世に発信すべき「答えのない問い」追った記者、新型出生前診断の課題を伝えた“ミルフィーユ構造”|LINEアカウントメディア 公式ブログ
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世に発信すべき「答えのない問い」追った記者、新型出生前診断の課題を伝えた“ミルフィーユ構造”

2023年12月12日、毎年恒例となっている「LINE NEWS AWARDS 2023」各賞の受賞者・メディアが発表されました。1,100を超えるパートナーメディア(2023年1月時点)とともに、1日平均10,000件以上のコンテンツ(2022年3月時点)を配信し、国内最大級のスマートフォン向けニュースプラットフォーム/ニュースサービスとして成長し続ける「LINE NEWS」が、その年を彩った話題の人メディア記事を表彰するニュースの祭典。それが「LINE NEWS AWARDS」です。

その中でメディア関係者から注目されているうちの一つが、社会課題を工夫して伝えた記事を表彰する「LINEジャーナリズム賞」。

その年にLINE NEWSで配信された数百万本の記事からノミネート記事を選出し、特に優れた1記事をLINEジャーナリズム賞として表彰しています。素晴らしい記事や書き手が、より多くのユーザーの目に触れ、良質なコンテンツが世の中に増えていくサイクルを後押ししたいという思いの下、2019年から表彰を続けています。

今回11本のノミネート記事の中からLINEジャーナリズム賞を受賞したのは、「毎日新聞」による、胎児の染色体の変化を調べる新型出生前診断(NIPT)に関する記事。NIPTの利用が広がる中、思わぬ結果を受けて「中絶」という選択肢を突き付けられた当事者らの苦悩を伝えました。

命の選別ではないか、という声もあるNIPTの是非を巡る「答えのない問い」に向き合った記事を取材、執筆された毎日新聞デジタル報道グループの原田啓之さん、同くらし科学環境部の村田拓也さん、そして同くらし科学環境部長の清水健二さんに話を聞きました。

取材を進める中で見えてきた、決断を迫られる妊婦の葛藤

――受賞記事のベースとなったのは、紙面連載「拡大する出生前検査」でした。取材の経緯を教えてください。

原田さん:
当初はNIPTの運用に課題がありそうだということで、取材を進めていました。私と村田は大学病院や検査を受けた女性から話を聞きました。

村田さん:
2人とも社会部出身だったため、不正を追うようなイメージで取材を始めたのですが、取材を進める中で見えてきたのは、検査を巡る当事者の葛藤でした。当事者がなにに苦しんでいるのかを描いた記事は、当時、他にあまりなかったため、私たちが伝えることにしました。

2022年7月20日付 毎日新聞3面より。

――当事者の葛藤というのは、具体的にどのようなものでしたか。

原田さん:
NIPTで「陽性」の診断が出たときには、中絶を考える当事者も少なくありません。しかし、実は日本医学会が認める3種類以外の染色体の変化の検査精度はよく分かっていない部分があり、偽陽性の可能性もより大きいと考えられます。

またたとえ本当に染色体の変化があったとしても、生後(障害などの)特徴として現れなかったり、一般生活を営む上では全く支障がなかったりするようなケースもあります。

――なにか明確な結果が分かるような検査ではないのですね。

デジタル報道グループ・原田啓之さん。

原田さん:
それにもかかわらず、日本医学会が認めていない検査項目を調べて、ビジネスにしているクリニックは非常に多いのです。また、取材した妊婦さんはこうした検査の実態を知らず「とりあえず検索して出てきた施設で受けてみた」という方が多かったです。

まずは「無認証施設で行っている検査には、課題が多い」ということを知ってもらうこと。そして、「命の選別ではないか」という議論もありますが、出生前診断でどこまで調べるべきか、「陽性」という結果をどう受け止めるかを考えるきっかけにしてもらうことの2点を、連載の主なテーマとしました。

障害のある子を育てる母の言葉の“強さ”

