行われた現地の文化や精神性を反映した限定フレーバーとデザイン缶のキャンペーンの成功事例が語られました。メキシコにおける近年のデザイントレンドと反抗するようなごちゃごちゃしたマキシマリズムへの愛の話も興味深かったです。

アフリカで実施されたコカ・コーラのキャンペーンについての紹介

メキシコにおけるマキシマリズムを反映したデザインの例

メキシコにおけるマキシマリズムを反映したデザインの例

日々の制作物やあるべきデザインプロセスの参考として、海外トレンドを追いかけることは多いと思いますが、日本人が表現する日本っぽさ、日本ならではのデザインってなんだろうと考えさせられました。

2018年に出版され、デザイン業界に大きなインパクトを与えたアルトゥーロ・エスコバル氏の著書「Designs for the Pluriverse」の内容に共感していた身としては、とても頷きの多いテーマでした。

2024年に日本語訳も出版されましたので、未読の方はぜひ。『コ・デザイン —デザインすることをみんなの手に』の著者でもある上平氏が紹介記事を書かれており、この本の魅力をとても良く表現してくださっていると感じました。

世界が一つではないように、デザインも一つではない | DISTANCE.media

純粋なクリエイティブへの回帰とIC(Individual Contributor)の隆盛

デザイン思考、ダブルダイヤモンド、デザインスプリントなど整備されたUXデザインプロセスは、時に「ユーザーの課題」に囚われすぎ、魅力的な解決策を描くことを阻害してしまいます。

近年、組織的にデザインを進める施策の一つとしてデザインシステムは必須の施策ですが、Dropboxではデザインシステムの整備はうまくいったものの、それによってクラフトの持つ「味」を失ってしまったと語られました。クリエイティブを取り戻すために行った様々な取り組みが、組織エンゲージメントを高めると共に、改修後のUIでビジネス成果を生んだそうです。

また、制作物の美しさを純粋に追求することで人々を惹きつける圧倒的な強さを見せたスピーカーもおり、ただただ尊敬するばかりでした。

交流タイム中にGoogleのデザイナーと話す機会があったのですが、最近のデザインリーダーの肩書として、デザイン組織のマネジメントを担う「Design Manager」に加え、クラフトの力で組織を引っ張る「IC (Individual Contributor)」ロールがホットなようですね。キャリアの選択肢が広がってとても良い流れだと思いました。

 

実はこれらは、内容として新鮮な発見や驚きがあった、ということでもないのですが、グローバルカンファレンスで会話されるテーマと普段考えているテーマがあまりズレていなかった、ということは大きな自信になりました。

「これからのデザイン原則を考えよう」ワークショップで出てきた議論

「これからのデザイン原則を考えよう」ワークショップで出てきた議論

また、海外のデザイナーが上述のようなテーマの議論で盛り上がる様子を見て、日本文化の中にいるデザイナーとして出来ることがあるのではないか、日本文化から生まれるデザインには大きな可能性があるのではないか、という思いを強くするものでもありました。

書籍『人間中心設計におけるマネジメント (HCDライブラリー)』には、「日本という国土・風土」や「日本人であること」を意識することが、今後のデザインの領域を切り開いていくことで重要になってくること、また同書籍内の海外識者へのインタビューにおいて、宮沢賢治の童話に表れる日本人の精神性への賛美が書かれています。

コペンハーゲンでは、デザインに特化した美術館「デザインミュージアムデンマーク」に日本刀を展示するためだけの部屋があったり、町中のデザイン雑貨店に日本の文房具や原研哉の本が置いてあったり、中心地の高級デパートに無印良品入っていたり(しかも大人気。ユニクロも紙袋持って歩いている人を良く見た)など、「日本のデザイン」に対する一定の評価があることを感じました。フィジカルなプロダクトデザインだけでなく、サービスやデジタルプロダクトにおいても、日本のデザインが光る日が来ると信じてやみません。

