涙香の著作、涙香の部屋、副頁

涙香の著作


 以下の涙香本の紹介にあたっては、概要は文字通り概要である。全体の筋が知りたければ伊藤秀雄「黒岩涙香、その小説のすべて」桃源社、昭和54年を参照。詳しく内容が記されている。

∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬∬

書名:海底之重罪



初出:明治22年(1889)都新聞
出版社:明治23年(1890)金松堂、全50回、xx頁
原作:ボアゴベ『潜水夫』英訳名『無名漢』Nameless man,18xx
文:地は文語、会話は口語

概要:
フランスの沿岸で密輸者と思われる男が逮捕されるが何も言わない。浮浪罪で1年入獄、釈放後姿をくらます。好奇心旺盛な若い貴族猿本は、倶楽部帰りに盗難が頻発する謎を探ろうとする。最近会員となった南米出身の男、給仕長が怪しい。ある晩、猿本が給仕長の家の木に登って中を覗くと彼は潜水服を拝んでいる。この部屋へ南米男がやってきて殺された。猿本は殺人の嫌疑を受ける。そこへ給仕長がやってきて自分のしたことと告げる。彼は冒頭の無名漢であった。裁判で給仕長こと魯助は元英国の潜水夫で、男に復讐するに至った過去の経緯が判明する。

感想みたようなもの:
 この作品の原作は19世紀の探偵小説によくある構成、即ち前半で事件が起き探偵が容疑者をつかまえる、後半でその犯罪が起こる原因となった過去の経緯が明らかにされる、をとっている。(ホームズの『緋色の研究』、『恐怖の谷』がその例)ただここでは過去の経緯を主人公の告白として早いうちに書いてある。復讐を遂げた後にわかるのでないので、謎解き的な興味は減じている。
 自転車のトリックが有名である。トリックというより、自転車に乗った犯人を夜見た者が、上半身人間で下半身車の化け物が高速で移動していったという証言、自転車自体が田舎では珍しかった時代ならではの話である。

 個人的には、子供向きの再話で最も早く涙香及びボアゴベ原作に触れた作品なので懐かしい。
 これは小学校の図書室にあった『海底の黄金』江戸川乱歩、世界探偵小説文庫、ポプラ社版である。後に世界推理小説文庫として再刊された本は入手した。もちろん乱歩の名は貸してあるだけであり、実際の訳者は別人である。前書きで作品の紹介をしているのもやはり乱歩ではないのであろうか、と思ったりした。

本: 国会図書館近代デジタルライブラリー

原作の他の訳本:
江戸川乱歩『海底の黄金』世界探偵小説文庫、ポプラ社、昭和29年、子供向きの再話
江戸川乱歩『海底の黄金』世界推理小説文庫、ポプラ社、昭和37年、上の再刊、装丁、挿絵は異なる。
英訳本:Nameless Man,19xx,Cleveland,xxx,pp1-xxx,緑色のやや厚い表紙、BarnesandnoblesのUsed & Out of Printサイトによりxxドルで入手した。

蛇足だが、昭和4年に博文館から世界探偵小説全集『海底の黄金』ボアゴベイ原作、妹尾韶夫訳という本が出ている。未確認だが、これは『海底之重罪』でなく、同じ作者の『マタパン事件』の翻訳の模様(未見である)。


書名:魔術の賊、銀行奇談(銀行の賊)



初出:明治22年、絵入自由新聞
出版社:明治22年(1889)小説館、全25回、179頁
原作:『ドナルド、ダイキ』自序で作者が言っている。米国探偵叢話中の一。
インターネットで調べると"Donald Dyke" by Harry Rockwoodという本が米国古本市場で出回っているので、多分これが原作なのであろう。副題にthe Yankee Detectiveとある本とthe Down-East Detectiveとある本があり同じ内容なのか、違うとすればどちらが涙香の原作かは不明。内容は未確認。
文:地は文語、会話は口語

概要:
 ボストンの銀行で若い書記頼野が大金横領で逐電した模様。娘の婚約者であり、頭取白井は探偵鳴門大記に捜査を依頼する。張り込みをしたり誘拐された令嬢を取り戻したり、探偵の活躍譚。最後で題名の意味が判明する。