――取材を通して特に印象的だったことを教えてください。

くらし科学環境部・村田拓也さん。

村田さん:
障害者のお子さんを持つお母さんが「(陽性でも)産めなんて、簡単に言えない」とおっしゃっていたのは衝撃でした。言葉の強さを感じました。この言葉を発信できたというのは、自分の中でも大きかったです。

もちろん彼女は、お子さんのことは「宝物」だと言って、本当にかわいがっています。でも人間ですから、ほぼ四六時中付きっ切りで、一人の時間が全くない毎日は、しんどくて、辛い。他者に置き換えて考えたときの、率直な本音を聞かせていただけました。

――受賞記事は、LINE NEWSとの「コラボ企画」という枠組みで改めて同テーマにお取り組みいただいた記事でしたが、コラボ企画についてはどのようにお感じでしたか。

コラボ企画とは:
メディアとLINE NEWSで記事を共同制作する取り組み。
メディアの「濃く深い」記事をLINEで届けたい 特別なコンテンツ「コラボ企画」とは?

原田さん:
毎日新聞の自社サイトでは、どうしてもユーザーの年齢層が高く、男性中心になる印象があります。出産を考える時期の女性にも届けたいという思いがありましたので、LINE NEWSのユーザーに広く読んでいただけるのは非常にいい機会だと思いました。

――1本の記事として再構成するのは難しい部分もあったのではないかと思います。

麻衣さん(仮名)は、日本医学会の認証を受けていない施設でNIPTを受診し、「陽性」と診断された。一時は出産を諦めようとしたが、別の病院での説得により、精度の高い検査を受け直し、特段の症状が出ない染色体の変化だと判明。出産した男の子は元気に成長している。

原田さん:
基本的には人の物語として描くのですが、難解な説明も途中で挟まなければなりません。難しい話の部分をいかに分かりやすくかみ砕いて、かつコンパクトにするかというところは心を砕きました。結果として高い読了率を出すことができました。

読了率とは:
記事の冒頭からどれくらいのユーザーが読み続けたかを解析した数字

例えば新聞は、一つの面の中に物語的な文章と、説明的な硬い文章をそれぞれ掲載するようなことが定型になっています。しかし、今回は一つの記事の中で物語と説明をミルフィーユのように交互に重ね、硬軟織り交ぜることで、飽きないで最後まで読んでもらうことができたというのがいい経験になりました。

――今回の取り組みで、LINE NEWSを通して伝えたかったメッセージはどのようなものでしたか。

リエさん(仮名)は、生まれつき寝たきりの息子を介護し、自分の時間はほとんど取れない毎日を送っている。出産前に受けた胎児のエコー検査で病気が分かったが、そのときには中絶が可能な期間(妊娠22週未満)は過ぎていたという。

村田さん:
記事で大きく扱ったのは、無認証施設でNIPTを受診した女性のエピソードで、認証を受けている施設で受ける検査とは異なる課題があることを示すものでした。一方で、実際に障害のある子を育てる母親の「障害を持った家族がいた場合も負担を感じない社会になれば、出生前検査で染色体異常が分かっても悩む人は減るだろうな」という言葉も、どうしても入れたいと思っていました。

NIPTに関わった当事者が葛藤する前提として、社会が障害というものを受容できるようになっていない現実があるということも知ってほしかったからです。

――配信後、反響はいかがでしたか?

