精密なベアリングの開発でカーボンニュートラルの未来を支える|AGU LiFE

精密なベアリングの開発で
カーボンニュートラルの
未来を支える

掲載日 2021/12/23
No.125
日本精工株式会社
自動車軸受技術センター
理工学部卒業
理工学研究科博士前期課程修了
西澤 英雄

OVERTURE

理工学部では仲間とともに課題や研究に没頭し、論理的で筋の通った話し方や資料の作り方といった「伝える基礎力」を身に付けた西澤さん。ベアリングメーカーの開発部署に所属する現在、クライアントとしっかりコミュニケーションを取りながら、未来に向けたものづくりに邁進しています。

外からは見えない、けれど重要な部品

日本精工株式会社というベアリングのメーカーで、研究開発の仕事をしています。ベアリングというのは自動車やエアコンなどの機械製品に使われている部品で、一般にはあまり知られていませんが、私たちの暮らしに欠かせないものです。家電機器にも使われており、一般的な家庭で使われている機器内のベアリングをすべて集めると、100個程度はあるだろうと言われています。
日本精工は国内のベアリングシェアで1位、世界シェアでも3位(2020年3月31日時点)のトップメーカーですが、実は日本自体が世界でトップシェアを誇るベアリング大国なのです。精密加工技術のレベルが高く、またそれを大量に生産する技術力をもっているからでしょう。素材である鉄鋼材料を生産する企業が国内に数多くあるのも強みです。そして何より、ベアリングを大量に使う自動車が基幹産業であることが大きく影響しています。

多種多様なベアリング(日本精工株式会社提供)

ベアリングの性能が最終製品の品質に関わるのはもちろんですが、性能以外にも絶対に確保せねばならないものがあります。それは安全性です。ベアリングがひどく壊れてしまうようなことがあれば、人命に関わる事故につながりかねません。私たち部品メーカーは社会の裏方として働く目立たない存在ですが、実はとても責任が重い仕事なのだといつも気を引き締めて開発に取り組んでいます。
その影響もあり、当社には新しいことに積極的に挑戦しながらも、同時にとても慎重かつ徹底的にチェックする社風があります。まだ新人で研究部署に所属していた頃、「こんなものだろう」と詰めの甘いシミュレーションソフトを制作して提出したら、上司から「なぜそのチェックで絶対安全だと示せるのか」と指摘があり、根拠に基づいてしっかりと説明することができなくて苦労したことがありました。このように業務の中で先輩や上司の姿勢を学びながら、安全へのこだわりを培っています。

仲間とともに学びに没頭した学生時代

幼い頃から機械好きで「車はどうやって走るのだろう」と考えたり、家にある不要な家電機器を分解したりする子どもだったので、青山学院大学に進学する際も理工学部の機械工学科(現・機械創造工学科)を選びました。当時理工学部はまだ世田谷キャンパスにあり、そこには遅くまで利用できる施設もありました。3年次になると授業でさまざまな課題が出てかなり忙しくなり、放課後友人たちとその施設に集まって、守衛さんが戸締りに来るまで一緒に課題に取り組みました。一人の力では行き詰まることがあっても、皆で意見を出し合えば答えが見つかる。自分たちで考え学ぶことが楽しくて、毎日夢中になったのを覚えています。

世田谷キャンパスの研究室にて(右から3番目)

振り返れば子どもの頃からエンジニア一直線のようですが、実は大学に入ってから「将来は学校の先生になろう」と考えていました。大学の職員の方に相談しアドバイスを受け、教職試験に必要な単位取得のために他学科の授業も履修しました。心理学や教育学、情報通信や情報処理といった専門以外の授業もたくさん受講し、大学院修了後に無事に高等学校教諭専修免許状(工業)、高等学校教諭一種免許状(情報)を取得しました。理工学部の勉強だけでも忙しいのに、我ながらよく頑張ったと思います。しかし修士論文の執筆を進める中で研究の面白さを実感し、卒業後はやはり研究開発を仕事にしたいと思うようになったのです。教員になるかエンジニアになるか、とても迷いました。指導教官に相談すると「エンジニアに向いているんじゃないか」と背中を押してくださり、「メーカーに就職しよう」と心が決まりました。

働いてから実感する基礎の大切さ

今にして思えば、学生時代に全力で研究に打ち込んだことは良い経験になりました。企業での開発は製品化というゴールが設定されていますが、大学では思う存分、純粋にテーマを追究できます。また大学時代に学んだ基礎の部分には本当に助けられていて、今も当時の教科書を手元に置いて仕事をしているほどです。
青山学院大学の先生方は専門の基礎知識を重視し、教育による人材育成に使命感をもっておられます。私がお世話になった指導教官は、おそらく他の先生方と比べても厳しい方でしたが、論理立てて話ができること、他の人がきちんと理解できる文章作成や資料作成について徹底的にご指導くださいました。「わかりやすく正確に他者に伝える」というスキルは仕事をするうえで欠くことができませんから、先生には本当に感謝しています。

1年次を過ごした厚木キャンパスにて

ここ数年取り組んでいるのは、自動車向けのベアリング開発です。脱炭素の時代に自動車の在り方は大きく変わろうとしており、それにともなってベアリングの役割も変化します。ガソリン車の場合は高性能とされていたベアリングが、EV車では航続可能距離※を短くしてしまう要因のひとつになることもあります。自動車メーカーが商品を実際に使用するエンドユーザーにどのような車両を届けようとしているのかを共有しながら、必要とされるベアリングを追究していく。クライアントと一緒に試行錯誤しながらまだ世の中に存在しない新しいものをつくりあげるのはエンジニア冥利につきますし、非常にやりがいを感じています。

※航続可能距離…搭載した燃料やバッテリーで走行可能な距離のこと

※登場する人物の在籍年次や役職、活動内容等は取材時(2020年度)のものです。

卒業した学部

理工学部 機械工学科(現・機械創造工学科)

青山学院大学の理工学部は、数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。 機械創造工学科では、“未来を創造する機械工学”をモットーに、4力学(熱、機械、材料、流体)を基盤とする5分野を展開しています。メカ・エンジニアリングに最新ソフトウェア技術を組み合わせた知見を養います。航空宇宙工学分野ではJAXAと連携するなど実体験重視のカリキュラムを編成し、学生一人一人が自ら創意工夫する力を育みます。

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*掲載されている人物の在籍年次や役職、活動内容等は、特記事項があるものを除き、原則取材時のものです。

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