地方就活を振り返って~LO活卒業生インタビュー【8】
「その土地で長く暮らせるか?」と考えて選択した、茨城へのUターン
LO活を活用して地方就職を実現した「LO活卒業生」にお話を聞く本企画。今回は茨城県の水戸にある「株式会社コムズケア水戸」で、障がい者グループホームの職員として働く渡邊愁さんに、インタビューを行いました。「就活中の面談はずっとオンラインだったので、渡邊さんとは初めての対面です」というLO活相談員の原田さんとともに、当時の就活を振り返っていきます。
【LO活卒業生プロフィール】
渡邊 愁さん
茨城県大洗町出身。神奈川大学 人間科学部を卒業後、茨城県水戸市にある「株式会社コムズケア水戸」に入社。現在(2023年2月時点)は、同社が運営する障がい者グループホーム「アトムの杜 勝倉」に勤務。大学時代は社会学、特にジェンダーを専攻し、在学中は学内外でそれに関連する社会活動に参加。就職後も休日を利用して活動に携わっている。
職種よりもまず、地域を選んだ
――就活を意識し始めた頃は、どんなことを考えていましたか?
渡邊:就活を意識し出したのは割と早いほうで、大学1年の5月頃に大学で開催された公務員セミナーに参加したのが、最初のきっかけです。その頃から「どこに就職するか」というより「将来どこに住もうか」ということを考えていました。ただ、本格的に就活を始めたのは大学3年の夏前なので、実際に動いたタイミングは人並みだと思います。
――就活にあたって「職種を選ぶ」と「地域を選ぶ」、どちらを先に考えましたか?
渡邊:地域ですね。その後から職種や分野を見ていきました。大学3年の秋頃に、「(地元の)茨城で就職しよう」という考えが強くなりました。といっても、実際に茨城で就職できるとは限らないので、就活については首都圏の会社も受けていました。でも本音は「茨城で働きたい」と思っていましたね。
――地元の茨城で就職したいと思った理由は?
渡邊:大学時代は横浜に住んでいて、それはそれで楽しかったんですが、自然があまりないし人も多すぎるし、「都会は4年間でいいや」という気持ちがあったんです。もともと自然が好きだったので、長期的に考えると、都会よりは自然のある地元のほうが自分には合っているなと。本当は出身地の大洗で働きたかったんですが、大洗は小さな町なので、あまり仕事がないんです。それで大洗に近い、水戸やひたちなかを中心に会社を探していきました。といっても、大学に来るインターンの情報はだいたい首都圏なので、実際にインターンに行っていたのは、首都圏の会社でしたね。
──先に働く地域を決めたということですが、職種はどうやって決めていきましたか?
渡邊:大学時代、福祉に関わる活動をやっていたんです。横浜市内の子ども食堂や、お祭りなどの地域活動ですね。これらは「地域福祉」の領域で、いま仕事で携わっている「児童福祉」「障がい者福祉」とは少し違うのですが、何かしら公共の福祉につながるような仕事をしたいと考えて、この仕事にたどり着きました。なので、インターンを始めたときは、もう福祉の仕事に絞っていました。「現場で人と関わる仕事がしたい」と思っていたので、就活をしている頃から「スーツを着てオフィスに出勤する仕事はしないだろう」とぼんやり思っていましたね。
就活セミナーに行くと、「すぐに職種を絞り込むより、最初はいろんな会社を見たほうがいい」とアドバイスされるんですよ。「それもそうかな、もっと広く見ておいたほうがいいのかな?」と思った時期もあったのですが、友達に相談したら「そこまでやりたいことがはっきりしているなら、それでいいんじゃないか」と言われて、福祉の方向で就活を進めました。
話すことで、自己分析が整理されていった
──LO活を利用し始めたのは、いつ頃から?
原田:1年生のとき、大学の地方就職セミナーに来ましたよね?
渡邊:たぶん行っています。公務員セミナーと、そっちにも参加した記憶があります。
原田:そのときにLO活に登録していましたよね。2年生のときは特に何もなかったけど、3年生になってまたセミナーに参加してくれて。1年生で参加する人って、珍しいと思いますよ。
──入学した頃から、就職に対する意識が高かったのですか?
渡邊:たぶん「就職」というワードではなく、「地方」というワードに惹かれて参加したんだと思います。1年生だから、まだ漠然とではありますが、「将来、どうやって生きていこうか」と意識していて。
──原田さんと1対1で関わっていったのは、どのあたりからですか?