感想みたようなもの:
 涙香の作品の中ではひねりが少ない。普通の探偵譚に近く、話としての面白みは低い感じがする。

本: 国会図書館近代デジタルライブラリー


書名:如夜叉(にょやしや)



初出:明治24年、都新聞
出版社:明治24年(1891)扶桑堂、全x回、xx頁
原作:ボアゴベ『彫刻師の娘』、英訳名Sculpter's daughter
文:地は文語、会話は口語

概要:
 巴里の彫刻師西山三峰は懇親会の帰り、街角で病人を医者に連れて行く運搬の手伝いを頼まれる。寝台をあちこち運んだ挙句連れがいなくなって警官が来て確かめると、病人でなく絞め殺された女の死体であった。あわてて元の家を捜し出してみると硫酸をかけられ失明してしまう。
 彫刻師の娘亀子は貴族の立夫と良い仲になって結婚したいと思っている。露国帰りの歌姫松子が紹介されるがその前身は不明である。弟子の長々生は松子及び立夫の正体を暴かんとする。

感想みたようなもの:
 松子の正体探りは『鉄仮面』や『死美人』のそれと通じるところがある。もっとも前半でわかってしまうが。病人の寝台運搬は現実離れしているが、それが死体と分かる出だしはちょっと度肝を抜く。後半は話し運びがわりと平坦になるような気がする。

本: 国会図書館近代デジタルライブラリー


書名:悪党紳士(似而非)

初出:明治21〜22年、絵入自由新聞に「似而非(にてひ)」として発表
出版社:明治23年(1890)、全39回、頁
原作:ボアゴベ『封ぜられし唇』、英訳Sealed Lips
文:地は文語、会話は口語

概要:
巴里のdemi monde(高級娼婦)お蓮は劇場でみた怪しい婦人を宿に追う。秘密の覗き窓から見てると婦人はしかけのある寝台で蒸殺されてしまう。お蓮には娘お仙には自らの職業を隠して育ててきた。そもそもこの娘は英国貴族との間に出来たのであるが、夫は自分の娘と正式に認知する前に死んでしまった。お仙の恋人の貴族綾部は私生児とわかっても心変わりをしないか。友人の軍人の有浦は、紳士蘭樽とお仙と娶せようとする。娘と母の前に父の遺産を巡って話が展開する。

感想みたようなもの:
 最初の方の寝台のしかけによる殺人は、『鉄仮面』のそれを思い起こさせる。原作者が同じボアゴベだからか。原作は確認していないが『封ぜられし唇』という題は、お蓮が悪党に禁止されて頼みとする有浦大尉にも秘密を凡て打明けない事からか。
 悪党は誰かについての憶測が探偵趣味的な要素になっている。

本: 国会図書館近代デジタルライブラリー


書名:指環

初出:明治22年、都新聞
出版社:金櫻堂、明治22年(1889)、全68回、296頁
原作:ボアゴベ『猫目石の指環』、英訳Cat's eye ring
文:地は文語、会話は口語

概要:
 青年貴族牧野は乗っていた馬車へ飛び込んできた若い女性の頼みで、巴里郊外の村へ行く。心配して後をつけるとある屋敷で不審な男と会談しただけでなく、隣室にやってきた男達の裏切り者処罰へ、その女性が巻き込まれるのを目撃する。この女性は富田伯爵夫人で、会談した若い男はヤクザ者の兄、犯罪者達の集団は実は伯爵夫人の父も関係していた密輸団の一味だった。牧野の友人の銀行員の黒瀬、その妹貞子、伯爵夫人に結婚を迫る親権者などが中心となって話が進んでいく。夫人や牧野も犯罪者として容疑がかかるが、弱みを握られている夫人はその筋へはっきりと釈明ができない。最後は悪人の一人が決闘で倒されるなど時代がかっている。

感想みたようなもの:
 夫人が強引に犯罪者の仲間に引き込まれるあたりの非現実な設定がいかにも涙香物らしくてよい。地下の秘密の通路穴とか、登場人物が実は色々関係していたと判明するあたり19世紀の小説の面目躍如である。