交流機会

これまでオンラインで海外カンファレンスを視聴することはありましたが、スピーカーや参加者との交流機会を持てることは現地参加のメリットとして強く感じました。ネスレLEGO、Allianzなどのグローバル企業、省庁系やUNHCRなど国際機関、北欧を始めとするヨーロッパ諸国、北米、中南米のデザイナーなど、普段の生活では中々出会うことが難しい方たちと直接意見を交わせたのはとても有意義な時間でした。

どこの国であってもどんな組織体であっても、悩んでいることはあまり変わらないことがわかり、大きく力づけられました。

文化の違いなのか参加者のモチベーションの違いなのかはわからないですが、海外のカンファレンスの方が、私がこれまで参加したことのある日本のイベント等よりも、ずっと交流しやすい雰囲気でした。ビジネス的な緊張感もなく、純粋に会話を楽しむ感じでした。

あと、話した人みんな日本大好きだったし、直近で日本行ってきたよ〜!という人が本当に多かった。日本から来たって言うだけで友好的だし、「日本から来た」ということだけでアイスブレイクになり、会話が弾みました。

新しくできたお友達の一部。スイス、ドイツ、ポルトガル出身のデザイナーです

暖かく楽しい雰囲気のカンファレンス

これはDesign Mattersの雰囲気かと思いますが、とっても明るいホスト(司会者)が柔らかい雰囲気を作っていたり、DJが1日中おり、転換や休憩時に音楽を流したり夜の交流会を音楽で盛り上げたりなど、とても暖かくリラックスした空気感がありました。

会場はRoyal Danish Academyというデザインの名門教育機関の一角。建物の雰囲気もとっても素敵でした。

レンガ造りの建物に囲まれた一角

レンガ造りの建物に囲まれた一角

朝食にデンマークらしくシナモンが練り込まれたパン(日本の「デニッシュ」という言葉はデンマークのパンということから来ているようですね)が提供されたり、豆にこだわった美味しいコーヒーや、環境に優しい紙パックの飲み物などが提供されました。

二日目のコーヒータイムに出たおやつ「Flødeboller(フルーボラ?みたいな発音だった)」はデンマークのお菓子。初めて見たのでなんじゃこりゃと思ったけど中にマシュマロとクリームが入った激甘スイーツだった。でも脳が疲れてたのでちょうどよかったかも。

2日目の疲れた頃におやつタイム。見たこと無いお菓子。甘い。

夜の交流タイムは毎日あり、お酒と軽食、夜の部の講演(冗談も多めに混ぜ込んだリラックスできる内容)や音楽(90's多めw)が雰囲気を盛り上げていました。

夜の交流会はフェスティブな雰囲気。仲良くなった人たちと喋ってて遅れてパーティー会場着いたら座る場所なくて立ち飲みしてる後ろ姿撮られてた。 Photo by Design Matters

海外カンファレンスまた行きたい

費用と時間の捻出が中々大変ではありますが、機会を見つけてまた海外カンファレンスに行きたいなと思いました。世界中のデザイナーの考え方に触れたり、繋がりができること。またグローバルなデザインの潮流にインターネットや書籍ではなく直接触れることは大きなインパクトがありました。

文字にするとなんか当たり前な感じで情熱が伝わりづらいんですが、体感するとぜんぜん違ったので、全デザイナーにおすすめして回りたい勢い。

 

 

そしてブログ更新8年ぶり。わざわざこのためにnote開設するのも・・・と考えたら長文を書ける場所がここしかなかった。コペンハーゲンに行く前にオランダでDutch Design Weekというデザインのお祭りに行ってきたのですがその話はまた今度。

*1:訳注 リユースやアップサイクルなどの観点から、様々な分野でゴミと思われていたものが新たに命を得るというニュアンス

*2:訳注 地球を「惑星A」として逃げ先の惑星が存在しない中で地球と共存するためのデザイナーの責任を問う内容