大内教授からの
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大内 紀知
当イノベーション・マネジメント研究室では、財務データや特許データ、アンケートデータを分析することによって、企業戦略・技術戦略とイノベーションの創出や普及の関係に関する知見を得ることを試みています。研究テーマは大きく分けて2つあり、1つは「企業戦略・技術戦略に関する研究」、もう1つは「製品・サービスの普及に関する研究」です。データ分析手法を駆使することによって、国や企業の競争力向上に必要な知見の獲得を目指した研究を行っています。
Q.研究室での研究内容について教えてください。
「企業戦略・技術戦略に関する研究」では、企業が競争力を付け持続的に発展していくために必要な「イノベーション」といわれる優れた技術や仕組みをどのようにしたら生み出せるのか、財務諸表や特許公報など企業が公表しているデータを分析して探っています。例えば「イノベーションを生み出しやすいのはどういう性質を持つ企業なのか」「リスクの高い技術開発に取り組むのは、企業がどういった状況にあるときなのか」「どの技術を組み合わせたら、優れた特許を生み出すために有効なのか」といった問題を検討し、実証分析を通じて明らかにしていきます。これらの分析結果を政策立案や企業戦略に役立てることが、社会的にも期待されています。
「製品・サービスの普及に関する研究」では、新しい製品やサービスが社会に普及する要因の解明に取り組んでいます。その中でも現在は、電子商取引を行うECサイト*やフリマアプリ、デリバリーアプリなど、「売り手」と「買い手」のような異なるユーザ・グループに、取引ルールやインフラを提供する「プラットフォームビジネス」に注目しています。このようなビジネスは、単にアプリやサービスの使いやすさだけでなく、どれだけ多くの人や店が使っているのか影響します。ただし、ユーザ数が増えれば良いとは限らず「情報過多によって必要な商品が探しにくい」「プラットフォーム上での迷惑行為や問題行動のある人が増える」など、マイナス面も考慮する必要があります。したがって、サービスの利用に関する意志決定の要因を「感覚」ではなく「データ」を用いて検証していきます。
既存の論文や社会で起きている事象を調べながら、自分で仮説を立てて「どのデータを用いてどのような分析手法が適しているのか」を考え、実際に分析します。データ分析では、統計分析、複数の変数間の関連性を見る多変量解析、ユーザレビューなどの文章から有用な情報を見つけるテキストマイニングなど、様々な手法を駆使していきます。想定した結果が得られないこともありますが、その場合は仮説を見直し、再び検証を行います。これを繰り返しながら研究を進めていきます。
*インターネット上で商品やサービスを販売するウェブサイト
Q.研究室の雰囲気や特徴を教えてください。また、指導ではどのようなことを心がけているでしょうか。
経営システム工学科では、3年次から研究室に所属します。私の研究室では、3年次に「経営システム工学輪講Ⅰ・Ⅱ」で卒業研究の基礎となるデータ分析手法やイノベーション・マネジメントの理論を学び、4年次から各自テーマを決めて研究に取り組みます。今年度は学部4年生が12人、大学院は博士前期課程1年生が4人、同2年生が1人在籍しています。たまたまですが、博士前期課程1年生は4人全員が女性で、理系の研究室としては珍しいかもしれません。
学部4年生が卒業研究の進捗を発表する場には大学院生のメンバーにも同席してもらい、学部の段階から大学院との有機的な接続を図ることを意識しています。後輩はより多くの知見を持つ先輩からの意見をもらい、先輩は後輩を指導する中で自分自身の考えを整理し、フレンドリーかつ切磋琢磨できる環境になっていると思います。
学生には、「なぜ?」と考える癖を付ける、習慣化することの重要性を常に伝えています。その思考は分析プロセスにも生かせるでしょう。思ったような結果が出ないこともありますが、諦めず、仮説・検証を繰り返すことを大切にしてほしいと思います。
また、指導にあたっては、学生一人一人と対話する機会を増やし、「学生が頭の中で考えていること」を引き出せるように心がけています。特に、卒業研究のテーマを決めるにあたっては、時間をかけて本人の興味を探り、学術的な研究にどう結びつけることができるのか、その方法を共に検討します。自分の考えを言語化することに苦手意識を持っている学生がいれば、対話を通じて学生が考えを整理することができるように導いています。
Q.高校生や在校生にメッセージをお願いします。
現代社会では、民間人が宇宙への旅行を実現し、人工知能技術の応用、生成AIが私たちの日常生活でも活用されつつある一方で「どうすれば企業の競争力は高まるのか?」「どうすれば多くの人々に商品やサービスを利用してもらえるのか?」という身近な疑問について、まだ明確な答えを出すことができていない状況です。当研究室では、この解明に向けて、わかることを少しずつ見つけています。自分で論理を組立てながら仮説を立てて、データを使って検証するプロセスは、普段隠れて見ることのできない世の中の仕組みを知る楽しみがあります。「なぜ自分はフリマアプリの中でもメルカリを使っているのだろう」「なぜ無料キャンペーンを行う企業があるのだろう」そんな疑問について深く考えていくと、今までとは違った視点で社会を見ることができるでしょう。
やりたいことは漠然としていて構いませんので、世の中で起きていることについて「なぜ」そうなるのか知りたいというモチベーションのある人は、ぜひ一緒に研究を深めていきましょう。
学生からの
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マネジメントテクノロジーコース 博士前期課程 1年
