ポジティブに仕事するための“自己表現”のススメ
——はたらく人の、むきだし学。Vol.1
仕事だけじゃない、生き方だってうまくいく? 「むきだし学」堂々開講!
ロフトワークでは、メンバー全員がそれぞれの「リーダーシップ」を発揮しています。その中でも、ちょっと変わったリーダーシップを実践しているのが、京都ブランチ所属のプロデューサー 小島和人(アーティストネーム:ハモニズム、愛称: ハモさん)です。
会社員でありながら、アーティスト・演出家としても活躍しているハモさんは、自身が関わるプロジェクトにおいて「本音をぶつけ合える関係をつくること」、ハモさん流にいうと、お互いを「むきだし」にすることに、熱い情熱を注いでいます。さらには、「むきだし」のコミュケーションを実践すると、仕事だけじゃなく「生き方までうまくいく」と豪語しますが…果たして、本当でしょうか?
本連載では、そんなハモさんがすべてのはたらく人に伝えたい、「むきだし」な自己表現の極意を解説していきます。
執筆:小島 和人 編集:岩崎 諒子(loftwork.com編集部) イラストレーション:死後くん
仮面をかぶる人
“むきだし”て 創造的に生きてみる
——ハモニズム(小島 和人)
生きていると、誰もが何らかの、素の自分ではない「仮面」をかぶってしまう。組織の中にいればなおのこと、仮面の数は増えていく。「◯◯株式会社」として。新入社員として、先輩として、上司として。部長として、社長として…
かくいう僕は、ロフトワークでプロデューサーとして働いている。さまざまなクライアントからの相談を受け、改善・解決に導くためにプロジェクトの設計をする。具体的な例を挙げると、「今後10年を生き抜く強い組織を作るためのインナーブランディング」や「顧客視点からの使いやすさと自社のブランディングを兼ね備えたWebサイトの構築」、あるいは「既存事業とは異なる領域の新事業を興すための仕組み作りと運用」など。
僕自身は企業の新事業創出のお手伝いをすることが多いのだが、そういったプロジェクトでは必ず節目節目で、それぞれの立場の人に意思や判断が求められる。企画担当者には企画の妥当性を。マネジメントには未知の挑戦に対する決断を、だ。
大きな決断をしなければいけない時、人はプレッシャーから、自分がかぶっている仮面にその責任や判断を委ねたくなる。例えば「わが社として…」「役員の視点として…」「トレンドとして…」というように。
しかし、仮面に判断を委ねてしまうと、新しい挑戦は途端にその歩みを止めてしまう。マネジメントは未知のプランを承認できないし、担当者は企画に対して自信や根拠を持てず、トップダウンからのネガティブな判断を「はい、そうですか」と受け入れざるを得ない。
では、この目の前にある仕事は一体、誰による、誰のためのものなんだろう?
やりたいようにやったら上手くいく、かもしれない
僕はロフトワークで働くずっと前から、現代アーティストとして活動してきた。僕にとって現代アートは「自分をむきだしにしていく表現」だ。アーティストにとって、自分らしく生きているか、自分らしさを表明できているかどうかということは、常に切実な問題だ。意味なんか関係ない、やりたいことをやったらいい。そういう世界で生きてきた。
近年、僕は表現者として実践してきた対話方法を、ロフトワークの仕事にも持ち込んでいる。それは、自分を含めた人々の「仮面を外す」というやりかただ。言い換えれば、プロジェクトに関わるメンバー全員に対して「あなたが、あなた自身として何を思っているのか?」という個人の意思を引っぱり出すことで、時間をかけてメンバーの仮面を外していく。
そうすると、一人ひとりが仕事に対する「強烈な想い」を携えることにつながり、それぞれの役割に邁進できる。さらに言うと、効果が現れるのは仕事だけじゃない。自分の生き方にも、ポジティブな変化が訪れるのだ。
仮面を外すことでプロジェクトにかかわる人たちをモチベートして、彼らが仕事を楽しめる状態をつくる。僕がやっている仕事は、その一点に尽きると言っても過言ではないかもしれない。
自分の思想をぶつける、転がす
自分らしく仕事をするにはどうしたらいいのか? 大切なのは、仕事の中に「自分の思想」をいかに入れ込むことができるか、だ。けれど、中には「自分の思想なんてない」と思う方も、もちろんいると思う。全ての仕事に個人の思想が必要なのかと問われれば、そうではない。ただ、新しい挑戦を推し進めていくなら、「思想」、言い換えれば自分の「軸」がなければ他者に想いを伝える事はできないし、逆に他者の想いを受け取ることだってできないんじゃないか。
