2022年、ネット上での話題や議論を独占してる漫画は、「月か、金か」でございますね(笑)…数年後にわからなくなってるマクラだな、たぶん。
ま、それで金のほう、「ゴールデンカムイ」5月8日まで全話無料がまさかの延長ということで、話題が続いているんですけど、こんな話を一寸しました。
連ツイ全体を興味深く読みましたが、部分的に一つ。実はかつての日本語では「勃起」を、精神的に励まされる、やる気が出る…的な意味に使われることもあり、吉田松陰の文章にも出てきたとか(みなもと太郎書いてた)ゴールデンカムイのそれとは偶然の一致と思いますがhttps://t.co/IedfblmXhg
— INVISIBLE DOJO (@mdojo1) May 1, 2022
ぼっ‐き【勃起】 の解説
[名](スル)
1 力強くむくむくと起こり立つこと。2 陰茎が海綿体の充血により大きく硬くなること。勃起中枢は仙髄と大脳皮質にある。
dictionary.goo.ne.jp
https://twitter.com/mdojo1/status/1520603749999611904
「勃起」の転用についてはおそらく明治期、あるいは江戸後期に西洋医学が移入されたとき英語Erection(蘭語/独語のErektion)の対訳語として既に存在した「起こり立つ」2文字熟語が流用され、それがいつしか第一義の意味として主用されるようになったのではないかと考えます。
— ウチューじん・ささき (@uchujin17) 2022年5月1日
この話は、実のところ調べるまでもない。
というのは、これを正にダイレクトに指摘している漫画と、その個所があったんだよ!!!
ただ、いま、俺の「手元」にない&、具体的な場所がわからない……のである。だから記憶で言うわ。
風雲児たちでおなじみ、故みなもと太郎が主宰する「サークルみにゃもと」から色んな同人誌を出していて、書店とかでも売ってたのかな?自分は、毎年コミケに出展していた方から、或る時期に自著と一緒に、会場で購入して下さったこの本を、一緒に贈ってくださったのだ。
だから、テン年代の、このどこかの号だと思う。
上のツイートに書いているように、たしか吉田松陰の書状にあった……はずなんだよなあ。でも「吉田松陰」という固有名詞じゃなかったかもしれない。でも少なくとも、幕末の志士であることは間違いないや(※このへんは、この後の記述参照)。
そこをピックアップして、でかでかと筆文字で「勃起」と書いてみなもと太郎自画像がずっこけ、「イヤ実は、この時代は『勃起』は今のそー-いう意味だけじゃなく、普通に使われてた言葉なんですね」と解説してたのですね。
(本当は、その画像が欲しかった!!)
同人誌だからたぶん部数は僅かとはいえ、みなもと太郎の知名度・影響力は屈指…のはずだから、誰かこのブログを読んでる人でも知ってる人はいるはず!!
その人が、「その個所、確かにありましたよ。」と、示してくれればいいのだが…(募集中)
※重要追記
募集した画像、教えてくれた方がいました!
— にくじゃが (@gakuhi02) May 3, 2022
みなもと先生の同人誌、【風雲児伝説】からです。
— にくじゃが (@gakuhi02) 2022年5月3日
https://twitter.com/mdojo1/status/1521525846845976576
ほんとは、その時もへえ面白い話だな、と思ったのだが、
このブログも、あまりこういう話題を扱うのをはばかったので、お蔵入りしていたのだ(笑)
とはいえ、「ゴールデンカムイ」いかに取材が綿密とはいえ、言葉・セリフ回しに関しては、それを明治時代のリアルに敢えて近づける感もない。
作者は、もちろんあのマタギ――漫画にはしばしば、「狩人」という存在に強烈な個性や思想を持たせることがあるが、そういうキャラクターの系譜としても、屈指のそれだと思うー-に、とんでもなく常識はずれで一種の変態性も持つ、そんなキャラ付けをしたかった。
(大体、あそこに登場するキャラにとって、何かしらの変態性を持つのはたしなみのようなものだ(笑))
その一環として、この言葉を口癖にさせたのだと思う。…それは、ごく納得できる発想だ。
だがこれがたまたま…歴史的な時系列を考えたら、それは、普通に口走っても大しておかしくない「普通の言葉」であった(かもしれない)
それは偶然によって引き起こされた、一種の逆方向の失敗というか…交通事故ならぬ「考証事故」だったのだと思う。あっ、いま上手いこと言った。
※ただし96話で、その両義性みたいなのもネタにしてるな。
tonarinoyj.jp
…ということで、既に道筋は勃っている、いや立っているんだ。
「もともと『勃起』は広い意味で使われていたが、時代を経るにつれて、あーいうことを意味する時にしか使われなくなって、いまそこがピックアップされると、ずっこけのギャグになる…ようになった」という事実関係は、たぶんほぼ間違いないの。
問題は、それの時間的な変遷についてだが…
ではひさびさに
「初出調べ、弐ノ型」を使ってみるか。青空文庫内検索!!