中高生の頃から理系科目が得意だったので、機械系か情報系いずれかの学部に進学することを前提に大学選びをしました。将来どのような職に就きたいのかを考えた時、データ分析技術を生かしたマーケティングの仕事に興味を持ち始め、調べたところ「経営システム工学」という学問領域があることを知り、青学の理工学部経営システム工学科に進学しました。
大内研究室では、日常的に利用する身近なサービスや製品に対して、分析技術を活用して、製品やサービスの普及促進・阻害要因の考察や、製品やサービスの価値を高める方法について研究していると知り、この研究室を選びました。
学部の卒業研究では、アパレル業界の実店舗とECサイトの顧客満足度の違いを、アンケートから得たデータを参考にして、分析を行いました。私自身、ECサイトは便利でよく使っていますが、実店舗に足を運ぶと「楽しい気持ち」になれる点に着目しました。他の人はどう感じるのか疑問に思い、大内先生と相談しながら、関連する先行研究を調査し、アンケート内容や分析手法を練りました。
多角的な視点や方法で分析することで、アンケートデータだけでは見えてこない傾向を発見できる点が非常に興味深いと思います。分析結果を体系的に卒業研究の論文としてまとめることで、情報をアウトプットする、人に伝えるスキルも身に付きました。
博士前期課程1年次の現在は、学部の卒業研究で導き出された成果を海外の学会で発表するための準備をしています。来年の修士論文では、新たなテーマとして、アパレルやそれ以外の小売業のDX(デジタルトランスフォーメーション)*に着目して研究できないか、切り口を探っているところです。英語での発表準備をしながら、新しい研究テーマを模索する毎日は、とても充実しています。研究室での学びは「考える力」と「人に伝える力」をもたらしてくれました。
学部の頃と比較して、大学院進学後は多くの先輩や先生方と研究室や学科の垣根を越えてお話をする機会があります。そのため、世代や立場が異なる方々に触れることで新たな価値観と出会えました。さらに、マネジメントテクノロジーコースは輪講形式の授業があるので、社会に出る前にプレゼンテーション能力を向上させることができました。今後も、データ分析による課題解決能力を磨いていき、将来は、研究室で培った知識を生かして、企業のIT部門などで働きたいと考えています。
*AIやITなどのデジタル技術を使って「生活」や「ビジネス」の質を高めていくこと
マネジメントテクノロジーコース 博士前期課程 1年
青山学院大学の理工学部を志望したのは、経営システム工学科があったからです。元々、経営学に興味があったこと、また高校では数理科で学んだこともあり、大学では理系の学科で経営学も学ぶことができる学部・学科の情報を収集し、青学の経営システム工学科を知って「ここで学びたい!」と進学を決めました。入学後は、学科の枠を越えた合同授業が開講されていたので、他学科の女子学生と交流することで、多様な視点からの学びと交流ができました。
日頃から「なぜこの商品が売れるのだろう」「なぜこの広告に影響を受けるのだろう」と考えることが多く、消費者の視点を分析に取り入れた研究を行っている大内研究室に所属を決めました。学部の卒業研究でテーマを決めるとき、大内先生から「まず初めは興味のあるワードを出すところから」と指導をいただいたことによって、自分自身が本気で取り組めるテーマを設定することができました。具体的には、アパレルECサイトを取り上げ、「このサイトはおしゃれな人が使う」「出店ブランドが変化しておしゃれなユーザが減った」といったサイトの利用者に対する個々のイメージが、「サービスの満足度」や「利用するか否かの意思決定」に影響するのか分析をしました。その結果、自分と価値観の異なる利用者が増えるとそのサービスの満足度が低下するという傾向があることを明らかにすることができました。
研究室の雰囲気は、学年の壁を越えて、わからない部分を一緒に考えたり、教え合ったりしながら研究を進められるので、とても和やかで和気あいあいとしています。南藤さんとは、普段からお互いの研究についてアドバイスやアイデアを交換して、励まし合っています。また、他の研究室に所属している友達と廊下で会ったときは、リフレッシュを兼ねて色々な話をしながらコミュニケーションを取ることができます。
現在は、海外への学会発表準備をしながら、同じ研究分野の先輩と一緒に、この研究内容をさらに発展・深化させていくことを検討しています。研究室に所属してから、自分の考えをまとめて言葉で表現する機会が飛躍的に増え、相手にわかりやすく伝える力が付いたと実感しています。
大学は自分の興味があることを集中して学べる場所です。私は大学院に進学したことで、学部の卒業研究から得られた知見や課題を生かした研究を続けられています。進路を考える上で、高校の科目の得意不得意だけで決めず、様々な選択肢を知ってから、やりたいことや関心のある分野を見付けて進む先を選んでほしいと思います。
※各科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2023年度)のものです。
理工学部 経営システム工学科
青山学院大学の理工学部は数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。社会は、人・モノ・お金・情報が複雑に関わり合う多様な組織によって成り立っています。企業やNPOなどの組織を「より良く機能させる」ための技術とシステムを開発し、導入からマネジメントまでの全プロセスを学問領域としているのが「経営システム工学」です。経営システム工学科では、現実社会の問題を把握する知識と工学的な視点を融合させた学びにより、高度で先端的な課題解決力を養います。