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進行性の難病を抱えながら働く──テレワークが変える障がい者の働き方の未来

著者: 栗原亮

進行性の難病を抱えながら働く──テレワークが変える障がい者の働き方の未来

株式会社D&Iでは、国内初となるテレワーク型在宅雇用支援サービス「エンカク」を提供しています。現在200社で導入され、540名以上の就業支援実績があり定着率は90%以上となっています。 [URL]https://d-and-i.jp/service/enkaku/

民間企業での障がい者雇用数は、約64万人と20年連続で過去最高を更新しています(1)。しかし、日本の障がい者総数の約5%程度にとどまっているのが実情です(2)。そして、障がい者雇用を促進する方法のひとつとして近年注目されているのが、テレワーク型の在宅雇用支援サービスです。デジタル技術が障がい者雇用にどのような変化をもたらしているのか、サービス提供企業と導入企業、当事者である障がい者のお三方に話を聞きました。

障がい者雇用の現実と課題

──テレワーク型在宅雇用支援サービス「エンカク」を提供しているD&Iはどのような会社でしょうか。株式会社D&I 執行役員 定着プラットフォーム事業部長 米田尚泰さんに伺います。

米田:私たちD&Iは、「誰もが挑戦できる社会をつくる」ことをミッションに2009年に設立された会社です。「D」は「多様性(ダイバーシティ)」、「I」は「包摂(インクルージョン)」の意味で、障がい者専門転職サービス「DIエージェント」や、障がい者雇用専門の求人サイト「BABナビ」、在宅雇用サービス「エンカク」のほか、就労移行支援事業の「ワークイズ」などの開発と運営をしています。

──障がい者雇用をめぐる現状はどのようになっているのでしょうか。

米田:厚生労働省の調査によると、現在国内には障がい者が約1160万人いると推定されています。これは人口の約9.2%に相当し、この数は2年前の調査から200万人ほど増えたと言われています。また、このうち就労に適した18歳以上65歳未満の総数は約460万人程度ですが、民間企業で雇用されている障がい者はおよそ60万人から100万人の範囲と言われています。まだまだ少ないというのが実情です。

──200万人も増加しているのは驚きです。その背景にはどのようなことが起こっているのでしょうか。

米田:増加した要因はさまざま考えられますが、統計上はその半数以上が精神障がい者の増加によるものです。企業や社会の精神障がいに対する理解が広まったという側面もありますが、雇用の場面においては就労後の定着率が高まらない問題が指摘されています。

──「エンカク」はどのような課題の解決を目指して作られたサービスなのでしょうか。

米田:これまで15年以上にわたって障がい者雇用の支援事業に取り組み、多くの会社のコンサルティングをしながら障がい者雇用を定着させるための仕組みの構築とノウハウを蓄積してきました。しかし、障がい者雇用のマッチングには限界があり、これに加えて地方格差の問題もあります。これらの課題を解消するひとつの方法がテレワークで、2018年に「エンカク」のサービスを開始しました。また、その翌年に採用後の就労をサポートするSaaSとしてテレワークシステムの「エンカククラウド」の提供を開始しています。

エンカクの導入から障がい者採用支援と人材育成までのサポート内容。就業フローの支援としてエンカククラウドも提供しています。

──「エンカク」と「エンカククラウド」はサービスの範囲が異なるということですか。

米田:エンカクのサービス範囲は、障がい者雇用においてテレワーク業務をどのように構築するかというご相談から、対象となる人材のご紹介、さらに入社時の手続きや専属トレーナーによる研修やeラーニングなど人材の育成と戦力化の支援などの就業フォロー全般が含まれています。エンカククラウドは、エンカクを導入いただいた企業さまがパソコン1台でテレワークに必要な機能を利用できるサービスで、何を利用するかはそれぞれの会社の状況に合わせて選択できます。

──具体的にはどのような機能が含まれていますか。

米田:エンカククラウドでは、主に在宅での勤怠管理やタスク管理、ファイル共有やチャットなどデータの共有管理やコミュニケーション機能が含まれています。また、障がい者の就労において重要な、日々の体調を把握するための機能やテレワーカーの就業状況をリアルタイムで把握するための機能も備わっています。

エンカククラウドを導入することで、勤怠管理やファイル共有、健康管理などリモートワークに必要な機能をダッシュボード画面から一元管理できます。

テレワークによって広がった就職の選択肢

──テレワーク型の障がい者雇用を導入している株式会社やる気スイッチグループへ今年4月に入社した伊藤駈さんに、テレワークの働き方についてお聞きします。入社までの経緯を教えてください。

