M&A体験記 会社を売るとき、売ったあと

ZOZOを売却した前澤友作さんXのコメントが秀逸

 

Xで前澤友作さんがM&Aについてポストされていました。

 

 


【5年前の今日】

ヤフーがZOZOを8000億円で買収。50.1%の株式をTOBで取得し完全子会社化することを発表。当時36.76%の株を保有していた前澤は株の売却に応じ社長を退任。

あれから5年が経ちました。

今だからこそ、いろんな質問や誤解に答えてみます。

・赤字になったから会社を売って社長も辞めたの?
いいえ、ZOZO社は一度も赤字になったことはありません。ただ、2018年度に327億円あった営業利益を、2019年度に256億円まで落としてしまいました。ZOZOSUIT関連の新事業への投資が思うように回収できなかったことが原因です。この責任を取ったことも社長退任の理由の一つです。

・前澤の借金を返すために会社を売ったのでは?
いいえ、誤解です。確かに多額の借り入れをしてアートなどを買っていましたが、もし借金を返す必要があればアートを売却して返済すればよい話で、会社売却とは関係ありません。

・経営者としての限界を感じて辞めたの?
ZOZOSUIT関連の失敗で自分の不甲斐なさを感じたのは事実です。ただ、これは言い訳に聞こえるかもしれませんが、今後の成長ステージには自分と違うタイプの経営者の方が適しているのではと思ったのもあります。

・残された社員が可哀想
感情的にはそうかもしれません。ただ、買収後ほとんどの社員は辞めませんでしたし、ヤフーという大企業に買収されたことにより規模の経済などが働き、労働生産性も賃金も上がり、株価も上がっています。結果としては関係する会社や人すべてが幸せになった買収案件だったと思います。

・会社を売るなんて無責任だし身勝手だ
これはよく言われますが、僕はそうは思いません。経営者たるもの、自分の思考能力や判断能力がまだ衰えぬうちに、10年後20年後の会社の未来や社員のことを考え、継承者や継承先や存続手段について考え行動すべきです。社長という権力の上に胡座をかいて居座り続ける方が無責任だと思います。

 

・買収やM&Aや身売りに日本人は敏感?

おっしゃる通りこれらにネガティブなイメージを持つ人が多い印象です。会社は生き物ですので、生存競争の中で淘汰され、生産性の高いものだけが生き残り、そうでないものは滅びていくのが宿命です。むしろ、例えば既得権益世襲などが邪魔してこの統廃合のスピードが遅くなることは、生産性向上にとっての阻害要因となりますので、日本でも企業買収がより活発に行われる状態が理想だと考えています。

 

・本音は寂しかったですか?

21年間社長をやらせてもらいましたので、本音ベースではもちろん寂しさはありましたが、今でもZOZO社の澤田社長始め多くの社員と交流させてもらっていて良い関係が続いています。僕の起業家としての青春時代のすべてが詰まったZOZO社には心から感謝しています。

 

以上、長文を読んだくださりありがとうございます。

 

 

まんだのひとり言
2024年9月12日現在のZOZOの時価総額は1.46兆円です。
5年前に前澤さんが売却した時は8000億円だったので創業者がいなくなった後
もヤフーと組んで成長が続いています。
規模は全然違いますが経営者として本当に共感とリスペクトですね。
特に「社長という権力の上に胡座をかいて居座り続ける方が無責任だと
思います。」は激しく同意します。           
前澤さんの考え方や心の在り方がよくわかる文でした。

 

 

M&Aで身の引き方をあやまると・・・

前職で仲の良かった同業他社の社長がM&Aでファンドに売却したという。

昔からよく知ってるスタッフさんが社長に昇格しました。


会う機会があり「おめでとう!」と声を掛けましたがなんだか様子がへん。

話を聞くと前社長はここ数年はほとんど出社していなかったらしい。

実質No2の役員が仕切っていたがあまりスタッフとうまくいってなかったようです。


そんなさなか社長が急遽ファンドに売却を決めたらしく引継ぎらしいのもないままに

引退してしまったらしい。

でも花束セレモニーはあったというから笑えます。

 

「あの日から一回も会ってないんですよ・・・」とあきれ顔。

「あんな人だとは思ってなかった」「きれいごとばっか」とか散々な言われようでした。


あげくの果てに「マンダさんがM&Aしてから社長連中がみんなソワソワしだした」

とこっちにまで飛び火してくる始末w

※この画像は生成aiが制作しました


あんなにカリスマ経営者だったのに最後は自分の愛した会社にも行きにくくなる

ような終わり方はイヤですね。

元社長から話を聞けばまた違う話なんでしょうが食い違うのももったいない。


M&Aでのイグジットやリタイアも方法を間違えるとこんな別れになるので

お気をつけ下さい。

 

