情報よりも即時の感情が優先「情動社会」どう生きる 歴史学者の答え | 毎日新聞

情報よりも即時の感情が優先「情動社会」どう生きる 歴史学者の答え

上智大の佐藤卓己教授=東京都千代田区で2024年11月6日、和田大典撮影
上智大の佐藤卓己教授=東京都千代田区で2024年11月6日、和田大典撮影

 いまは、人間の声はどこへもとどかない時代です。自分の声はどこへもとどかないのに、ひとの声ばかりきこえる時代です。(中略)とどくまえに、はやくも拡散している--。

 遠い昔、シベリア抑留を経験した詩人・石原吉郎(1977年没)は、民主社会のありようを、そう見通していた。誰しも情報発信できる今、私たちはうつろな世を生きている。東京・四谷の上智大に佐藤卓己さん(64)を訪ねると、首をかしげて言った。「今、求められるのは--」。メディア史が専門の歴史家と膝をつき合わせた。

飛び交う憎悪の情動、日本は…

 「多くの文明史家が、農耕社会、工業社会の次に情報社会が到来すると信じてきました。もちろん、私もそう書いてきた。ところが脱工業化の後にやってきたのは、情報社会ではなく情動社会だったわけです」。蔵書がひしめく研究室。佐藤さんが、ゆっくり腕を組んだ。

 X(ツイッター)やインスタグラムをはじめとしたネットワークでつながり合う時代。確かに私たちは喜びや驚き、怒りといった情緒的な感情で結びつく情動社会を生きている。「煩わしい現実よりも、快楽が優先される。SNS(ネット交流サービス)の浸透により、即時的な満足感の最大化が目的とされる社会が来たのです」

 先の米大統領選に見る分断。移民の流入や極右勢力の台頭による欧州の混迷。先行きが見通せない世界で、SNSでは敵味方に二分された憎悪の情動が飛び交う。この世相が日本に飛び火していると思ったら、歴史家は首を横に振る。

 「東日本大震災が…

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