Appleは2024年10月15日、iPad mini(A17 Pro)を発表した。10月23日の発売に先立ち、レビューの機会を得た筆者が、その魅力と使い勝手をお届けする。
iPad mini(A17 Pro)
チップセットを冠した「iPad mini(A17 Pro)」
コンパクトなボディで人気のiPad mini。筆者は普段iPad Airを使っているのだが、数日間iPad miniを使ってみたところ、その手になじむサイズ感の良さに物欲が刺激された。
iPad miniのコンパクトなサイズは、小説やマンガを読んだり、動画を見たりといったコンテンツ消費にピッタリなのだ。iPhoneだと字が小さくて困るようなコンテンツでも、iPad miniのサイズなら問題なく読める。
10月23日発売の新しいiPad miniは、Appleの正規表現だと「iPad mini(A17 Pro)」と呼ばれる。従来モデルはiPad mini(第6世代)だったのだが、新モデルはiPad mini(第7世代)とはならず、チップセットの名前を採用した。この命名ルールは、2024年5月15日発売のiPad Pro(M4)、iPad Air(M2)から適用されている。正直なところ、ハードウェアに使われているチップセットを把握していないユーザには、わかりにくくなったように思う。
A17 Proの採用でApple Intelligenceに対応!
iPad mini(A17 Pro)は、その名のとおりiPhone 15 Proと同じA17 Proを搭載する。A17 Proは、すでにアナウンスされているとおりApple Intelligenceに対応するチップセットだ。日本語環境では来年(2025年)提供されるApple Intelligenceだが、アメリカ英語環境では2024年10月中に利用可能となる予定。このコンパクトボディでApple Intelligenceを使えるのは、大きなメリットになるだろう。
ちなみに、近日公開予定のiOS 18.1にアップデートし、利用言語を英語にすれば、日本のApple AccountでもApple Intelligenceを利用できるはずだ。
iPad mini(A17 Pro)は、チップセット以外はほぼ前モデルを踏襲している。
ただボディカラーには変更があった。スペースグレイ、スターライトの2色は継続採用され、ピンクが廃止。そして新色ブルーが登場し、パープルは色味が変化している。
また、ハードウェア的には変わらないが、ドライバが修正され、iPad mini(第6世代)で発生していた縦画面時にスクロールが震えるようになる問題(ジェリースクロール)が解消したようだ。
性能はいかほど? iPad mini(第6世代)、iPad Air(M2)とベンチマークで比較
iPad mini(A17 Pro)は、第6世代からどのぐらい進歩しているのか。そして、iPad Air(M2)とどのぐらいの性能差があるのか。まずはCPUとGPUの性能を比較するため、GeekBench 6を利用してベンチマークを取った。
iPad mini(第6世代)に搭載されているのはA15 Bionicで、A17 Proとは2世代分の差がある。CPUのシングルコアで約29%、マルチコアで約18%、GPUメタルのスコアで約30%の向上が見られた。
どんな用途にiPad miniを使うかにもよるが、負荷のかかる作業であれば明確な違いになるだろう。
岐路に立ったiPad miniとAir。変わりつつあるiPadシリーズの戦略
Apple Intelligenceで活用されるNeural Engineの性能は、A15 Bionicと2~3倍の差が開いた。iPad Air(M2)とも比較したが、世代の差か、Neural Engineの利用においてはiPad mini(A17 Pro)のほうが高い性能を示している。
Apple IntelligenceはA17 Pro以降、もしくはMシリーズチップ搭載機でしか使えないが、AシリーズかMシリーズかにかかわらず、Apple Intelligenceの導入が決定したあとに開発されたチップは、明確にNeural Engineを増強しているのがわかる。
なお、iPad mini(第6世代)に搭載されているA15 BionicとA17 Proでは、CPU、GPU、Neural Engineのコア数はそれぞれ、6(2P+4E)、5、16と変わりはないが、メモリは4GBから8GBへと倍増している(Apple公式からは未発表だが、GeekBench 6によるベンチマークで確認できた)。これらの変更は、グラフィック性能や、AI処理の性能に大きな影響を与えるはずだ。
ちなみに、従来のiPad miniはiPad Airと共通のアーキテクチャが採用されることが多かったが、現行モデルのiPad Airは、Macにも採用されるM2を搭載している。一方、iPad mini(A17 Pro)は、iPhone 15 Proと同じチップセットだ。ここから、iPadシリーズの戦略が多少変化していることが見て取れる。
おそらく、iPad miniにM2を搭載するのでは、消費電力、発熱、コストなどの点で負担が大きかったのだろう。今回、A17 Proを採用したからか、価格は7万8800円~と若干抑えられている。これは、ユーザとしてはむしろありがたいこととも言える。
さよならApple Pencil(第2世代)。買い替えユーザには手痛い出費
iPad mini(A17 Pro)のディスプレイは、最大輝度500ニトのLiquid Retinaを搭載する11インチのiPad Air(M2)と同クラス。画面サイズの制限はあるが、趣味で絵を描いたり、グラフィック処理を行ったりという用途にも十分耐える。ただし、プロ用途なら非常に高いコントラスト表現が可能なUltra Retina XDRディスプレイと、ProMotionテクノロジーを搭載するiPad Pro(M4)には大きく水をあけられる。
そして、対応するApple PencilはApple Pencil Pro、Apple Pencil(USB-C)の2モデルとなった。Apple Pencil Proが利用可能となった一方で、既存ユーザにとっては残念なお知らせもある。Apple Pencil(第2世代)が使えないのだ。ここは継続対応してくれるとありがたいのだが…。前モデルのiPad miniから買い替えるユーザにとって、大きなコスト増である。
とはいえ、片手で持てるiPad miniは、手書きメモとして使うのにも便利だ。できればApple Pencilも用意して、一緒に使いたいところ。
“もっともリーズナブルなApple Intelligence対応マシン”としての価値
カメラには変更がなく、1200万画素の広角カメラが搭載された。このあたりは、本格的な撮影はiPhoneにまかせればいいという割り切りだと考えられる。また、フロントカメラも1200万画素で、短辺に配置されている。おそらく、縦向きで使うことが想定されているのだろう。直近でリリースされたiPadシリーズはいずれも、カメラが長辺に設けられており、横向きで使いやすい設計だった。この違いは、キーボードフォリオの有無とも関係がありそうだ。
現行のiPadシリーズでは、iPad miniだけが純正のカバーを兼ねたキーボードが用意されていない。そのため、キーボードを使いたい場合、外付けキーボードをBluetooth接続して使うことになる。
また、ロック解除はiPad ProのFace IDとは異なり、iPad Air、iPad(第10世代)と同じくトップボタンに内蔵されたTouch IDを使用する。ボリュームボタンも同じ辺に配置される独特のレイアウトだ。やはり、iPad mini(A17 Pro)は縦向きでの使用が想定されているのだろう。ただし、スピーカは横置きにしたときのみステレオになる。2つのスピーカはいずれも、短辺に搭載されているからだ。
iPad mini(A17 Pro)は、従来のiPad miniファンからのニーズをしっかり受け止める進化を果たした。そして、“もっともリーズナブルなApple Intelligence対応マシン”としても、非常に価値のあるデバイスだ。
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著者プロフィール
村上タクタ
Webメディア編集長兼フリーライター。出版社に30年以上勤め、バイク、ラジコン飛行機、海水魚とサンゴ飼育…と、600冊以上の本を編集。2010年にテック系メディア「ThunderVolt」を創刊。