本: 国会図書館近代デジタルライブラリー


書名:美人の獄

概要:
 若い美人の雪子は、夫に毒入りのコーヒーを飲ませて毒殺した疑いで獄につながれている。弁護士に語る彼女の半生は悲惨であった。親を助けるために、彼女を求愛してやまない、しかし彼女自身は全く好きでない地主と結婚させられた。結婚後もいつまで経っても夫に好意を持てない。夫は自宅で友人たちとの会合の際に、妻から出されたコーヒーを飲んで苦しみ、彼女を犯人と叫んで絶命したのである。裁判になると傍聴者たちは被告雪子があまりに美人なので驚く。検事、弁護士双方が丁々発止して裁判は続く。出された判決は彼女の罪が確定できない、というものであった。自由の身となった雪子は弁護士の勧めで変名しアメリカに行くことにする。ところが乗船予定の船に乗り遅れ、その船が難破して乗客は全員死亡してしまう。これによって関係者からも死亡したと思われた雪子は再度変名し、フランスに渡り貴族と結婚して幸福な生活を送るようになる。再びイギリスへ夫と戻るが、過去の事実を知るヤクザ者が現れ彼女をゆする様になる。

感想みたようなもの:
結末はかなりご都合的であっけなく終わる感じがする。これが大衆小説というものかとも思ってしまう。涙香の筆になるのは前半で、後半は丸亭素人によっている。

本: 国会図書館近代デジタルライブラリー

涙香集

書名:金剛石の指輪

「涙香集」所収の短編。新婚の紳士は妻が欲しがるインドの金剛石を買い求め、それによって指輪を作る。この指輪が指に食い込み余りの痛みに妻は死んでしまう。泣く泣く妻を葬るが、その妻の幽霊が現れる。顛末についてはかなり非現実で、このような話が許されていた時代はおおらかというべきか。

書名:恐ろしき五分間
「涙香集」所収の短編。汽車の個室で乗り合わせた若い婦人が怯えている。なぜかというと座席の下に男がいるという。それが指名手配の極悪人らしい。設定はかなり無理がありそう。

書名:婚姻
「涙香集」所収の短編。田舎にやってきた都会の若者にあこがれ、娘は駆け落ちしてロンドンへ行くが若い夫は何をしているやら。娘は母親とその正体を探り呆れる。かなり喜劇的で一読でも忘れにくい。ホームズ物の有名な話を思い出す。

書名:紳士三人 「涙香集」所収の短編。美人の娘に三人の紳士が求婚しようとする。ただ父親は頑固者なのでその留守に娘と会おうとする。よくある喜劇の展開がここでも見られる。

書名:電気
「涙香集」所収の短編。娘は浮気者の若い軍人との駆け落ちを目論んでいる。娘が行方不明になる。家族が捜すが恋人のところでもない。やっと発見したのは...。明治時代ならではの説教が書いてある。現代の我々はついていけない。

書名:生命保険
「涙香集」所収の短編。父は継母と結婚し女主人公は家庭教師で一人立ちしている。その父が死ぬ。生命保険が降りるので欲しくもなかっが父の遺志として受け取るため、赴くと既に埋葬まで済ませている。夜中に父の幽霊らしき者に会う。父の死は本当か。最後では保険受け取りの件まで種が明かされる。非現実的な設定とは言えひねってある点では出色。

書名:探偵
「涙香集」所収。銀行でカネが盗まれ頭取の養女松子に疑いがかかる。彼女を慕う会計員は自ら犯人と名乗り出る。探偵(刑事)は牢につながれた会計員と松子の両者の嫌疑を晴らすため活躍する。ちょっとこの辺の設定他の小説でもあったようだが。中篇と言ってもいい長さの小説。伊藤秀雄の解説(涙香全集、宝出版)によれば涙香はこの作品を書いている途中に他の作品に興味を持ち、この小説に熱意を無くしてしまったという。それであまり出来のよくないものになったとか。
書名:広告
「涙香集」所収の短編。夫婦で素人演劇に夢中になる。夫は自分の演技力を試すため変装して新聞広告で見合の相手を募集する。駅で相手に会うと若い女性なのだが。この作品は涙香の創作の可能性が高いそうだ(黒岩涙香探偵小説傑作選?、論創社の小森健太朗の解説による)。

本:
黒岩涙香探偵小説選?、論創社、平成18年
「生命保険」に関しては、明治探偵冒険集(1)、黒岩涙香集、ちくま文庫にも所収。
「探偵」に関しては、涙香全集第xx巻、宝出版にも「妾の罪」と共に所収。