 

ご自愛ください。

 

 

 

 

 

 

第23話 M&Aを終えてみて

M&Aを終えてみて

長かったようで短かったM&A体験が終わりました。


一連の売却の手続きが終わった後、FAのK部長に言われたことがあります。

「買収の手続きで私達がお手伝いできるのはここまでです。
しかしM&Aが本当のスタートになるのは買収が実行された後です。
実は企業買収の後、買収自体が失敗に終わるケースは世間で知られている以上に
多いのです。今後も頑張ってください。」と。

「今更言うな!」と心の中でツッコミつつ現状を鑑みた。


FAはM&Aを約定して入金されるまでの面倒を見るのが仕事だけど、M&Aの買収側と
売却側にとっては、クロージングが完了した時点がスタート地点となる。


■PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)

企業買収が行われた後、最も重要といわれるのがPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)といわれる、M&A後の経営統合などのプロセス。分かりやすく言えば引継ぎです。


ただし今回買収を行ったのは事業会社ではないので経営統合は必要ないが、ファンド視点でいうとハンズオンということです。

今回はファンドから派遣された社長兼CFOの谷津さんが、現在の企業風土やスタッフとの関係を尊重しながら徐々に自らのノウハウを会社に移植する形でハンズオンを進めることになります。

もちろん私も会長兼CEOとして谷津さんや幹部たちに仕事の委譲をし、並走しながら会社の発展に力を注ぎたいと思います。


■会長編へ

仲介会社選びに始まり、資料作成に追われ、事業会社からファンドへ売却先の方向転換など、やはり一筋縄ではいかなかった会社のM&A

それでもファンドへの売却で着地して、ひとまず一件落着となりました。

ファンドと一緒に運営をしていく新たなスタートを切ることになりましたが、
企業経営には “まさか” が度々発生します。


次章ではM&Aで売ったあとのことを書いた「会長編」をスタートします。
お楽しみに。

 

 

第22話 いよいよクロージング

■いよいよクロージング

 

クロージングの日がやってきた。

昨晩の焼肉とマッコリが少し残った感じだが、良い天気で気持ちいい朝。

9時に銀行から連絡があり、会社の売買代金が入金されているとの報告を受けた。

ネットバンキングで残高を確認する。
通帳にまとまったお金が入金されているがまったく実感はなく、夕方のクロージング
まで淡々と日常業務をこなした。

約束の16時前に新社長の谷津さんが来社。
続けてHRCファンドの吉田さん、木戸さん、最後にFAのK部長も到着した。
定刻になったので調印を始める。

思ってたよりざっくばらんな雰囲気で調印は進んでいく。
私以外のメンバーには日常業務の一つなのだろうな。

皆でワイワイ歓談しながら、K部長が次々出してくる書類に一人黙々と捺印していく。

「とうとう売ってしまうのか・・・」
今更そんなことを考えながらハンコを丁寧に押していった。

「これで終了です」
K部長より完成した重要書類ー式をいただき全員安堵な表情。

私はというと、なぜか今になり責任の大きさを痛感していた。
期待と不安と安堵と虚無感。
複雑な気持ちがないまぜなままクロージングは終了した。

ここからは5人で料亭に移動して祝杯をあげた。
仕事の話もほどほどに、ざっくばらんに趣味の話で盛り上がる。

クルマやゴルフや時計や恐妻の話。みんな歳も近く共通の話題で盛り上がれる。
今回のM&Aはこのメンバーで本当に良かったとしみじみ感じた時間だった。

宴もたけなわ、うちの益々の発展を祈念しておひらき。
食事会も無事終了した。

1人タクシーでマンションに帰る。

なんだかそのまま部屋に帰る気にならずハイボールを買って多摩川の堤防へ。
夜風にあたりゆっくり目を閉じる。

創業からの25年間の色んな思いが駆け巡ってくる。
色々考えると何か熱いものが込み上げてきた。

私にとって、とても長い一日が終わった。


M&A用語 ア行

M&A用語 ア行

●IB (アイビー)

IBとはInvestment Bankの略称のこと。日本語では投資銀行のことを指す。主な業務としては、M&Aに関する財務戦略の助言、資金調達のアレンジ等を行い、大手企業を金融や財務面からサポートする業務を行う。ゴールドマンサックスやJPモルガンメリルリンチ、日本だと野村証券野村証券SMBC日興証券などがそれにあたります



●相対方式 (あいたいとりひき)

