マ・ドンソクは鉄アレイで殴り続けても死なない ー 最近観た映画の感想 - 機械

マ・ドンソクは鉄アレイで殴り続けても死なない ー 最近観た映画の感想

悪人伝

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「マ・ドンソクの動きを止めるには車で撥ねるしかない」ということがよくわかる映画でした。

なお、動きが止まるだけで倒せません。

無差別シリアルキラーに遭遇して刺されたヤクザの組長。「先に確保した方が犯人を好きにする」という約束で不良刑事と手を組んで、互いを利用しつつ犯人を追う。

ヤクザ・刑事・殺人鬼の三つ巴の戦いのはずなんですが、マ・ドンソク演じる組長のキャラが濃すぎて、鑑賞後には刑事も殺人鬼もほとんど記憶に残りません。だがそれがいい。

マ・ドンソクはシンプルな暴力の権化。癇に障る発言をした人間を動かなくなるまで殴る、殺人鬼に滅多刺しにされてるのに死なずに撃退する、殺人鬼のドタバタにかこつけて商売敵を謀殺する。

また、その高い暴力スペックに加えて、とんでもなく仕事ができる男でもあります。きっちり警察の上層部には金を握らせて犯罪をもみ消し、ごく単純な暴力の恐怖によって傘下の跳ね返りを黙らせる。かと思えば「若い連中は飯を食わせなきゃ働かねえ」と面倒を見て、下っ端からは「兄貴」と慕われる。

任侠ヤクザなどでは決してなく、目的のためには手段を選ばないタイプの極悪人なんですが、「こんなん絶対勝てねぇよ……」という腕力と耐久力とカリスマ性が観てて楽しくなってきてしまう。

そんななので、ヤクザと刑事のバディものというにはちょっと相棒の存在感が薄いし、殺人鬼に至っては特にバックボーンも何もないただの快楽殺人者なので、敵役としては魅力に欠ける。

結果として、ひたすらブルドーザーみたいなマ・ドンソクを眺めて楽しむ映画となっております。だがそれがいい(二回目)。ポスターの面積比が全体の印象をそのまま物語っていると考えてよいです。

ラストのマ・ドンソクの笑顔が最高でした。

イコライザー2  

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近所の頼れるインテリおじさんが実は元CIAのトップエージェントで、「私的に」悪人を消して回っている、という物騒なシリーズの2作目。やたら「19秒」が強調されてるけど、そこはどうでもいいよね。

民間人なのに普通に悪人を殺して問題を解決しようとするデンゼル・ワシントン。前作は特に顕著でしたが、現役エージェントでもいかんだろ、というレベルでカジュアルに人を殺すので観ているとCIAというものに関しての認知がテキメンに歪みます。あんまり深く考えないで、異世界アメリカ無双的な何かとして楽しむのが良いでしょう。

無人のホームセンターで商品を上手に使って一人ひとり敵を消していくデンゼル・ワシントン(前作)。嵐のゴーストタウンで空き家を上手に使って一人ひとり敵を消していくデンゼル・ワシントン(今作)。

相変わらずラストバトルが完全にホラー映画の殺人鬼視点になってるのすげえ面白いんですが、これわざとやってるんですかね。

ジョーカー

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NETFLIXに来たのでやっと観ました。

前評判をうっすら聞いて「これがジョーカーのオリジンとして自分の中に定着しちゃうと嫌だな」という思いがあって、なんとなく劇場まで足を運ぶ気にならなかったのです。

社会的弱者の売れないコメディアンが馬鹿にされて、虐げられて、どん底に落ちたところでブチ切れて悪のカリスマとして覚醒する。俺の期待するジョーカーはそんなキャラじゃないというか、そういう「共感できる理由」があって欲しくないんですよね。

だってDCEUのバットマンがBvSのアレだとしたら、あっちはもう完全な狂人じゃないですか。あのアレと向こうを張らなきゃいけないライバルがそんな真っ当なオリジンでいいのか、という。いい年してようやく仕上がったようなジョーカーじゃ相手にならないと思うんだよねぇ。

バットマンが幼少期に歪められて生まれた狂人であるならば、ジョーカーは理由も理屈もないナチュラルボーン狂人であれ。 

まあ、どう割り引いて見ても中年のジョーカーと少年時代のブルース・ウェインが同じ時代に存在しているので、これは違うバースの話か、あるいはジョーカーが適当に語る「悲しい過去(というヨタ話)」のバリエーションのひとつだと考えています。

バットマンのヴィランとは別物としてみれば、この映画は文句なく面白いです。共感性羞恥が辛いって感想もありましたが、個人的には全くそんなことはなく。

というかこれ、結果が最悪であることを除けば完全に解放の物語ですよね。アーサー(後のジョーカー)視点でいえばハッピーエンド以外の何物でもない。完全に吹っ切れて堕ちきったアーサーが階段を下るシーンの楽しそうなことときたら!!

連行されながら暴動を眺める笑顔や、明るい精神病院での追いかけっこといい、絶望のどん底から一転幸福の絶頂(本人だけ)エンド。よかったねアーサー。

分断社会への警鐘を描いているという批評はもっともで、というかむしろそういったメッセージを読み取るなってほうが無理なんですが、それでも俺は単純に痛快人生大逆転映画として楽しめてしまいました。あんまりあたまがよくないです。ばなな。

ちなみに観た後真っ先に連想したのは「ジーキル博士の彷魔が刻」というクソゲーでした。

デイヴァイン・フューリー

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右手に聖痕を宿してしまった格闘家。神を信じない彼はそれでも悪魔祓いの戦いへ身を投じる事となる。

劇場で結構な回数の予告が流れていて、設定がまあ中二病全開で逆に観たくなりました。

主人公は聖痕の力で悪魔を祓うんですが、聖なる力は主に暴力によって行使されます。悪魔憑きを普通に殴る蹴る。聖なる炎が燃え盛る右手で掴んで炙る。聖水は火勢を強める燃料扱いで、右手で敵に着火してからぶっかけてよく燃やす。この雑な聖水の扱いが狂おしく好き。

このように、およそ悪魔祓いに見えないアクションが見所のひとつです。

どうしてもアクションが印象深いのでこういった感想が先に来てしまいますが、別にネタ映画というわけではなく、普通にちゃんと面白いエクソシストものです。

師匠ポジションのアン神父が良いキャラでした。あと「哭声」でも思ったけど、韓国映画の子役は悪魔憑きの演技が異様に上手いですね。

TENET 

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ノーランのSF映画って小難しい理論を「なんかわかった気にさせる」のが凄く上手いですよね。「時間逆行」が今回のネタで、普通の時間の流れの中にいる人間と逆光する時間の中にいる人間が同じ空間に入り乱れて動き回る。

逆向きの時間の流れに入るための回転扉というギミックがシンプルで直感的に分かりやすいので大筋を把握するのはそう難しくないのですが、初見で細かいところまで理解するのはまあ無理でした。特にカーチェイスのところは何が起きてたんだか解説読んでも分からん。

そもそも登場人物が「深く考えんな」的なことを言ってますし、諸々の設定は面白逆回しアクションを楽しむための単なる舞台装置と考えて差し支えないと思います。

順方向と逆方向の人間同士のどうやって撮ってんだか分からない格闘や、派手な爆発・崩壊がなかったことになるVFXとか、大変ノーランノーランしており楽しいです。

もともとそんなに好みじゃなさそうだったんで観に行く気はなかったんですが、コロナで多くの映画が公開延期となってる中、久々に劇場で金かけまくったハリウッド大作を観れただけで満足してしまいました。自覚はなかったけど結構飢えていたんだなあ。

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