2013年1月8日の朝日新聞…警官採用にポリグラフ、の記事がのった日の紙面は、社会面の「ルポルタージュ現在」という企画にも面白い話が載っていた。題して「万引き、という病」
http://www.asahi.com/national/intro/TKY201301070425.html
万引き、という病〈ルポルタージュ現在〉
コンビニに入ると、目当ての棚にまっすぐ向かう。菓子パン、お菓子、アイスクリーム――。手にしては次々に自分のバッグに入れた。OL風の服装に、手入れされた髪。支払いをしないで店を出ても、呼び止められることはまずない。
有料会員しか読めないが、主人公は10年間万引きをやめられないという30代の女性医師。
数年前に万引きで逮捕され、執行猶予の有罪判決を受けて以降、弁護士の勧めで窃盗癖の治療を受け始めたという。
治療は「赤城高原ホスピタル」で、竹村道夫院長は「日本の窃盗癖治療の草分け」なのだという。
竹村氏「ギャンブル依存症に一番近い。病気で『盗りたい』という衝動を抑えられず…」
米精神医学会の診断基準は「クレプトマニア」(窃盗癖)を「ほかのどこにも分類されない衝動制御の障害」としている。
だが「治療に3カ月以上とどまれる患者は2割程度」。
裁判で、窃盗癖に関して責任能力が問われることはほとんどない。
また、刑務所で実刑を受けて、そこで治療が途絶えることも多い…という。
以前も何度か書きましたが、ぼくはこの件に関して”リベラル”(なのか?)であり、「病気ならしょうがない。罰しても意味は無い」という考え方なんです。だから、万引きが「窃盗癖」というなら司法は
「窃盗癖による万引きですか、じゃあ(責任能力が無いと考えて)無罪」
で、いーい気がするんですけどね…ただこれは緻密な法律論はなくて、シロート的な感情論として。しばしばシロートは「精神障害者の犯罪が無罪になったり軽い刑になることは納得できない」という主張に立つ、と言われていますが、うちは逆方面にシロート考えで「精神障害の犯行? じゃあ事故だ事故。隕石が当たったとき、隕石を刑務所には入れないべ?」みたいな単純思考です。
これは別に、万引きにとどまらない話で…
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120721/trl12072112010000-n1.htm
「私はギャンブル依存症」 大王製紙の東大卒御曹司が初めて語ったギャンブラーの心理と論理
2012.7.21 12:00 (1/5ページ)[法廷から]
カジノ費用に充てるため子会社から計55億3千万円を無担保で借り入れ損害を与えたとして、会社法違反(特別背任)罪に問われた大王製紙前会長、井川意高(もとたか)被告(47)の公判が18日、東京地裁で開かれた。東証1部上場企業を襲った前代未聞の不祥事発覚から10カ月。創業家3代目として抜群の手腕を発揮していた東大卒の御曹司が沈黙を破り、「ギャンブル依存症」に陥るまでの顛末を語った。
(略)
井川被告は東京地検特捜部に逮捕される前の翌10月、精神科を受診したという。「診断書は抑鬱状態、アルコール依存症、ギャンブル依存症とありました。物事を突き詰めて考えがちで強迫気質があるので、もっとリラックスして、切羽詰まらず生きるように言われました」
これを聞いても
「ああ、ギャンブル依存症という病気だったのか。じゃあ55億円の損害を会社に与えても、無罪でいいんじゃない?」
と。
或いは……これも本当かどうかわからんが
「痴漢」「盗撮」 もっと重い「性犯罪」なども非常に再犯率が高く、これも一種の「病気」と位置づけるしかない……という論説も目にしたことがある。これが証明されているのか、ちょっと記憶があいまいなのだが「窃視症」というのはあったよね。
http://yuik.net/man/413.html
http://yuik.net/man/414.html
↑てか、これをソースにしていいのかは大いに悩むが、一応専門家の意見。(※初めて見るかたへ。信じられないかもしれませんが、上のリンクは専門病院の公式サイトに掲載されている、専門医が原作をした科学まんがです…)
これも、シロート考えでは
「病気でのぞきしたんですか、じゃあ無罪」
「痴漢は病気ですか、じゃあ無罪」……
まあ、社会がなり立たんわな!!!