M&Aの交渉、取引方法の一つ。売却案件に対して売り手と買い手が代理人を挟まず、直接交渉する方法。
売り手にとっては良い買い手に恵まれればオークション方式と比べて交渉に要する時間を節約できるなどのメリットがある。
私も過去に一度、直接オファーをいただき子会社を相対取引で売却したことがあります。従業員が少ない会社や資産管理会社など比較的小規模な会社にはおすすめです。

 

IPO (アイピーオー)

IPOとは「Initial Public Offering」の略で、未上場企業が新規に株式を証券取引所に上場し投資家に株式を取得させることを言う。「新規公開」という意味で、それまで日本国内で非上場・非公開だった株式を新規に上場することを指します。 

 

●アーンアウト条項 

企業買収を「分割払い」で行う際の取引契約を指す。対象企業を一度に100%買収するのではなく、まず50%などで買収し翌年以降で利益目標達成率などに応じて残金を支払うなどの約束条項を買収契約書に盛り込む条項。私の出資しているファンドでもDD(デューデリジェンス)ができない会社の株を購入する際に使うことがあるいわばリスクヘッジの方法です。

 

●アドバイザリー契約書  

M&Aを検討する際、複数のアドバイザーに依頼すると情報漏洩のリスクが高まるため一般的には信頼の置ける1社を選び排他的な専任契約を結ぶ。仕事内容、秘密保持、報酬、免責等に関する事項が記載された書面をアドバイザリー契約書という。
私の経験上、信頼のおける一社を選ぶことがM&Aにおいて一番大切な仕事だと思います。

 

 

 M&A用語 イ行

 

●意向表明書 (いこうひょうめいしょ ) 

意向表明書は買い手企業が売り手企業の株主に対し、提携の意思表示と基本的な条件の意向を伝えるためのものである。希望する企業提携の形態、買収希望価格、スケジュール、デューデリジェンスの実施、費用負担、秘密保持、法的拘束力などである。
LOI(letter of Intent / レターオブインテント)ともいう。複数の譲受企業から手が挙がった場合は、その中から選んだ1社と基本合意契約を締結する。
いわば本気度を示すラブレターであり、実際私もLOIをいただいた時にはキュンとしました。

 

●EBITDA 

EBITDAは、Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortizationの略。
イービットディーエー、イービットダー、またはエビータと読む。
税引前利益に支払利息と減価償却費を加算したもので「償却前営業利益」とほぼ同じになる。 「EV/EBITDA倍率 EV/EBITDA倍率」とは、EBITDA(1年間の現金収入)に対してEV(企業価値)が何倍あるかを意味し、買収する場合に何年で元が取れるかを表す指標。株価動向や業種などによって様々であるが、一般的にEBITDA倍率は4~8倍が妥当だといわれているようです。

 

●EPS (イーピーエス)

Earnings Per Shareの略称で1株当たりの利益のこと。 計算方法は当期純利益を一株あたりの株式発行総数で除して算定する。一株あたり当期純利益当期純利益÷株式発行総数

 

●IM(インフォメーション・メモランダム)

M&Aの売却対象となる企業・事業の内容、財務内容、売却条件などを詳細に記載した概要書を指す。会社の沿革、事業内容、過去の財務諸表の推移とその分析、市場環境分析、中期事業計画などの企業の詳細かつ秘匿性の高い資料となる。
秘密保持契約書の締結後に、売り手の了承を得た上で買い手候補先に開示される。

 

M&A用語 エ行

 

●営業権(のれん)

M&Aにおいての営業権とは買収価格時価純資産に上乗せする部分の価格のことであり無形資産のこと。会社法が施行された現在では「のれん」とも呼ばれており、営業権=のれんと考えてもほぼ問題はない。一般的に収益力が高いほど営業権が高くつく傾向にあるが収益性が低ければ、時価純資産割れ、すなわちマイナスの営業権となることもあるんだとか。

 

エスクロー 

エスクローとは商取引の際に取引の安全性を確保する仲介サービスを指す。M&Aにおいては、売り手と買い手以外の第三者(金融機関等)を介して、条件付で譲渡金額を決済する仕組みのこと。

 

●SPA(エスピーエー)

株式譲渡契約書の英語表現であるStock Purchase Agreementの略称。M&Aの最終段階で締結する株式譲渡契約書を指します。

 

●SPC(エスピーシー)

Special Purpose Company の略で特定目的会社と訳される、M&A後の企業再編時に利用される企業のこと。M&Aを実行する際にSPCを買収主体として金融機関から借入などを行い、少ない資本(投資金額)と多額の借入金を原資にレバレッジを掛けて買収する手法が利用される。買収後にSPCと被買収会社が合併することで買収にともなう企業再編が終了となるケースが多い。
また税務上の観点(ex.節税メリット)から、海外のタックス・ヘイブンにSPCを設立した上で、海外のSPCを活用して対象企業の買収を行うケースもある。
かくいう私もケイマン諸島でSPCを設立し企業再編をしました。