日本山岳景の特色
小島烏水穂高岳、霞沢岳、笠ヶ岳、蓮華岳、常念岳、大天井岳、剣岳などは、いずれも肩幅が濶ひろく胛肉こうじゅう隆々として勃起している、山形分類を行えば、先ず穹窿ドーム形の部に入るべきであろう。
www.aozora.gr.jp
リルケ年譜
堀辰雄
一九一四年 ミケランジェロの詩を譯す。又、十六世紀中葉のリヨンの閨秀詩人ルイズ・ラベの遺せる二十四篇のソネット(Die vierundzwanzig Sonette der Lou※(ダイエレシス付きI小文字)ze Lab※(アキュートアクセント付きE小文字))を譯す。歐洲大戰勃起し、巴里を立退く。
www.aozora.gr.jp
…向うから出て来る山雲を退散せしむる状をなして大いにその雲と戦う。けれども雲の軍勢が鬱然うつぜんと勃起し、時に迅雷じんらい轟々ごうごうとして山岳を震動し、電光閃々せんせんとして凄まじい光を放ち、霰丸さんがん簇々そうそうとして矢を射るごとく…
www.aozora.gr.jp
将来の日本
徳富蘇峰武備機関の衰亡と、貴族社会の凋落と、生産機関の興隆と、平民社会の勃起ぼっきとは、つねに一致連帯の運動をなすものにして、このなかには実にいうべからざる妙理の存するものあるは社会の大勢に通じたるの士の実に玩味がんみするところならん。けだし英国ほどその秩序よく平民主義の進歩したるものはあらず。
※初出調べの「型」についてはこの冒頭部参照
togetter.com
【参考・初出探しの基礎方法】
twitter内の初出探し法 https://togetter.com/li/1084358青空文庫内を検索する http://www.aozora.gr.jp/index.html
BOOK☆WALKER横断検索 https://bsearch.bookwalker.jp/search
Google ブックス https://books.google.co.jp/
Google Scholar https://scholar.google.co.jp/
国会図書館デジタルコレクションを検索 http://dl.ndl.go.jp/
次世代デジタルライブラリーを検索 https://lab.ndl.go.jp/dl/
ヤフー知恵袋内検索 https://chiebukuro.yahoo.co.jp/
はてなブックマーク内検索 https://b.hatena.ne.jp/
海外のエンタメ・サブカルの「お約束」事典『TVtropes 』(英語) https://tvtropes.org/
「タネタン」 https://moto-neta.com/
青空文庫で満足してやめてしまうのがおまえの限界だな。玄人は国会議事録を検索する。
https://anond.hatelabo.jp/20200418204831
https://kokkai.ndl.go.jp/
こんなツイートもいただいた
普通の意味での「勃起」なら7世紀ころから用例が見える。隋書・薛道衡傳には「帝系霊長、神基崇峻、類邠岐之累徳、異豐沛之勃起。」など。
— Tckw Ik (@xtachik) May 4, 2022
問題は、erectionの医療用訳語を下ネタで普及させるきっかけになった作品は一体なんなのか、またどういう経緯で中国語に伝播した(または逆?)のか。 https://t.co/jCl1CnId3R
ここまでは、わかっています。
あとは、興味を持った人が、さらに詰めて謎を解明してください。図書館のレファレンスなどを活用すればさらに詳しくわかるかも(いねぇよ、そんなの調べるやつ)
追記 シモ系とか、下品方面で使われた言葉は、従来の意味を”乗っ取る”ことはよくあり、確かそういう法則に名称があったような…
ブクマコメントより
