西日本新聞の記者、久さんの記事。日本を代表するブロック紙でよくここまで踏み込んで書いてくれました。
— 福田充 Mitsuru Fukuda (@fukuda326) September 6, 2021
安倍・麻生両氏から菅首相に三くだり半、退陣表明の前夜。政界アウトレイジ。https://t.co/42vIwXZTsL
2日夜。菅義偉首相は、自民党役員人事の一任を取り付けるため、麻生太郎副総理兼財務相と接触した。
【関連】菅首相、国民に語る「言葉」なく
同じ神奈川県選出で信頼する麻生派の河野太郎行政改革担当相を要職に起用できないか―。だが、麻生氏は声を荒らげた。「おまえと一緒に、河野の将来まで沈めるわけにいかねえだろ」
首相は説得を試みたが、麻生氏は最後まで首を縦に振らなかった。
もう1人、首相の後ろ盾である安倍晋三前首相にも党人事への協力を求めたが“三くだり半”を突き付けられた。首相が「孤立」した瞬間だった。
一夜明けた3日午前11時半、自民党本部8階。居並ぶ党幹部を前にした首相は静かに目を閉じた。事務方が用意した「党役員人事は6日に行う」という書類には目を落とさず、こう言葉を絞り出した。
「1年間、コロナ対策に全力を尽くしてきた。総裁選を戦うには相当のエネルギーを要する。総裁選は不出馬とし、コロナ対策を全うしたい」
「麻生氏は声を荒らげた。「おまえと一緒に、河野の将来まで沈めるわけにいかねえだろ」
— 伊藤 剛 (@GoITO) September 6, 2021
首相は説得を試みたが、麻生氏は最後まで首を縦に振らなかった。」
こういう記事を読むたびに思うんだが、こういった「見てきたかのような描写」ってどこをどう取材すれば書けるのだろうね(婉曲表現)。 https://t.co/7m8g0h0kQ4
むかし朝日新聞(AEらだったかな)の記者さんが書いていましたが、内部では「ハルバっちゃう」という言い方があるそうです。取材を重ねれば、三人称で場面を断定するノンフィクションの書き方でも許される、という手法の象徴たるデビッド・ハルバースタムからですね。https://t.co/hxiU8N80Ic
— INVISIBLE DOJO (@mdojo1) 2021年9月6日
ふと思い出したんだが、反響があったので書き留めておこう。いつのどれ、と完全に具体的に指摘できないのは申し訳ないが、新聞社系出版物の「編集後記」的なものだと記憶しており、かなりの確率でAERA(文中でAEらと誤変換してしまった)系の何かだった可能性が高い。
さすがに、こんなおもしろいことを自分の脳内で一からは考え付かない(笑)。
【重要追記】ブクマで情報寄せられる!!
id:knarikazu アエラ1995年5月22日「編集長敬白」創刊のころ、編集部では「ちょっと、ハルバッちゃうか」という冗談がはやっていました。細部を描写して、記事を魅力のあるストーリーに仕立てる。その掛け声みたいなものでした。
https://b.hatena.ne.jp/entry/4707984422697808482/comment/knarikazu
自分がノンフィクションを読み始めた80年代(書かれたものの多くは70年代後半か)はそもそも「ノンフィクション」という言い方もようやく固まった時代で、その「方法論」に関する議論もすごく活発だった。
※以下の記述は多くは柳田邦男氏の論考(80~90年代の「事実」シリーズ)が元となっている。
その中で、当時は「ニュージャーナリズム」という手法も論じられた。
めっちゃざっくり言うと、王道のジャーナリズムは、事実として調査したり実際に見たものは「〇〇である」と断言して書けるが、そうでないものは「Aは、〇〇だった、と話している」と書く。そこをきっちりわける…というものだったが、ニューの方は「入念な取材をして確信を持てれば、見てないものでも『〇〇である』でいいのだ!」というもの。描写は三人称となる。
その旗手は「冷血」のトルーマン・カポーティ、「汝の父を敬え」のゲイ・タリーズ、「ベスト・アンド・ブライテスト」のデビッド・ハルバースタムなどだった。(※当初、人名と書名の連動に間違いあり修正)
その影響下に、日本で沢木耕太郎「テロルの決算」、佐木隆三「復讐するは我にあり」などなどの傑作が、この三人称による断定の文章作法で描かれている。
ハルバースタムはその後も非常に長く活躍を続け、その象徴だったからやはり「ハルバっちゃう」は適切な比喩であるといえる。
ja.wikipedia.org
[asin:B0836GLV32:detail]
だから、さすがに、どの描写にも一応、取材の裏付けはあるはずだ。
中国史書のこれのようにまで開き直ってはいないと思う(笑)
m-dojo.hatenadiary.com
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※これはこれで、その当時のひとつのルールであったので、書いた人はその当時のルールに従って、史書を世界最高レベルの誠実さで書いてたんだよ。
ただ、そもそも証言者も、そこまで正確に自分の見た光景や聞いた、話した発言を再現できるのか、というのは、我が身を振り返ればわかる話ではある。
そこのところを沢木耕太郎は悩みに悩んだ末「じゃあ、自分が見た、聞いたと断言できることだけでノンフィクションを書けないか…そのためには…自分が『当事者』になればいいんだ!」と考え、ボクシングのプロモート、マッチメークに関わって「一瞬の夏」を書いたという話は、日本のノンフィクション史でよく語られるところだ。
それでもなお、この「見たような描写(ができるほどに詳細な取材)で政界の激動を描く、は各社の花形、華舞台であり、全力投球でやっているはずなのでやはり面白い。
それが一冊にまとまった本など、いつも面白いわ。
読売新聞って、全体的に面白くないと思っているけど、この系の政界ドキュメントは超一級と言っていいと思う。
[asin:4103390190:detail]
もちろん朝日新聞も。
だから
「こういった「見てきたかのような描写」ってどこをどう取材すれば書けるのだろう」という疑問はまことにもってごもっともだけど(笑)、それでも基本的には信用できるだろう、という大前提をおいて、今後とも各社の、「三人称・断言系描写」のある政界ドキュメントに要注目!!と思います。
ついでに「ハルバっちゃう」という言葉を覚えて、持ち帰ってください(正確な出典ご存じの方いたら、緩く募集中…※だったが、情報が寄せられたのは、記事の途中に追記した通り)
その後、西日本新聞に麻生サイドは抗議文。さてどうなる
西日本新聞『菅首相が麻生財務相と接触。麻生は声を荒らげ「おまえと一緒に、河野の将来まで沈めるわけにいかねえだろ」』
— Mi2 (@mi2_yes) 2021年9月9日
麻生太郎事務所『麻生が本件発言をした事実はなく全くの虚偽。訂正と謝罪をするよう強く求める』
義理人情に厚い男が、総理にそんなこと言うわけないだろう。酷い内容の記事。 pic.twitter.com/6gCmQKovZB
だいたいこういうの「十分な取材に基づいており、記事には自信を持っている」という返答がかえってくるのだが、その次にどうなるかだな。(言われた側が”アリバイ”として一応抗議した、ということもよくあるので)https://t.co/ujKtKrBKSt
— INVISIBLE DOJO (@mdojo1) 2021年9月9日