 

●FA(エフエー)

Financial Adviserの略で財務アドバイザーと訳され、M&Aを検討する企業に対しM&Aの計画立案からクロージングまでの一連の助言業務を行う者を指す。
譲渡企業及び譲受企業のどちらかと個別に契約を結び、一方のM&Aをサポートする(譲渡企業と譲受企業の両者と契約を結ぶことはない)。よって譲渡企業と譲受企業の双方がそれぞれFAを立ててM&Aを進めるケースもある。

 

NDA(エヌディーエー)

秘密保持契約書と訳される。CAと同義。
M&Aの手続きに際し売り手企業が買収検討企業に対し開示する情報について買収検討企業に秘密を保持させる義務を課す契約を指す。
秘密情報の定義、情報開示の範囲、目的外使用の禁止、有効期間、損害賠償に関する事項などが記載される。

 

●エグジット(EXIT)

出口戦略のことで投資した資金を回収する手段を指す。考案された具体的な回収方法のことで、ファンドによる投資の場合はIPOや他社への転売 (M&A) などが一般的なエグジットとなる。
私もファンド数社とお付き合いしましたが、それぞれ目的や出口戦略が違いました。
短期では2~3年保有での転売もあれば、中長期5~7年じっくり育ててIPOを目指すなどファンドの特色がある。まだハゲタカファンドのようなところもあると聞くので選定は大事だと思います。

 

M&A

M&AとはMerger(合併)and acquisition(買収)の略。一般的には「会社もしくは経営権の取得」を意味し、合併や株式取得、事業譲渡などの手法がある。
業務提携、資本提携等をすることによってシナジー効果を期待した「経営面での協力関係」を含めるという考え方もある。
過去2社3回のM&Aを経験した私の意見としては戦略的M&Aという考え方はアリだと思っています。

 

●М&Aアドバイザー (エムアンドーアドバイザー)

M&Aアドバイザーとは、M&Aに関するアドバイスM&A成立までの取りまとめ役を行う専門家のこと。M&Aを成立させるための助言から、スキーム案の構築、売手、買手の代理人としての交渉業務等M&Aに関する業務全般に携わる。金融機関、M&A専門会社がM&Aアドバイザーの役割を担うケースが多い。FA、M&Aコンサルタント等と呼ばれることもある。
私の経験上、FAによってM&Aの成功確率は左右される。買い手企業の選定、価格、M&A後の待遇など大きく変わる。読者様にも良きFAと出会えることを祈念してます。

 

LBO (えるびーおー)

LBO(エルビーオー)とは、Leveraged Buy Out の略称。企業買収の際に買収対象企業の資産を担保として金融機関融資を受けるなどして買収資金を捻出する買収手法。
金融機関からはリスクが高い買収手法であるため高金利であることが多い。
レバレッジとはてこの意味で、手元に資金がなくても大きな買収が可能となることからこの名前がついている。
私も2度目のM&A時にはファンドがLBOを利用していた。再出資する私の立場からも出資金を少なくできるし投資効率は抜群に良くなるので有効だと思います。

 

第21話 クロージングまでにやっておくこと

■ハンズオンしてくる次期社長との面談

契約書のやり取りと同時進行でやることが増えてきた。
ほとんどがHRCファンドのYさんとの共同作業。
このYさん=吉田さんといって歳も同じで趣味も似通っていた。

まずは弊社にハンズオンしてくる新社長との初顔合わせ。
吉田さんに率いられて入ってきたのはメガネがお洒落なダンディマッチョで
名前は谷津さんといった。45歳の私より5歳上の50歳。ジャケットの上からでも
筋肉隆々なのがわかる。

ITやゲーム系の会社を経て、今はEC会社の経営企画をしているという。
M&Aや財務などが専門分野。
今後は私が会長兼CEO、谷津さんが社長兼CFOとして二人三脚で経営していくことに
なる。これから一緒に経営していくのが楽しみに思った第1ラウンドでした。

SPC(特別目的会社)の設立

同時進行でSPC(特別目的会社)が設立される。
今回は海外の出資者もいるということでSPCはタックスヘイブンであるケイマン諸島での設立となった。
新しいSPC会社の名前は「マーズ」、代表へはHRC社のもう一人のファンドマネージャー木戸さんが就任する。「マーズ」の名前の由来を聞いたが意味はないらしい。
まあSPCは合併前提で作った特別目的会社なのでなんでもいいのだろう。