渡邊:夏のインターンが終わったあたりの時期なので、3年生の9月頃からです。
原田:そこで自己分析をやったんですよね。
渡邊:経験した出来事について深掘りしていくところまでは、自分でどうにかできたんですが、「それが他の人から見てどう見えるか」までは自分ではわからないので、原田さんに自己分析のアドバイスをお願いしました。
原田:そのときから「すごくしっかりしている」という印象があったんですよ。メールの文面もきちんとしているし、大人とのやり取りに慣れていると思いました。話を聞いていくうちに、中野区(東京)でNPO内部組織を立ち上げて、行政に助成金を申請したり、プレゼンをした経験があるとわかって。だからしっかりしているのだなと。
──横浜での地域活動とは別に、NPOを立ち上げた経験があるんですか?
渡邊:そうですね。中野のNPO内部組織や、地域の任意団体、学内サークルを立ち上げました。
原田:3つも立ち上げたの!?
渡邊:3つのうち2つは他の人に引き継いでいますが、1つはまだ継続して関わっています。
原田:就活のためにやっているわけじゃなくて、自分が生活していく中で大事だと思ったことを実行していて、行動力がすごくありますよね。私は渡邊さんに特にアドバイスらしいことはしてないんですよ。自分からどんどんいろんなことを話してくれて、それを聞いているうちに、本人の中で「点と点」でしかなかったものが「線」としてつながっていったみたいでした。
渡邊:いろんな活動に参加して、どれも頑張ってきたから、何をメインにアピールしたらいいかわからなくて、悩んでいたんです。それで原田さんに相談したんですが、話を聞いてもらってとても助かりました。
LO活+新卒応援ハローワーク
原田:LO活だけじゃなく、新卒応援ハローワーク(*)もよく利用していましたよね?
*新卒応援ハローワーク:大学等を卒業予定の学生と、卒業後おおむね3年以内の人向けの就職支援サービスを提供するハローワーク。全国56か所に設置。求人情報の提供、職業紹介のほか、エントリーシートの作成相談、面接指導などを受けることができる。
渡邊:LO活の後、3年生の冬あたりから利用していましたね。具体的な添削については、私は横浜新卒応援ハローワークを使っていました。いろんな就職支援を利用しましたが、その中では一番利用していたと思います。
原田:「対面や電話で相談できるから、新卒応援ハローワークは使える」という話を、渡邊さんから聞いたことがあります。今は対面も選べるようになりましたが、コロナ禍でLO活はオンライン限定でしたからね。
渡邊:その頃は大学の就職支援もオンラインでした。同世代では「オンラインのほうがいい」という人も結構いるんですが、私は基本的に対面のコミュニケーションが好きなんです。オンラインと実際に会って話すのとでは、やっぱり感覚が違うと思うんですよ。「電話が苦手」という人も最近は多いですが、私は対面も電話も平気だし、むしろそのほうがいいので、新卒応援ハローワークを使っていました。ただ、オンラインにはオンラインの強みもあって、例えば地方就職でいろんな地域の会社を知りたいということであれば、オンラインのほうが便利だとは思います。
働く上で一番大事なのは人間関係
──今の会社を知ったきっかけは?
渡邊:福祉と医療関係の仕事をネットで検索すると今の会社のホームページを見つけて、興味のあることをメールすると熱いオファーを頂きました。
──福祉といってもいろいろな領域がありますが、その中で今の会社を選んだ理由は?
渡邊:福祉系でも資格を持っていないとできない仕事もあるので、まずそこである程度絞られてくる。その上で、「児童」「地域」「障がい者」「高齢者」のどの領域に関わるかということになってくるわけです。地域福祉には関わったことがあるし、インターンでは高齢者福祉にも関わったんですが、いろいろ考えて、児童か障がい者かな……と思っていたところに、今の会社から連絡が来て、「放課後等デイサービス」という、発達障がいのある子の療育支援の仕事があると知ったんです。それで見学に行って、興味を持ちました。領域としては「児童」「障がい者」の両方にまたがっています。
──実際に働き始めてみて感じたことは?
