飛騨の森林産業とヒダクマがつなぐ
“サステナブルなものづくり”に触れる旅
新人プロデューサーの橋本・キムが、飛騨の森を舞台にした“持続可能なものづくり”の現場をレポート
68%……これは、日本の国土における森林率を表しています。その中でも、岐阜県の最北端に位置する飛騨市は面積の約90%を森林が占めており、その約70%が広葉樹林。建築用の木材として活用されやすい針葉樹と比べて、細く曲がった広葉樹からは木材を安定的に供給するのが難しく、多くは薪やチップとなって安価で県外に取引されています。
そんな広葉樹林の課題に焦点を当てて、新しい価値をつくろうとしている会社が「株式会社飛騨の森でクマは踊る」(通称、ヒダクマ)です。ヒダクマは古くから木工産業が盛んな飛騨を拠点に、地域内の産業と地域外の企業・人を連結させるハブとしての役割を担いながら、飛騨の産業が持続的に活性化していくための仕組みづくりに取り組んでいます。
私・橋本明音は、昨年秋にロフトワークに入社したばかりのプロデューサーです。今回、同期入社した金徳済(キム)と一緒に「飛騨とヒダクマのサステナブルなものづくりと、その価値を知ること」をテーマに、3日間の飛騨合宿をしてきました。
前職でスポーツ・アウトドアアパレルの企画開発をしていたキムは、学生時代からものづくりに強い関心を持っていました。他方、私は大学では地域振興とまちづくりを研究しており、現在も地元・前橋市と東京で二拠点生活をしながら、地域の活性化に向けてどんな取り組みができるかを日々模索しています。そんな異なる視点をもつ私たちが体感した、ヒダクマが取り組む、飛騨におけるサステナブルなものづくりのすがたをお伝えしていきます!
執筆:橋本 明音
編集:岩崎 諒子(loftwork.com編集部)
飛騨で体感した、森林産業のバリューチェーン
株式会社飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)は、2015年5月に飛騨市とトビムシ、そしてロフトワークの三者によって飛騨市古川町に設立された、森林再生とものづくりを通じた地域産業創出を目的とした第3セクターです。飛騨の豊かな地域資源を生かした木製品の開発のほか、宿泊ができるデジタルものづくりカフェ「FabCafe Hida」も2016年春にオープンしました。
飛騨を訪れる前に、ロフトワークの先輩社員から「飛騨では、地域の中でバリューチェーンの上流から下流までを見渡すことができる」と聞いていましたが、それがどういうことなのか、あまり理解できていませんでした。
わたしたちは飛騨に着いてすぐ、ヒダクマスタッフの志田岳弥さんと松山由樹さんの案内で、森を散策しました。生えている木々たちはとても細く、どんなものに使われるのかというイメージが湧きません。素人目で見ても、建築の材料として使うことは難しそうです。
しかし、翌日に訪れた西野製材所で、そんな広葉樹に向き合う人たちと出会いました。彼らは、様々な技術や長年培われている感覚を元に、その先にある木の未来を想像しながら製材しています。また、飛騨で個人工房を構える木工作家の堅田恒季さんも、広葉樹を家具や小物づくりに活用していました。
次に向かったのは、飛騨市役所。ここには、矢野建築設計事務所とヒダクマが協働して広葉樹で溢れる空間に仕上げた応接室があります。「象徴的な広葉樹の大きな面で、応接室と森とまちを繋ぐ」というコンセプトのもと出来上がった応接室は、入った瞬間に木の温かさに包まれます。このように、様々な人たちの手によって、モノづくりや建築には向かないとされている広葉樹から価値が生み出されている様子を目の当たりにしました。
さらには、製材やモノづくりの過程で、木を削る際に出る「おが粉」も地域内で循環しています。製材所や家具製造で出るおが粉は、飛騨牛を育てる畜産農家や乳業メーカーの牧成舎の手に渡り、牛の寝床になります。そこに牛のフンが加わって自然発酵すると、畑で使われる肥料になっていくのです。
飛騨滞在2日目、温泉上がりに自動販売機で牧成舎の牛乳を見つけたキムは、思わず「あ、これがバリューチェーンなのか」と一言。この瞬間、私たちは飛騨の森林産業における上流から下流までのバリューチェーンを肌で感じることができました。
地域住民と地域外からのゲストをつなぐ「FabCafe Hida」
ヒダクマは、3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作機械を常設するカフェ「FabCafe Hida」を運営しています。100年以上の歴史を持つ古民家を改装してできたFabCafe Hidaはゲストハウスとしても機能しており、飛騨の人たちと地域の外からやってきた人たちとの出会いや交流の場となっているのみならず、地域を超えたコラボレーションをも生み出しています。