だから結局、現在の司法ではこういうのに関しては責任能力があると見なし、今回の朝日新聞の記事のように実刑を与える。
しょうがないかもしれないのだが、そもそもある行為が病気か、病気でないかは科学の問題であるんじゃないだろか。
別に社会がどうなろうと、病気は病気だし病気でないものは病気でない。
…でも、どこから?
だから今回の記事は、その続編になる。
■個性か病気か選択か。「新型うつ」「マインドコントール」「ギャンブル依存症」…etc(前編)
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120429/p3
■とよ田みのる「ラブロマ」新装版発売。〜ところでこの作品、こう読むことは可能?
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120924/p4
一部を再録します
「病気」と「生き方」「個性」は、リンク先にあるように専門家でも見分けが付きにくいものがある。病気に対しては、たとえばうつ病の人に
「何やってんだ、もっと頑張れ!気合入れろ!!」
「諦めんなよ!諦めんなよ、お前!!どうしてそこでやめるんだ、そこで!!もう少し頑張ってみろよ!」
という松岡修造なアレは劇薬に等しいですよね。しかしまあ、フツーにだらけているひとなら言っていい。たぶん。
「ラブロマ」の主人公ホシノ君への、女性主人公根岸さんのツッコミは普通に無神経(というか合理的すぎる)な彼になら、夫婦漫才のいいツッコミだが、もし仮に「アスペルガー症候群の彼」にだったら・・・
先ほどの大王製紙裁判、検察も被告にこう突っ込んでいる。
検察官「ギャンブル依存症の診断で罪が軽くなることを期待しているんですか」
被告「いいえ」
自分ではどうしようもない「依存症」によってついついギャンブルに手を出してしまったのか、それともギャンブルをすると「選択」したのか…
あ、「ゆうメンタルクリニック」、ギャンブル依存症についても書いているわ。
http://yusn.net/man/482.html
(しつこいようですがこれ、ホントの病院の公式サイトにあるPRまんがです…)
書いているうちに気づいたが
■"性的指向/嗜好"は区別されるべきなのか -
http://togetter.com/li/436224
■「同性愛サポートか〜次はロリコンとか熟女マニアとかもサポートしなくちゃな。」
http://togetter.com/li/435173
こちらにも広がる話なのだな、と分かった。
それはともかく、「病気(精神障害)だからしょうがないよね」「責任能力はないよね」の話は法律的には二階建てがどーのこーの…と分かりにくい。
刑法39条自体がそもそも問題なのではないか、それをはずせばすっきりするのではないか…という議論もありました。
「心神喪失・心身耗弱」、そして凶悪殺人犯が野に放たれる?精神鑑定はうそ臭い!刑法はもはや時代遅れだ!こんな三九条があるから被害者は救われないのだ!よろしい、まちがいなく議論はタブーなしで、徹底的にやるべきだ。さてしかし、責任能力とはなにか、なぜ精神鑑定が「うそ臭い」のか。ほんとうに「精神病者=犯罪者=責任能力なし」なのか。いや、そもそも刑法とはなにか。なぜ三九条の条文があるのか。本書は、この厄介きわまりない主題に迫り、冷静に、多角的に、腰を据え、そして時代に先駆けてなされる問題提起の一書である。
- 作者: 呉智英,佐藤幹夫
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2004/10
- メディア: 新書
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追記
ここにリンクを張ります。
■不確かな診断の弊害。ADHDと慢性ライム病を例に。
http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20130618#p1
「医療化」って問題があります。ぶっちゃけ単純に言いますと、医療化とは、必ずしも医療を必要としない状態を病気にしたてあげて治療の対象にしちゃうってことです。医学だけをやってるとあまり医療化の問題になかなか気付かないんですが、幸いなことに私は・・・(略)