渡邊:卒業前に職場見学を兼ねてボランティアで行ったのですが、距離が遠いこともあって、あまり頻繁には行けていなかったんです。でも就職して実際に働き始めてから、障がいに関する観察眼が少しは養われたかなと思っていて。例えば、知らない人から見て奇妙な行動を取る人がいても、その理由がなんとなくわかってきたりとか。こういうのはいくら大学で勉強しても、実際に働いてみないとわからないことなので、そのあたりは多少、力がついたんじゃないかと思っています。
もともと、見学したときに「風通しが良さそうな会社だな」と感じて、今の会社に入ったんですが、実際に働いてみると、働いている皆さんがいい人ばかりで良くしてくださるので、そこが一番良かったと思います。やっぱり働く上で一番大事なのは、人間関係だと思うので。
──地元に戻ってきて、改めて気づいたことはありますか?
渡邊:横浜で地域活動をしていると話しましたが、水戸の住まいの近くではそういう活動をやっている団体がほとんどないんです。そこが一番の驚きだったし、ちょっと寂しくもありました。
──今も東京のNPO内部組織に関わっているということですが、将来的には水戸でも何か活動をやりたいと考えていたりしますか?
渡邊:それはありますね。ここしばらくはあまり余裕がなかったのですが、いずれやりたいと思っています。
生活全体から就活を考えてみる
──入社1年目って、まだまだ仕事に慣れていなくてあたふたする時期という印象がありますが、渡邊さんは早くもワークライフバランスの取れた生活をしているという印象です。自分では仕事と生活のペースをつかんできているという実感はありますか?
渡邊:ある程度はつかんでいると思います。もし不満があるとすれば……いま住んでいる地域の活動をまだできていないことですね。
──不満の内容が「プラスアルファの活動をできていない」というのは、すごいことだと思います。「目の前のことはしっかりやっている」ということなので。
原田:これは私の感覚ではあるんですが、面談が対面からオンラインに移ったことで、学生さん1人1人の印象は多少、薄くなってしまうんです。なのに、その中で渡邊さんのことはすごく印象に残ったんですね。先ほど話した「しっかりしている」というのもそうですが、語る言葉や思いがとても具体的で、ウソがないという気がしたんです。言葉と経験がちゃんと結びついている。
渡邊:それでいうと、原田さんは私のことをよく褒めてくださって、それで自己肯定感を得られた、というのはあります。継続的にメールのやり取りをする人も他にいなくて、そこまで褒めてくださる方がいなかったので。
原田:そうだったの? でも本当にそう思ったから正直に言っただけですよ。話を聞きながら、「この人、将来楽しみだな……」と思っていました(笑)。
──最後にこれから地方就職を志す人へ、アドバイスなどがあれば教えて下さい。
渡邊:長期的に見て、「どういうところで暮らしたいか」を多少は考えた上で就活した方がいいんじゃないかな、と思います。仕事だけじゃなくて、仕事を含めた「生活全体」を考えてみる。私はそれで就活して、今は満足しています。
取材を終えて
入社1年目なのに、雰囲気も受け答えも非常にしっかりしていた渡邊さん。
就活をやるにあたって、「職種や仕事の内容」より先に「どこで生活していくか」を考えたと聞いて、新鮮な驚きがありました。NPO内部組織を立ち上げたり、地域の活動に参加したりするなど、そのアクティブさの方につい目を奪われてしまいますが、「生活から就活を考える」というのは、就活にあたって見落としがちな、大事な視点だと思います。
就活にあたってコミュニケーションを大事にしたというのも、渡邊さんの就活の大きな特徴だと感じました。「大人慣れしていた」というのもありますが、対面での面談も含めて、様々な人とのコミュニケーションを重ねることがそのまま、就活にもポジティブな影響を与えていたのではないでしょうか。
コミュニケーションの重要さでいうと、自己分析の話も印象に残りました。十分すぎるほどの経験を重ねていた渡邊さんでも、1人で考えているだけではなかなか自己分析がまとまらなかった。原田さんを相手にして実際に話してみることで、「点と点」が「線」になった……というエピソードを聞いて、「話してみる」ことの大切さを再認識しました(原田さんがフレンドリーで、とても話しやすかったというのもあるかもしれませんが……)。
原田さんと同じく、私も渡邊さんの話を聞いて、「将来楽しみだな……」と感じたインタビューでした。
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※この記事に掲載されている情報は、2023年2月にサイトに公開した時点での情報です。