例えば、FabCafe Hidaでコーヒーの焙煎ワークショップを行ったことがきっかけとなり、ヒダクマの社有林でとれるクロモジという非常の香りがいい木の枝をコーヒーに取り入れる「クロモジコーヒー」が誕生しました(詳しくはこちら)。
近くに住む小学生も、遊びに来てはヒダクマのスタッフたちと楽しく会話をすることもあるそうです。
私がFabCafe Hidaにいるときも、近くでものづくりをしている作家さんや近くの森を管理している人まで、様々な人が集まっていました。ヒダクマのスタッフたちがストーブを囲み、さまざまなお客さんを巻き込みながら会話している様子をみていると、直接会うからこそ生まれる「一体感」や「新しい視点」があるということを実感しました。
これまで出会うことのなかった人同士が、FabCafe Hidaを通して出会い、コミュニケーションが生まれ、そこから新しいアイデアの種が芽吹いている。その様子を目の当たりにして、初めてFabCade Hidaが担っている「地域のハブ」という役割が何なのかが理解できた気がします。
「ワクワクする気持ち」から生まれる、ヒダクマのものづくり
「断熱材になりそう! ふかふか!」
「コブ* も入れてみちゃおうよ!」
なにやら楽しそうな声に誘われて、ヒダクマのオフィスがあるFabCafe Hidaの中庭へ行くと、そこにいたのは廃材を使って断熱材を作っているヒダクマのスタッフたち。みんな、目をキラキラさせながら片手に木屑、片手に電動ドリルを持ってモノづくりをしていました。
*コブ…木の表面にできる盛り上がっている部分
それがあまりにも自然な光景で、私の中に「働くというのは、本来こうあるべきなんじゃないか…」という気持ちが沸き起こりました。日々の仕事の中に自分たちがワクワクできる要素を見つけることで、「働くこと」を前向きに・楽しく捉えることができたなら、どんなに素敵だろう。
その断熱材に使われていた木屑は、近くにある箸工場から出たものです。私とキムはこの合宿で、FabCafe Hidaの「箸づくりワークショップ」に参加していましたが、そのときに「一膳の箸を作るのに、こんなにも木屑が出るのか!」と衝撃を受けたばかりでした。
それだけに、ものづくりの過程で出た木屑を再利用しようとしているヒダクマのメンバーの姿に、新鮮な驚きを感じました。ヒダクマでは「捨てられてしまうもの」に価値を見つけて活かしていくことをいつもの仕事の延長として実践しており、彼らの姿勢の中にサステナビリティが息づいていました。
私たちもその輪の中に混ざって、一緒に作ったお手製の断熱材。いつか、実際に使われる日がくると良いなと思っています。
飛騨の森へ、訪れてみませんか?
ヒダクマでは、クライアントと一緒に「森に入る」ところからプロジェクトを始めます。散歩をしながら、実際の飛騨における森林産業の現状を知り、多様な広葉樹に触れることで、新しいアイデアの創出にも繋がるからです。
私自身、木や森への深い愛情を持つヒダクマのメンバーと話してみたら、「一緒に何かアイデアを形にしたい」という想いが湧いてきました。そして実際に、ヒダクマのメンバーが手掛けた商品や空間をみると、それぞれの木が持つ「個性」が最大限に活かされていることを実感できます。(飛騨の広葉樹を使って出来た商品事例は、こちらをご覧ください。)
3日間の合宿を通して、ヒダクマが磁場となって、地域の中と外からたくさんの人たちが集まり、関わり合いが生まれている様子を、肌で感じてきました。飛騨が潤沢に持っている資源に着目し、まちに根を張りながら新たな価値を創造している、ヒダクマのスタッフと飛騨の人たち。それぞれが楽しみながら真剣に飛騨の森と向き合っているからこそ、そこに共感する人々が集まっているのです。これは、実際に行かなければ分からないことでした。
飛騨は、木に関わる業界の方はもちろん、業種や職種を問わずあらゆる方々に訪れてほしい場所。飛騨のサステナブルなバリューチェーンやヒダクマメンバーが森と向き合う姿に出会うことで、新しいビジネスのアイデアや働き方やチームのあり方に対する気づきを得られるかもしれません。
まずは、いま目の前にある仕事を一旦置いて、一緒に飛騨の森へ来てみませんか? 私たちロフトワークとヒダクマは、いつでもご連絡をお待ちしています!
わたしたちと、話してみませんか?
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