1999年の『月光の囁き』での衝撃的デビュー以来、話題作を精力的に発表し続け、海外からの評価も高い塩田明彦監督。その最新長編監督作である本作は、塩田監督作中でも特にファンの多い『害虫』(2002)、『抱きしめたいー真実の物語ー』(2014)、『さよならくちびる』(2019)を想起させる要素も多く、塩田監督の世界観が存分に表現された快心作となった。
主演は元さくら学院の新谷ゆづみ、日髙麻鈴によるダブル主演。『さよならくちびる』で二人と出会った塩田監督がその魅力を最大限引き出すため彼女たちを想定して書いたオジリナル脚本を見事に演じきった。共演には、本格的に俳優活動をスタートし、瑞々しくも躍動的な存在感を放つ窪塚愛流。また、現在の日本映画界になくてはならない重要な俳優としての歩みを重ね続ける井浦新らが参加。さらに、劇中歌を向井秀徳が提供。塩田監督作品で向井の楽曲が流れるのは、『害虫』、『カナリア』(2004)に続いて三度目となる。
重い持病を抱え、ただ“生きていること”だけを求められて生きてきた高校2年生の由希(新谷ゆづみ)は、ある日、海岸で麻希(日髙麻鈴)という同年代の少女と運命的に出会う。男がらみの悪い噂に包まれた麻希は周囲に疎まれ、嫌われていたが、世間のすべてを敵に回しても構わないというその勝気なふるまいは由希にとっての生きるよすがとなり、ふたりはいつしか行動を共にする。ふと口ずさんだ麻希の美しい歌声に、由希はその声で世界を見返すべくバンドの結成を試みる。
一方で由希を秘かに慕う軽音部の祐介(窪塚愛流)は、由希を麻希から引き離そうとやっきになるが、結局は彼女たちの音楽作りに荷担する。彼女たちの音楽は果たして世界に響かんとする。しかし由希、麻希、祐介、それぞれの関係、それぞれの想いが交錯し、惹かれて近づくほどに、その関係性は脆く崩れ去る予感を高まらせ──。