id:minamihiroharu 「シェイプアップ乱」以降は「もっこり」の意味が変わってしまったようなものであるかw 「鬱勃たる」とか「勃興する」みたいな硬い表現だったんだろうか、「勃起」
id:napsucks 性癖(≒癖)という言葉を性的嗜好の意味で乗っ取った変態どもは許さない。doc拡張子を乗っ取ったマイクロソフトもだ。
id:oakbow 「風俗」も本来の意味がかなり薄れたよね。これは法律のせいだと思うけど、エロ系の意味合いが後から付与されるとパワー強すぎて乗っ取る傾向があるのかもしれない。他ブコメにあるけど性癖もそうだ
そうそう、書き忘れていたんだけど、なんというかこういうふうに「ある言葉が下品な意味で使われると、従来の意味を乗っ取りがちである」というのは、一種の法則性らしい。このことを、高島俊男氏が、「トイレ」を示す言葉(手洗い、はばかり、雪隠…などなど)を例に書いていた……ようなきがするが、例によってうろ覚えなので(笑)
みなもと太郎の漫画の中にもあるのだが、実は言う側の意識としては、主観的には上品なのである。
「ロコツに ●●● という下品な言葉を使うのは抵抗があるから、遠回し、上品にそれを ■■■ と表現しよう」という意味で最初は使うんよ。
しかし、実際のところそれには”有効期限”があり、封印が徐々に解かれて、最後はめでたく ■■■ という言葉がロコツで下品な言葉と認定されるのだ(笑)
「勃起」という言葉はいつから、普通の意味で使われなくなった?~ゴールデンカムイ雑談 - INVISIBLE D. ーQUIET & COLORFUL PLACE-b.hatena.ne.jp隠語が原義を駆逐するのは普遍的な現象。英語のgayも、本来はhappyの意だが、20世紀後半から専ら(特に男性の)同性愛者を指す言葉に変化した。
2022/05/04 12:09
勃起という言葉も、おそらくこのルートをたどったことはほぼ確実じゃないかと推測しています。
これに何か、法則名があった気もするが、さだかではない。
言葉の意味や使い方は変わりますものね。最近だと【やばい】とか。みなもと先生曰く、【心中】には【武士道の忠義心の意味しか無かった】とか。完全に使い方を変えた近松門左衛門凄いです。 pic.twitter.com/exyIA2LQAF
— にくじゃが (@gakuhi02) May 4, 2022
メモー「みなもと先生曰く、【心中】には【武士道の忠義心の意味しか無かった】とか。完全に使い方を変えた近松門左衛門」
「AVマニア」と言ったらある時期までオーディオビジュアル、音響や映像にこだわる人のことだったのだが、本当に性に関する言葉の文脈乗っ取り力はすごい https://t.co/ok2s6NTGGi
— CDB@初書籍発売中! (@C4Dbeginner) September 26, 2023
思い出した追記 「風雲児たち」最終巻は夏ごろ刊行
この機会に紹介。コミック乱に告知が載っていました
リイド社『コミック乱』連載、みなもと太郎「風雲児たち 幕末編」35巻が今夏発売。
— びいどろ書房 新刊マンガなどを紹介 (@biidoro_) April 26, 2022
単行本未収録の227話、最終話となった228話に加え、幻となった229話の秘蔵カットや特集記事などえお収録し刊行予定。 pic.twitter.com/BVVhKllNdy
「 #風雲児たち 最終35巻告知」がコミック乱六月号に載っていました。「34巻未収録の227話と、2020年八月号掲載の228話に加え、幻となった229話の秘蔵カット、特集記事をふんだんに加え今夏の刊行予定。発売日その他の詳細は決まり次第お知らせします。」とのこと。期待を込...
— マーロー (@maruta_maro1959) May 2, 2022