LBO融資

設立したばかりのSPCにLBO融資をする銀行と協議。当初は弊社のメインバンクであるM銀行が手を挙げた。しかし先述のDDの際に弁護士が付けた難くせが表明保証に入っていることを懸念しLBO融資を断ってきた。まあノンリコースローンだから慎重になるのも良く解かる。

ただでさえ設立がケイマン諸島ということで難色を示す銀行が多い中、外資に強いH銀行がLBOでの融資を付けてくれた。
H銀行はクライアントに多国籍の船会社が多く、まったく問題ないということでLBO融資は解決した。

金融に長けたハンズオン人材を連れてくること、タックスヘイブンでSPCを設立すること、またそのSPCに銀行からLBOを取りつけること。やっぱファンドはやることが違うな~と感心しながら合併作業に入っていった。



 

第20話 株式譲渡契約と表明保証

■二度目のデューデリジェンス

HRC社と基本合意契約を締結。
その後、私としては二度目のデューデリジェンスを行った。

HRC社からはファンドマネージャーのYさんとスタッフ2名、弁護士1名の4人だった。
以前のDD資料なども揃っており事前に渡している資料もあったので財務DD、ビジネスDDと順調にすすんでいった。
しかし法務DDで出てきた弁護士がヒアリングで痛いところをついてきた。
うちの商材の中で、広く一般的ではあるし非合法ではないがグレーみたいなところに
ケチをつけられた。
もちろんそれで取り締まられることもないし誰もがやってることだが、ファンドに
雇われた弁護士は難クセをつけるのが仕事なのだろう。

結果それによる値引き交渉には応じなかったが、株式譲渡契約の中の表明保証に
一文付け加えられることになった。そのことにより万が一、会社に損害があれば一部
補償するような条項が付いた。しゃくではあるが仕方がない。

しかしこの条項がのちにファンドである彼らと弊社の首を絞めることとなる。
その後DDも無事終わり、ファンドが投資委員会で対象会社の承認を得るのをただ待つばかりとなりました。

■株式譲渡契約書

次のフェーズは契約書の作成

今回の場合は、SPA(株式譲渡契約書)、マネジメント契約書、株主間契約書、の3つ。素案が届いたので顧問弁護士に不利な条件がないかチェックをお願いした。

SPA(株式譲渡契約書)M&Aに関わるメインの契約書。
ここには株式譲渡の条件や競業避止のこと、次項に書いてる表明保証などが記載されている。競業避止とは同じ業種は〇年間しちゃだめよということ。
同じビジネスはするつもりはないが窮屈なので期間は短縮してもらいました。

マネジメント契約書には「これからも〇年間は会長として働くこと」と書いてあった。
これは話し合いの通りだった。
株主間契約書はお互い株主として協力して会社のために尽くそうとか、先述のタグアロング条項などが盛り込まれていた。

 

表明保証

SPAに書いてあった表明保証。
表明保証とは売り手が買い手に対して会社やDDの内容を保証すること。
売り手はデューデリジェンスなどで調査するがすべては把握できない。
そこで売り手は買い手に株式譲渡契約書で事業や財務、法務の状況にある程度は表明保証を行う。

まあ言ってることは分かる。
性善説に基づいて契約するんだし嘘ついてたら判らないこともあると思う。
ただ売った後に「表明保証している事由に起因して買い手が損害を受けたら弁済する」ってのは怖い。保証の期間や範囲、弁済の限度額をすり合わせ合意した。
これも後記するが相場を知ってると知らないでは大きな違いだ。

何度かのやり取りをして各契約書は完成した。
通常であれば調印式するのだが、スケジュールの都合で私が署名調印したものを当日中にK部長が先方に走り契約書をドッキングするというイレギュラーな方法だった。

という訳で事務的で淡々とした調印だった。
まあ契約書をかわしてすべてが終了ではない。
入金及び株式の譲渡が行われることで全ての手続きが終了となる。

次は2週間後のクロージングを待つだけになる。


K部長「いよいよ大詰めですね。」
そういわれて嬉しいが何とも言えない気分になる。

K部長とは約一年間近くではあるがディープに付き合ってきた。
M&Aを途中で止めたくなり藤波さんを会社に呼びつけたこともあるし、
不安になり愚痴を聞いてもらったりもした、いわば同志であり戦友だ。

夜の銀座で記憶なくすまで飲み明かしたこともあった。
面倒なやり取りも多く大変な作業ではあったがそれも終わるとなると何とも寂しい。

とうとうK部長からの卒業も近づいてきた。