書名:此曲者(塔上の犯罪)

初出:
出版社:明治年(18)xxx、全xx回、xxx頁
原作:ボアゴベ『xxxx』
文:地は文語、会話は口語

概要:
 巴里のノートルダム寺院を散歩中の医師遠村と軍人の

書名:鉄仮面、正史実歴

初出:
出版社:明治年(18)xxx、全xx回、xxx頁
原作:ボアゴベ『サン=マール氏の2羽のつぐみ』
文:地は文語、会話は口語

概要:
 ルイxx生下のフランス、貴族有藻守夫(あるももりお)は婚約者バンダ、更に諸国の同志と共に暴君に叛旗を翻す機会を伺っている。その合図が載っている新聞到着をブリュッセルで待っている時、武士と斬り合いになり負傷する。

本:
旺文社文庫
明治文学全集第47巻、黒岩涙香集、筑摩書房、昭和46年
黒岩涙香代表作集第1巻、光文社、昭和32年

感想のようなもの:
涙香翻案の物の中で最も面白いという評価があってもおかしくない。難点は地が文語文なので、幽霊塔などに比べて現代の読者にはそれだけで敬遠してしまう向きも多いだろう。
有名なだけに比較的最近の本でも幾つか出ており、そういう意味で読みやすい。入手はともかく筑摩書房版『明治文学全集』の涙香集に収録されているほか、旺文社文庫でも出ていた。明治文学全集は図書館によく置いてある。

原作の他の訳本:
ボアゴベ『鉄仮面』長島訳、講談社文芸文庫、上下2冊
ボアゴベ『鉄仮面』長島訳、講談社、上中下3冊、昭和59年
以上が完訳本

子供向き再話として、
江戸川乱歩『鉄仮面』講談社世界名作全集5
これで『鉄仮面』ファンになった人が昔はいたようだ。
さとうまきこ『鉄仮面、痛快世界の冒険文学9』平成10年、講談社
最近出された鉄仮面の子供向き再話。


書名:女庭訓

初出:
出版社:明治年(18)xxx、全xx回、xxx頁
原作:『 』
文:地は文語、会話は口語

概要:
 主人公文子は青年と結婚するが、貧乏暮らしで夫婦ともひどく苦労する。なんとかしようと夫にはだまって自分一人で家を出る。知らない夫は捨てられたと思い、豪州へ旅たつ。子供が生まれるが窮乏してるので他人に預ける。インドから叔父が帰ってきてすごく金持ちになっているという。それでその財産を手に入れようと田舎に帰る。叔父には気に入れられ、叔父が亡くなれば遺産が相続できるはずだが、結婚を黙っているので金持ちとの結婚を迫られる。その金持ちには事実を打ち明けあきらめてもらう。しかし印度で叔父と同僚であったという男が結婚を迫り、自分と印度へ行こうと言う。
 夫は豪州で成功し、帰ってから文子を捜し叔父の家で再会するが、もう少しの辛抱で叔父の財産が手に入りそうなので、夫と帰る事を拒む。怒った夫は文子に愛想をつかし一人で帰る途中、ある家で小さい男の子に会うがそれが自分と文子の子供とわかる。印度帰りの嫌な男との結婚が決定し、文子はとうとう財産はあきらめ叔父の家を出る。夫に会い、叱られるが意図やこれまでの事情を話し、理解してもらったところへ警察がやってきて、叔父殺害の容疑で逮捕される。叔父は青酸で殺されていたのだった。そのとき家を出、また万一の自殺用に文子が青酸を持っていることが印度帰りの同僚が知っていたのだ。夫は弁護士とともに文子を救わんとする。真相がわかり大団円となる。

感想のようなもの:
 大衆小説なので設定に無理があるのはしょうがないが、夫が迎えに来ても叔父が亡くなることを願い、なんとか財産を相続しようとする女主人公にはちょっと感情移入しがたい。もともとほとんどありえない状況設定だから、それを前提として批判してもしょうがない気もする。

本: 国会図書館近代デジタルライブラリー


書名:他人の銭

初出:
出版社:明治年(18)xxx、全xx回、xxx頁
原作:『Other People's Money』by Emile Gaboriau
文:地は文語、会話は口語