伊藤:私は生まれつきシャルコー・マリー・トゥース病という遺伝性の末梢神経疾患を持っていて、中学を卒業後は昨年まで特別支援学校に在籍していました。私の場合、症状として手への影響は比較的少ないのですが、徐々に足の筋力が落ちていくため、将来の働き方を考えると、日常的な通勤を長く続けていくことは難しいと感じていました。

2024年4月に新卒で株式会社やる気スイッチグループへ入社した伊藤駈さん。「自分の障がいの特性を考えた際に、リモートワークによる就労が適していると思いました」。

──テレワークという働き方を知ったのは何がきっかけですか。

伊藤:在学中に合計3回ほど職業体験実習が行われたのですが、私の場合は高等部2年生の後半に参加したテレワーク実習が直接のきっかけです。当時「テレワーク」という言葉自体は知っていたのですが、新型コロナウイルス感染症が広がっていた時期ということもあり、テレワークという新しい働き方について多くの情報を知ることができました。自分の障がいの特性にも合った働き方ではないかと考えて選択しました。

──やる気スイッチグループでは、どのようなお仕事をされていますか。

伊藤:現在は主に人事に関する仕事をしています。やる気スイッチグループではさまざまな教育事業を展開しているため、アルバイトとして採用されたスタッフの登録情報に誤りがないかどうかをチェックしたり、それに関するサポートをする業務が中心となります。

株式会社やる気スイッチグループは、個人指導の学習塾からスポーツ教室まで国内外に2300以上の教室を展開する総合教育サービス会社です。
[URL]https://www.yarukiswitch.jp

──ご自宅での勤務では、主にどのような業務ツールを利用しているのでしょう。

伊藤:業務時間中は常にZoomを使ってチームメンバーとコミュニケーションをとっていて、業務の進捗や報連相・質問もZoomで直接会話しています。また、社内のグループウェアではサイボウズの「Garoon」を利用していて、社内報の確認や、従業員の問合せ対応などで活用しています。学生時代に利用していたツールもあるので、操作方法などで困ったことはありません。

──リモートワークならではの働き方や、普段気をつけていることなどありますか。

伊藤:パソコンの画面越しということもあり、在宅勤務では情報共有がとても重視されています。たとえば、始業時には本日の業務や流れを上司やチームメンバーと確認し、業務上困ったことがあれば相談することも、されることもあります。一日の節目にはチームメンバーと業務状況の確認や報告、連絡をしています。また、仕事のチャットでは話のタネになるようなものを調べて話題を投げてみたり、相手との距離感を近づけるための工夫をしていますね。

テレワークという働き方がもたらす可能性

──障がい者雇用の課題について、株式会社やる気スイッチグループ 人事総務部 オフィスサポート課の鈴木雄大さんにお聞きします。

鈴木:教育事業を手掛けるやる気スイッチグループでは、もともと障がい者雇用を積極的に進めていきたいという考えがありました。しかし、以前は職場での障がい者の受け入れ体制が十分なものではないという課題があったのは事実です。

──リモートワーク型の障がい者雇用を導入された理由と現在の印象はいかがでしょうか。

鈴木:近年、多様な働き方が注目されるようになり、リモートワーカーの採用についても検討するようになりました。採用側の視点では、在宅勤務はどのように働いているのかが見えづらいなど不安な要素もありましたが、eラーニングなどでリモートワーク型の障がい者雇用をサポートしてくれるエンカクのサービスはとても有用で、心強く思っています。

──普段の伊藤さんの働きぶりについてはどう感じていますか。

鈴木:これまで障がい者雇用は中途採用が中心で、学校での職場体験実習を通じて採用したのは伊藤さんが初のケースとなります。個人的な印象として、伊藤さんは18歳とは思えないほどしっかりしていて、リモートワークで働く仲間たちとコミュニケーションの起点となるような提案をしてくれたり、この4カ月間、期待以上の成果を上げてくれています。

【参考】
厚生労働省 令和5年度 障害者雇用実態調査
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39062.html

厚生労働省 第28回「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム(オンライン)」資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33205.html

内閣府 令和6年版 障害者白書
https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r06hakusho/zenbun/index-pdf.html

  1. 厚生労働省 令和5年 障害者雇用状況の集計結果
    2023年6月現在で64万2178人
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_36946.html ↩︎
  2. 厚生労働省 第28回「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム(オンライン)」資料
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33205.html ↩︎