ここで、僕の経験を紹介したい。僕はアーティストとして「自分の思想」を伝えるために、日々研鑽を積んできた。作品を作り、さまざまなフェスやダンス公演などでステージに上がりながら、鑑賞者に向けて自らの思想を表現してきた。しかしある日、僕ひとりでできることには限界があると感じた。僕の作りたい世界を他のアーティストたちと一緒に表現した方が、うまく行くんじゃないかと気がついたのだ。
そこで僕は、自分だけでは実現できない「これから実現したいこと」をいろんな人にぶつけてみた。思想やアイデアをストレートに伝え、対話を重ねると、自分の思想が他者の思想と混ざり合い、転がるように形を変えながら強化されていくのを実感できた。そうして僕の考えに共鳴してくれるアーティストたちと共に、さまざまな舞台作品をつくるようになった。この経験が現在のプランニングやプロデュースの進めかたにつながっている。僕は頭の中で「作りたい世界」をデザインするけれど、それを実際に形にするのは思想を共有している他のアーティストたち。こうして「むきだしのコミュニケーション」を繰り返しながらチームを作り上げると、よりダイナミックで誰もみたことがない舞台作品をつくりだせることを確信した。
そして、この感覚は「僕だけのものじゃない」気がした。アーティストだけじゃなく他の職業のワーカーも、自分の意思を「むきだし」にして他者に思想をぶつけたり転がしたりする方法を実践できたら、自分がやるべきこと・やりたいことがよりクリアになり、眠っていたパワーを発揮できるんじゃないのか。
仕事で、みんなを「むきだし」にする
僕はプロデューサーとして仕事をするときも、仲間やクライアントに対して自分の思想やアイデアを「むきだし」にして伝えている。そうすると、相手の気持ちや考え方が徐々に変化して行き、より前向きなアクションへつながっていく。
例えば、異なる部署間にある「ギャップ」を埋めることもできる。ある時、僕は企業の新事業創出を支援するプロジェクトにもっと挑戦したいと考えた。当時はまだそのようなプロジェクトの相談を受ける機会が限られており、「新規事業をつくるなら、ロフトワークに相談しよう」という状況を作り出すには、社内のマーケティングチームの協力が不可欠だった。しかし、僕たちプロデューサーとマーケティングチームは、役割と業務内容の違いから、それぞれが縦割りのような動きをしていた。
そこで僕は、マーケティングチームのメンバーを捕まえて、何度も意見を交わした。その内容は、僕自身がやりたい仕事についてはもちろん、互いの仕事のやり方についての課題感やロフトワークの強みについて思うことなどだ。きまって最初は、相手から「ハモさんの言ってること、9割くらい分からない!」という反応をされてしまう。それでもなお対話を続けてみる。僕がまだ言語化しきれていない「やりたい仕事のイメージ」や仮説を相手に咀嚼してもらうまで、粘り強く、正直に。
その結果、今ではマーケティングチームと互いに共通した目標を掲げ、一緒にアクションを企てるバディのような関係になれた。
さらに「むきだし」は、クライアントに対しても有効だ。通常であれば、ロフトワークのプロデューサーのような「営業的なる職種」はクライアントからの相談に対して、相手が気に入るようなプランを企画提案という形で提示する。僕自身も、元々はそのような進め方をしていた。
だが最近では、初めて会ったクライアントに対しても、偽りのない自身の考えを伝えながら対話を重ねている。すると、不思議と相手も本音や真意を話しはじめてくれる。お互いの思想をぶつけ合いながら、一緒にこれから向き合うべき課題を再定義する。こうして、僕は一方的な提案ではなく、クライアントと「共に企てる」という感覚で、企画提案のもっと手前の段階から中長期を見据えたアクションを設計できるようになった。
「むきだし」に必要なのは、勇気
一方で、仕事の場で自分を「むきだし」にすることだって容易ではない。自分の意思を否定されたり、退けられたりすることは誰だって怖い。あるいは、逆に自分が誰かを傷つけるかもしれない。忘れてならないのは、「むきだし」になるためには「勇気」が不可欠だということ。これさえクリアできたなら、人や組織はもっとポジティブかつ、ヘルシーに変化していくはず。
では、具体的にはどうすればいいか? 次回は、恐れを乗り越えながら自分自身や仕事相手を「むきだし」にするための具体的なアプローチを紹介していこうと思う。
「むきだし学」では、今後以下のようなテーマについて解説します。
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