概要:
巴里の信託銀行の会計責任者xxの家に突如官憲が押し寄せる。銀行の金の横領だという。父であるxxをかばってその妻や息子、娘は裏手から逃がす。官憲が部屋に入ってきて横領の証拠を見せつけられ、それも情人に貢ぐためとわかり家族は仰天する。その逃げた父の無実を信じて娘は真相をあばくべく活躍する。
実はこの作品の原本、フランスの探偵作家ガボリオの『Other People's Money』の英訳本を買って読んだのだが、涙香本はおそろしく短縮されているだけでなく、中間部分は原作にない、ヒロインが水攻めに会い鼠群に襲われるといった話さえ出てくる。この辺は涙香の創作かとも思ったが、他の作品からもってきたとも書いてある。
原作では娘の恋人との出会いの経緯とか、息子の恋人の過去の話などに多くのページを割いており、いかにも19世紀の探偵小説といった類であった。

本: 国会図書館近代デジタルライブラリー


書名:法庭の美人

初出:
出版社:明治22年(1889)、全28回、122頁
原作:コンウェイ
文:地は文語、会話は口語

概要:
英国の医学士卓三(語り手)はある美人、瑠巴(りは)に恋するようになるが、彼女はつれない。実は既に不実な男と結婚していたのだ。ただその夫は重婚を繰り返す輩であり、それが彼女にわかってから卓三に頼るようになる。その男が仏国から帰国するので卓三は彼女への不実さをなじろうと、駅に赴く。途中でなぜか瑠巴に出会い、拳銃を拾う。更に駅に進むと悪漢の夫が撃たれて死んでいる。瑠巴がやったに違いないとお思い、おりしも雪が降っているので、死体を雪の下に隠す。瑠巴は熱病にかかり事件の記憶を夢の出来事と思っているらしい。愛する瑠巴と理解ある母親と共にスペインに逃げる。幸福な生活を送っていたが、たまたま悪漢の夫の殺害を耳にして、瑠巴は夢でなかったと悟る。しかもある男がつかまり有罪判決を受けそうなので、自らが犯人と悟った瑠巴は自首するため英国に急ぐ。
感想のようなもの:
涙香の出世作として名高い。わりと短く読みやすいし、涙香的な要素がつまっている。これを期に涙香の探偵小説が人気を得たのもうなづける。ご都合主義的な大衆小説の要素を含め、典型的な涙香作品といっていいだろう。

本: 国会図書館近代デジタルライブラリー


書名:真ッ暗

初出:
出版社:明治22年(1889)、金櫻堂、全64回、289頁
原作:アンナ・カサリン・グリーン「リーヴェンスワース事件」
文:地は文語、会話は口語

概要:
語り手は若き弁護士頼田、紐育の金持ち大洲仙蔵がピストルで撃たれて殺される。美人の姪が二人いる。鞠子と襟子である。襟子に疑いがかかる状況であるが、頼田は彼女に惹かれる。また鞠子は結婚したい英国人がいるが、極端な英国人嫌いの大洲は、当初財産を鞠子に全部与えるという意思を変更しようとしていた。そうなると鞠子も怪しい。さらに下女のお花も失踪する。

感想その他:
原作者のアンナ・カサリン・グリーンAnna Katherine Green は19世紀後半の米国の代表的な探偵小説家で、探偵小説史には必ず記載されるが、今の普通の推理小説愛好家は読まないだろう。ただしこの小説の原作The Leaventhworth Caseは、amazonで調べたら、2005年にペーパーバック版が出ている。その他の小説も出ていることから、忘れられた小説家ではない。
この小説はいわゆる本格探偵小説の一つといってよい。そのため本格推理小説を高く評価するファン(今でも多いと思うが)から評価をききたいところである。
伊藤秀雄「黒岩涙香」の解説によれば、この小説が純粋の推理小説であるため、連載時には犯人当てのクイズを出したらしい。エラリー・クイーンばりである。もっともエラリー・クイーンとはどちらが早かったか。
また確か横溝正史がこの小説を評価する探偵小説の一として挙げていたことがあったと思う。どこでかは失念したので、わかったらupしたい。
個人的な感想では本格推理小説的である分、涙香らしさは希薄のような気がした。原作とはつき合わせていないが涙香が手を加えた部分は少ないのではないか。

本: 国会図書館近代デジタルライブラリー