村田さん:
主に当時のTwitter(現X)で見ていましたが、大きく分けて、命の選別の議論に言及する方、NIPTの知識として参考になったという方、そして登場人物に共感する方という3種類の反応がありました。

1番多かったのは命の選別の議論についてです。参考になったという方の中には、実際に受診を検討していると思われるコメントも多数ありました。

記事執筆の際、抱えている経済状況も、置かれている立場も異なるそれぞれの家庭で導き出された答えは尊重するべきだという思いが、私たちの根底にありました。想像していた以上にユーザーの方が多くのことを考えてくれて、多様な意見が出ていたので、お役に立てたのではないかと感じています。

新聞に求められるのは「固定観念にとらわれない発信」

――LINE NEWSでは、これまでに約80の媒体社さまと300本にも及ぶ記事を共同制作してきました。その中でも毎日新聞さんには、ここ2年間では全媒体の中で最も多くの記事を執筆いただいています。コラボ企画にはどんな印象を持っていただけていますか。

2023年に実施した、毎日新聞のコラボ企画例。
物語を通して、社会課題の解決を目指す記事を配信している。

清水さん:
コラボ企画は、新聞社が今置かれた立場を考えると有用だと思っています。新聞業界は、各社の発行部数が縮小の一途をたどっており、恐らくこれから人口が減っていく中で、状況はさらに厳しくなることが予想されるのが現状です。

しかし私は悲観的には捉えていません。例えば多くのレコード会社は、レコードをあまり作らなくなって、CDがなかなか売れなくなっても、形を変えて業績を上げています。つまりコンテンツそのものへの需要はあったということだと思います。ですから新聞社も、例えば「紙」を売ることにこだわらず、固定観念にとらわれずに発信し、社会に貢献していけばいいのです。

新聞は世の中の情報を短時間で、効率的に得るにはすごくいいメディアです。しかし、読者に自分事として共感してもらうのには改善の余地があります。その点、ユーザーのニーズをよく知るLINE NEWSに蓄積されたノウハウをコラボ企画の中で共有してもらうことで、われわれのコンテンツは表現の可能性を広げることができています。

「人の不幸がなるべく少ない社会」にしていくための手伝い

――「伝え方」は今後どのように変わっていくのでしょうか。

くらし科学環境部長・清水健二さん。

清水さん:
どうすればWebのユーザーにより読んでもらえるかみたいな議論は社内でもよくしますが、私は新聞用、Web用と分けて考える必要なんてないと思っています。新聞の書き方というのは伝統的にスタイルがかなり決まっていて、最初のリード文で全体像を示して、続いてディテールを描写すると読者が1番理解しやすいだろうと考えられてきました。

しかし私はそれを疑っています。新聞社が勝手にそう思い込んでいるだけではないかと。表現や文体が読者にちゃんと届いているのかというのは、根本から疑わなければいけないと思っています。記者は読者に届く文章を書くための努力をし続け、新聞は紙の上でももっともっと変わっていかなければなりません。新聞の書き方ももっとパターンがあっていいと思うんです。

――逆に伝え方が変わっても、変わらないものはあるでしょうか。

村田さん:
デジタルの配信によって記事の読まれ方が可視化された現代では、ユーザーのニーズを重視して、数字を追求することが大事になっています。一方それによって、報道は派手なことや目立つことばかりにとらわれてしまいがちです。

今回の記事は取材に非常に労力がかかっていて、その期間にもっとPVを出せと言われたら他にたくさんの記事を出すことができたでしょう。しかし効率が悪くても世に出さなければならないテーマというものがあって、私はそういうものを伝えていきたいです。結果として数字にも結び付くと1番いいのですが、なかなか難しいですね。

清水さん:
個人的な思いでもありますが、私が部長をしているくらし科学環境部がジャーナリズムを通じて目指しているものは、「人の不幸がなるべく少ない社会にしていく手伝いをする」ということです。

なにかの事故や病気で人が死んでしまうということは、ひどい不幸です。しかしそれは誰にも起こり得ることで、なくすことはできません。しかし誰かが努力や工夫をすることで、なくならないとしても1個でも減らすことができるかもしれない。報道によって、そういう意味で社会が望ましい方向に動いてくれるといい、その手伝いができればいいなと思っています。

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LINE NEWS AWARDS 2023特設サイトにて、ノミネート11記事と、4名の特別アドバイザーからのノミネート記事に対するコメントをご覧いただけます。
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また、過去の受賞記事一覧を下記からご覧いただけます。